宇宙凶険怪獣 ケルビム 登場!
修繕工事も一段落してきた母港。とある会議室にて、各陣営の代表が顔を突き合わせていた。
「この短期間で二度の怪獣の出現。ただの偶然と済ますには出来すぎている気がするな」
エンタープライズの発言に、全員が賛同の意を示す。
怪獣による母港の襲撃、そして先日の火山島での怪獣出現。その対策会議のため、彼女達は集まっていた。
「セイレーンの新兵器という説もあるけど、それにしては二回とも怪獣以外は確認されていないわ」
「それに、最初の襲撃で母港の機能は大幅に下がっていたにも関わらず、セイレーンからの追撃はなかった。怪獣のデータを取っていただけかもしれないが……」
ビスマルクの言葉に北方連合の戦艦『ソビエツカヤ・ロシア』が続けて発言する。すると今度は重桜戦艦『天城』が資料を手に話し始めた。
「明石達の調査によると、二体の怪獣の体組織はどの生物のものとも異なっていたそうです。しかし、セイレーンの手が加えられた痕跡も見当たらなかったと」
「怪獣達はセイレーンとは無関係、ということか?」
「今の状況ではなんともいえませんが、その可能性は高いかと」
天城の報告にエンタープライズは頭をひねる。この報告によれば、怪獣はセイレーンの手によって誕生した存在ではない。それにもし怪獣とセイレーンが全く関係ないとしたら、一体なぜ怪獣は現れたのだろうか。
ただ自然に発生したのか、それともまた別の存在が関わっているのか、疑問は尽きない。
「……分かった。怪獣に関しては、引き続き調査と警戒を続けよう。何か分かれば、すぐに報告を上げるよう明石に伝えてくれ」
「分かりました」
一礼した天城に会釈を返し、エンタープライズは一度深く息を吐き、会議室の一同を見渡した。
「さて。もう一つの議題だが―――あの巨人、『ウルトラマン』についてだ」
『ウルトラマン』。その単語が出た瞬間、会議室の空気が変わった。
「ウルトラマン……最初の怪獣と同時に出現した謎の巨人、ですか」
「ああ。率直に訊こう、皆はウルトラマンについてどう思う?」
エンタープライズの問いかけに、真っ先に答えたのはイラストリアスだ。
「彼の光からは、邪悪なものを感じません。私はウルトラマンのことは信用できると思いますわ」
「私達も同じ意見です」
イラストリアスが自身の考えを伝えると、それまで沈黙していたアイリスの『リシュリュー』が彼女の意見に同意を示した。
「ウルトラマンは我々に危害を加えることはなく、怪獣だけと戦っています。このままウルトラマンとは協力するべき、というのが私の見解です」
たしかに彼女の言通り、ウルトラマンは二度の怪獣との戦闘において彼女達とは敵対せず、むしろ協力する姿勢を見せていた。そのためアズールレーンの母港ではウルトラマンを好意的に見る意見が多い。
更に言えば、短いがコミュニケーションを取ることができたという報告が上がっていることも大きのだろう。
「悪いが、私はその考えには賛同できない」
その発言をした人物に、全員の視線が集まる。発言元のサディア所属戦艦『リットリオ』は腕を組んだ姿勢で目を閉じていた。
そのリットリオに、リシュリューが問いかける。
「何故ですか?ウルトラマンがいなければ、怪獣を倒すことはできませんでした……協力するのは当然だと思いますが?」
「そこが問題なのだ。奴は機動艦隊の爆撃をものともしなかった怪獣を難なく倒した。もしその力が、我々に向けられたらどうする?」
「それは……」
言葉を詰まらせるリシュリューに向け、リットリオは更に続ける。
「確かにウルトラマンは怪獣を倒した。だがそれはただの気まぐれで、いずれ我々に矛を向けるかもしれない。我々の味方だと考えるのには、あまりにも早計すぎる」
そう言い終えると、リットリオは椅子の背に体を預けた。彼女の言葉により会議室の空気が重くなったが、その中で東煌の『逸仙』が発言した。
