ウルトラマンジェイド   作:D-ケンタ

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第一話 怪獣上陸

母港が平和だからといって、出撃がないわけではない。

資源確保の委託任務や、近隣海域の哨戒など、やることは多い。

青いロングヘアーを靡かせ、量産艦の甲板から水平線を見つめる彼女も、その哨戒任務についた一人だ。

ユニオンの軽巡洋艦「ヘレナ」。SGレーダーによる索敵を得意とする彼女は、哨戒任務には適材適所と言える。

任務のため、ソナーを追加装備している彼女は、レーダーとソナーのの僅かな反応も逃さないよう注意しつつ、周囲の海域を見渡す。哨戒任務についている他の艦船の姿はあれど、敵の姿は見当たらない。

おかしなことといえば、委託に出てた艦隊が明らかに慌てた様子で帰ってきたことだろうか。

変と思いつつも哨戒を続けていると、突然ヘレナのソナーが反応した。

 

「ソナーに感あり!セイレーン?でも一つだけなんて……」

 

勿論セイレーンには単騎で艦隊一つ分以上の力を持つものもいるが、だとしても反応が一つしかしないというのがヘレナには引っかかった。

考えているうちにも目標は接近してきており、ヘレナは急いで艦隊に指示を出す。

 

「各員対潜準備!目標、間もなくこちらの射程圏内るわ、合図で爆雷を投下して!」

 

彼女の指示は端的で的確だった。

はぐれたセイレーンの潜水艦か、はたまた上位固体が奇襲をかけてきたのかは分からないが、やられる前にやる。

 

「……今よ!投下っ!」

 

ヘレナの合図で、艦隊から一斉に爆雷が投下される。

数秒後、爆雷が起動し、爆発によって多数の水柱が立った。

これならばもし撃破できなくても浮上するなりしてくるはず。そう思った矢先、海面が大きく揺らぎ始めた。

天気は快晴。風もなく、波が立つ原因は見当たらない。だとすればこのゆらぎの原因は唯一つ。

 

「これほどの揺れ、一体何が―――っ!?」

 

困惑するヘレナの前に、ついにソレは海中から姿を表した。

 

「ギャギャァーーーンッ」

 

 

帰投してくる委託艦隊を出迎えるため、ベルファストと共に桟橋までやってきた指揮官は、遠方からこちらに向かってくる艦を見つけた。

 

「おいおい、飛ばしすぎだろ」

 

最大速度を大幅に超えてるんじゃないかと思えるほどの船速で、アトランタ達が乗る艦が母港へと戻ってきていた。

流石に近づくに連れて速度を落としていき、安全に停泊したが降りてきたアトランタ達は酷く慌てた様子だった。

 

「おう、お疲れさ「「「「「「指揮かーんっ!」」」」」」ぐぶぉっ!?」

 

出迎えた指揮官に向かい、いの一番に飛び込んだ五十鈴をはじめにアトランタや随伴の駆逐艦達が指揮官へと飛びついた。

流石に受け止められるわけもなく、指揮官は変な悲鳴をあげて押し倒されてしまった。

 

「しし指揮官大変!かかか怪獣が!!」

「ぐわーって!ぐわーって!」

 

飛びついた全員が同時に喋っているためよくわからなくなってしまっている。

 

「皆様、落ち着いてください。そのように慌ててしまっていては、伝わるものも伝わりませんよ」

 

ベルファストがそう言い聞かせたことで、彼女達も少し落ち着いたのか指揮官の上から降りた。

 

「大丈夫ですか、ご主人様?」

「ああ、平気だ。それで、一体何があったんだ?」

 

指揮官がそう問いかけると、代表してアトランタが任務中に起きたことについて話した。

それを指揮官はただ黙って聞いていたが、次の五十鈴の言葉には流石に驚いた。

 

「それにあの怪獣、今度はあて達を襲ってきたんだよ!」

「何っ?」

「私達が移動しようとしたら、急に襲ってきて……幸い振り切れたけど、ずっと追ってきてて……」

 

総説明したアトランタの目には恐怖からか涙が浮かんでいた。

いつもの彼女からは想像できない姿に、指揮官はただごとじゃないと認識した。

 

「わかった。ひとまずお前達は寮舎で休んでこい。あとのことは任せ―――」

 

しかしその時、指揮官が携帯していた通信機から緊急通信を知らせる音が鳴り響く。

急いででると、酷く慌てた様子の声が聞こえてきた。

 

