今回は短編のリハビリ連載になります。良ければ感想や評価をよろしくお願いします。
それでは早速、本編へどうぞ。
アリスは自由だ。
この世界の誰よりも。
アリスは自由だ。
この世界を超えた誰よりも。
アリスは自由だ。
僕と違って。
アリスは──
「──あれ?」
アリスって……誰だっけ?
というよりまず、僕はこんな所で何をしてるんだっけ?
「ここは…………そうだ、僕は仕事の途中だったんだ」
僕は自分の椅子に座り直して、目の前のパソコンで資料を作り始めた。
オフィスの中は静寂に包まれ、僕がキーボードを叩く音だけが辺りに反響する。
「これでよし……」
パソコンの前に座ってどれくらい経っただろう。僕はでき上がった資料を印刷して、確認の為にそれを上司に提出した。
「はい、はい、よろしくお願いします」
僕は歯車の一部。
社会という大きな機械の、小さな小さな歯車。
毎日同じ作業を繰り返し、面白くない日々がいつか壊れてくれることを願いながら、今日も少しづつ死に向かって進む。
それが僕。
「僕……?」
あれ…………僕の名前って、何だっけ?
「何だ……これ……」
何で自分の名前が思い出せない?
僕は……僕は……っ!?
「頭が…………割れる……!」
自分の名前を思い出そうとすればするほど、頭痛が強くなっていく。
痛みに耐えられず、僕はその場でしゃがみ込んだ。
「…………っ??」
しゃがみ込んだ僕を心配する人は誰もいない。
そもそも、ここに僕以外の人が誰もいない。
「な……んで…………っ!」
何で誰もいないんだ!? 僕はここで一体何をしていたんだ!? 何で今までこのおかしな状況に気がつけなかったんだ!?
「ぼくは……いったいなんなんだ!?」
パニックになった僕は、うずくまったまま叫んだ。
誰もいない空間に、僕の叫びが反響する。
その時、地面にうずくまった僕の頭上から声が聞こえた。
「ここにいたんだね、ピーター」
声に反応して顔を上げると、目の前の机の上に女の子が座っている。
誰かの机の上に腰をかけ、暇そうに黒い靴を履いた白い両足を揺らしている。
「き……みは……?」
頭痛に耐えながら、目の前の少女に問いかけてみた。
少女は机から飛び退き、どこかで見た事がある、青くて可愛らしいドレスを少し舞い上がらせながら、僕の目の前に着地した。
そして少女らしからぬ笑顔を浮かべる。
「私? 私はアリス」
「アリス……?」
「そう。ネバーランドのアリス」
金髪青眼のこの少女は、そんなおかしな自己紹介を大真面目にやってのけた。
確かに目の前にいる少女は、物語の登場人物と見紛うほどの容姿を持ち合わせているけど……流石に冗談、だよな?
「頭痛は治まったかな? ピーター」
「え、あ、そういえば」
突然現れた「アリス」という少女に気を取られ、僕の頭痛はどこかに消えてしまったようだ。
けど、自分の名前は思い出せないまま……
「君って結構病弱なのかな、顔色も悪いよピーター」
「えっと……アリス?」
「何?」
「その"ピーター"って……僕のこと?」
「それ以外に誰がいるの?」
何でこの子が僕の名前を知っているんだ? というより、ピーターって……本当に僕の名前なのか?
「ピーターって……僕は日本人だぞ。君のような外国の人じゃないし、第一君は誰なんだ? 君みたいな子供が、何でこんな場所にいる?」
「…………はぁ」
アリスは心底呆れたようにこちらへ手鏡を差し出した。
「とりあえずこれで自分の顔でも見たらどうだい? じゃないと、君は何も知らないようだし」
促されるまま鏡を受け取り、反射する自分の顔を確認してみる。
「え……?」
そこに映っていたのは、アリスと同じくらいの歳の少年だった。
薄い茶色がかった髪に、アリスと同じ青い目の。
「これが……僕……!?」
どう見ても日本人には見えない。それどころか若すぎる。これじゃ会社員と言うより学生……
「がくせい……?」
世界が崩れていく。
「きみは……!?」
彼女を残して。
「言っただろ? 私はアリス」
「ネバーランドのアリスさ」
アリスだけを残して。
アリス以外の全てが。
崩れる。