「私もリットリオ様の意見に賛成です。今のところウルトラマンに敵対する意志は見受けられませんが、警戒するに越したことはないかと」
「ふむ、意見が別れたな。どう思う、ビスマルク?一度ウルトラマンと共闘したのだろう」
会議の様子を見て、ソビエツカヤ・ロシアがビスマルクに問いかけた。
「私?そうね……共闘したと言っても、海上から支援砲撃しただけだから、なんとも言えないわ。でも……」
「でも?」
ビスマルクは一呼吸おいてから、続けて言い放つ。その声は冷静でありながらも、この場にいる全員に聞こえていた。
「でも彼は、指揮官を助けてくれたわ。だから、悪い存在じゃないと思う」
その言葉に、ウルトラマンについて討論していた全員が黙りこんだ。
そう、ウルトラマンについて忘れてはならないのが、今彼女が言ったように彼は指揮官の命を救っているのだ。それも二度も。
「……確かにそうだな。私もビスマルクと同意見だ。彼は同志指揮官の恩人、信頼する材料には十分すぎると思うぞ?」
ビスマルクに続いて、ソビエツカヤ・ロシアが全員を見渡しながら言った。彼女の台詞を聞いたリットリオと逸仙は、半分納得半分渋々といった様子で頷いた。
彼女達にとって、指揮官は何よりも大切な存在。その彼の命の恩人を無碍にすることは出来ない。
彼女達の様子を見て、実質的な仕切り役のエンタープライズは落ち着いた口調で議題のまとめを告げた。
「……決まりだな。ウルトラマンとは今後、可能な限り友好的に接するよう、各陣営に通達してくれ」
全員が了承の意を表したのを見て、エンタープライズは一拍おいてから次の議題に進める。
「さて次の議題だが」
「ちょっと待ってくれ」
しかしそれをリットリオが引き止めた。エンタープライズは怪訝そうな表情でリットリオに問い掛ける。
「何だ?ウルトラマンについて、まだ不満があるのか?」
「いや、それはもういい。そういえば、指揮官がいないと思ってな」
確かにリットリオの言う通り、このような会議に指揮官が顔を出さないのはおかしい。他の全員もそう思ったのか、エンタープライズへと視線を向ける。
エンタープライズはため息を吐いてから、彼女の質問に答えた。
「指揮官なら、ベルファストのご機嫌取りに共に街へ行ったよ。全く、近頃街には通り魔が出るというのに……」
「成る程……まあ、ベルファストが一緒なら問題ないだろう」
「納得したのなら、次の議題に移るぞ。と言っても、今話に出た通り魔のことなんだが……」
その後の会議も滞りなく進んでいったが、全員胸のうちに同じ考えを浮かべていた。
次の休みには、自分が指揮官と出かけよう。……と。
◇
指揮官達が暮らしている拠点は、山道を通して市街地と繋がっている。比較的距離が近いこともあり、非番のKAN-SEN達が街へ遊びに出かけることもある。指揮官も休みの日には彼女達と一緒によく街を訪れていた。
「ご主人様、次はあちらに行ってみましょう」
「お、おう」
この日も指揮官は、ベルファストと共に街へ来ていた。二人共普段の服装ではなく、指揮官はシンプルなシャツにジーンズ、ジャケットを羽織り、ベルファストはニット生地のオフショルダーにタイツとタイトスカートといった出で立ちである。
指揮官はその両腕に紙袋を下げながら、ベルファストのあとについていく。
「なあ、ベル。一旦休憩しないか?少し疲れてきてしまってな」
「あら?今日一日私のお出かけに付き合うとおっしゃったのは、ご主人様ではないですか」
今回指揮官がベルファストと街へ来たのは、彼女のご機嫌取りという目的があった。
二度の怪獣との戦いで、指揮官は彼女に多大な心配をかけてしまった。そのことにベルファストはかなりご立腹で、グランゴン戦のあと目に見えて不機嫌になっていた。それをどうにかしようと今回のお出かけを提案したのだ。
