鉱脈怪獣 アーナガルゲ登場!
燦々と降り注ぐ太陽の光を受けながら、指揮官は母港の各施設を見ながら歩いていた。
「大分元通りになってきたな」
「そうですね。これもひとえに、ご主人様の手腕のおかげです」
隣を歩くベルファストがそう言うと、指揮官は肩をすくめて返す。
「俺がやったのは資材の手配と承認作業ぐらいだ。この光景は全部あいつらのお陰だよ」
言いながら親指で指した先では、幾人かのKAN-SEN達と饅頭と呼ばれる謎の生命体が作業していた。
この饅頭という存在は数が多く、以前から母港のイベントごとなどで作業要因として繰り出されることがあったが、当然今回も引っ張りだこのようだ。
「今度労ってやらんとな」
その後もベルファストと他愛もない話をしながら歩を進めていき、二人はある施設の中に入っていった。
表の看板に診療所と記されているここは、戦闘で酷いダメージを負ったKAN-SENが治療の為放り込まれるが、艦隊全体の練度が上がっているのおかげで、ここ最近はそこまで酷い状態になる者はいなかった。
しかし、怪獣との戦闘により艦隊に被害が出始め、特に最初の母港襲撃の際には少なくない数のKAN-SENが負傷してしまった。
急ぎ診療所を復旧、拡張させ、更には有志の看護スタッフも募集したことで何とか落ち着いてきてはいるが、油断はできない。
道中すれ違ったKAN-SEN達と軽く挨拶を交わしながら、指揮官達はある病室の前で立ち止まると、ドアをノックしてから声をかける。
「入っていいか?」
『あ、指揮官。いいですよ』
ドアを開けて病室に入ると、部屋の中には鉄血のZ23や重桜の綾波、ロイヤルのジャベリンといった面々と、彼女達に囲まれたベッドの上に腰掛けているユニオンのラフィーの姿があった。
「ん、指揮官」
「よう。怪我の具合はどうだ?」
ベッドの上のラフィーの片足には包帯が巻かれている。彼女は最初のタッコングによる母港襲撃の際に足に怪我を負い、今現在療養中であった。
「平気」
「ギプスも外れましたから、週末には退院できるそうです」
「そうか……良かった」
言葉の足りないラフィーに代わりZ23が補足して答える。それを聞いた指揮官はホッとしたような表情を浮かべた。ふと気付けば、ラフィーが指揮官に向けて手招きしており、指揮官は彼女の側に来ると膝を屈めて視線を合わせる。
「どうした?」
「ん」
そう尋ねるとラフィーは指揮官の袖を引き、自分が座っているベッドを指さした。どうやら座って欲しいらしい。指揮官が隣に座ると、なんとラフィーは指揮官の膝の上へと移動し、そのまま座ってしまった。
「ちょ、ちょっとラフィーちゃん!?」
「大丈夫だ。俺の膝が恋しかったのか、こいつめ」
「んー」
慌てるジャベリンを止め、指揮官はラフィーの頭をワシャワシャと撫でる。するとラフィーも気持ちよさそうに目を細めて、指揮官へと体を預けてきた。
「最近会えてなかったから、甘えたいんでしょうか?」
「多分そうです。ラフィー、羨ましいです」
Z23と綾波がその様子を見てこっそりと話しているが、如何せん狭い病室の中のため、指揮官にはそこそこ聞こえてしまっている。
「あ、あー……そうだ!お前達さえよければ、街にでも遊びに行かないか?」
「え!?いいんですか!?」
指揮官の提案に真っ先に反応したのはジャベリン。綾波やZ23も驚いた表情をしているが、指揮官はラフィーの頭を撫でながら更に続けて話す。
「ここ暫く、怪獣への警戒で母港に缶詰で退屈してるだろ?それにコイツの看病もしてくれてたし、その労いといっちゃあれだがな」
その言葉に今度は綾波もZ23も一緒になって喜びの声を上げる。
見ればラフィーもこころなしか嬉しそうだ。
「よし!じゃあ週末、退院したらそのまま街に出るとしよう」
「わーい!良かったねラフィーちゃん」
「……うん」
飛び跳ねているジャベリンに声をかけられたラフィーも、小さく頷きながら笑顔を浮かべている。
その様子を見て、指揮官とベルファストも顔を綻ばせる。
その後、他の仕事もあり指揮官達は診療所を後にした。
