ウルトラマンジェイド   作:D-ケンタ

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暗闇宇宙人 カーリー星人 登場!
宇宙凶険怪獣 ケルビム 登場!


第四話 崩壊する日常-B-

突如として現れたカーリー星人に怪獣ケルビムの出現により、市街地のあちこちから悲鳴が上がり、街はパニックに陥っていた。

カーリー星人と対峙する指揮官とベルファストはアイコンタクトを交わすと、それぞれ行動を開始する。

 

「ベル、俺は艦隊の出撃要請と避難誘導にあたる。悪いが奴の相手を任せてもいいか?」

「お任せ下さい。ご主人様も、ご無理はなさらないようお願いします」

「分かっている。無理はするなよ!」

 

そう言い残し、指揮官はその場を走り去る。その姿を見てカーリー星人は嘲笑するように鼻を鳴らした。

 

「ふん。女を残して逃げるとは、なんとも情けない男だな」

「黙りなさい」

「何?」

 

雰囲気の変わったベルファストの様子にカーリー星人がたじろぐ。ベルファストは瞬時に艤装を展開すると、カーリー星人に向けガントレットを構えて告げる。

 

「あなたのような下卑た方が、ご主人様の事を悪く言わないでください。虫唾が走ります」

「な、何ぃっ!?女のくせに生意気だぞ!!」

 

ベルファストの物言いにカーリー星人は憤慨するが、ベルファストは全く怯む様子はない。むしろその様子は静かであったが、どこか背筋が凍るような印象を感じさせた。

 

「その上ご主人様を狙うなんて……即刻排除させていただきます」

 

要するに、ブチギレているのである。

 

「う、うるさい!こうなったら、貴様から切り刻んでくれる!!」

 

ついにカーリー星人がベルファストに襲いかかったが、ベルファストは軽い身のこなしでそれを躱すと、カーリー星人へ強烈な蹴りを食らわせた。

 

「グボァッ!?」

「これで終わりではありませんよ」

 

更にガントレットの機銃をカーリー星人に向けて発射する。流石にそれは避けたものの、間を詰めたベルファストの打撃の連打を食らいたたらを踏む。

 

「ぐうぅ……き、貴様!」

「割と本気だったのですが、案外頑丈ですね」

 

冷たく言い放つベルファストと反対に、頭に血が上っていくカーリー星人。戦いの決着は、見えたも同然だった。

 

 

ベルファストと別れた指揮官は、走りながら緊急用の通信端末を母港へと繋いだ。

 

『こちらエンタープライズ。指揮官、どうした?』

「エンタープライズか、緊急事態だ!市街地に怪獣が現れた!!」

『何だと!?』

 

指揮官から告げられた事態に、通信の向こうが騒がしくなるのを感じながら指揮官は続けて指示を出す。

 

「急いで機動艦隊を出撃させてくれ!編成は任せる!」

『わかった!すぐにそちらに向かう。指揮官、無茶はしないでくれ』

「わかっている。じゃあ頼んだぞ!」

 

通信を切り、指揮官は大通りに出ると、案の定パニックになった人達で溢れかえっていた。

 

「まずいな……よし」

 

指揮官は辺りを見回すと、少し離れたところに避難誘導を行っている警察の姿を見つけた。指揮官は彼らに近づくと、警官の一人に声をかける。

 

「少しいいか?」

「話を聞いてる暇はない!あんたも早く避難してくれ!」

「悪いがそれは聞けない。俺はこういう者でな」

 

進まない避難に焦っている警官は聞く耳を持たないが、指揮官が身分を提示すると警官は姿勢を正した。

 

「あ、アズールレーンの指揮官でしたか!?失礼いたしました!」

「気にするな。それより、避難状況はどうなっている?」

「はい!突如現れた巨大生物により住民はパニックになっており、我々の間でも指揮が錯綜し、遅々として進んでいない状況です」

 

警官の報告に指揮官は顎に手を当てて少し考える。周りを見れば住民達はバラバラに避難しようとしており、建物から外に逃げようとする人達の間で衝突が起こったり、車で避難しようとして衝突事故を起こしてしまっている。

このままでは怪獣による被害だけではなく、避難する人達による二次被害までもが大きくなってしまう。

 

