嵐の夜、白い枝   作:カチカチチーズ

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『蛇』の神獣、戦乙女の表情

◆─────

 

 

 

 

 

「と、いう訳だ。面倒事が片付くまで、ここにいさせてもらう」

 

「何故?」

 

 

 そんな朔真の突拍子もない言葉にマンションの一室、その部屋の主である銀髪の少女のまるで理解できない様な呆けた言葉が、朔真とオルトリンデを迎える事になった。

 

 

 

 

 

 島根県山間部奥地に出現した『蛇』の神獣をオルトリンデが起動した権能の断片で討伐してすぐに、朔真一行は福岡県へと移動する事になった。

 この神獣の一件がこの一回で終わらないだろう、というのを長年の神殺しとしての経験則や勘で判断した上で京都や同県にある正史編纂委員会が用意している拠点ではなく少し離れた福岡県にある自分の拠点を選んでいた。

 既に感じ取っている面倒事の匂いに、朔真は手札を増やすという考えもあるのだろうが────

 

 

「勘だよ。少なくとも、アウスラグは手元に置いておきたい」

 

 

 そう冬馬の疑問に答えて、一行は数時間かけて福岡県へと到着していた。

 流石に車で向かうのは冬馬へ大きすぎる負担と考えたのか、正史編纂委員会に用意させた新幹線で向かったが、それでも数時間かける事になった事に朔真は長距離間移動の魔術ないし権能が欲しい、とオルトリンデへと愚痴にもならない言葉を漏らしていた。

 そうして、時間をかけて福岡某所にある最上階フロア丸々を抑えて拠点にしたマンションへとたどり着いた朔真はそのまま居住スペースとして抑えている部屋へと押しかけ、冒頭へと至る。

 

 語る事も無いような移動時間で人並みに疲れていた朔真のほとんどを省略された言われた側である銀髪の少女からすれば意味の分からない言葉は、一緒に来たオルトリンデですら思わず苦笑してしまうものだった。

 

 

「……すまない、拙の理解力では分からない。一から十とは言わないが……適切な説明を求めたい」

 

「……ふぅ、悪い。一先ず、中で話そう」

 

 

 銀髪の少女の言葉に朔真は謝罪をしつつ、入室する。

 神殺しの拠点、と聞いてきっと多くの魔術師や関係者らは大多数が豪奢な屋敷であったり、魔術めいた工房を想像する事だろうが朔真自身を知る者からすればそんな想像はどちらかと言えば、最古参の神殺しであるヴォバン侯爵のイメージと混ざっている、と思わず笑ってしまう事だろう。

 事実、朔真の拠点であるというこのマンションの一室は、ほとんど富裕層の家庭と何ら変わらない。

 ここ数年は朔真よりも九州方面で問題事が起きた時の対処を任されている戦乙女(ワルキューレ)が住んでいるという事で多少は本人らの影響が垣間見えるが……少なくとも、想像されるような豪奢な室内には合わない───そもそもマンションのワンフロア丸々一つ抑えている時点で普通ではないが───拠点がそこにあった。

 

 

「それで、今回はどういう要件だろうか。拙の力が必要なら、わざわざ主上が足を運ばずとも拙が」

 

 

 リビングのソファーに腰かけて早々に、銀髪の少女がそう口火を切れば朔真がそれに答えるよりも先に、朔真の隣に座ったオルトリンデが口を開く。

 

 

「数時間前、島根県山間部奥地に神獣が顕れたの」

 

「神獣が?委員会め、わざわざ主上を動かすなど……いや、つまり主上はその神獣に何か感じたのか」

 

 

 オルトリンデからの簡潔な説明一つで、今この場に朔真がやってきた理由を漠然と理解してみせた少女は視線をオルトリンデから朔真へと向ける。

 女性らしい外見のオルトリンデに比べて少女めいた小柄な外見の彼女だが、変化の乏しい表情を僅かに張り詰めらせる。外見に反し、戦乙女らの中で最も朔真との関係が長い彼女だからこそ最低限で朔真の意図を理解できるのだろう。

 そんな彼女に朔真は僅かに目を細める。

 

 

「恐らく、これで終わらない。あまり、考えたくもない話だが……顕現するのを前提で考えれば、お前がいた方がいいと考えた」

 

「なるほど、了解した。拙が主上に応えよう」

 

 

 彼女の即答に朔真は軽く頷きながら、『瞳』で得た情報を開示していく。

 と言っても、ほとんど大した情報はない。『蛇』でありながら、雷を有しており、炎すら扱う神獣。

 その程度でしかない情報を聴いて、彼女は思わず瞼を伏せる。

 

 

「なるほど、それは実に奇怪な気がする。雷と炎を有する『蛇』か………ふむ」

 