「なかなか様子見に行けなかったが、元気になったみたいでよかったよ」
「そうですね。しかしご主人様、よろしかったのですか?」
唐突なベルファストからの問いかけに、指揮官は何のことだろうと頭に?を浮かべる。
「ラフィーさん達とお約束された日、その日はエンタープライズ様達の都市部巡回にご同行される予定では?」
「……あ」
ベルファストから告げられた事実に、指揮官は頭を抱えこんでその場にしゃがみこんでしまった。
「しまったそうだった!?なんで忘れてたんだ俺は…というか気づいてたんなら言ってくれよ」
「申し訳ございません。あのように喜ぶ皆様を前に、言い出しにくくて」
「じゃあ仕方ない。どーすっかな…」
まさかのダブルブッキングに指揮官は頭を悩ませる。
「とにかく一旦執務室に戻ろう、他にも仕事残ってるしな。それからなにか方法を考えよう」
ここで唸っていても解決しないと判断し、指揮官達は残りの仕事を片付けに執務室へと向かった。
◇
薄暗い部屋の中。三人の宇宙人が円形のテーブルを囲んでいる。その中の一人は前回セイレーンの前に現れたバット星人であった
「別次元の怪獣を持ってきた割には、大したことなかったな。バット星人?」
残り三人のうちの一人、黒い頭部に赤い目を光らせている宇宙人がバット星人へと、まるで挑発するように言い放った
「言っただろう。前回のは奴らに対するただのデモンストレーション、ウルトラマンに倒されるのも想定のうちだ」
「その割には自信満々だったみたいだが?」
「一応は手塩にかけた怪獣だからな。君のみたいに子供がお世話したようなのとは違うのだよ、ナックル星人」
「何だとっ!?」
バット星人に言い返され、その宇宙人『暗殺宇宙人ナックル星人』は激昂してテーブルを叩く。
まさに一触触発という雰囲気だが、そこに待ったの声がかけられた。
「まあまあ、そのへんにしておけ」
「黙っていろヒッポリト星人!」
垂れ下がった赤い耳に緑色の管のような突起。そして何より特徴的なのは、象の鼻のような部位だろう。その宇宙人、『地獄星人ヒッポリト星人』は興奮しているナックル星人を諌めると、バット星人へと視線を移して問いかける。
「しかし、ナックル星人の言うことも一理ある。すでに持ち込んだ怪獣を3体も失っているのは事実だ」
「心配するな、次の策は考えてある。まだしばし時間が必要だがな」
「はんっ!悠長なことだな。その間、俺は俺で動かせてもらうぜ」
そう言い放ちながらナックル星人は席を立つと、そのまま部屋をあとにした。
見送ったバット星人はため息を吐くと、椅子の背もたれへともたれかかる。
「やれやれ、せっかちな奴だ」
「だが時間がないのも事実だ。一刻も早くこの惑星を侵略し、我々の軍事拠点としなくてはならん」
「ああ、わかっている。だが『急いては事を仕損じる』という言葉もある。焦らず、確実にあのウルトラマンを仕留め、この惑星を制するためにも、綿密に準備をしなくてはならん」
そう言って不敵に笑うバット星人を、ヒッポリト星人は腕を組んでジッと見ていた。
一方退室したナックル星人は、通路をしばらく歩いたあと立ち止まると、振り向かずに背後に向かって呼びかけた。
「おい」
「クク、お呼びですか?」
呼びかけに応じ、現れたのは一体の宇宙人。
「アイツラより先にあのウルトラマンを倒してこい」
「いきなりですね。先の会議でなにか言われましたか?」
「それとは関係ねぇ!奴らののんびりしたやり方に付き合ってらんねえだけよ」
「ククク、そうですか」
ナックル星人の言葉にその宇宙人は不敵な笑みを浮かべる。
「では怪獣を一体お借りしますが、よろしいですね?」
「構わねえ。好きなやつを持っていきな」
怪獣の使用許可だけ確認すると、その宇宙人はナックル星人に背を向けて歩き出した。しかし、数歩歩いたところでふと立ち止まると、視線だけをナックル星人へと向けて問いかける。
「ああそれと、もし『奴』が現れたらそちらを優先しますが、構いませんね」
「仕方ねえ。そういう契約だからな。だがソイツを倒したら、必ずあのウルトラマンも始末しろ」