「いやそりゃそうだが、朝に出発してもう昼だぜ?そろそろ昼飯休憩にしないか?」
しかし、彼女の主導で街へ出てみれば、朝からずっと歩きっぱなしで、流石の指揮官も疲れが溜まってきていた。そのため休憩を挟むのをお願いすると、ベルファストは指揮官へと振り向いてイタズラっぽく笑みを浮かべた。
「仕方ないですね。向こうに公園がありますので、そちらでお昼にしましょうか」
そう言って先に歩いて行くベルファストに置いていかれないよう、指揮官も彼女のあとに続いて公園へと向かう。
公園に着いた二人は手近なベンチに腰掛ける。するとベルファストは自分のバッグの中から包みを取り出し、それを解く。包みの中は弁当箱であり、蓋を外すと彩り豊かな具材を挟んだサンドイッチが詰められていた。
「さあどうぞ。召し上がってください」
「おお!相変わらず美味そうだ。いただきます」
指揮官はサンドイッチを一つ手に取って頬張る。噛むたびにレタスのシャキシャキとした食感と一手間加えたハムの芳醇な味わいが口の中に広がっていき、指揮官の味覚を刺激する。
「うん、美味い!」
一つ、また一つと口の中にサンドイッチを放り込んでいく。
「やっぱりベルの料理は美味いな」
「恐れ入ります。ですがご主人様、もう少し落ち着いて食べてはいかがですか?口元が汚れてますよ」
彼女の言うとおり、指揮官の口の周りにはサンドイッチの食べカスがくっついていた。
ベルファストはハンカチを取り出し、指揮官の口元を拭う。指揮官は照れくさそうにしながらも、抵抗する素振りなどは見せていない。
口元の食べカスを拭き終わると、ベルファストは不意に笑みをこぼした。
「……ふふ」
「どうした?」
「いえ……この光景は、変わりませんね」
そう言ったベルファストの瞳には、公園を利用している民間人達の姿が映っていた。
仲良く遊んでいる親子。寄り添いながら散歩している老夫婦。元気に走り回っている子供達。仲睦まじい恋人等。
正しく平和な日常と呼べる光景が、そこにあった。
「ああ。上の連中がうまく情報を隠しているんだろう。被害も俺達の母港だけだしな。対岸の火事どころか、山向の火事というわけだ」
「ですが、もし怪獣を倒せていなかったら、この光景は呆気なく崩れ去っていました」
「……そうだな。俺達が戦うのは、この平和を守るためだ。といっても、実際に命をかけているのはお前達だがな」
そう言いながも、指揮官は自分自身はそんな大層な理由で戦っていないと自認している。よくそんなことが言えるな、と自嘲のため息を吐いて、ベンチの背もたれに寄りかかった。
彼が戦う理由は唯一つ。彼の指示の下戦っている、彼女達の為に他ならない。
そんなエゴで軍人としての立場と権限を使っている自分に、もう一度ため息を漏らす。
「……そうですね。確かにこの平和は尊いものです。ですが、私はその為だけに戦っているわけでは、ありませんよ」
「ベル……?」
不意にベルファストと目線が合う。彼女の瞳は、まっすぐに指揮官を見つめている。
「私が、私達が命をかけて戦えるのは、ご主人様。貴方がそう思わせてくれるからです」
「ベル……」
「ご主人様……」
自然と二人の手が重なる。周りの音が遠くなっていき、まるで二人だけのような錯覚を指揮官は感じていた。
そして、二人の距離が更に近いていった。その時。
「っ!?ご主人様っ!」
「うわっ!?」
突然ベルファストが指揮官を抱えながらベンチから飛び退いた。
何が起こったのか理解が追いつかない指揮官だったが、その直後彼らが座っていたベンチが真っ二つに切り裂かれた。
驚く指揮官と反対にすぐさま臨戦態勢を整えるベルファスト。警戒の視線を向ける先には、彼らを襲いベンチを破壊した下手人の姿があった。
「ヌゥ、しくじったか。勘の鋭い女め」
「な、何だあいつは!?」