「一先ず避難方向を統一させよう。怪獣の反対側の山間部に向けて避難を誘導してくれ。あと渋滞や事故を避けるため、移動手段は徒歩に限定させろ」

「と、徒歩ですか?それでは追いつかれるのでは?」

「すでに母港に出撃要請は出している。避難完了まで俺たちが足止めするから、安心しろ」

「わ、分かりました」

 

そして、指揮官はその警官から無線を借りて警察本部へも同じ指示を伝えると、周囲の警官達も指示通りに避難誘導を開始した。

それを見届けると、指揮官はその場を警官達に任せて、迫ってくるケルビムの方へと駆け出した。

既にケルビムは市街地へと侵入しており、手近なビルを薙ぎ倒している。

 

「これ以上やらせるか―――力を貸してくれ!」

 

周りに人がいないのを確認した指揮官が右腕を掲げると、その腕に翡翠色の宝玉が埋め込まれたブレスレット―『ジェイドブレス』が装着される。

指揮官はジェイドブレスが装着された右腕を、体を左に捻ってから腰だめに引き、天高く掲げながら叫んだ。

 

「ジェイドオォーーッ!!」

 

ジェイドブレスから溢れた光が指揮官の体を包み込み、その姿を覆い隠した。

その間も、ケルビムは破壊行動を続けながら、避難中の民間人に向けて進行していく。

 

「も、もう終わりだ!?」

「死にたくない、死にたくないよぉ!?」

「落ち着いて!我々の誘導に従って避難してください!」

 

警官達が賢明に避難誘導しているが、それでも迫りくる脅威に民間人達は恐怖し、避難の進みは悪い。

しかも怪獣は避難を待ってくれるほど甘い存在ではない。

 

「キュェーンッ!」

 

鳴き声を上げ、ケルビムが避難中の民間人に向けて突き進む。いくら足早に避難しようとも、巨大な怪獣相手では簡単に追いつかれてしまう。

もう終わりか。そう思われたときだった。

 

「ジェェアッ!」

 

突如響き渡る雄叫びとともに、ウルトラマンジェイドがケルビムを飛び蹴りで蹴り飛ばした。ケルビムは民間人とは反対方向に吹っ飛ばされ、ジェイドは着地すると、ケルビムと民間人との間に立ちはだかるように構えた。

 

「な、何だあれは!?」

「怪獣だけじゃなくて巨人まで!?」

「もう何がなんだか!?」

 

ジェイドを初めて見た民間人達は新たな脅威が現れたのかと更に混乱してしまう。

警官達も現実離れした状況に放心し、つい避難誘導を忘れてしまっていた。

そうしている間にも、ケルビムは体を起こし、自分を襲撃した相手を確認すると、怒りの雄叫びを上げてジェイドへと襲いかかった。

 

「キュェーンッ!!」

 

ケルビムはその鋭い棘が生えた巨大な尻尾をジェイドへと向けて振り回した。

 

「ジェアッ!?」

 

当たれば危険な尻尾攻撃にジェイドは後ろに飛んで躱す。ジェイドが着地した振動で多くの民間人達が足を止め、恐怖でその場に蹲ってしまう。

ケルビムは続けて尻尾を振るってきたが、ジェイドは今度は躱さずに尻尾を受け止めて腕で抱えた。

 

「怪獣と戦っている……?」

「おい、何をぼさっとしている!」

 

ジェイドとケルビムの戦いを傍観していた警官を、上司と思われる警官が一喝した。

 

「巨人と怪獣がやり合っている今のうちに避難を急がせろ!」

「りょ、了解!」

 

警官達は避難誘導を再開し、民間人達もそれに従って徐々に避難が進んでいった。

それを邪魔させないよう、ジェイドはケルビムに近づくと、背後からウルトラチョップを叩き込んだ。

 

「ジェアッ!トゥアッ!」

「キュェーーンッ!!」

 

しかしケルビムもやられまいと、振り向きざまに頭部に生えた巨大な一角でジェイドを切りつける。

 

「ジュオァッ!?」

 

強烈なダメージによりジェイドの攻撃の手が止まり、ケルビムは続けて再び尻尾を叩きつけた。

 

