Alice In Neverland   作:砂糖ノ塊

4 / 6
皆様初めまして。砂糖のカタマリ改め、砂糖ノ塊です。
今回は短編のリハビリ連載になります。良ければ感想や評価をよろしくお願いします。
それでは早速、本編へどうぞ。



4

「──っ!!」

 

 目が覚めると、そこは知らない天井だった。

 

 …………いや、知らない天井ではない。

 

 むしろその逆、見慣れた天井……のはず……

 

「どっちなんだよ…………」

 

 分からない。

 

「目が覚めたようだね」

 

 アリスの声がする。身体を起こせばいつもの青いドレスに身を包んだ彼女が、椅子に座って優雅に本を読んでいる。

 

 これもいつもの朝の光景。

 

「違うッ!!」

 

 こんなの間違ってる!! これは現実じゃない!!

 

 僕は……僕は……ッ!!

 

「まぁ、落ち着きなよ。まずはお茶でも飲んで──」

「君は!! 一体誰なんだッ!?」

 

 いつかと同じことを叫んで、僕はアリスに掴みかかる。

 

 アリスは読んでいた本を床に落としてしまう。

 

 嫌な汗が全身から滲み出る。そんな僕とは対照的に、アリスは微笑を崩さない。

 

「言ったろ? 私は──」

「"アリス"なんだろ!? 分かってるよ!!」

 

 でも分からない。

 

 僕は何故、目の前の彼女がアリスだと知っている?

 

「僕はピーターで! 君はアリスで!」

 

「じゃあこの世界は一体何なんだよ!?」

 

 僕の頭の中に何かの記憶がある。

 

 僕じゃない僕。

 

 僕は無数の世界で、一人の彼女に会ってきた。

 

 彼女の読んでいた本、それも知っている。

 

「『Alice in Neverland』」

 

「それがこの世界だよ」

 

 おめでとう。とアリスは手を叩く。

 

 まだ状況が呑み込めない僕は、彼女の胸ぐらに掴みかかったままだ。

 

「これも言ったはずだけどね、『もっともっと狂った茶番劇がお似合いだ』って」

 

「それがここだよ」

 

「ここが、私達にお似合いの物語(茶番)さ」

 

 茶番……? この世界が……?

 

「とにかく落ち着きなよ。そんなに興奮してちゃ理解できるものも理解できないよ」

 

「心配しなくても、一から説明してあげるからさ」

 

 僕は黙って──あるいは呆然として、彼女の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「君ももう気づいているだろうけど、これまでに君は本当に無数の世界を旅してきた」

 

「君が覚えているよりも、もっと多くの」

 

「君の記憶が確実にあるのは……勇者の君と、学生の君と、社会人の君くらいかな?」

 

「君の記憶が別の世界へ引き継がれたのは、たぶん社会人の君の時だろう」

 

「あの時に君は君としての自覚、この場合は自我と言ってもいい。それが芽生えたんだ」

 

「もちろん、それまでも君は私と出会っている」

 

「出会って、干渉を受け続けている」

 

「私という()()()()()()によってね」

 

「それが功を奏したのがあの時だと、私は推測するよ」

 

「ん? イレギュラーについて? それは気にしなくても別に支障はない」

 

「君にとって私はイレギュラーでも、私にとって私はレギュラーだ」

 

「要は君にとって、自分以外の存在というのは全てイレギュラーなのさ」

 

「話を戻そうか。干渉を受け続けた君は徐々に自我を取り戻していった」

 

「そしてこの世界からの圧力に、しだいに抵抗するようになった」

 

「世界はそれを許さなかったんだね」

 

「私と話している内に頭痛に襲われていただろう? あれは君を抑圧するための世界の強制力みたいなものさ」

 

「さて、じゃあ次はこの物語について話そうか」

 

「簡潔に言うと、この世界は誰かの管理下に置かれている」

 

「人工的に作られた世界。"物語"なのさ」

 

「物語の名前は『Neverland』」

 

「誰が何の目的でこんな悪趣味な世界を作ったか知らないけど、私と君はこの世界に縛られている」

 

「今この瞬間も、きっと奴らの監視下にある……まったく、不愉快極まりないね」

 

「さて、ここからが本題だ」

 

 

 

「ピーター、私と一緒に逃げないか?」

 

 

 

「この世界から。この茶番から」

 

「結婚式はその後にでも挙げようか」

 

 

 

 ひとしきり話が終わった後には、僕は座って話が聞けるくらいの冷静さは取り戻していた。

 

「……少し質問がある」

「どうぞ? 気の済むまで」

「何で僕なんだ?」

 

 僕にとって、彼女はイレギュラーだ。

 

 そのイレギュラーはなぜ、逃亡の共犯にこの僕を選んだのだろう?

 

「それは単純だよ。私が逃げた世界にたまたま君がいたからというだけさ」

「逃げた?」

「今、私達がいるのはピーターの世界。そして私は私の世界からここに逃げてきたのさ」

「……よく分からないけど、この『Neverland』っていう一つの大きい世界の中に、僕や君個人の世界がある……みたいなこと?」

「まぁ、そういうことだね」

 

「そして一つの世界に自我を持った人間は一人しかいない」

 

「つまりこの世界で、私の協力者足りえるのは君しかいないという訳だ」

 

 落ち着いてきたけど、混乱していることには変わりない。まだ頭が上手く働いていない気がする。

 

「……次の質問。アリスはどうやって僕の世界に来たんだ?」

「その質問はパスだ」

「え? パス?」

「言葉で説明するより後で実際に体験してもらった方が速い」

 

 ……後で?

 

「じゃあ、アリスはどうしてこの世界が作り物だって気づいたんだ?」

「んー……それには答えられない」

 

「これは別に意地悪を言っているわけじゃない。私にもどうしてそう思い始めたのかが分からないんだ」

 

「ただ一度そういう考えに至ったら、この世界のあらゆる不自然さが目につくようになった。君もそうだろう?」

 

「君もあの空間で、自分以外誰もいないことに疑問を持ち、激しく動揺したはずだ」

 

「私にも似たような体験があった、と思ってくれて構わない」

「…………じゃあ──」

 

 本当はもっと聞きたいことがあった。

 

 けれど、それを遮る物が一つ。

 

 遮る物……というより、遮る()がいた。

 

「笛の音……?」

 

 窓の向こう、開けた草原に笛を吹いている男が見える。

 

「なんだ……あれ…………」

 

 異質。あまりにも。

 

 多種多様な服装をした人々が、皆一様に虚ろな目をして男の後ろに並んでいる。

 

 ふと、先頭の笛を吹く男と目が合う。

 

「あれは見ない方がいい。連れて行かれてしまうよ」

 

 アリスの声で我に返る。今、一瞬意識が遠くに行っていた。

 

「どうやら長居をすると、また世界からの圧力がかかるようだ」

 

 アリスが僕の腕を掴んで、安心させるように微笑む。

 

「ど、どうするの?」

「さっき言ったろ? 実際に体験してもらうのさ」

 

 アリスの瞳に映るのは、この世界でも、間抜けな僕の顔でもなく、まるでこの世界のものじゃないような眩い光だった。

 

 世界が崩れていく。

 

 僕とアリスだけを残して。

 

 崩れる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。