『指揮官!今すぐ避難してっ!』

「ヘレナか?どうした!?」

『か、怪獣です!怪獣がそちらに向かって―――』

「ご主人様っ!あれを!?」

 

反射的にベルファストが指した方向を見ると、海面が不自然な盛り上がりを見せていた。その光景を見てアトランタ達は明らかに怯えた様子を見せ、周囲にいた他のKAN-SEN達もざわつき始めた。

そして指揮官達が呆気にとられている間に、ソレは海中から姿を現した。

 

「ギャギャァーーーンッ」

 

艦船よりも巨大な体躯を持つ生物。正しくアトランタ達が言っていた怪獣と呼ぶに相応しい存在。球体のような体に爬虫類型の小さい頭と手足がついた、オイル怪獣タッコングがその姿を現した。

 

「―――ヘレナっ!哨戒に出てる艦隊を集結させろ!ただし、損害が出たらすぐ退避しろ!」

『は、はい!』

「ベル!すぐに母港の連中全員を避難させろ!ヘレナ達の防衛網を突破した奴だ、倒そうと考えず生き残ることを優先しろ!」

「承知いたしました、メイド隊で避難誘導にあたります!」

「俺は機動艦隊の指揮を執る。アトランタ、お前達も避難しろ!」

「わ、わかったわ。指揮官も気をつけて!」

 

呆然としたのも束の間。周囲のKAN-SEN達がパニックになる中、気を取り戻した指揮官はベルファスト達へ指示を出し、彼女達も迅速に行動を始めた。

そして指揮官も現状を打破する為通信を飛ばす。

 

「イラストリアス!聞こえるか!?」

『指揮官さまっ!ご無事ですか!?』

「俺は無事だ。それより、急いで機動艦隊の出撃準備を!」

『既に進めていますわ。先立って準備を終えたエンタープライズさまが出撃されましたので、間もなく到着されるかと』

「分かった。準備が終えた者から随時出撃頼む!」

 

そう頼んで通信を切り視線をタッコングに戻すと、真っ直ぐこちら、母港へと向かってきていた。

そこに、重低音のエンジン音を鳴り響かせながら、一機の戦闘機が上空を通り、タッコングへと向かっていった。

 

「エンタープライズか!」

『指揮官、待たせたな!しかし怪獣が相手とは……奴はセイレーンの新兵器なのか?』

「知らん!とにかく避難完了まで時間を稼いでくれ!決して無理はするな!」

『了解した!』

 

指示を受けたエンタープライズはタッコングへと接近するとアーチェリー状の艤装を構える。そしてタッコングに狙いを定め、番えた矢を放つ。

 

「あれだけ大きければ狙う必要もないな。攻撃隊、突き進め!」

 

放たれた矢は艦載機へと姿を変え、タッコングへと向かって飛んでいくと搭載してある爆弾をタッコング目掛けて投下した。

しかし、爆撃は成功したもののタッコングは唸り声をあげるだけで効いている様子はない。

 

「なら、もう一度だ!」

 

再び矢を放ち艦載機を発艦させるが、不意にタッコングが攻撃隊の方を向いたかと思うと、口から火炎を吐き出した。それにより、今まさに攻撃を仕掛けんとしていた攻撃隊は火炎に飲み込まれて撃墜されていった。

 

「何っ!?」

 

エンタープライズは驚愕しつつも回避行動を取る。

なんとか火炎は躱せたものの、その間にタッコングは再び母港へと足を進ませていく。

 

「くっ、まだだ!」

 

進行を阻止しようと再度矢を番えるが、その時タッコングの進行方向から航空機が飛来し、タッコングへと爆撃を加えた。

それを皮切りに多くの航空機がタッコングへと接近し、次々と攻撃を加えていく。堪らずタッコングは進行する足を止め、振り払うように航空機群へ向けて火炎を吐き出している。

 

「まったく。足止めすらできないなんて……やっぱり指揮官様を守れるのは、大鳳だけですわね―――あたっ!?」

「調子にのるんじゃないわよ。それより、あれが怪獣ねぇ……加賀も似たようなの出せたわよねぇ?」

「姉さま、あれはアニメの中だけです」

 

攻撃隊の後方、艤装の力で宙に浮いている少女、重桜の装甲空母『大鳳』が叩かれた頭をさすりながら恨めしそうに視線を向けた先には、同じく重桜の正規空母『赤城』と『加賀』の姿があった。

