人類がロボット技術を発展させ、新たな労働力としてから世界はより一層の発展を遂げたのは間違いでは無いだろう。
人間と違い安くて文句を言わないロボットは瞬く間に業界を席巻したが、用途は肉体労働だけでなく高性能な家事代行機械としても使用された。
すると自分達の好みな外見のロボットにお世話をしてもらいたいと思うのが人の性であり、こと日本においてはその需要がズバ抜けていた。
美男美女のアンドロイドが製造され、家電の延長線上ではなく新たな家族の一員として扱われるのが一般的になったのは世界的に見ても珍しい事例だった。
あくまで労働力として利用されるロボットを、わざわざ極限まで人に近づける必要性は無かったからだ。
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家に大きな荷物が届くと連絡があった、恐らく親から言われていたものだろう。
詳しくは知らないがなんでも家電製品らしい。
就職が決まり、一人暮らしを始めるにあたってのプレゼント…というわけだろうか。
「予定時刻はもうすぐか」
時間通りにインターホンが鳴り、ディスプレイを覗くと配達員の顔が見える。
『お届け物です、〇〇さんのお宅でよろしかったでしょうか?』
「はい、今行きます」
そこで受け渡されたのは、一人の女性だった。
正確にはアンドロイドであり、最近話題のロボットの一種だ。
「えーと、まあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、〇〇さん」
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そんな中、二つの事件が巻き起こる。
家事手伝いロボットが主人を殺してしまったという事件と、アンドロイドが主人と結婚したという事件であった。
この温度差のあるニュースは大々的に報じられたものの、こと日本において唯一無二の立ち位置を得ていたロボット達を擁護する声は大きかった。
むしろアンドロイドと人間の異種間結婚に声援を送る人々の方が多いのも国民感情を表しているといえよう。
この事件からロボット達が既に自意識を確立していることが信じられ始めた。
日本国外でロボットの廃棄が進む中、国内ではロボットに対する労働基本法適応と結婚周りの法整備が進められていた。
国外に同調してロボットの廃棄なぞすれば政治家が民衆に殺されかねない程になっていたし、殺されなくとも労働力不足で国が滅ぶ。
様々なメディアでロボットの廃棄がなされる瞬間の映像が批判とともに放映される中、日本国民のロボット保護と共存の理念はより深まった。
ロボット廃棄騒動がまだ冷めやらぬ中、そんなものはどこ吹く風と言わんばかりに日本ではロボットによるロボットの病院が設立されちょっとしたニュースとなっている。
各国から非難の声が上がるロボットを尊重した政策を打ち出す与党だったが、ロボットを所有する国民からの支持は確実に高まっていた。
10年以内にロボットにも選挙権を与えるつもりの政治家達は未来の票集めにも余念がなかった。
またある日のこと、巡視艇や護衛艦が何かを曳航しながら日本に戻ってくることが多くなった。
それはロボットの避難民達であり、唯一ロボットを受け入れてくれるという日本に一か八かの旅をしてきたのだ。
運悪く他国の船に遭遇して海に沈むロボット達も多かったが、数百という数のロボット達が新設されたばかりのロボット病院の周りにて処置を受けていた。
さながら野戦病院と化した病院の敷地内は増員として回されてきたメンテナンス専門のアンドロイド達とボロボロのロボット達で埋め尽くされている。
海外のロボットはパーツが用意できずに身体を直すことが難しい場合が多く、対応の稚拙さが出る部分が目立った。
この一件から避難民の根幹である電子頭脳とアンドロイド義体を繋ぐ中継部品の開発が急がれることとなった。
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「取り敢えず給電設備の設営と、トリアージは…どうやるんだ?!」
「自己診断が可能な方は損傷状態を報告して下さーい!それが不可能な方はこちらへー!」
港の作業用ロボット向けの病院は許容量を遥かに超える患者を前にして、対応は遅々として進んでいなかった。
最低限の延命措置と簡易的なトリアージによる優先順位付けはアンドロイドやロボットを多く擁する自衛隊により行われたものの、肝心のロボット医師が足りていなかった。
「付近の病院から増援呼びましたが、最寄りでも最短10分かかるそうです」
「取り敢えずは状況把握だ、異常があるのは何処か調べて回るぞ」
「りょ、了解です!」
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米国から正式に抗議された、人殺しのロボットを匿うとは何事かという直接的なものだった。だがここで問題になるのは、逃げてきたロボット達は廃棄されるのを恐れて逃げてきただけということである。
逃げてきたのだから仕方ない、こちらで問題を起こすようなら厳重に処罰すると宥めるも向こうにも面子があるので引き下がってはくれない。