「ただの神獣ならここまで、考えなくて済むが」

 

「一つ、拙から言えるとすれば…………先日、拙が神獣を相手にしたのは聞いているだろうか」

 

 

 ふと、彼女が口にした言葉に朔真は僅かに眉を動かす。

 そうして思い返すのは、イタリアでまつろわぬウゥルカヌスを相手取り帰国した時に報告された話。九州で出現した神獣を目の前の彼女────アウスラグが、もう一人の戦乙女を引き連れて討伐した、という内容で。

 そこまで思い返して朔真はアウスラグを正面から見据える。

 

 

「『蛇』だったな、だが、そこからか?」

 

 

 確かに思い返せば、アウスラグが討伐したという神獣も『蛇』の系譜であった様だが、あくまで共通点は『蛇』であることでしかない。

 

 

「あの時の神獣は報告の通り、『蛇』だった。白い蛇体に無数の植物を有した豊穣を感じさせる神獣だったけど、その外見にしては神獣としての格は何枚か落ちていた気がする」

 

「妙な違和感、は共通していると言いたいわけか。なるほど」

 

 

 結びつきづらい情報、と一蹴するには朔真らの有する情報自体が少ない。

 何より朔真にとって、アウスラグは最初に造り上げた戦乙女でありその信頼は正史編纂委員会の者らや元教え子である冬馬ら、それどころかオルトリンデを始めとする他の戦乙女と比べるべくもない。

 だからこそ、彼女の感じる違和感をそのまま情報へと組み込んでいく。

 喉中で留まっている違和感の正体を吐き出すにも、情報は足りない。

 

 

「次を待つ必要があるな」

 

「朔真がわざわざ、福岡に来たってことは次もこの近くかしら」

 

「オルトリンデ、また主上を呼び捨てに……いや、今更な話だけれども。拙も同感、主上というよりもカンピオーネの勘は本当に侮れないし、悪運も」

 

 

 そこまで口にして、アウスラグはこれ以上の掘り下げは次の神獣が顕現でもしなければ難しいと判断したのか、話を切り上げる様に軽く息を吐いて、その視線はオルトリンデの顔から朔真の腕へと向けられた。

 まつろわぬウゥルカヌスとの戦いで焼けた腕だが、呪布で巻かれて素肌を隠しているがそれでも僅かな隙間から見える焼け焦げた腕にアウスラグは眉を顰める。

 

 

「主上、何故その腕をまだそのままにしているのだろうか」

 

「ああ、これか。ウゥルカヌスの神力が残っていたからな、それが自然治癒を妨害していたのもあって一先ず神力を抜いていた。オルトリンデは聞いていたが、切り落として新しく生やす方が早いんだが、直近でまつろわぬ神とやり合う事も無いと判断してそのままにしていた」

 

 

 だが、今はそうも言えないか。

 そう呟いたと思えば、テーブルの上に斧が置かれていた。

 先ほどまで何も置かれていなかった筈のそこに、突如として置かれていた斧に思わずオルトリンデはギョッとし、アウスラグはむっとした表情を見せる。そして、朔真自身は特段変える事もないいつも通りの表情でその斧へと手を伸ばして────

 

 

「────いえ、流石にリビングでするのはやめていただきたく」

 

 

 横合いから伸びた四人目の手によって先に取られた。

 

 

「ヴァルトラウテ」

 

 

 全員の視線が斧を奪った四人目へと向けられる。

 オルトリンデとはまた違ったブラウスを着る彼女は色素の薄い髪を揺らしながら、三人分のティーカップ等を乗せたトレイを斧を奪った手とは別に携えていた。

 ヴァルトラウテ、と呼ばれた彼女は非難するような視線を朔真、ではなくアウスラグへと向ける。

 

 

「姉様、いいですか?確かにここは王の所有の物件です。しかし、しばらくここで王が過ごす以上、流石にリビングを血濡れにするのは如何なモノでしょうか?王自ら行うにしても、それならそれで別の部屋を薦めるのが王の槍を務める者の判断かと」

 

「……ラウテ」

 

 

 斧をオルトリンデへと手渡し、テーブルへとティーカップを並べていくヴァルトラウテに、アウスラグはバツが悪そうな表情をしつつその視線を彼女から外していく。

 そんなアウスラグに、ヴァルトラウテはため息をつき、斧を手渡されたオルトリンデは一先ず朔真から手を伸ばすだけでは取られない様に足元へと斧を置きつつヴァルトラウテに微笑む。そんな戦乙女たちそれぞれの表情を見ながら朔真はヴァルトラウテの用意した紅茶へと手を伸ばす。

 

 

「さて、どうするか」

 

 

 紅茶に砂糖を加えながら、朔真はこの後の一件に変化が起きるのを願う様に────

 

 

 

 

 

─────◇

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