 

「怪獣だろうとなんだろうと、指揮官様を脅かすものは殲滅するだけよ。攻撃隊、発艦!」

 

赤城がそう言って手を翳すと、彼女の艤装から式神が飛び立ち、艦載機に姿を変えると次々とタッコングへ向けて飛んでいき、加賀と大鳳も続いて艦載機を発艦させる。

彼女達に続くように、白いドレス姿の女性が戦域に到着すると、指揮官へと通信を繋いだ

 

「指揮官さま、機動艦隊到着しました」

『分かった。決して無理はするな、避難完了まで時間を稼げばいい。生き残ることだけを考えろ!』

「了解しました。指揮官さまも、早く避難を」

『ああ、頼んだぞ』

「お任せください。聖なる光よ、私に力を!」

 

白いドレスの女性、ロイヤルの装甲空母『イラストリアス』の指揮により、彼女の航空隊がタッコングへと攻撃を開始する。彼女達以外の空母達も戦線に加わっていく。

大量の航空機による集中攻撃によりタッコングは母港へ進行する足を完全に止めて、航空機隊を撃墜しようと四方八方に火炎を吐いている。

その光景を母港から見ていた指揮官は、僅かに安堵のため息を漏らした。

 

「これなら、何とかなりそうか?ベル、避難状況はどうなっている?」

『はい。順調、とは言い難いです。戦艦の方々を始め、怪獣に向かっていこうとする方が多く……』

「やっぱりか。戦艦の主砲なんぞ、こんな母港の近くで使わせられるか……とにかく、絶対に向かわせるな。頼んだぞ」

 

通信を切り、指揮官は視線を戦闘中の部隊へと向ける。タッコングの注意はいまだ攻撃隊へと向いており、進行を再開する様子はない。

 

「よし……しかしあの怪獣、何が目当てでここに?」

 

合流した哨戒艦隊も加わり、激しさを増す防衛戦。頭に浮かんだ疑問を一旦隅において、指揮官は駆け出した。

一方、タッコングへと攻撃を続けている機動艦隊だったが、タッコングのあまりのタフさに焦りの色が見え始めていた。

 

「くっ!これだけ撃ってもまだ動けるのか!?」

「いい加減、倒れなさいよ!」

 

複数の航空母艦による爆撃、哨戒艦隊による砲撃や雷撃を受け続けてもなお、タッコングは健在のまま。

然し彼女達のお陰で、タッコングは母港へ進行することができず、避難も滞りなく進んでいる。

 

「このままいけば……」

 

大丈夫だと少し安堵したエンタープライズの目の前で、タッコングが妙な行動を取った。上空の艦載機へ放っていた火炎を止め、身を屈めてうなり始めたのだ。

 

「何だ……?」

 

怪訝そうに眉を顰めるエンタープライズ。タッコングの行動に疑問を持ったのは彼女だけではないが、その中にはタッコングが何をするつもりか、すぐに予想できた者がいた。

 

「総員回避っ!!」

 

誰が言ったかは分からない。だがその言葉に反応し全員が回避行動を取った直後、タッコングはその体型からは想像できない跳躍力で空中に跳び上がった。

 

「嘘でしょうっ!?」

 

驚愕する彼女達をよそに、タッコングは跳躍した勢いそのままに、途中の艦載機を巻き込みながら一気に母港へと上陸を果たした。

 

「ギャァーーンッ」

 

 

「うっそだろおいっ!?」

 

タッコングが母港に飛び込んで来たのを目の当たりにし、指揮官は目を見開いて驚きの声を上げた。

予想だにしていない状況に、戦闘中だった艦隊の皆はすぐ反応出来ずにいるらしい。

呆気にとられている指揮官に、避難誘導中のベルファストから通信が入った。

 

『ご主人様!ご無事ですか!?』

「ああ、何とかな。それよりそっちの様子は?」

『怪獣が上陸したことで、避難している方々にパニックが広がりつつあります』

「だろうな……俺のことは心配しなくていい、引き続き皆の避難を―――」

 

しかし指揮官の言葉を遮るように、通信機の向こう側からベルファストではない、別の狼狽した様子の声が聞こえてきた。

 

 

「ベルファストさん、大変です!!」

 