「ジェアァッ!?」

 

尻尾攻撃によりジェイドの体が吹き飛び、近くのビルへと突っ込んだ。

当然ビルは崩壊し、ジェイドは地面へと倒れ込む。そこに追撃するように、ケルビムが更に尻尾を叩きつけてくる。

 

「ジェアッ!」

 

しかしそれは転がって避けるが、ケルビムは続けてするジェイドに向けて勢いよく粘液を吐き出した。粘液は空気との摩擦で発火し、火球となってジェイドを襲う。

 

「ジェアッ!?」

 

火球を食らったジェイドの体は大きく吹き飛ばされ、地面へと倒れ伏してしまう。

 

「キュェーン!!」

「ジャッ!!」

 

ケルビムは連続して火球を放つが、ジェイドは転がって避けると膝をついた姿勢で右手を胸に当ててからまっすぐケルビムに向けて伸ばすと、指先から鏃状の光弾『スティルバイトショット』を発射した。

光弾が命中したケルビムは怯んで後退し、その隙にジェイドは体勢を立て直す。

 

「ジェェアッ!」

 

一度ファイティングポーズを構え、ジェイドはケルビムへと勢いよく接近していった。

一方で、ベルファストとカーリー星人の戦いは終わりを迎えようとしていた。

 

「グアァッ!?」

 

ベルファストによって蹴り飛ばされたカーリー星人の体が地面を転がる。油断せずガントレットを構えて警戒していると、カーリー星人は満身創痍といった様子で立ち上がった。

 

「ク、クソッ!こんな強いなんて聞いてないぞ!?」

「これもご主人様のメイドとしての嗜みです。それでは、お覚悟を」

 

主砲を展開してカーリー星人へ照準を合わせるベルファスト。しかしそれでもカーリー星人は何かを企んでいるのか、その体から煙を噴出させ始めた。

 

「チィッ!こうなったら!」

「っ!?させません!?」

 

咄嗟にベルファストは主砲を放つが、時すでに遅し。

カーリー星人の体が煙に覆われると、先程までの人間のような姿から、両肩から角を生やした巨大な怪獣の姿へと変貌させていった。

 

「か、怪獣に変わった……!?」

 

驚くベルファストを余所に、怪獣となったカーリー星人はケルビムと戦闘中のジェイドへと襲いかかった。

 

「ジュアッ!?」

「ウルトラマン!貴様だけでも抹殺してくれる!」

 

ジェイドの背後から襲いかかったカーリー星人は、ジェイドに向けて再び両肩の角、ショルダーナイフで切り掛かる。だがジェイドはそれを両腕で受け止めて弾き、がら空きのボディに前蹴りを突き刺す。

 

「グオオッ!?ケ、ケルビム!!」

「キュェーーンッ!」

「ジェアァッ!?」

 

カーリー星人の指示を受けたケルビムの尻尾が、ジェイドの体に巻き付く。身動きが取れずもがくジェイドにカーリー星人は接近すると、ジェイドを甚振り始めた。

 

「やってくれたな、たっぷりと痛めつけてやる!オラァッ!」

「ジュオッ!?ジェアッ!?」

 

サンドバッグのように殴られ続け、流石のジェイドもグロッキー状態になってきている。

 

「こいつで止め―グォッ!?」

 

ショルダーナイフでジェイドを切り裂こうとしたカーリー星人だが、顔面に砲撃を食らったことでたたらを踏む。

ジェイドが砲撃が飛んできた方向を見ると、そこにはベルファストが地上で艤装を展開し、その砲口をカーリー星人へと向けていた。

 

「ジェイド様、援護いたします!」

 

続けて砲撃をカーリー星人へと撃ち込むベルファスト。一発一発は大したことなくても、連続で撃たれては流石に厳しいのだろう。堪らずカーリー星人は攻撃の手を止め、砲撃を防ぎながら後退していった。

残るはケルビム。未だに尻尾でジェイドを拘束したままであるが、こちらも心配はいらないだろう。

 

「目標、ウルトラマンを拘束している怪獣。全機攻撃開始!」

 

