セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
「これでどうスか?」
見上げる形でディランザのコクピットに腰掛けるドゥラメンテに問いかけるのは彼らの寮のメカニック科一年のピエール。
スペーシアンの生まれであるものの、彼の実家はそこそこの規模。
ベネリットグループ内での成績もそれなりだが、比較的マルシャンに偏見も無く、アスティカシアに入学した当初から、不思議とドゥラメンテともソリがあった。
「フッ…オレとしてはもう少しレバーの硬さがあった方が好みではあるなッ!!」
「あ〜…なるほどっス…」
ここはドゥラメンテ達の寮のハンガー。
そこにはピエールとドゥラメンテ、それから他にも数名の生徒がいた。
それというのも彼らは今、各々のモビルスーツの定期メンテナンス後の動作チェックを行っているのだ。
「それじゃあこっちはこんな感じで…」
一年生ながらも手慣れた様子でディランザと端末を繋いでカタカタと入力していくピエールはプロさながらいったところ。
コクピットのドゥラメンテも再度の動作確認に満足そうに頷く。
「フッ…やはりピエールは腕がいいなッ!!」
「あんま褒めるのはよして下さいっスパイセン…自分、調子乗っちゃうんで」
たはは…と笑う後輩に、ドゥラメンテは胸を張って続ける。
「フッ…ピエールはむしろ、もっと自信を持った方がいいように感じるのだが」
その言葉はドゥラメンテの嘘偽りない本心そのもの。
実際、こうしてつつがなく整備後の動作確認ができているのは他でもないピエールのおかげだ。
「いやぁ〜…自分、それで前に痛い目見てるんスよねぇ…」
「ふむ…と言うと?」
「あはは…まあ、お恥ずかしい話…一時期天狗になってた時期がありまして…」
ピエールは言いつつ、気まずそうに頬をかく。
「ウチの両親、それなりに高齢なんすけど…だからっすかね。まぁかな〜り甘やかされて育ったんすよねぇ…それで、いざ世間を知ってみたら自分よりもすごい人がゴロゴロいる現実を目の当たりにしまして…今でも思い出す度に過去の己の勘違い野郎っぷりを思い返すやら、それで恥ずかしいやら…いや、別に親を恨んでるわけでは無いんスけど…」
ピエールは作業用手袋を外した左手で顔を押さえつつ、自身の黒歴史を思い出してか「ハァ…」とため息をひとつこぼす。
「フッ、なるほど…だが、困ったことがあるのならオレやエドモンドに言うといい。きっと助けになろうッ!!」
「あ…ありがとうございますっス」
それ以外にも何かしらの事情がありそうだが…。
ドゥラメンテは無理にそれを聞き出そうとはしない。
「誰にでも言いたくないことはあるって!!」とは彼の祖父の言葉だ。
無用の詮索はしないこともまた美しさなのだ。
ドゥラメンテは故にこそ素直に礼を言い労った後、ひとしきりの作業を終えてハンガーを出ていくピエールの背中を見送った。
「よう。調子はどうだ?」
そんなピエールと入れ替わる様に、ハンガーの入り口から聞こえてくるのはドゥラメンテにとって聞き慣れた男子生徒の声。
「おお、グエル殿ッ!!」
ドゥラメンテは声の主の正体を視認するや、多少大袈裟なくらいに両手を広げて歓迎の意を示す。
「すまないッ!!前もって来ると言ってもらえれば茶の準備も出来たのだが…」
「いや、ついさっきたまたま近くを通ってな…まあ物のついでってやつだ。それに…せっかくの顧客に何かあっちゃあ、ジェターク社の沽券に関わるからな」
グエルは思いの外歓迎されたからか、既にドックに収められているドゥラメンテの真紅のディランザを見上げて言う。
「ハッハッハ!!アフターサービスもバッチリということだなッ!!」
「ああ…」と返すと、何やらグエルは言いにくそうに、しかし意を決したような表情している。
