セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
アスティカシア高等専門学園のとある寮にあるシャワールーム。
ドゥラメンテ・シックールは毎朝、そこでシャワーを浴びるのが日課だ。
「ふぅ…今日のオレも美しい…あぁ…これほどの美しさは罪なのかっ…?だからセセリア嬢も逃げて行ってしまうのか…」
ドゥラメンテは鏡に映る己にうっとりとしつつ、次から次にポーズをキメる。
「スゲェなぁ、よくそんな自分の容姿に自信持てるよなぁ…」
「ふふ…我が学友エドモンドよ。大切なのは心意気というやつですよ」
同級生のひとり、エドモンドがドゥラメンテの隣のシャワーに入る。
「心意気…ねぇ…」
「そうですとも」
敬語だからテンション上がってんなこいつ。
エドモンドが思った事はそれだ。
「その心意気ってさ〜セセリア嬢には通じてんの?」
彼はドゥラメンテをジトっと見つめる。
「もちろん!!これから通用するようになりますとも!!」
「今は通用してない自覚はあんのか。頑張るなぁ…オレだったら、初対面であんなこと言われたら少なくとも良い印象は持てねぇけど…」
第一印象は…まぁ、最悪だろう。普通の人間ならば。
セセリアはその男子生徒の噂を聞きつけ、暇つぶしも兼ねて彼に会いに行った。
ちょっとだけ揶揄ってやろうと。
それは彼女にとってある種の儀式というか、適度な距離感を保つためのものだったのだと思う。
彼女は決闘委員会という役職についている以上、特定の生徒と個人的に必要以上に親しくなるのは公平性に欠くことになってしまいかねない。
特にパイロット科はこの学園独特のシステムである決闘というものと無縁ではいられない。
本人に仕掛ける気はなくとも、何かにつけて因縁をつけられたりして仕掛けられる側になることはザラにある。
だから親密になりすぎては委員会の存在そのものが疑問視されてしまいかねない。
尤も、決闘は当人へのバックアップもまた生徒自身の力と見なされるため、それにどれだけ効果があるのかは疑問だ。
というより、アレはほぼ彼女の趣味のようなものだろう。
そして、目的の訓練場にて訓練中のデミトレーナーが目に入り、目的の人物が、そのコクピットから降りてきたところに開口一番、獲物に定めた相手にいつものように皮肉を並べ立てた。
「あなたがドゥラメンテくん?『宝石の王子様』ってのも、大した事ないんですね〜?ぜ〜んぜん動けてないじゃないですか〜?」
『宝石の王子様』
それは見た目ばかりでパイロット技能のおぼつかなかったドゥラメンテを揶揄うニュアンスで用いられていた言葉だ。
しかしその言葉は、ドゥラメンテ・シックールという男の心を動かした。
噂や興味本位の陰口じゃあなく、セセリアは本心からそう評価した。
それが分かったからだ。
「ええ。お恥ずかしい限りです…まったく、美しいばかりで技術が伴わないとは不甲斐ないッ…ですが、同時に心が晴れた気分ですよ」
怒りも苛立ちもなく、ドゥラメンテはセセリアに微笑みかける。
「…ちょっと、何で嬉しそうにしてんの?」
予想外の反応だったのだろう。
セセリアは怪訝な顔をした。
「嬉しいことが、ありましたから」
そう言うなり、男子生徒…ドゥラメンテは小粒のルビーの宝石がついたイヤリングを片耳から外し、セセリアの手に握らせる。
『勇気』をもらったせめてもの感謝のしるしとして。
「名も知らぬ貴女。貴女のおかげで目が覚めましたよ…もし良ければオレと…」
「うぇっ…!?いやちょっ…待って待って待って!!」
完全な計算外の反応に、セセリアは珍しく狼狽えていた。
思わず、後ずさった拍子に転んでしまうくらいには。
「ふふっ…大丈夫ですか?」
ドゥラメンテは笑顔で手を差し伸べ、セセリアはソレを掴んで立ち上がった。
先ほどまで小馬鹿にしていた相手に助けられたことに恥じたのか、その後セセリアはダッシュでその場を後にした。
まさかその後、当のドゥラメンテが半年足らずで学園のエース級パイロットまで腕を上げ、距離を空けるどころか縮められそうになるとはまさに想像だにしていなかったが……。
「それで、その続きは何で言おうとしてたのさ?」
「お友達からお付き合いして頂けませんか?とね。我ながらシャイボーイだろう?」
鏡の前で流れるようにポージングを続けながらそんなことを言う。
「シャイボーイは普通そんな打たれ強くねぇよ…」
「はっはっはっはっは!!ソレもまた人生ッ!!」
「相変わらずテキトーだねー」
「フッ…一芸に秀でていると言ってくれたまえ」
「はいはい」
その同日の別時刻…決闘委員会では……。
「あの脳内お花畑野郎…」
ソファーの定位置に座って、そわそわと髪の毛をいじりながら昨今特に成長著しいパイロット科の男子生徒のことを思い出し、つい口走るセセリア。
「とか言って、またアイツのことを考えてたのか?」
グエルはコレ幸いとカマをかける。
「んなっ…別にシックールくんのことなんて…」
「誰も相手がドゥラメンテのことだなんて言ってねぇぞ?」
ムキになってボロを出すセセリア。
それを見て、グエルはいつもの意趣返しとばかりにニヤニヤと見ている。
面倒くさそうにハァ…と一息つくと、セセリアはポケットを探り、いつか手渡された小さな耳飾りを取り出す。
いつ返したものかと、ずっと持ち歩いているモノだ。
返したい気持ちはある。
身につけるものだし、片方だけ無いんじゃあ何かと不便だろう。
だが、渡そうとして近寄れば間違いなく食事やら買い物に誘われる。
それはなんだかまだ早い、気がする。
会いたいが会いたくない。
だって…あんなに真っ直ぐに、向こうまで射抜かん勢いで見つめられたのは産まれて初めてだったから。
会ったとして、何て言えばいいのかわからない。
どう話しかければいいのかわからない。
「顔…なんで熱いの…」
訳のわからないモヤモヤが、今なおセセリアの内に渦巻いていた。
二人の行く末はどっちなんでしょうねぇ。