飛来した航空機隊による機銃掃射がケルビムを襲う。弾幕の雨霰に尻尾の拘束が緩み、その隙にジェイドは拘束から脱出し、ケルビムと距離を取る。

見上げると上空を飛び交う航空機に、幾人かの人影が確認できた。

ベルファストも見えたようで、そのうちの一人の名前を呼ぶ。

 

「エンタープライズ様!」

「待たせたな。機動艦隊、これより怪獣との戦闘を開始する!」

 

その言葉通り、エンタープライズ以下機動艦隊の面々は艦載機を発艦させるとケルビムへと攻撃を加える。そしてエンタープライズは自身の乗っている艦載機をジェイドへと寄せると、ジェイドに向けて叫んだ。

 

「ウルトラマン!あの怪獣は私達が抑える。貴方は向こうの怪獣を頼む!」

 

エンタープライズが指した先では、顔面のダメージから復活したカーリー星人がベルファストを追い回していた。艤装により身体能力が強化されているため捉えられていないが、いつまでも保つものではない。

 

「ジェアッ!」

 

ジェイドは一も二も無く頷くと、カーリー星人へと向かっていく。

その姿をエンタープライズは少し驚いた目で見届けた。

 

「まさか、本当に意思疎通ができるとは……帰ったらクリーブランドに謝らないといけないな」

 

自嘲するように笑みをこぼし、エンタープライズはケルビムへと視線を戻し、艦載機の上で仁王立ちしながらケルビムを睨みつける。

 

「よく今まで暴れてくれたな。ここからは私達が相手をしてやる!」

 

彼女の脳裏には、以前のタッコングによる母港襲撃が浮かび上がっていた。

あの時は全く歯が立たなかったが、今回は違う。対怪獣用に戦術を練り上げ、艤装を強化してきたのだ。

 

「エセックス、攻撃の感触はどうだ?」

『はい、先輩。以前の怪獣程の頑強さはないようで、こちらの攻撃の効果は認められます』

 

ともに機動艦隊に編成されたユニオン空母『エセックス』の報告を聞き、エンタープライズは更に指示を出す。

 

「各員、このまま怪獣への攻撃を続けてくれ。ただし、爆撃の際は街に被害が出ないように注意しろ!」

 

指示を飛ばし、自身もケルビムへと向かう。全ては街を守るため。そして、あの日の雪辱を晴らすため。エンタープライズは、アーチェリー状の艤装を構える。

 

「攻撃隊、発艦!突き進め!!」

 

番えた矢を放ち、艦載機を発艦させた。目指すは街を襲う怪獣、ケルビム。まっすぐ飛んでいった艦載機はケルビムに接敵すると機銃による攻撃を開始する。

 

「キュェーーンッ!?」

 

堪らずうめき声を上げながら火球を吐き出して反撃するが、機動力のある艦載機相手では命中させることは難しいらしい。

ならばと今度は長い尻尾を振り回す。距離を誤った何機かが撃墜されるが、戦闘に支障はなく、攻撃の勢いは衰えない。

ケルビムは、機動艦隊に完全に翻弄されていた。

一方、ジェイドはベルファストを追い詰めつつあるカーリー星人へ向けて走りながら跳躍、背後からウルトラチョップを叩き込むとそのままベルファストから引き離す方向に投げ捨てた。

 

「ギャアッ!?ウ、ウルトラマン!?」

「ジェアッ!!」

 

ジェイドはベルファストに視線を向ける。その目はどことなく、ここは任せろと言っているようにベルファストには感じられた。ベルファストはジェイドに向けて頷き、踵を返しながら答える。

 

「ジェイド様、私は警察の方々と合流し、民間人の避難誘導にあたります。申し訳ありませんが、ここはお願いします!」

 

ジェイドは頷き、この場を離れていくベルファストを見送るとカーリー星人へと向き直る。

カーリー星人は立ち上がり、ジェイドを睨みつけると唸り声を上げながら即座に襲いかかってきた。

 

「ウラッ!オラッ!」

「グッ!?ジャッ!」

 

