セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
「はぁ?相手の本心を聞き出すアプリぃ〜?」
食堂で、胡散臭いモノに対する視線と口調でそう言うセセリア。
「そうそう。寝てる間にこのアプリの音を聴かせながら質問すると、どんなことでも答えてくれるんだって〜」
「けっこー話題だよ〜?胡散臭いのはそうだけどね〜」
きゃいきゃいとそんなことを言う同寮の友人らに、セセリアは呆れたようにため息をひとつつく。
「アンタ達ねぇ〜」
下らないことだ。
セセリアはそれを、学生によくある根拠のない噂の類だろうと思った。
しかし彼女は同時に…面白そうだとも思った。
別にドゥラメンテの浮気を今更疑うなどということはない。
彼の一途さは他ならぬセセリアが分かっているし、前回の件で散々に懲りた。
それに好いた相手を一時でも疑い続けるのは心臓に悪いし、生きた心地もしない。
はっきり言って、愉快なことなど何もなかった。
むしろ、今回の彼女の目的はその逆。
今の彼に他生徒からの嫌がらせが無いかや学園での生活、それと…自分と一緒にいることへの不満が無いかどうか、その確認がしたかったのだ。
ドゥラメンテは良くも悪くも弱音を吐かない男だ。
常日頃から自らの美しさへの自信に満ち溢れ、自寮の薔薇園の手入れを毎日欠かさず、また恥ずかしがるそぶりも見せずに毎日流れるようにセセリアの手を握るや彼女への愛を囁き、パイロット科でも指折りの実力者でありながら他者を見下す傲慢な素振りも見せず、むしろ人好きする笑顔を絶やさない。
逆に弱みらしい弱みと言えば、先日知ったような、注射を苦手としていたり関係の進展に少々臆病な所があるくらいで、いずれもセセリアに取っては不満どころか可愛らしくすら思える。
とは言え…それは言うなれば誰にでも当てはまるようなもので、特に後者は学生という立場に於いては人にもよるだろうが、当たり前の範疇だろう。
気がつけばセセリアは、半信半疑ながらもその教えられたアプリをダウンロードし、ドゥラメンテとの学園内デートを楽しんだ。
「ねぇ…ドゥラメンテ」
いつも通りの談笑の最中、セセリアはそわそわとしつつも、目的のためなんとか話を切り出した。
「うん?どうかしたかなセセリア?」
デートのしめに立ち寄った寮の一室で、ドゥラメンテは言い淀むセセリアに紅茶を飲む手を止めてニコリと優しく微笑むと、一言。
「しかし、セセリアは…日々見るたびに美しくなっているな…」
「へ?も…もうっ、いきなり過ぎるんですけど〜?」
さらりとそんなことを言われたセセリアは、思わずキョトンとしてしまう。
が、宇宙に浮かぶ星の光を映したような、濃いブルーの瞳があまりに真っ直ぐで、セセリアは照れつつ思わず目を逸らす。
「それで、何か相談か提案でもあるのかな?オレで良ければ可能な限り力になるが…」
「い、いや別に…アタシはそんな悩みとかは無いし…って言うか〜、それはこっちのセリフって言うか…最近ドゥラメンテ、色々と引っ張りだこで疲れてるんじゃ無いかなぁ〜って…」
本当は件のアプリを試してみたいというのが本心なのだが、しかしその根幹は彼への心配だ。
「フッ…なに。自分の限界は弁えているつもりだ。だが、愛するセセリアに心配をかけてしまったかな?」
「も〜…またそんなこと言って〜…」
今度は心の準備が出来ていたからか、大して照れずに済んだ。
そんなセセリアに、ドゥラメンテは「だが」と続ける。
「セセリアがいてくれるから、オレは日々を頑張れる。そしてそれは…これから先の未来でも永劫変わることはないだろう」