指揮官と通信中のベルファストに、白を基調とした服装の少女、鉄血駆逐艦『Z23』(通称ニーミ)がベルファストへと駆け寄ってきた。その後ろには彼女と仲のいい重桜駆逐艦の『綾波』の姿もあり、二人とも何やら慌てた様子で息を切らしていた。

 

「ニーミさんに綾波さん?どうされたのですか?」

 

ベルファストの問いかけに、二人は切れた域を整えもせずに答える。

 

「ら、ラフィーが忘れ物をしたと、寮舎に戻っていったのです……」

「それを追ってジャベリンも……」

「なんですって?!」

 

彼女達の報告には流石のベルファストも驚いた。

現在母港にはタッコングが上陸しており、現在の位置はラフィー達が向かったという寮舎に近いところにいるのだ。

すぐに救助に向かわないと、ベルファストがそう考えたとき、通信機から指揮官の声が聞こえた。

 

 

『話は聞いた。あいつらの寮舎なら俺の方が近い。俺が二人の救助に向かう』

「危険です!私が向かいますので、ご主人様は避難を!」

『心配すんな。さっと見つけて抱えていく。そっちは頼んだぞ』

「ご主人様っ!?お待ち下さい、ご主人様っ!?」

 

ベルファストの呼びかけも虚しく、通信機から指揮官の応答はなかった。

無理もないが、珍しく狼狽した様子のベルファストに、Z23がおずおずと声をかける。

 

「あ、あの……ベルファストさん?」

「……失礼、少々取り乱しました。ひとまずお二人は先に避難しててください」

「わ、分かりました」

「二人と指揮官のこと、お願いするです」

 

Z23と綾波はベルファストに向かって一礼し、避難場所へ向かった。二人を見送ったベルファストは、近くにいたメイド隊のKAN-SENを呼び止めた。

 

「シェフィ。少々離れますので、すみませんがしばらくこの場をお任せします」

「構いませんが、どこに行くのですか?」

 

呼び止められたロイヤルメイド隊の『シェフィールド』がベルファストに問うと、彼女はいつになく真剣な様子で答えた。

 

「ご主人様方のお迎えに行ってまいります」

 

そう言うとベルファストはその場を走り去った。向かうはラフィー達が戻り、指揮官が向かっている寮舎。そこはまさに、タッコングが暴れている場所からそう遠くないところであった。

 

 

寮舎に到着した指揮官は、大きな声で呼び掛けながら、寮舎の中を探索していた。

 

「ラフィー!ジャベリン!どこにいるんだっ!?」

 

必死で探しているが、何分寮舎は広く簡単には見つけられない。ラフィーの部屋にいるかと思い真っ先に向かったものの、そこに二人の姿はなく、指揮官は今必死で寮舎の中を駆け回っている。更には近くでタッコングが暴れている影響か、ところどころ崩れており、心配は増すばかり。

外に視線を向ければ、タッコングが暴れる姿が目に入り、今も近くにあった倉庫に尻尾を横薙ぎに叩きつけて破壊していた。機動艦隊が追いついてきて攻撃を加えているものの、タッコングの強靭な皮膚に阻まれ大したダメージを与えられていないようだ。

 

「早くあいつらを探さないと……ってうおっ!?」

 

焦る指揮官だったが、その時タッコングが破壊した建物の破片が寮舎へと直撃した。

その衝撃で寮舎が大きく揺れ、天井が崩れ瓦礫が落下し、指揮官は耐えれずその場にしゃがみ込んだ。

 

「危ねえな……野郎、覚えてやがれ!」

 

まるで小悪党のようなセリフを吐いて、指揮官は寮舎内の探索を再開した。

瓦礫が積もってきているのもあり、一部通れないところもあったが、それでも賢明に探し続けた。

そしてある階層に差し掛かった時。

 

「誰かーっ!」

「っ!?向こうか!」

 

微かだが、確かに聞こえた声。その方向に向かい、指揮官は駆け出した。

 

「おーい、無事かーっ!?」

「指揮官っ!?こっち、こっちです!!」

 

声のした方に向かっていくと、そこには探していたうちの一人、ロイヤル駆逐艦の『ジャベリン』が両手を振って立っていた。

 

「ジャベリンっ!大丈夫か?」

「私は平気です。でもラフィーちゃんが!」

 

焦った様子のジャベリンに案内されて向かうと、そこには瓦礫に足を挟まれた状態のユニオン駆逐艦『ラフィー』の姿があった。

 

「ラフィー!?」

「しき、かん……?」

 