二本のショルダーナイフによる攻撃を、ジェイドはなんとか防ぎ、回避するとカーリー星人のボディにミドルキックを叩き込む。

ダメージで呻くカーリー星人をジェイドはショルダータックルで突き飛ばすと、助走をつけた飛び膝蹴り『ウルトラニーパッド』を顔面に突き刺した。吹き飛ばされたカーリー星人は地面を転がり、ダメージを受けた場所を抑えながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「ジェアッ!」

 

ジェイドは油断せず、ファイティングポーズを構えながらカーリー星人を見据える。

その頃ベルファストが向かった先にいる民間人達は、避難するのも忘れ、ウルトラマンジェイドと機動艦隊によるカーリー星人達との戦いを観戦していた。

 

「アズールレーンが来てくれたぞ!」

「すげえ!こりゃバズるぞ!」

「早く怪獣共をなんとかしてくれ!」

 

中にはカメラを取り出し、彼らの戦いを撮影している者もいる。普段であれば注意すべき警官達も、彼らの戦いに目を奪われてしまっている為、まさに今ここには野次馬しか存在しない状況となっていた。

そんな警官達の側に艤装を展開したKAN-SEN、ベルファストが付近のビルから降り立ち、彼らに声をかけてきた。

 

「警察の皆様。避難状況はどうなっていますか?」

「あ、あなたはアズールレーンの!?恥ずかしながら、見ての通りです」

 

避難もせずに観戦している民間人達を見て、ベルファストは呆れのため息を漏らした。

 

「まあ、気持ちは分かりますが……。ウルトラマンが来てくれたとはいえ、危険なことには変わりありません。至急避難させてください」

「わ、分かりました!」

「ちょっと待ってください!ウルトラマンとは、あの巨人のことですか?」

 

警察官の一人がベルファストへと問い掛ける。彼女は視線をカーリー星人と戦っているジェイドに向けてから、彼の質問に答えた。

 

「はい。彼の名はウルトラマンジェイド。彼は、私達の味方です」

「味方、だと?……信じられん」

 

その警官の呟きは、野次馬達の喧騒に飲まれてベルファストの耳まで届かなかったようだ。

彼らの見つめる先では、ジェイドとアズールレーンがカーリー星人達を追い詰めつつあった。

 

「ジェアッ!」

「グワアッ!?」

 

ジェイドのパンチが炸裂し、カーリー星人が蹲る。

 

「ク、クソゥ、こうなったら……」

 

その時、追い詰められているはずのカーリー星人の目が怪しく光った。

何をする気だ。ジェイドが警戒しているとカーリー星人はケルビムに向かって命令を下した。

 

「ケルビム!あの人間どもを攻撃しろ!!」

「っ!?」

 

カーリー星人の命令を聞くやいなや、ケルビムは即座に行動に移し、民間人達に向かって火球を吐き出した。

迫りくる死の恐怖に、民衆は逃げることもできずに立ち竦み、悲鳴を上げて顔を伏せることしかできない。

 

「危ないっ!?」

 

そんな中でもベルファストは咄嗟に民衆達の前に立ち、艤装を展開して彼らを守ろうとする。

勿論、そんなことをしても無駄だとは彼女自身よく分かっている。それでも、彼女は誇りにかけて彼らを守ろうとしたのだ。

頭をよぎる明確な死のビジョン。しかし、予想された結末はいつまで経っても訪れなかった。

 

「……あれ?」

「生きてる?なんで?」

「あ、あれは!?」

 

人々が伏せていた顔を起こすと、そこには彼らの目の前で両腕を広げ、その背中でケルビムの火球を受け止めたジェイドの姿があった。

 

「ま、まさか」

「助けて、くれたのか?」

 

その事実に彼らが呆然としていると、突如ジェイドが体勢を崩し、その場に膝をついた。

 

「ジェアァ……」

 

ピコン……ピコン……

 

苦しそうに呻くジェイド。彼の胸にある八角形の水晶体『カラータイマー』が赤く点滅し始めた。

 

「あれは……やはり、胸の水晶は彼の危機を伝える物なのですね」

 

ベルファストの推測通り、ジェイドのカラータイマーの点滅は、彼の活動限界が近いことを知らせている。カラータイマーの輝きが消えると、彼は二度と立ち上がれなくなってしまうのだ。

 