「ところで…最近変わったことは無いか?」
「む?変わったこととは?」
グエルはキョロキョロと周囲を見回し、顔を近づけ小声で言う。
「いやほら…最近セセリアの奴、不気味なくらい丸くなったろ…それでその…」
「何の話をしてるんですかぁ〜?」
グエルとドゥラメンテが驚いて声の聞こえた方を見遣ると、ハンガーの入り口にトレーを持ったセセリアが立っていた。
「おおセセリア、どうしてここに?」
ドゥラメンテの問いかけに、セセリアはパッと顔を明るくして応じる。
「ドゥラメンテに会いに来たらえ〜っと…ピエール?って子にハンガーに来客と居るから〜って準備してたから、アタシが代わりに持って来てあげたんだけど〜…もしかして、余計なお世話だった〜?」
確かに、トレーの上にはお茶請けと紅茶の入ったマグカップが二人分ずつ用意されているのが伺える。
「お前…本当にあのセセリアか?」
「失礼っすね〜…アタシとしちゃ、ドゥラメンテの彼女として恥じない女でありたいってだけです〜。別にグエル先輩のためじゃないんで〜…」
セセリアはテーブルの上にトレーから紅茶とお茶請けを配膳しつつ、心外と言わんばかりにグエルの方をジトリと睨む。
「フッ…いや、愛するセセリアのその気遣いがオレにはとても嬉しいッ!!感謝するッ!!」
「なら良かった〜♪」
そう言うなり、近くのテーブルにトレーを置くと、セセリアは自身の定位置と言わんばかりにドゥラメンテの右隣に歩み寄る。
「で〜?何の話してたの〜?」
「こっちの話だよ」
「アタシはドゥラメンテに聞いてるんですけど〜?」
「フッ…まあセセリアも落ち着いて…グエル殿も、別に聞かれて困ることでも無いだろう?」
ぶっきらぼうに答えるグエルに、セセリアはムッとなるも、ドゥラメンテが仲立ちする形で先ほどの会話内容を伝える。
「ふ〜ん…アタシに変わったことね〜?」
変に探りを入れられていると感じたのか、セセリアはグエルにジト目を向けると、グエルはお茶を飲みつつ、それに心外だとばかりに視線を合わせる。
「勘違いすんな。万が一にも決闘委員会の仕事が疎かになったら困るってだけだ」
「ふ〜ん?…ま、でしょうね〜?」
その後も二、三世間話をしていたら思いの外時間が経過していたため誰にともなく解散する流れと相なっていた。
「っと…良い加減急がなくちゃな…ご馳走さん」
端末で時間を確認した後、空になったマグカップを起き、グエルは軽く礼を告げる。
「は〜いお会計は〜…」
「金取んのかよ!?」
「ハッハッハ!!セセリアはジョークも上手いのだなッ!!」
セセリアの突然の発言にグエルは驚き、ドゥラメンテは楽しそうに笑う。
「フッ…また来てもらえると嬉しいッ!!」
「おう。まあ暇が出来たらな」
三人は談笑しつつハンガーの出入り口までやって来ると、おもむろにセセリアがドゥラメンテに腕を絡める。
「ね…この後デートしたいんだけど〜…」
「無論ッ!!セセリアとのデートを断る理由はオレには無いともッ!!」
グエルはそんな二人だけの世界に入りつつあるバカップルを振り返る。
「あのセセリアが人前で堂々といちゃつくとはな…」
「な〜にしみじみしてんすかね〜…そう言うホルダー様も婚約者様と仲良くした方がいいんじゃないすか〜?」
「別にオレは良いんだよ。そんじゃあな」
藪蛇だったのか、そう言うなりグエルは二人に背を向け、少々足早に歩いて行くのだった。
「それで…本当の用事は何だったのかしらね〜?」
ドゥラメンテに聞こえないくらいの小声でセセリアが呟く。
「ん?どうした?セセリア?」
「ん〜ん?別に何でもないけど〜?」
ドゥラメンテからの声に明るく返すセセリアは、グエルの去っていった方向に訝しげな視線を投げかけていた。
次回はハロウィン回の予定です