セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
シャディク・ゼネリがドゥラメンテ・シックールというマルシャンの男子生徒に興味を持ったのは、その類稀なる一途さへの興味からだった。
彼の実家が事業の一環として宝石業も営んでいると聞いた時には探り半分、興味半分くらいのつもりで自身の仲間のレネ・コスタに接触をさせたが、そんなレネも会ってしばらくすればドゥラメンテにすっかり毒気を抜かれて絆されてしまった。
とは言え、この二人の間に恋愛の情は無く、両者共にあくまでもよき学友として接していたし、セセリアもそれを分かっていたからこそドゥラメンテと恋人として付き合うようになってからも、レネはあくまでもドゥラメンテの実家の客と割り切り、余裕をもって流している。
この器量はセセリアの生来のものというよりは、ドゥラメンテに感化されてのものだろう。
彼は買い物中の世間話に春の風や夏の日差しに冬の雪、雷や雨などの天候から言語、娯楽、地理といった地球のあらゆることをレネやその他のグラスレー寮メンバーから聞き、それらをスポンジのように吸収しつつ、時折その知識を自寮の薔薇園に存分に活かした。
それは決してレネらの口が軽いと言うわけでは無く、逆にドゥラメンテに話した相手の口を軽くしてしまう何かがあったからなのかもしれない。
しばらくしてシャディクとドゥラメンテと話した折、彼は不意にこうこぼしたことがある。
「キミ達マルシャンは愛することを躊躇わないんだね」
放たれた矢のように一途でまっすぐな男だと、シャディクはドゥラメンテを見てそう感じた。
矢は何も考えず、また考える必要性すらない。
だからこそ、その一途すぎる気質にどこか嫉妬のようなものを覚えたのかもしれない。
自分なら思い人の立場を考えて距離を詰めることを躊躇ってしまうのに、ドゥラメンテは一切の迷い無くセセリアにアタックし、気がつけば思いを実らせ今となっては学園で知らぬ者のいないバカップルとしての立場を確立させていた。
仮にセセリアが決闘の景品であったとしてもドゥラメンテは躊躇わずセセリアに愛を告げただろう。
また、彼は最近の学業の伸び代も素晴らしい。
一年生の時はデミトレーナーですら満足に動かせなかったというのに、ある時期を境にメキメキと実力をつけ、今では決闘のランキングに常に載るレベルのパイロットにまでなったし、経営戦略科のセセリアに勉強を見てもらったおかげか学業の成績も鰻登りだ。
そんなこんなでマルシャン…少なくともドゥラメンテ本人はいたって善良な人間であることがシャディクには分かったし、今では快い学友だと思っている。
そんなドゥラメンテが学食で頭を抱えている様を見た時は何事かと思い声をかけてしまったのは半ば必然と言えるだろう。
「フッ…思い悩むオレもまた美しい…」
「いったいどうしたんだい?」
学食で背後から話しかけてきたシャディクに、ドゥラメンテは驚きと同時に深刻そうな顔を向ける。
「むっ!?シャディク殿かッ!!これは丁度良かったッ!!」
言うなり、ドゥラメンテは携帯端末を操作して、ある画像を表示するとそれを指差す。
見て欲しいと言うことらしいことを察したシャディクは彼の隣の空いていた椅子に座ると、見たことのない一輪の薔薇に驚きの表情を浮かべる。
「これは綺麗だね。もしかして新しく買ったのかな?」
「いや、これは最近新しく出来たものでな。その新種の薔薇に『セセリアローズ』と名付けようかと相談したら恥ずかしいからと拒否されてしまい…」
「あはは。確かにそれは恥ずかしいかもねぇ」
明らかにトーンダウンする声色に、シャディクは「分かりやすいなぁ」とくつくつと笑う。
もし新たに発見されたものに自分の名前が付けられるのはシャディクでも少し顔を顰めるかもしれない。
つくづく彼の人の毒気を抜く才能が羨ましい。
シャディク自身も似たようなことはやろうと思えば出来るが、それはあくまで計算してのことで、天然のそれとはモノが違う。
「しかし花弁の外側のシルバーのような白はセセリアの髪のようで、内に行くほど濃くなるブルーは彼女の瞳のようだ。放たれる涼やかな芳香もふと彼女を思い浮かべてしまうほどに可憐なもので…」
「ドゥラメンテがセセリアのことを本当に好きなのは分かったよ」
「フッ…それは当然のことッ!!何よりセセリアの美しさや聡明さと言ったら…」
その後も滔々と湧き水のように出てくる惚気は聞いている方が恥ずかしくなる程甘やかなものだ。
ここまで来ると最早冷やかす気にもなれない。
そんな話を聞いたシャディクはさりげなく周囲を見回す。
「ところで、そのセセリア本人はどこに?」
「うむ!!お手洗いに行くと言っていたなッ!!」
「ああ、なるほど…」
ほぼ学園の全生徒公認のバカップルのもう片割れが居ないというのも珍しい。
大方、先ほどの話を聞くのに照れて少々席を外しているところだろう。
「まあ、いずれにせよ名付に関してはもう少し慎重になったほうが…ん?」
「……………」
そして、ドゥラメンテに向き直ったシャディクは不意に、ドゥラメンテの背後からやや離れた場所にいたセセリアと目が合った。
「ああ、なるほど…」
元々誤魔化すために離席して、落ち着きを取り戻したから席に戻ってきたのだろう。
そして今、図らずも更なる惚気の追撃を聞かされて戻るに戻れなくなっていたに違いない。
マルシャンの好き好き攻撃に慣れてきたとはいえ、まだまだ不意打ちには弱いのだろう。
「それじゃあ、オレはこれで…」
気まずくなる前に離れた方が賢明だと判断したシャディクは席を立ち、ドゥラメンテに手を振る。
「む?シャディク殿はもう食べないのか?」
まだ載っているトレイを見て、ドゥラメンテは疑問を投げかける。
しかしシャディクは
「いや、オレはもうお腹いっぱいだからね」
少なくとも自分には到底真似できない。
そう思いつつ、一人の少女を思い浮かべてはすぐにかき消すシャディクと席に戻るセセリアは特に言葉を交わすことなくすれ違うのだった。
たまにはこういう遠回しなのもいいかな〜って…。