セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
「しかし…よろしいのでしょうか?」
ブリオン社のオフィスにて、黒服姿の男が不安そうに問いかける。
「何がだ?」
彼の方を振り向く事もなく、事務用の椅子に腰掛けたまま抑揚のない言葉でそう返すのはブリオン社幹部たるセセリアの父だ。
「セセリアお嬢様の…その、交際相手を唐突に呼び出して、試すような事をなさるのは…もし、シックール卿の機嫌を損ねることになれば…」
確かに彼の懸念も尤もなものだ。
ブリオン社から見ても、ドゥラメンテは得意先の子息。
ましてマルシャン達には今でも、定期的な点検やら何やらで少なくない金を落としてもらっている。
そのおかげもあってか、彼の社内での評判も悪くない。
だが…それはそれ。これはこれだ。
「だからこそ、趣向をこらそうと言うのだよ。
ましてや相手は将来我が娘の伴侶たらんとする少年だ。最大限のもてなしをするのは当然のこと」
彼は仕事用の端末から目を離す事なく、「だが…」と続ける。
「とは言え…その結果あのマルシャンの小僧が恥をかいて、娘が勝手に失望するのは別だろう?」
何故ここまで彼がドゥラメンテを…ひいてはマルシャンを警戒しているのか?
とは言え、彼の警戒にも理由はあるのだ。
まず、ここ数年に於けるスペーシアンとマルシャンの結婚率の上昇。
「愛に生きる」と嘯くマルシャンは、ごく自然にスペーシアン、アーシアンの別無く近づき、これはと思った相手とごく自然に伴侶になる。
その様は彼からすれば胡散臭い事この上ない。
ましてや、ブリオン社から出たマルシャンとスペーシアンの恋仲第一号が自身の娘とシックールの子だなどと、聞いた当初は背後からホースで冷や水を浴びせられた気分だったのを思い出す。
無論その後、彼の身辺の調査もしたにはしたが、さしたる確証の得られそうな情報は無かった。
何ならそれも含めてシックール卿の策略なのではと勘繰ってしまうところだ。
更に聞くところによれば、ドゥラメンテは学校内でよく恋愛相談に乗っていると言う。
恋愛相談とは、言うなれば自身の心の内の弱い部分を曝け出すに等しい行為だ。
誰かに自身を好きになってもらうため、己の持ち得る手札を第三者に見せることだ。
無論、警戒している対象にこれを詳らかにするには誰しも抵抗があるだろう。
そもそもそう言った相談事自体、ある程度気の置けない相手であるのが前提だ。
しかし、聞く限りドゥラメンテはこれを比較的容易くクリアしている。
警戒心の塊のようなスペーシアンの子女相手にだ。
要するにセセリアの恋人たるシックールの秘蔵っ子は、意識的であれ無意識であれ、人の心に入り込む技術、即ち人心掌握の術をかなり高いレベルで習得しているのではという警戒がある。
では、その人心を用いて何をしでかすつもりなのか。
御三家になり変わるか、スペーシアンの内から喰らい、どこかの欧州貴族よろしく自分たちの王朝でも築くつもりか。
或いは…。
そこまで考えて、彼は「ふぅ…」とひとつため息をつく。
スペーシアンとして、ブリオン社の幹部として、何より一家の大黒柱として、そんなマルシャンを警戒するのはむしろ当然のこと。
故に、見極めなくてはならない。
彼はおもむろに仕事机の引き出しを開け、銀色のロケットを開ける。
そこには、幼い頃の無邪気な笑顔を浮かべるセセリアの写真が入っていた。
彼はそれを優しい目で薄く微笑むとそれをそっと撫で、数秒ほどしてから戻し、目の前の部下に向き直る。
「奥様には…」
黒服が恐る恐るといったふうにそれを聞くと、彼は即答する。
「あれには秘密にしておけ。余計な心配をかけさせたくないのでな」
「は、かしこまりました」
「さて、お前の本心を見定めさせてもらおうか、シックール…」
企業の人間としての警戒心と、少しばかりの私怨を込めて、彼はまだ見ぬ男を待つのだった。
なお、その後見事な作法やドゥラメンテの人柄を見せつけられ、セセリアに目論見もバレた後、実の娘にしばらく口を聞いてもらえなかったと言う。
セセリアパパなら裏があると思いそうだなと思って。
なお、特には無い模様。