セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
突然の発言にフリーズするセセリアに、ドゥラメンテはハッとする。
「ああ、すまない。話が唐突過ぎたな。実を言うとだな…」
苦笑するドゥラメンテはそう言うなり、つい先日の出来事を語り出す。
◇
遡ること数日。
ドゥラメンテは生徒手帳の前で通話アプリを開き、椅子に腰かけていた。
「お久しぶりです。母上」
そう改まった様子のドゥラメンテが話すのは、ドゥラメンテの母だ。
おっとりとした雰囲気の妙齢の美人で、両親の友人たちには主に口元が似ていると言われる。
「あいかわらずね〜」とクスクスとおかしそうに笑うと早速一つたずねる。
「ふふ…久しぶり。最近どう?彼女さんとはうまくいってる?」
「フッ…無論ッ!!」
ドゥラメンテはいつもの如く格好をつけると迷わず、力強くそう答える。
「そう?それは良かったわ〜。さっすが私とダーリンの最愛の息子♪」
我が子のその返答を聞くなり、彼女は惚気まじりにそう答える。
彼女はスペーシアンの生まれであり、ドゥラメンテの父とは彼女の両親が勝手に決めた元婚約者とのアレコレを経て大恋愛の末結ばれた苦労人でもある。
なお、彼女はシックール財閥内ではおもにジュエリーの宣伝を任されている。
それだけに、ドゥラメンテの惚気話も嬉しそうにうんうんと聞いている。
そしてある程度親子の話をすると、本題とばかりに話題を変える。
「それでね〜?私からちょ〜っと提案があるんだけど〜…」
そういう時ドゥラメンテの母は通話に使っているのとは別に、新たにタブレットを取り出し、少し操作した後に一枚の画像を見せる。
「ドゥラくんの彼女さん…セセリアちゃんだっけ?に、ウチの新作をつけてみて欲しいの〜♪ブリオンのお嬢さんなら宣伝効果も期待できるでしょ〜?」
「ふむ…なるほど。流石は母上ッ!!」
「ここにある指輪かネックレス…どっちかでいいんだけど…やっぱり学校だし、セセリアちゃんも話を聞く限り、あんまりそういうのは普段つけないみたいだし〜…付けたとしてもワンポイントよね〜」
「まぁ確かに、セセリアは普段アクセサリーの類は身につけませんが…」
セセリアはどちらかといえばマニキュアだったり香水といったお洒落を好むことをドゥラメンテは知っているし、先ほどの話でもそのことは伝えていた。
「と言うことで…たまたまデザインしてあるこの左手の薬指用の指輪をつけてみて欲しいのよね〜。きっと似合うと思うわ〜♪」
「む…しかし、左手の薬指というのは…その、一般的に…」
モニョモニョと、恥ずかしそうに何かを言うドゥラメンテ。
基本的に左手の薬指には婚約指輪、あるいは結婚指輪を着けるもの。
だからか、ドゥラメンテも流石にそれは…,と遠慮がちに言うのだが…。
「ごめんね〜?宣伝して欲しい新作はコレしか無くってね〜?」
「ふむ。それしか無いのか…ならば仕方ないなッ!!」
しばし思案した後のドゥラメンテのその発言を聞き、彼の母は頷く。
「それに…いずれくっつくのが分かり切ってれば他のお客様にとっても縁起がいいだろうし…そうなれば宣伝効果も得られるからね〜」
そう言うドゥラメンテの母は、妖しく目を光らせる。
「?なるほど。一石二鳥と言うわけですね」
「そういうこと〜♪ってなわけで〜…サイズ聞いといてね♪」
それを伝えると、ドゥラメンテ親子の会話は再び世間話へとシフトするのだった。
◇
「と、言うことがあってだな…」
「アンタのお母さん、随分強かね〜…」
話を聞いたセセリアは呆れたようにそう言うものの、満更でも無さそうだ。
と言うか、本人のいないところで家族との会話で惚気られるというのは…今更ながら嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な心持ちだ。
「フッ…オレにとっても自慢の母でな。父も我々に無い視点からの意見をしてくれるのでよく助けられていると、常々言っている」
「ああ〜…お義父さんも流石はマルシャンって言うかなんて言うか〜…」
実際、話を聞く限り彼の母はかなりのやり手だ。
スペーシアンの家柄に生まれたのなら、それなりの教育も受けて来ただろうことは想像に難く無い。
そんな彼女に惚れるところも、惚れられるところも親子だなぁと思うセセリア。
左手の薬指とは…もはやそういう意味で狙っていますとはっきり言っているようなものだ。
と言うか、他にやりようも幾らでもあろうものを…ここまではっきりされるのはもはや清々しくすらある。
それに…コレは数こそ減ったものの、ドゥラメンテに未だ寄り付こうとする虫を払うまたと無い機会だ。
人間というのは勝手なもので、好いた相手が自分以外の誰かと付き合ったとしても、いずれ破局することを期待し、あわよくばと次を虎視眈々と狙おうとする者も少なく無い。
ドゥラメンテの母も、元々はスペーシアン…そう言った相手を牽制することの大切さは身をもって分かっているのだろう。
「ま〜いいんだけどね〜?」
「うん?どうかしたのか?セセリア」
きょとんとするドゥラメンテに、セセリアは苦笑する。
「ううん?なんでも〜?それじゃ〜教えるね〜?アタシの指のサイズは〜…」
「ふむふむ…了解した。ではそのサイズで頼んでおこうッ!!」
その数日後、本当に届いた指輪に周囲が驚いたのはいうまでも無い。