ドゥラメンテはいつもの如く格好をつけつつ、そう告げる。
「も…も〜。それで、なんとなく思ったんだけど〜。その…久しぶりに膝、貸してあげよっか?」
そう言うなりセセリアはドゥラメンテと隣同士腰掛けたソファで、自身の太ももをポンポンと叩く。
「む…いや、しかし…」
言葉の意味を理解したドゥラメンテは、先ほどとは打って変わって顔を赤くする。
口説き文句を言う割にヘンに初心なところは相変わらずだ。
それを可愛いと思ったセセリアは、ついついいつもの調子でニヤニヤと笑い、自身のパートナーを誘う。
「なぁに〜?アタシの脚が不満だっての〜?」
わざとらしく、見せつけるように脚を伸ばすセセリア。
それにドギマギとするドゥラメンテは、どう見ても年頃の男子そのもの。
「い…いや、そんなことは断じて無いが…」
恋人に恥をかかせたくは無い。
かと言って膝枕は気恥ずかしい。
そんな思考がドゥラメンテの頭をグルグルと堂々巡りをしていると…。
「じゃあいいでしょ〜?」
セセリアは言質を取ったとばかりに、グイと若干無理やりドゥラメンテの頭を自身の膝枕に乗せる。
そんなセセリアの様子に、ドゥラメンテは観念したのか、それとも愛するセセリアに万に一つでも怪我をさせまいと敢えて抵抗しなかったのか、或いは…単に下心か、彼は暴れるでもなく、むしろ呆気ないくらいにぽすんっ…とセセリアの膝枕に収まる。
「フフッ…特等席からの眺めはど〜ぉ?」
セセリアはそう言うなり、おかしそうに恋人を見下ろす。
「フッ…やはりセセリアにはかなわないな…」
それからたわいも無いことを話しながら、セセリアは優しい手つきでドゥラメンテの頭を撫でる。
そして、いつの間にか膝の上のドゥラメンテから寝息が聞こえて来た。
「さ〜て…それじゃ、アプリを起動して〜…」
コッソリと、生徒手帳を取り出して、アプリを開こうとした時だった。
「セセリア…いつも…あり…とう…」
「へっ?ドゥラメンテ、まだ起きて…」
「…………」
すぅすぅと、整ったリズムの寝息が聞こえる。
「な、な〜んだ。寝言かぁ…」
寝言を聞いたセセリアは驚いた表情を浮かべるも、満足げに微笑む。
そして、セセリアはふと気がついた。
弱音を聞きたかったと言うのは、要するに自分を頼って欲しかったということに他ならないということに。
つまりは、愛する人に守られてばかりは嫌なのだと。
「アタシ、ばかだなぁ〜…」
そんな当たり前に気づいて、セセリアはひとりで少々落ち込む。
しかし思えば、ドゥラメンテのこんな無防備な寝顔を見られるのも、気の抜けた寝言を聞けるのも、セセリアだからこその特権か。
それだけでも、彼の心の拠り所になれているのかと思えば優越感が湧いてくる。
「なら…コレはもういいかなぁ〜」
セセリアは、今まさに起動しようとしていたアプリをアンインストールすると、ドゥラメンテの寝顔に再び視線を向けて小声で話しかける。
「ねぇドゥラメンテ。これからもこうしてアタシに頼ってくれる〜?」
ドゥラメンテにはきっと聞こえてはいないだろう優しい声音。
しかし確かな彼女の決意表明は、言った本人以外に聞こえるはずもなく…。
しかし、それを分かっているからこそ、セセリアは耳元で、ドゥラメンテの鼓膜に刻むように
「それに…アンタがアタシの前でちゃんと弱音を吐けるくらい強くなるから。そうじゃなきゃ、アンタの奥さんなんて夢のまた夢だもんね〜」
未来の愛妻家に小声でそう溢すのだった。
こうして改めて見ると、ドゥラメンテくん結構キャラ立ってるなぁ〜なんて思う次第。