セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
ドゥラメンテとセセリアが付き合い始め、大手を切ってイチャイチャし始めた頃、グエル・ジェタークは苦悩の最中にいた。
「セセリアとドゥラメンテは確かにくっついたが…それに付け込むような真似をしていいのか?」
グエルにとって、セセリアはよくつっかかって来る生意気な後輩ではあるが、その一方でドゥラメンテは他寮生ながら、本心から自身を慕ってくれる可愛い後輩だ。
学生ゆえの青さ、そしてグエルだからこその善良さ、そして父であるヴィムからの強い期待…その他もろもろが雁字搦めになり、どう話したものかと頭を抱えてしまう。
確かにマルシャンからの巨万の財…いわゆるマーズマネーを引っ張ってこられるのは企業としてはとても助かるだろう。
グエルの私見ではあるが、彼とドゥラメンテとの仲も特段悪い訳ではない。
ただ…ドゥラメンテに話しかけようと近づけば、その隣にはほぼ必ずセセリアがいるし、その話を彼女に聞かれようものならば、ほぼ確実に面倒になる。
ブリオン社に限らず、他社に自社の現状の情報が流れるリスクは出来るだけ避けたいし、仮にセセリアに弱みを握られれば卒業までネチネチとイジられることだろう。
「ただでさえ少し抜けてるドゥラメンテをカバーしようとセセリアは目を光らせてるだろうし…これじゃ最悪ブリオン社に資金援助の先を越されてしまいかねない…」
個人的にドゥラメンテがディランザとその武装を買ってくれている以上、少なくとも企業としてのジェターク社は悪くは思っていないだろう。
「……なら、好機はあるはずだ」
そうこう考えを巡らせていると、昼休みを告げるチャイムが鳴る。
同時に、グエルの腹の虫が鳴いたので、たまたま近場にあった学生食堂を利用することに。
あわよくばドゥラメンテと接触出来ればとの考えもあった。
しかし…。
「お?グエル先輩」
「あぁん?」
既に席について食事をしていたのは…不機嫌丸出しのセセリアと、そんな彼女を宥めるエドモンドの二人だけだった。
ドゥラメンテが二人を置いて先にどこかへ行くことは考えられないため、グエルは小首を傾げる。
「オイオイ…随分と嫌われたもんだな。同席いいか?」
「はぁ…オレは構わねーけど…セセリア嬢は?」
「好きにすれば良いんじゃないっすかぁ〜?」
爪をいじりつつ、ほとんど関心のない様子でセセリアは言う。
「だ、そうなんで…」
少し引き気味のグエルだが…とにかく、両者の合意は得られた。
ドゥラメンテに近づく以上、少しでもこの二人の心象はいいに越したことはない。
「一人とは珍しいっすね」
「お前らこそ、ドゥラメンテと一緒じゃねぇのか?」
「あぁ〜…それがっすねぇ〜…」
エドモンド曰く…授業を終えて、いざ食堂へとなった時、不意に一人の生徒にドゥラメンテが声をかけられ、そのまま連れて行かれたと言う。
「大丈夫なのか?ソイツ…」
「あぁ。パイロット科じゃねー奴だったし…悪意というか、そんなのも感じなかったんで…何でも新しい話題?にアイツがピッタリだってんで…」
そんな話をしていた時のことだった。
「ハァ〜イ!!皆さんハロ〜〜!!」
スピーカーから一人の生徒の声が聞こえてきた。
途端にざわつく食堂。
どうやらこの場にいる生徒達からしても唐突の出来事のようだ。
「あ、この声…コイツっすコイツ」
「ったく…コイツのせいで…」
ブツクサとセセリアが文句を言っていたが、当然その言葉が声の主に届くことは無く、ハイテンションな声はさらに続く。
「第一回!!あの人の本心を聞いちゃいまSHOW!!これから不定期に開催する予定のこのゲリライベントの記念すべき一人目のゲストは〜…この人ッ!!サァサァ、まずはご挨拶!!思ってること言っちゃって〜!?」
「む?このマイクに向かって言えばいいのか?」
まさかの人物登場に、更に学食中がざわざわとする事態に。
こほんと咳払いをすると、その人物は息を吸い、そして言う。
「セセリア〜!!愛してるぞ〜!!」
そのセリフに今度はわっと声が上がる。
なお、公衆の面前で名前を呼ばれた本人は…。
「もう…ばかなんだから…」
「あっ、ちょっと機嫌治った」
「あのセセリアがなぁ…」
満更でも無さそうな表情を浮かべていた。
なお、男二人の声は嬉しさのあまりどうやら聞こえていないらしい。
「はいっ!!決闘委員会の皆さんと交流があり、現在有名なバカップルの片割れ、ドゥラメンテ・シックール先輩をお連れしております〜。では、ここで早速学園の生徒達の質問を交えつつトークしちゃいましょうか!!え〜…皆さん質問のメールはこのワタクシ、経営戦略科一年、アイザック・ハルトマンまで〜…おっと、いきなり質問メールが。よろしいですか?ドゥラメンテ先輩」
「無論ッ!!オレに答えられる範囲の質問ならばな」
「では早速…『何股してますか?』いきなりぶっ込んで来ましたね〜!!してる前提なのがどうにも気になりますが!!」
ガタンッ!!
