セセリアさんがナルシストに言い寄られるようですよ? 作:ガラクタ山のヌシ
語るまでも無いことだが、マルシャンと呼ばれる人々はその多くが愛妻家である。
かつての過酷な環境ゆえか、それともそれに端を発する仲間意識の延長なのか…そこは定かでは無いが、事実としてそうなのだ。
現にドゥラメンテの祖父も、父も、親戚筋も皆そうである。
毎朝、一番はじめに視線に飛び込む自らの伴侶に愛を囁くことに躊躇い無く、倦怠期知らずとも言われるほどに情熱的で、だからこそ意中の相手の機微にも聡い。
そのためか「仕事と私、どっちが大事なの?」という質問さえそもそも無いし、仮にあったとしても百人が百人迷わず奥さんと即答するような、そんな独自の文化と言えば分かりやすいか。
故に、周囲の皆が皆そんな環境で育ったドゥラメンテもまた自然と愛妻家の気質を持っており…。
「おや?セセリア、もしかしてだが…少し髪の毛を切ったかな?」
「あっ分かる〜?気になってたからちょ〜っとだけ毛先を切ったんだけど〜…よく気づいたね〜?」
「フッ…愛するセセリアのことだ。すぐに気がついたさ」
と言ったような若干キザっぽいセリフを自然体で言えるのだ。
『理想の異性とはその人間の頭の中ではなく、目の前に突如として現れる』
誰が言ったか、いつの間にやら染みついたマルシャンならではの格言である。
どれだけ彼らのことを宇宙事業に参入したての新参者と小馬鹿にするスペーシアンであっても、こと夫婦間の不和であったり、家族や家庭間のいざこざの無さに関しては、純粋に彼らを尊敬しているとかいないとか。
基本的に愛情深い人々なのだが…だからこそ、その愛を才能に発露させ、力に変えているとも噂されるほどの高スペックを有している人物も多い。
例えばドゥラメンテの実の祖父であり、シックール財閥の現代表を務めるシックール卿は交渉に於いてはベネリットグループ総裁デリング・レンブランをして「油断ならない」と言わしめ、その息子…つまりはドゥラメンテの父にあたるヴェント・シックールは温和な性格と、洗練された人を見る目を以てして、曲者揃いの鉱山や加工場等の現場をまとめ上げる実力者だ。
そしてその兄弟や友人達もまた、それぞれがそれぞれ自身の愛に生きる傑物である。
火星でしか採取出来ないレアメタルの売買で得た資金は、そのまま彼らの実力を花開かせるには充分で…しかし、彼らの大半はその給金を真っ先に自身の伴侶のこれまでの苦労を労うために使ったとか。
「汝愛せよ。されば道は開けん」
「なぁにそれ〜?」
寮のソファの隣に座るセセリアが、背もたれに体を預けながらドゥラメンテへと問いかける。
「フッ…オレの祖父がこの学園に旅立つ際、オレにくれた言葉さ」
「ふぅ〜ん…?」
「いい言葉だと思うか?」
「ん〜…良い悪いはわかんないけど〜…けっこー曖昧な物言いだなぁ〜とは思うけどねぇ〜」
棒付きのキャンディを口に含みながら、セセリアはそう素直な感想を述べる。
「ハッハッハ!!正直だなセセリアは。だが、そんな素直なセセリアも愛している」
「フフッ、なによそれ〜?」
物言いに反し、セセリアは穏やかな表情でころころと笑うと、ドゥラメンテの肩に頭を乗せる。
「…ドゥラメンテもひとついる〜?」
そう言って差し出したのは、包みのついたセセリアが今舐めているのと同じキャンディだ。
「ありがとうセセリア」
ドゥラメンテはそれに気付いてか、笑顔で受け取る。
「こっちこそ、ありがと」
その日の二人の休日はいつに無く穏やかに、そしてゆっくりと流れて行ったのだった。
久々の火星の歴史的なフェイズ。
需要は分からんけども、書きたくなったので。