犯人の姿は、指揮官が知っている人間の姿とはかけ離れていた。まるで銀色のマスクを付けたような顔面に黒い全身タイツ。しかし一番の特徴は、肩の部分から生えている巨大な刃物のような角だろう。
「何者ですか!?」
「ふん、冥土の土産に教えてやろう。俺様はカーリー星人。この惑星を侵略しに来た宇宙人だ!」
カーリー星人と名乗ったその男は、肩の刃物を振りかざして大きく見得を切る。
体勢を正した指揮官はベルファストに守られながらカーリー星人へと向き合う。
「侵略、だと?貴様はセイレーンの仲間なのか!?」
「セイレーン?奴らと一緒にされるとは、本当に何も知らないんだな」
「何だと?」
カーリー星人は鼻で笑うと、更に続けて言い放つ。
「俺様は侵略同盟の先遣隊として、人間狩りをしながらこの惑星を調査していた。別の次元とはいえ、奴らが来ていないとは限らんからな」
「奴ら?」
「実際に怪獣の出現に合わせて、奴は現れた。忌々しい光の戦士、ウルトラマンがな!」
カーリー星人の口から出たその名前に、二人は驚きのあまり目を見開いた。まさか目の前の宇宙人を名乗る怪人からその名前が出るとは思ってもいなかったが、そんな二人の心情に関係なくカーリー星人は話を続ける。
「俺は今まで集めた情報を持って一旦本体に合流しようと思った。だがその前に最後に貴様らを狩ろうとしたが、その女が邪魔をしやがった!」
「勝手な言い分ですね」
「待て。うっかり流しそうになったが、人間狩りだと?ということは最近の通り魔騒ぎは」
「その通り。俺様の仕業よ!」
自信満々の様子で自供するカーリー星人。
最近市街地では謎の通り魔事件が起きていたが、まさか宇宙人の仕業だとは思いもよらなかった。
指揮官はやや怒気を含ませた口調で、カーリー星人に問いかけた。
「何故そんなことをする!?」
「何故だと?そんなの、リア充共を粛清するために決まっているだろう!!」
カーリー星人は握り拳を震わせながら、指揮官の問いかけに答えた。
が、その内容の酷さに指揮官とベルファストはついポカンとしてしまった。
「人間共の癖に、ベッタベタイッチャイチャしやがって……生まれてこの方モテたことのない俺様への当てつけか!?」
「……えーと」
「世のモテない宇宙人を代表して、俺様がリア充共を粛清してやる!それがカーリー星人としての俺の宿命だからな!」
あまりにもくだらない理由に、つい閉口してしまうが、ふと湧いた疑問が溢れてしまった。
「じゃあ何で俺達を襲ったんだ?」
「しらばっくれるな!あんだけ二人の空間でリア充の空気を出しておいて、白々しいにもほどがあるぞ!!」
その台詞を数瞬遅れて理解した瞬間、指揮官は緊張感のある状況にも関わらず狼狽えだした。
「な、何言ってるんだ!?俺とベルはそういう関係じゃ……!」
「あら?私は構いませんよ、ご主人様」
「ベルも何言ってるんだ!?」
宇宙人そっちのけで会話する二人。その様子にカーリー星人の堪忍袋の緒が切れた。
「やかましい!性懲りも無くイチャイチャしやがって、これは使うつもり無かったが、貴様らを消せるんなら躊躇はしねえ!」
そう言いながらカーリー星人はなにかのスイッチを押した。
その行為に指揮官達は警戒をしていると、上空から何かが市街地へと降ってきていた。
「あれは、まさか隕石か!?」
燃える隕石のようなものは市街地から少し離れた森林地帯に衝突すると、衝撃であたりが大きく揺れた。舞い上がった土煙が収まってくると、そこには一体の怪獣の姿があった。
「怪獣!?まさか、あいつが呼んだのか!?」
「行け、ケルビム!この惑星の連中を殲滅してしまえ!」
カーリー星人の命令に応えるかのように、その怪獣、『宇宙凶険怪獣ケルビム』は雄叫びを上げ、街へと進行を開始した。
「キュェーーンッ!!」
思いも寄らない事態に、公園内はおろか、街中が大混乱に陥った。
怪獣の出現に加え、宇宙人の存在。この惑星に、一体何が起ころうとしているのか。
それを考える時間はない。