それを聞いた瞬間に、机が少し揺らいだ。
固定されているはずだが。
「セセリア?」
「何でも無いっすよ〜?」
そう言う彼女の目は…笑っていない。
そんなセセリアの様子を知ってか知らずかドゥラメンテは問いに答える。
「いや、オレはセセリア一筋だが」
「はいッ!!お二人のラブラブっぷりは学内でも有名ですからね〜!!」
少しばかりハルトマンの発言に忖度が伺えるが、そんなことは知らんと言わんばかりに質問は次々とやってくる。
『羨ましいぞコラ』『セセリアさんは騙されてるんだ…』
といったドゥラメンテへの僻みから
『火星ってなんか楽しい場所あんの?』
『お爺さんに口利きしてくれませんかね?』
と言った彼の故郷のこと。
そして…
『セセリアちゃんとどこまで行きましたか?』
と言った更にぶっ込んだ質問が来た時には、学食内の空気はなぜだか一気に静かになった。
体感温度は3℃くらい下がっていたかも知れない。
当然、ドゥラメンテ関係者席の面々もなにやら緊張した面持ちになったのだが…。
「うん?少し前にリゾートプラントまで行ったのが一番の遠出というか…」
「あ〜…はいっ!!だ、そうです〜!!いやぁ〜!!先輩ったら今日日珍しいくらいにド天ね…じゃなくて、ピュアですね〜!!それじゃ、今日はこのくらいに…うん?新しいメールが来てますね〜。それじゃこれを最後にしましょうえっと〜」
『お話を聞いたところ、まだまだ何も知らなことばかりなようで彼女さんが可哀想です。ついてはお姉さんが色々教えてあげるので、明日の放課後指定の場所に…』
「オイ、多分冗談だと思うから、そんな気にするなよセセリア…セセリア?」
流石のグエルもフォローしつつ、セセリアの方に振り向くが…そこにセセリアはおらず…。
「あぁ〜…なぁんか、あの質問が来てからふらっと立ち上がってたなぁ…修羅の表情で」
未だ呑気な声で放送する生徒に、グエルは心中で少しばかり同情する。
「はぁ〜い。と言うことでね…今回の気まぐれ放送はワタクシことアイザック・ハルトマンがお送りしまし…うん?放送ルームの扉がノックされてる?他にゲストはいないはずなんだけどなぁ〜…少々お待ちくださいね〜」
その後、なんとも言えない断末魔(死んでない)が聞こえた。かと思えば…突然放送される声が女子生徒のそれになり…。
「どこのどなたか存じませんが〜…冗談でも人の男に粉かけるような真似は…やめて下さいね〜?」
ドスの効いた声でそう言うセセリアに、エドモンドは分かりやすく震えており…。
そして、その時グエルとエドモンドは思い至った。
怒ったセセリアを敵に回してはいけない…と。
なお、案の定と言うべきか、例の放送企画は中止になったとか…。
そう言えばあそこの学園、映像での連絡はあってもラジオ的な音声のヤツは無かったなぁと思い、書いてみた次第です。はい。