痛みのせいか、弱々しい声で答えるのラフィー。

 

「さっきの衝撃で瓦礫が落ちてきて、私を庇ってラフィーちゃんが……通信機も壊れて助けも呼べなくて……」

 

確かに、艤装を装備していないジャベリンだけでは、この瓦礫をどかすのは難しいだろう。指揮官は軽く袖を捲くり、ラフィーを挟んでいる瓦礫に手をかける。

 

「泣き言は後だ、急いで瓦礫をどかすぞ!」

「は、はい!」

 

二人で協力して、ラフィーを挟んでいる瓦礫をどかしていく。いつ崩されるかもわからない状況での作業に、二人の額に嫌な汗が滲む。

 

「なんで、戻ってきたりしたんだ?」

「えっと、それは……」

 

瓦礫をどかしながら、指揮官が問いかける。ジャベリンは言い淀んでいたが、ラフィーが指を指した方向を見ると、そこには人参型の枕が落ちていた。

 

「枕?何でアレのために……」

 

頭に疑問符を浮かべる指揮官に、ラフィーは答える。

 

「だって、指揮官がプレゼントしてくれたから……」

「……馬鹿野郎。あんなの、いくらでも買ってやるってのに……」

 

そう言った指揮官の表情は、台詞とは裏腹に少しニヤけていた。

そう時間がかからずして、何とか瓦礫の下からラフィーを助け出すことに成功した指揮官とジャベリンは、挟まれていた足の状態を診る。

 

「……歩くのは無理そうだな。俺が抱えていく」

「枕は私が持っていくね」

「……うん」

 

ラフィーは小さく頷くと、指揮官の首にしっかりと掴まり、そのまま抱き抱えられた。

タッコングが暴れている影響で、寮舎もいつ崩れてもおかしくはない。

指揮官達は外を目指して走り出した。

出口に向かう途中でも、寮舎の揺れは収まらず、瓦礫の量も増えており思うように下へ向かえない。

 

「長く保たねえな、さっさと外に出て―――うわっ!?」

「きゃああっ!?」

 

脱出途中の指揮官達の目の前に、何かが寮舎の外から突っ込んできた。舞い上がった粉塵が収まってくると、落下してきたものの正体が見えてきた。

 

「大鳳っ!?」

 

落ちてきたのはタッコングと戦っているはずの大鳳であった。よく見れば体に傷を負っており、艤装も焼け焦げて服もあちこちが焼け落ちている。

 

「大鳳!大丈夫か?しっかりしろ!?」

「し、指揮官様……申し訳、ございません」

 

弱々しい声で謝罪する大鳳。指揮官が壁に空いた穴からタッコングと戦っている機動艦隊へ視線を向けると、その人数は最初より大きく減っていた。

しかし考えてみればそれも仕方ないだろう。全く未知の敵が相手で、どれだけ攻撃しても堪える様子もない。倒さなくていいとはいえ、そんな相手とずっと戦っていれば、疲労も溜まっていきいずれ限界が来る。

 

「残っているのはエンタープライズとイラストリアス、それに一航戦の二人だけか……クソ、俺の判断ミスだ」

 

過小評価していたわけではない。だが被害を抑えようと航空機で翻弄しながら攻撃できる機動艦隊のみを向かわせたのが間違いだった。そういう思いと後悔が指揮官の頭の中に渦巻く。

指揮官が歯噛みしていると、大鳳が立ち上がった

 

「た、大鳳は大丈夫です。すぐに戦線に戻っ!?」

「あ、危ない!」

 

艤装を構え、再び向かおうとする大鳳だが、ダメージの影響か足元はふらつき倒れそうになる。咄嗟にジャベリンが支えたが、とても戦える状態ではない。

 

「んな状態で行かせられるか!ジャベリン、引き摺ってでも連れて行くぞ!」

「はい!行きますよ大鳳さん」

「ちょ、ちょっと!」

 

本当に引き摺ろうとするジャベリンに流石に大鳳も抗議する。

しかし、状況は待ってくれない。

再び寮舎が大きく揺れ、全員がバランスを崩してしまう。

 

「危ないっ!」

 

それだけではない。その揺れにより天井の一部が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。

咄嗟に指揮官達は身を屈める。幸い細かな破片が当たっただけで大した被害はなかったが、出口への道を完全に防がれてしまった。

 

「まずいな……戻ろうにもあっちも崩れてしまっている。残るはこの穴だけだが……」

 