「やはりこの宇宙でもウルトラマンは甘すぎる。人間など見捨てておけばよかったものを!」

 

カーリー星人の下卑た笑い声が街中に響く。ダメージのせいかゆっくりと振り返り、拳を構えるジェイドに向かって、カーリー星人はケルビムに更に命令を下した。

 

「ケルビム!このままウルトラマンを焼き殺してしまえ!」

 

カーリー星人の指示に従い、ケルビムが再び火球の発射体制に入る。

然しそこに一機の艦載機が突っ込んできた。

 

「させるか!!」

 

その機体の上で、エンタープライズがケルビムに向かって攻撃態勢をとっている。

だが、それをやすやすと見逃すカーリー星人ではない。

 

「邪魔はさせんぞ!」

 

手近な瓦礫を掴み、エンタープライズ達へと投げつける。それによりエンタープライズは回避行動を取らざるを得ず、攻撃を中断してしまった。

 

「いまだ!やれぇケルビム!!」

「キュェーーンッ!」

 

再びケルビムから火球が次々と発射され、ジェイドへと直撃する。その威力はジェイドの後方にいる人々にも衝撃が伝わるほどだったが、ジェイドは腕を広げたまま、仁王立ちで火球を受け続けた。

 

「ジェイド様っ!?」

 

ベルファストの悲痛な叫びが響く。やがて火球が止むと、ジェイドは倒れこそしなかったものの、その場に膝をついてしまった。

 

「しぶとい奴め。ケルビム!いい加減止めを刺せ!!」

 

苛立ち混じりのカーリー星人の指示により、ケルビムはジェイドに向けて止めを刺さんと、特大の火球を発射した。

 

「ジェア……!」

 

ジェイドはなんとか立ち上がり、腕をクロスさせて火球を受け止める。しかし、火球の勢いは凄まじく、弾き返すこともできずにそのまま爆発。ジェイドの体は爆炎に包まれた。

 

「やったぞ!憎きウルトラマンを倒した!!」

 

両手を挙げて喜ぶカーリー星人。それとは対照的に、エンタープライズ達の表情は暗いものになっていた。

 

「そんな……」

「ウルトラマンが……やられた」

 

その事実に声を無くし、攻撃の手を止めてしまった彼女達の心情は、容易に察するものだろう。

しかし彼女は、ベルファストだけは違った。

 

「いいえ、まだです。まだジェイド様は―――」

 

いまだ爆煙に包まれ、視界もままならない状態でも、彼女はジェイドを信じていた。彼女がジェイドに守られたのは、これで三度目。そして、その全てでジェイドは彼女に健在な姿を見せつけていた。

 

「ジェイド様は、まだ立っています!」

 

次第に煙も晴れてきて、ケルビムの火球の効果が確認できてくる。

既に勝ち誇っているカーリー星人。

だが。諦めず信じ続ける限り、希望は失われはしない。

煙が晴れてくるにつれ、カーリー星人の顔が青ざめてくる。

 

「ジェアッ!!」

 

全員が見つめる先。そこには健在な姿で立ち塞がる、ジェイドの頼もしき姿が、皆の瞳にうつっていた。

 

「先輩っ!!」

「ああ!やはり凄いな、ウルトラマンは」

 

その光景に、エンタープライズは感嘆の息を漏らす。

それどころではないのはカーリー星人だ。まさかジェイドが生きているとは思わず、目に見えて狼狽えている。

 

「き、貴様!?何故生きている!?」

 

種明かしはこうだ。ジェイドは火球が着弾する直前、右腕のジェイドブレスから防御障壁『ジェイドリフレクター』を展開。火球のエネルギーを吸収したのだ。それにより、ジェイドブレスにエネルギーが蓄えられ、ジェイドの右腕が炎を纏ったように輝き出した。

 

「ケ、ケルビム!!」

「ジェアッ!!」

 

再びカーリー星人がケルビムに指示を出そうとしたが、ジェイドはそれよりも早く行動した。

右腕を振りかぶると、手先に丸鋸状の光輪『八つ裂き光輪』が生成され、ジェイドはそれをケルビムに向けて投擲する。光輪はまっすぐケルビムに飛んでいくと、ケルビムの首と尻尾を切り裂いた。致命的なダメージを受けたケルビムは体を硬直させたまま倒れ、その体を爆発させた。