「了解です。ククク…」
不気味な笑い声だけを残し、その宇宙人は闇へと消えていった。
この惑星に、新たな危機が迫りつつある。
◇
時は流れ。ラフィー達と約束した日、指揮官は彼女達を連れて街へと来ていた。
「わぁー!」
「やっぱり都市部は賑やかです…!」
「あんまり羽目を外しすぎるなよ」
はしゃぐジャベリンたちに軽く注意するも、あまり聞いてない様子に、指揮官は少し呆れたような表情を浮かべていた。
「ふふ。皆さんはしゃいでますね」
「まったく……まぁ、気持ちはわかるけどな」
隣に立つベルファストの言葉にそう返すと、指揮官は後ろへと振り返る。
「無理言ってすまないな」
謝罪をしつつ振り返った先には、エンタープライズとクリーブランドが立っていた。
「気にしないでくれ、指揮官」
「そうそう。何となく事情は分かってるからさ」
そう笑顔で返した彼女達に指揮官はまた一言謝罪してから頭を下げる。
本来であれば今日は、彼女達とともに以前カーリー星人と名乗った宇宙人と怪獣による被害を受けた都市部の視察、及びまた宇宙人が潜んでいないかなどの調査を行うはずだったのだ。
「大方ラフィーにねだられて断れなかったんだろう。まったく、本当にラフィーには甘いな」
「でも仕方ないんじゃない?指揮官にとって、ラフィーは特別だからさ」
「あいや、それとこれとは……」
クリーブランドの言葉に指揮官は何故かしどろもどろになって言い訳を連ねるが、二人は苦笑いを浮かべるだけである。
「指揮かーん!早く早くー!」
「おう。今行く!じゃあ二人共、また後でな」
自分を呼ぶ声を救いと言わんばかりに、指揮官は二人から逃げるようにしてジャベリン達の下へと走っていった。
その様子を見て、エンタープライズとクリーブランドは呆れつつも笑みを浮かべていた。
「さて、私達も行くとするか」
「そうだな。まずは……」
指揮官達を見送った彼女達も、自分の仕事へと向かうのであった。
そして、1時間後……。
疲労困憊でベンチに座り込む指揮官の姿が見受けられたのだとか。
◇
「この辺りも異常なし、か」
「だね。次行こうか」
指揮官達と別れたエンタープライズとクリーブランドは、本来の目的である指定された区画を移動しながら、その場所の復興具合や怪しいところはないかを確認していた。
該当箇所をチェックしつつ端末に情報を記録し終えると、二人は次の目的地に向かって歩を進める。
怪獣の出現によってやる事は増えたが、普段の巡回とそこまで大差のない、なんてことない任務。
そして、とある路地に差し掛かった時。
「……なあ」
「分かっている」
そう短く言葉をかわした後、二人は急に立ち止まり後ろを振り返りながら艤装を展開した。
「―――ククク、流石に気づいていましたか」
不敵な笑いとともに姿を表したのは、真っ黒なコートと帽子で全身を隠した不気味な人物。
怪しすぎるその身なりに二人の警戒心は一気に引き上がった。
「何者だ。まさかただのセールスマンとか言うつもりじゃないよね?」
「そうですねぇ。まあ、ここまで来たら姿を隠し続ける意味もないでしょう」
そう言ってその人物は自身を覆っているコートと帽子を脱ぎ捨てた。
昆虫のような頭部に短剣のような形状の両腕。露わになったその姿は、まさしく人間とは呼べない姿であった。
「その姿、貴様まさか!?」
「クククッ。私はスラン星人、惑星侵略同盟の一員です」
紳士的な口調で名乗ったスラン星人は二人に向けてわざとらしく一礼する。
「惑星侵略同盟…ベルファストの報告にあった…」
「ああ。すぐに指揮官に報告を」
「その必要はありませんよ」
困惑する二人をよそにスラン星人が指を鳴らすと、突如として地鳴りが響き―――
「グギャオオオーッ!!」
そして、雄叫びと共に地面を突き破りソレは出現した。
「か、怪獣っ!?」
「クククッ。さぁアーナガルゲよ!思う存分暴れなさい!」
スラン星人の命令を受けその怪獣、『鉱脈怪獣アーナガルゲ』は街を破壊し始めた。
突如として襲いかかる脅威、果たして彼女達は街を、人々を守り抜くことができるか。