指揮官の言うとおり、残された逃げ道は先程大鳳が墜落した際に空いた壁の穴だけである。しかし、指揮官たちが今いる階層は以前地面から高い位置にあり、飛び降りるのは容易ではない

どうにかできないかと、ふと指揮官が外を見ると、この状況を打開できる人物の姿が目に入ってきた。

 

「おーい、ベルーっ!」

「ご主人様!?ご無事ですか!!」

 

寮舎の外では、ベルファストが艤装を展開した状態で、こちらの方へと向かってきていた。

 

「通路を塞がれちまった!救助を頼む!」

「承知いたしました!少しお下がりください!」

 

ベルファストは指揮官達が穴から離れたのを確認すると、艤装のアシストで強化された身体能力をもって、ひとっ跳びで指揮官達のいる階層の高さまで飛び上がると、彼らの目の前へと着地した。

 

「すまん、助かったよ」

「ご主人様には言いたいことが山程ございます。ですが、まずはここから避難いたしましょう」

 

ベルファストの言葉に指揮官はバツが悪そうに顔を背けるが、彼女の言う通り急いで寮舎から避難しなくてはならない。

避難の方法としては、艤装を展開しているベルファストに抱えてもらい、順番に外へ運んでもらう。

 

「まずはジャベリンとラフィーから頼む」

「はい。ジャベリンさん、ラフィーさん、しっかり捕まっていてください」

「お、お願いします」

 

ベルファストは二人を抱え、しっかり捕まっているのを確認すると、穴から飛び降りて地面へと着地。二人を下ろすと再び上へと上がり、今度は大鳳を抱えて飛び降りて下ろすと、最後に残った指揮官の元へと跳び戻った。

 

「さあ、あとはご主人様だけです」

「ああ。頼ん――――ベルっ!!」

 

ベルファストが指揮官を抱えようとしたとき、突然指揮官がベルファストを外へと突き飛ばした。

わけも分からず落下するベルファストが見たのは、火炎による爆発と、それにより崩れ落ちる寮舎に巻き込まれていく指揮官の姿だった。

 

「ご主人様あぁーっ!!?」

 

ベルファストの叫びも虚しく、寮舎は完全に崩れ落ち、指揮官の姿は瓦礫の中に埋もれてしまった。

 

「ぐぅっ!」

「ベルファストさんっ!!」

 

姿勢を整えることも忘れ、地面へと叩きつけられたベルファストにジャベリンが駆け寄る。

 

「大丈夫ですかっ!?指揮官は……」

「ご主人様が……ご主人様が……」

 

ベルファストは目の前で起こったことに呆然とし、力なく地面に座り込んでしまう。

 

「指揮官様が……そんな……いやああぁーっ!?」

 

ショックを受けたのは彼女だけではない。大鳳も信じられない出来事に叫び声を上げて蹲った。

当然ジャベリンも、ラフィーも……。

 

「しき、かん……?」

 

受け入れ難い出来事に、ラフィーは呆然としながら、ただ崩れ落ちた寮舎を見ていた。

 

「ギャギャーーンッ」

 

気が付けばタッコングが彼女達の方へと近付いて来ていた。

すぐ逃げなくてはいけないが、指揮官を失ったショックにより力が入らないのか、タッコングへと視線を向けるだけで逃げようとしない。

そして、タッコングは無慈悲にも彼女達へと向かって火炎を吐き出した。

迫りくる明確な"死"。それでも、彼女達は俯いて動こうとしない。火炎が今まさに彼女達を飲み込もうとした。その時だった。

 

「……?」

 

いつまでも襲ってこない火炎の熱に顔を上げると、眩い光が彼女達とタッコングの間で輝いていた。

 

「翡翠色の、光……?」

 

光を見たベルファストはついそう呟いた。そして、その光からえも言われぬ暖かさを感じていた。

タッコングも光を警戒しているらしく、追撃を加えずその場で威嚇している。

やがて光が収束していくと、その中心から光を発していたその存在が姿を現した。

 

「―――巨人……?」

 

彼女達の目の前に現れた巨人は、タッコングと向かい合うとファイティングポーズを構える。

銀色の体に、赤と翡翠色のラインが入った姿。胸に八角形の輝く水晶体。その巨人は、とある世界、とある惑星ではこう呼ばれていた。

 

「ジェアッ!!」

 

―――ウルトラマンと。

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