 

「ケ、ケルビムっ!?お、おのれえぇっ!!?」

 

ケルビムを失ったカーリー星人は破れかぶれになったのか、ジェイドに向かって突撃してきた。

ジェイドは拳を構え、自身もカーリー星人へ向かって駆け出す。

 

「死ねえええっ!!」

 

両肩のショルダーナイフを振り回すカーリー星人。ジェイドはそれを難なく避けると、ジェイドブレスに蓄えられたエネルギーを解放。エネルギーを纏った拳『ガーネットブロウ』をカーリー星人の土手っ腹へと叩き込んだ。

 

「ジェェアッ!!」

「グボアァッ!?」

 

解放されたエネルギーはカーリー星人へと流れ込み、爆発を起こしながらカーリー星人の体を破壊していった。

 

「ば、馬鹿なアアアッ!!?」

 

そして、カーリー星人の体は木っ端微塵に弾け飛び、そこにはジェイドだけが立っていた。

 

「お、おい。巨人が勝ったぞ」

「今度はあいつが暴れるんじゃ?」

「でもさっきは助けてくれたわよ?」

 

民衆の間に動揺が広がる。怪獣を倒したら、今度は自分達が狙われるのではないか。そのような不安が彼らの胸に生まれていた。ベルファストはそれに不快感を感じたが、彼らの心情も汲み取り、無理もないと理解を示している。

そんな中で、一人の少女がジェイドに向かって、大きく声をかけた。

 

「たすけてくれてありがとー!!」

 

その言葉に反応したのか、ジェイドはゆっくりと少女の方を振り返る。

咄嗟に母親らしき人物が少女を抱き抱え、周りの民衆も身構えるが、その心配は杞憂に終わる。

 

「―――」

 

ジェイドは少女に向かってサムズアップで応える。その姿に少女は笑顔で手を振り、それにつられて周りの人間も次第にジェイドへとお礼を伝え始めた。

 

「助けてくれてありがとうっ!」

「あんたは俺達のヒーローだ!」

 

口々に告げられる御礼の言葉を聞いていると、エンタープライズがジェイドの側にやってきて、彼へと話しかけた。

 

「彼らを守れたのは、あなたのおかげだ。ありがとう、ウルトラマン」

 

彼女の言葉に、ジェイドは一度頷いて返してから空を見上げ、そのまま上空へと飛び去っていった。

 

「ジェアッ!」

 

遥か上空に飛んでいく彼の姿を、人々は静かに見送っていた。

 

「また、助けられてしまいましたね」

「ウルトラマンとは、何者なのですか?」

 

警官がそう問いかけると、ベルファストは微笑みながら答えた。  

 

「もしかしたら、宇宙からやってきた正義の味方……なのかもしれませんね」

「正義の味方、か。まるで特撮ですな。我々は彼らの誘導に戻ります。ご協力、感謝します」

 

そう言いながらベルファストに敬礼を送ったその警官は、他の警官達の元へと向かった。

残ったベルファストは、ジェイドが飛び去った空を一度見上げてから、あることに気付き、誰かを探すように周りを見渡した。

 

「そういえば、ご主人様はどちらに?」

「呼んだか?」

 

周囲を見渡して指揮官を探すベルファストの後ろから、当人である指揮官が彼女へと声を掛けた。

 

「ご主人様っ!?今までどちらに!?」

「逃げ遅れた人がいないか探しててな。しっかし、またジェイドに助けられちまったな」

 

露骨に話をそらした指揮官を変に思いつつも、ベルファストは彼の無事に胸を撫で下ろした。

 

「折角の買い物が台無しになっちまったな」

「そうですね。この埋め合わせは、また今度していただきます」

「こ、今度って……まあ、仕方ないか」

 

また荷物持ちさせられるのかと、指揮官が頭を悩ませる横で、ベルファストは笑みを浮かべていた。

 

(また今度、デートに参りましょう……ご主人様)

 

その後、出撃した機動艦隊の報告と事後処理をしつつ、指揮官とベルファストは夕日に照らされた道を進み、母港へと帰っていった。

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