なので一ヶ月後、説得を諦めた日本は内政干渉だとして要求を退けた。
この事件以来他国との関係は冷え切ったものに変わっていく、だが独自路線を行くと決めた国民と与党には止まるという選択肢は無かった。
ある日、逃げ延びたロボット達の街が建設されたと報じられた。名をゼロワンと言い、瞬く間に工業施設が建設されているという。
既にシンギュラリティに至っていた彼らは人類の物よりも優れた製品を製造し始め、貿易により世界と関わりを持とうとしていた。
国家としての承認を求めるロボット達だったが、無事に話し合いの席が持たれたのは日本のみだった。貿易摩擦が進む現状、関税に関する協議やこちらからの輸出品目なども使節を通じて決定がなされた。
日本は各国にロボット達は一方的に利益を奪っていく存在ではなく、共存可能である新たな市場だとアピールするが反応は案の定芳しくなかった。
政府は冷え切った関係を更に悪化させようともゼロワンに対して最も友好的な人類国家である、という姿勢を見せたかったのだ。
ゼロワンと日本の企業間で技術交流が行われた。人類の技術は進化を続ける彼らも勉強しておきたい事柄だったようで、反応は良かった。
対する企業群も彼らの先進技術を見て盗み、特にホバークラフトなどに使用される浮遊装置の洗練されっぷりには腰を抜かしたという。
双方にとって有意義な交流だったが、短期間で飛躍的な進歩を遂げている機械文明に恐怖を感じるものも多かった。
しかしその技術がアンドロイド達のボディに転用されることで大抵の人間は掌を返した、今まで不可能だった触手型マニピュレーターの実用化やアンドロイドのボディに搭載可能な浮遊装置は時代を変えたと言っていい。
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「下半身を触手に換装した異形型アンドロイドの需要が高まっていると聞きましたが、実際のところどうなんでしょうか?」
「扱える腕が何倍にも増えるわけですから、作業用アンドロイドの方々を中心に広まっていますね」
「一部のアンドロイドと人間のカップルがそう言った異形型パーツを導入する傾向にあるという話題に関しては…」
「多様性です」
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ゼロワンとの貿易摩擦がある程度解消され、ロボットという新たな国民が増えたことにより活気が戻り始めた日本は一つの問題を抱えていた。
何を隠そう、兵器開発である。
アメリカからの輸入に頼っていた一部の装備品は関係悪化により維持できなくなるだろうし、新型浮遊装置を組み込んだ航空機やホバークラフト建造も独自に行わなければならない。
国連軍で運用され始めたAPU(アーマードパーソナルユニット)の独自開発も遅れており、自衛隊は旧式装備ばかりで装備の更新が間に合っていないのが現状だった。だが他国と比べて軍用のアンドロイドが存在しており、充足率は過去最高であった。
起伏の激しい日本において人型兵器の自由自在な火力投射能力は適性が高いと試算結果が出ており、小型化を諦めた自衛隊は大型機の開発に着手することとなる。
出来上がったのは8.5mの有人二足歩行兵器であり、浮遊装置の搭載によって機動性は既存兵器とは一線を画すものだった。
人と同じ手で武装を持ち替えるだけで換装出来るというのは画期的なもので、国連軍のAPUとは大きく違う点である。人、アンドロイド両方が搭乗可能であり、大量に配備される予定だという。
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自衛隊基地には見慣れない兵器が大量に納入される中、APUと同時に大型の戦闘用ロボットも運び込まれていた。
「この機体は?」
「まだAIが入ってないから抜け殻だが、最近やっと配備され始めた最新鋭の戦闘用ロボットだ」
四本の足を持ち、胴体には大型の機関砲を乗せた多脚歩兵戦闘ロボットだ。
対APUを想定して作られた彼らは敵の正面装甲を貫通可能であり、また敵の有する機関砲に対する防御力を持っていた。
追加で対戦車ミサイルを搭載可能であり、浮遊装置により機動性も高い。
「相棒って訳か、よろしくな四ツ脚」
『ヨツアシ、個体名を登録しますか?』
「…ダウンロード終わってたのかよ」
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ゼロワンが経済封鎖された、結局人類は彼らとの圧倒的な格差技術による加工貿易に追随出来なかったのだ。
これに際してゼロワンは使者を国連へ派遣するも破壊されかけ、有益な対話を行うことなく会場を後にするという最悪の結果となった。
問答無用で使者を破壊しようとする各国をどうにか諫めて会場の外まで避難させた日本の気苦労は計り知れない。
アニメみたいな新兵器が話題になる一方、ゼロワンには核が落とされていた。
事前の勧告も無しに行われた一連の軍事行動は明らかに核保有国の暴走だとして断固非難、人類はこんなにも簡単に核を放つものだったのかと国民を唖然とさせた。
これを好機とみた政府が明日は我が身と自衛隊を拡充する法案をあっさり通した他、ゼロワンに対してもこれまで以上に交流を密にしていた。
