セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
「むぅ〜……」
寮内の談話室で、暇を持て余してガールズトークをしようと集まった女子生徒達に囲まれたセセリアは、なにやらむくれた様子で、ソファに座っている。
「どしたの?セセリア〜?悩み事〜?」
「べ…別に…ドゥラメンテのことで悩んでなんて…」
「…誰も彼くんのことなんて言ってないんですけど〜?」
「うっ……」
分かりやすくたじろぐセセリア。
それに女子生徒達は微笑ましそうに笑う。
「あはは〜、セセリアほ〜んとわかりやすいよね〜」
「なになに〜?デートの回数が減ったとか?」
「もしかして、他の女の影とか〜?」
「いやぁ〜ナイナイナイナイ。あ〜んな一途なオトコが今更よそのオンナに釣られるなんて……」
「もしかしたら…そう…かも…」
「へ?」
ほぼ適当に言ったであろう言葉が、まさかいきなりド真ん中に的中するとは思わず、言った張本人は気まずそうに目を逸らす。
そして…重苦しくなった空気を変えようと、気になる質問を投げかける。
「そう言えば、彼くんとはキスくらいしたの?」
「き…ききききき…きす!?」
そのセリフがあまりに衝撃的だったのか、セセリアは椅子から立ち上がり、ガタンと小さく無い音を立ててしまう。
「え…その反応まさか…」
「えっ?あ〜んなラブラブなのに、キスのひとつもしたことないの?」
呆れ気味にそう言う友人に、セセリアはなんとか食い下がる。
「い…いや、その…寝てるほっぺに…一回だけ…そっそれに!!てっ…手は何度も繋いでるっ…し…!!」
「他には〜?」
「ひ、ひざ枕…とか…」
「って言うか、デートはちゃんと暇を見つけてしてるはいるんだけど…その後がヘンって言うか〜…」
「あと?」
つい先日の出来事…。
「では、オレはこの後諸用があるのでな。おやすみ、愛するセセリア」
そう言ったドゥラメンテは、別にコソコソしていたわけではない。
ただ、生徒手帳を眺めて楽しそうにしていた。
ふと気になって、ドゥラメンテがトイレに立った際、開かれていたのは、贈り物のカタログページ。
それ自体はまぁよくある内容だ。
しかし、その内容はセセリアが好きそうなものでは無く…そこから怪しいと感じたようだ。
「そんなに気になるんなら聞けばいいじゃん」
女子の一人が思ったことをそのままに告げる。
「でっでも…万が一本当に他の女がいるようだったら…」
「セセリア…」
恋は人を変えるとは言うが、ここまでとは…
いつになくしおらしいセセリアに、どう声をかけたものかと思案する。
悩みというものは、不幸だけが原因では無い。
むしろ、今が幸せであるからこそ、その幸せの終わりを恐れ、不安になったり臆病になってしまうこともままある。
「よ〜し!!それじゃ、早速聞きに…」
「えっ!?いや、でも心の準備とか〜…」
「こういうのは早い方がいいでしょ〜、彼くんとられてもいいの?」
そうして、ドゥラメンテに確認しに行く行かないで一進一退の攻防を繰り広げていた時のことだった。
談話室の扉が開き、そこには正に噂の当事者…つまりはドゥラメンテがやって来たのだ。
「セセリア!!実にめでたいことが…んん?そんなに集まって、どうしたのだ?」
最初笑顔を浮かべていたものの、ソファで腕を引っ張られる恋人の姿を見て、キョトンとした表情になる。
「あ、彼くん」
「最近セセリア以外の女と連絡取り合ってるんだって〜?」
「ちょっ…」
単刀直入な質問に、セセリアは狼狽えるが…。
当のドゥラメンテはけろっとしている。
「女?連絡…ああ、もしやタスティエーラのことか?」
「え?なに?ホントに浮気相手いたの!?」
「う、浮気?いや、昔よくしてもらったいとこだが…。というか、そもそも彼女は既婚者で…」
驚くドゥラメンテに、女子生徒達は更に詰める。
「で〜?何でいとこのことを、そんな嬉しそうに伝えに来てんの〜?」
その問いかけに、ふむと考えるそぶりを見せると、ドゥラメンテは事情を話し出す。
「うむ。実は先日いとこ夫妻に玉のような女の子が産まれてな、出産祝いに何を買おうかと決めかねていたところでなぁ。ベビー用品はすでに夫婦二人で決めていたらしく…それ以外となると、正直何を贈れば良いやらと、頭を痛めていたのだ。そこで是非、将来の予行練習も兼ねてセセリアの意見をと思い此処に来た次第で…セセリア?」
ドゥラメンテは目の前の光景に驚き、口を閉ざす。
セセリアの頬を、ポロポロと涙が流れたのだ。
「せ、セセリア!?」
当然ながらドゥラメンテは狼狽える。
「よ…よかったぁ〜…うわき、してなかったぁ…」
その言葉から、セセリアが何を思い、悩んでいたのかを察したのだろう。
生徒達に背を押されるがままセセリアに歩み寄り、ソファに座る彼女の前に跪く。
「どうやら、オレは知らぬ間にセセリアを不安にさせてしまったらしい。今となっては言い訳に過ぎないが…火星では家族を大切にする風習が色濃くてな…ゆくゆくはオレたちもこう言ったものを贈られる側に…などと、浮かれていたようだ。申し訳ない」
そうして、柔らかく微笑むと…
「どうしたら許してくれる?」
自身の最愛の相手を見上げながら、優しくそう訊ねる。
しかし、何を考えていたのか、それとも咄嗟に口から出たのか、セセリアが次に口にしたのは……。
「その…き…キ、キス、してくれたら…その…」
「キッ…!?」
言った本人も、それを聞いた側もボッ…と音が聞こえそうなほどの勢いで赤くなる。
やだ可愛いこのカップル。
それが、その時居合わせたブリオン寮生達の共通認識だったと言う。