海。すべての生命の生みの親にして、この惑星の大半を占める存在。
穏やかに人々を迎えるときもあれば、厳しい荒波に晒すときもある。
そして……この日の海は、酷く荒れていた。
「きゃあああっ!?」
大荒れの海上に、少女の声が響く。
波が荒れ狂う海上には一隻の船があり、その甲板には声の主と思われる少女の他に、数名の姿があった。
「さ、さっきまで静かだったのに……きゃあっ!?」
「五十鈴、大丈夫?!」
波によって船が大きく揺れ、五十鈴と呼ばれた少女が体勢を崩し、心配したもう一人の少女が彼女へと駆け寄る。
「う、うん。あては平気。アトランタちゃん、皆は?」
「無事よ。あと少しで母港だというのに、このまま波が酷くなったら……」
アトランタと呼ばれた少女の視線が、彼女達の後方にある船に向けられる。
その船は武装はしておらず、代わりに大量の物資が積まれた、いわゆる輸送船だ。
簡単には転覆はしないだろうが、積荷はそうはいかない。このまま波が荒れ続ければ、少なからず被害は出るだろう。
「「きゃあっ!?」」
突然、一際大きな揺れが彼女達を襲う。咄嗟に伏せたものの、視線だけは輸送船へと向ける。その視線の先で、驚くべきことが起こった。
「輸送船が!?」
盛り上がる海面に輸送船が大きく持ち上げらた。これでは転覆は免れないだろう。
だが彼女達が見たのはそれだけではなかった。
「な、何……あれ……?」
輸送船の下の盛り上がった海水。その中に、なにか巨大な影が浮かび上がっていた。
直後、影が輸送船に襲いかかったかと思うと、輸送船が真ん中からへし折られて破壊された。
「ああ!?輸送船が!?」
驚く彼女達を尻目に、謎の影は輸送船を破壊し終えると海中へと沈んでいき、それと同時に荒波も次第に収まってきた。
輸送船があった場所を眺めながら、暫し呆然としていた二人だったが、目の前で起きた出来事を次第に認識すると、二人共顔を見合わせた。
「あ、アトランタちゃんっ!さ、さささっきのあれ……っ!」
「おお落ち着いて五十鈴!と、とにかく急いで指揮官に報告して、全速力でここから離脱するわよ!」
「そ、そうだね!」
二人は慌てながら、先程目の前で起こった出来事を報告するため、船内へと入っていった。
この出来事が、これからこの星に訪れる新たな危機の始まりだと、彼女達はまだ知らない。
◇
地表の71%が水で覆われた青き星。人類はそんな世界で文明を発展させてきた。
その人類の繁栄は、突如海より出でた異形の敵「セイレーン」の出現により一変した。
セイレーンにより制海権を奪われた人類は、軍事連合「アズールレーン」を創設。セイレーンへの反撃を開始した。
その後色々とゴタゴタがあったものの、正直書くの面倒なので、詳しく知りたい人は他の人の作品か、アズールレーン自体をプレイしてください。
閑話休題
セイレーンへと対抗するアズールレーンのある拠点の執務室で、男が電話を手に話していた。
「わかったから、とりあえず落ち着け。詳しい話は戻ってきたら聞くから、今は無事に帰ってくることだけ考えとけ」
受話器を置き、男はため息を吐きながら椅子へともたれかかる。
「怪獣、ねぇ……」
今しがた報告を受けた内容を、天井を見上げながらつい呟いた。
セイレーンの新兵器か何なのか、考え込んでいると彼の執務机の上にティーカップが置かれた。
中には紅茶が注がれており、彼は紅茶を淹れた人物に向って礼を言った。
「おっ。ありがとな、ベル」
ベルと呼ばれたメイド服姿の女性は、彼のお礼の言葉に微笑みながら返した。
「いえ、メイドとして当然のことでございます」
「いつも悪いな。いただくよ……美味いな」
紅茶を一口飲み、感嘆の言葉を漏らす。その様子を、メイドは柔和な笑顔で見つめていた。
紅茶に舌鼓をうつ彼は、この拠点の「指揮官」であり、彼女は秘書艦を務めるロイヤルの軽巡洋艦「ベルファスト」。
彼女は艦隊の古参メンバーの一人であり、指揮官が執務に頭を悩ませると、気分転換を促すようにベルファストが紅茶を淹れる。これがここの日常であった。
「先程のご報告は、委託に出られたお嬢様方からですか?」
「ああ。油田輸送に出たアトランタ達からだ」
「油田……ということは」
「また輸送船が沈められたとよ」
それを聞いたベルファストの表情は、先程までの柔和な笑顔から不安そうな、心配するような表情へと変わった。
「また、ですか。今月に入って、もう5件目になりますね」
「そうだな。セイレーンの仕業かと思って調査していたが、奴らの痕跡は見つからなかった。だけど今回は違った……下手人はあいつらの目の前で輸送船を沈めると、そのまま海に沈んでいったそうだ」
「すると、やはりセイレーンが……!」
ベルファストがそう尋ねると、指揮官はティーカップを置いてから言い放った。
「怪獣、だとよ」
「怪獣……ですか?」
「そ。大きさは最低30m以上、海水のせいで正確な姿は分からんらしいが、間違いなく怪獣だと言っていたよ。アトランタ達を疑うわけじゃないが、正直SFもいいところだ」
今更だけどな。と付け加えて、指揮官は紅茶を呷る。
「怪獣……セイレーンの新兵器の可能性もありますね」
「俺もそう考えている。対策を考えるにも調査しなくてはならんが、まずは詳しい話を聞いてからだ」
そう言って指揮官は立ち上がり、窓まで歩くと眼下に広がる光景を一望する。
そこには寮舎や学園などの建物の他、様々な陣営のKAN-SENの姿があり、セイレーンと戦争中とは思えない平和な日常を送っていた。
「いい眺めだな」
「ええ。こうして私達が日常を過ごせるのも、ご主人様のおかげです」
「俺は何もしてねえよ。お前達が頑張った結果だ」
指揮官は自嘲しながらも照れくさそうに鼻を鳴らし、隣に立つベルファストはその様子にくすりと笑みをこぼした。
「さて、そろそろ迎えに出るか」
「お嬢様方の労いの準備は済んでおります、ご主人様」
「いつの間に、いや流石だ」
そして指揮官とベルファストは執務室を後にした。