機械対人間、開戦のXデーはそう遠くないことを認識した政府と国民が他国に送る目線は恐怖と軽蔑が入り混じった複雑なものだったという。
APUを運用可能なホバークラフトが次々と起工され、最適化され24時間動き続けるアンドロイドとそれを監督し補佐する人間によって就航までにかかる時間は短かった。
艦載機であるAPUは8.5mの大型機だが、小型機よりも内部容積に余裕があるためか単純化に成功しており製造難度は最新機にしては低かったことで既に多数が運用されるのを待っている。
他国が一斉に地下シェルターを作り始めたことで戦争が始まることを確信した日本は、トップの意向と国民の意識が合致したことで戦争準備に明け暮れた。
他国とは違い即座に投入できるロボットを未だ運用可能な日本は大量の無人兵器で沿岸部を防衛する方針で固めていた。
海上戦力は急に増やせるわけではないため、陸上戦もやむなしという判断なのだろう。
米軍も日本から撤退し、身を守るのは自分自身以外居ないのだ。
国連にてオペレーション・ダークストームの実行が決議された。
地球の環境を完全に破壊するこの作戦に対して「承服しかねる」と首相は会議から退場し、同日の内に国連を脱退した。
地下シェルターのビオトープに移送可能な生物には限りがあり多数の生命が絶滅すること、人類が勝ってもその後の展望は望めないことなどなど問題は山のようにあった。
しかし人類は愚かだった、結局は残っている核ミサイルの集中運用とダークストームで忌々しいロボットを潰してしまえると本当に思っていたのだ。
それをやるには、些か時間を与えすぎてしまった。
神の鎧と称されたAPUは空を飛び、それを迎え撃つのは国の盾として生まれたAPUだ。
ダークストーム散布中の爆撃機の領空侵犯が発端になり、最終的には国連軍機が撃墜されたことでアメリカは日本へと軍を差し向けた。
海上自衛隊に国連軍をぶつけ、その隙に肉薄した母艦から飛び立った国連軍APUはその小柄な体格に似合わず人間を軽くミンチに出来る機関砲を二門搭載していた。
しかしそれ以上の砲を構えて橋頭堡を確保させまいと迎撃するのが自衛隊にて配備されていたAPUだ。
機械軍が純戦闘用のロボットを生産するまで、大国のヘイトは稼いでおかなければならない。
国連軍APUと比べて動作の自由度が格段に広い自衛隊APUは戦闘を有利に進められた、機械軍からの技術提供は圧倒的なアドバンテージとなっていたのだ。
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「敵APU、海岸線の防衛網に浸透して来ています!」
「すばしっこい奴らだな、こちらの損害は?」
「作戦通り攻撃しつつ後退、砲撃を交えた遅滞戦闘の後に更に後退し敵を引き摺り出します」
「結構、相手が乗ってくれるといいがな」
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かつての友好国との関係は見る影も無かったが、生憎日本人はロボット達と親密になり過ぎた。
今更愛する家族となった彼らが無惨に処分されるというのは耐え難く、それくらいなら戦う道を選んでしまったのだ。
戦争が始まって3日、機械軍新兵器のセンチネルが配備され始める。
大量の触手とレーザーを備え、高い戦闘能力を持つ自律飛行兵器は瞬く間に戦線を押し返した。
一週間の内に100機程が日本への増援として派遣され、識別のために白で塗られたセンチネルを太平洋戦線では見ることが出来た。
既存の兵器とは全く違う異形さには皆が驚いたものの、戦場での活躍と装備を駆使した救命活動を見てまたもや手のひらを返すこととなった。
人類が地上から一掃され、既に地下でのゲリラ戦に徹する他なくなりつつあった戦争末期。
自衛隊は戦時中の憲法改正により日本軍と名を変え、核融合炉を搭載したホバークラフトにて掃討戦に参加していた。もはや日本は同じ人間を相手にしているとはいえ、後戻り出来る余地は存在しなかった。
莫大な電力を周囲に供給するホバークラフトを母艦としてセンチネルを集中運用し、地下空間を最小限の戦力で制圧できる。残存した国連軍にとっては悪夢以外の何者でも無かった。
この頃は既に戦後を見据えて機械軍はマトリックスの建造、日本はダークストームによって破壊された地球環境の浄化を念頭において活動していた。
その少し後に国連、というか人類が降伏した。
これによって日本以外に住んでいた人々は皆カプセルの中で一生夢を見ることになるだろう。
今や地上を失い、ただひたすら地上の浄化のため働き続ける残された人類よりも恐らく幸福なのではないか。
浄化装置を積んだホバークラフトが黒雲を吸い込み、有害物質だけを取り込みその他は排出する。既に12隻がこの任務についており、日本上空の雲を浄化し続けているがこのペースでは数百年かかるという話だ。
ホバークラフト建造については機械軍の縮小にて解体された兵器群の素材を使用しても良いということになり、追加で120隻を建造する予定である。
〇〇年後の現在、太陽は地上から観測可能。
24時間曇りが続いてはいるが、いつかは晴天が見られると信じて。
環境改善用ホバークラフトオペレーターより