セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
「う〜ん……」
セセリア・ドートは生徒手帳でとあるページを開いて悩んでいた。
それというのも、彼女と関わりのあるブリオン寮生が彼女のつい先ほどまでとある論題について熱く語り合っていたことが原因である。
即ち……。
料理ができる派とできない派。
或いは所謂花嫁修行が必要派と不要派と言おうか。
そんな下らないことと一蹴するのは簡単だが…。
しかし、手料理を振る舞う喜びは何にも代え難いとする前者に対して、後者の言い分としては、料理なんて使用人に作らせればいいじゃんとのこと。
以前のセセリアは俄然後者寄りの考えだったのだが…。
まさかこんなことでここまで悩むとは…。
彼女はそんな度し難い自分の気持ちに、しかし心地よさを感じる。
ソファに寝そべりつつ、ふと想像してみる。
自分の作った料理でドゥラメンテが微笑みを浮かべている。
がっつき過ぎて、喉に詰まったりして。
想像の中のドゥラメンテに釣られるように、セセリアも笑顔を浮かべる。
「フフッ…」
気がつけば、セセリアはレシピアプリをダウンロードしていた。
その晩、人目を盗んでこっそりと利用許可をもらった寮のキッチンに入ったセセリア。
「へぇ〜…料理ってこんな道具を使うのね〜」
セセリアは新鮮な心地で泡立て器やら、ボウルを見て、好奇心をくすぐられる。
しかし、楽しい気分は最初の数分で、その後は大変であり…。
「えっと〜?大さじ?ひとつまみ?表記がわっかりにくいんですけど〜…」
「オオサジ、コッチ!!コッチ!!」
ちびハロに生徒手帳を繋げてサポートしてもらいつつ、ブリオン寮のキッチンに立つセセリアは困惑した様子で目を細める。
「セセリア!!ガンバ!!ガンバ!!」
「はいはい、ありがと〜」
軽く礼を言うセセリアの手元のボウルには、少し殻の入った卵と幾らかの調味料が入っており、四苦八苦しつつ何かを作ろうと模索しているのが見て取れる。
だがセセリアはこと料理人関しては、つい昨日までフライパンも包丁すら持ったことがないズブの素人。
当然そんな人間が、いきなり上手く出来るわけもなく…。
「も〜…全っっ然上手くいかない〜…」
どうにかこうにか皿に盛り付けられているのはコゲコゲの黄色い塊。
「簡単って話のオムレツですらこのザマとか…まぁ〜…まだ練習段階だし…ここで添え付けの野菜を切っ…痛っ?」
気を抜いてしまったからか、手にした包丁はセセリアの指を少し傷つけてしまう。
「はぁ〜…やっちゃった〜…」
うっすらと赤い血が滲むのを見ると、セセリアはベタな失敗をした自分に向けてか、ため息を一つこぼす。
そんな時だった。
ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!
物々しい電子音が鳴る。
思わず音のした方向を振り返ると、そこには目を赤く光らせ、ブルブルと震えるちびハロが。
「えっ、ちょ…ちょっと〜…いったいどうし…」
当然の如く困惑するセセリア。
そんな時だった。
ドドドドドドドド…と、足音が聞こえてくる。
次第にその音は大きくなり…そして、キッチンの前で止まる。
「セセリア!!無事か〜!!」
声の主はいつも側に寄り添ってくれる相手、つまりは…。
「ドゥラメンテ!?一体どうしたのよ〜!?」
急ぎ足でキッチンの扉を開け、自身の恋人を確認する。
意外にもブリオン寮生達は起きてこなかったようで、廊下にはドゥラメンテ以外はいない様子だ。
「うむ!!実はちびハロにはセセリアの身に危険が迫ったと判断した際、オレの生徒手帳に緊急信号が飛んでくる仕様となっていてな…だが、その様子なら無事なようだな。何よりだ…む?その左手は?」
「あっ…いや、その…」
とっさにセセリアが左手を後ろに回しそうになったのを確認したドゥラメンテは、そっとその手を取る。
「ふむ…指先を切ってしまったのか…念のため救急箱を持って来てよかった…」
バツが悪そうな表情をして、座りながら手当てを受けるセセリアにドゥラメンテは何かを察したのか、絆創膏越しに手を握る。
「えっと…心配させてごめん…」
俯きがちにそう言うセセリアだが、周囲を見たドゥラメンテは皿に盛り付けられた何かを見つける。
ここはキッチンであり、その皿に乗ったものがどう言ったものなのか…そしてセセリアのケガを改めて見て、ドゥラメンテはキョトン顔で思ったことを口にする。
「…お腹が空いていたのか?」
「違…これはアンタにっ…やっぱり、何でもない」
一瞬ムキになりかけたが、途中でハッとなり、何とか誤魔化すセセリア。
しかし、椅子に座りながらしょぼくれた様子のセセリアを見るドゥラメンテの観察眼はその上をいっていたようで…。
「セセリア…ありがとう」
「えっ?」
そう言うなり、ドゥラメンテは皿に盛られたオムレツもどきをスプーンを使い平らげる。
「ちょっと!?それ、全然上手くできてな…」
コゲが多かったり、中は生焼けだったり…お世辞にも上手くいったと言えないオムレツは、立ち尽くすセセリアが止める暇もなく、ものの数分でドゥラメンテの胃の中に消えた。
「あっ…」
カタリ…と空になった皿とスプーンをシンクに置くと、ドゥラメンテはセセリアに向かい、いつものように優しく微笑む。
「美味しかった。良ければまた作って欲しい」
「え…でも、アタシこれ失敗して…」
「なら、コレから成功するようにすればいい。何より…」
「…何より?」
「セセリアが心を込めて作ってくれたものを、オレが喜ばない理由が無い」
真っ直ぐにそう言われたセセリアは、つい顔が熱くなる。
「も、も〜…それって、アタシがテキトーに作ったとしても嬉しいってこと〜?」
照れ隠しにそう言ったセセリアの言葉にも、ドゥラメンテは頷いて返す。
「フッ…なに、オレ自身経験したことだが…料理は作るだけで大変だろう?それならば、作ってくれようと思ってくれただけでも、オレはとても嬉しいさ」
ドゥラメンテがそこまで言うと、セセリアはポツリと
「…ほんと、ばかね〜」
そう、呟く。
「そこまで言われたら、次はちゃんと食べられるものを作るから。その…いつになるかは分からないけど…」
自信無さそうにそう言うセセリアの手をドゥラメンテは優しく握る。
「ああ、楽しみにしている。ただ…くれぐれも、怪我には気をつけて欲しい」
心配そうにセセリアを抱き寄せるドゥラメンテに、彼女はクスリと笑うと、自身もドゥラメンテの背に腕を回す。
「も〜…ホントに優しいんだから〜…」
そんな二人の様子を、いつの間にか集まっていたブリオン寮生達が、廊下から生暖かく見守っていたのは余談である。
料理下手な子が頑張るの良いよね。