想いを一つの輝きに   作:ミズキさんとこの大家さん

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初投稿です。
異世界転生?モノです。
一話から十一話まではストックしてます。
それ以降は不定期になります。
よろしくどうぞ。


ハジマリの地にて、彼女は歌う。

「アクアーーーッッッ!」

「「サーンッ、シャイーーーンッッッ!!!」」

 

 浦の星女学院スクールアイドルのAqoursは今、ライブ会場の裏手にいた。円陣を組んで、いつもの気合入れをする。曜の衣装に身を包んで、ライブの準備は万端。

 ここまで会場の熱気が伝わってくる。

 

「さあ、みんないくよっ!」

 

 千歌が、ぐっ、と扉を開けた。

 歓声が大きくなる。

 光。一人一人を照らす光が、収束。

 収束。

 

 そして、何も見えなくなった。真っ暗闇。

 

「えっ、停電?」

「ぴぎゃあっ!?」

「千歌ちゃん、そこにいるの?」

「梨子ちゃん!うん、いるけど……」

「声は聞こえるのに姿が見えないよ!」

「みんなーっ!果南ちゃーん!大丈夫ーっ!?」

 

 千歌は八人と会場の観客に、澄んだ声で呼びかける。いつもなら聞こえるはずのレスポンスが、全く聞こえてこない。聞こえるのはメンバーの、怯えたような返事だけ。

 

「果南さんっ、ご機嫌いかがですーっ?」

「ごめん、今はほんと無理……」

「だいぶヤな感じみたいネ……っ!?」

 

 ハグしようにも姿を捉えられず苦戦する果南を弄っていた鞠莉が、突然痛みに襲われた。その後もダイヤ、果南、曜、梨子、花丸、ルビィ、善子の順に頭痛を訴え始める。

 

「み、みんな!?どうしたの!?」

「千歌……!」

「あうっ……!?」

 

 ついに千歌にも痛みが回ってきた。数字で見ればほんの数秒の痛みだろうが、視界が真っ暗なせいで他の感覚が研ぎ澄まされ、数十秒、あるいは数分にさえ錯覚してしまうほどの痛みに襲われた。視覚さえ働いていればただの頭痛程度の痛みなのに。

 

そして、その数秒のうちに、まるで停電したかのように、九人全員同時に気を失ってしまった。

 

 

   ──ラブライブ!サンシャイン!!──

 

 

「──ちゃん、……かちゃん、千歌ちゃん!」

「ぅわはあっ!?」

 

 聞き覚えのあるお隣さんの声で、千歌は慌てて目を覚まして飛び起きた。怒っている感じではなさそうでほっと一安心。

 

「やーっと起きた……」

「えっへへへ……、そんなに寝てた?」

「わからない、私もちょっと前に起きたところだから……」

「なーんだー、梨子ちゃんも寝てたんじゃん!……ってあれ、ここどこ!?みんなは!?なんで制服!?衣装は!?」

 

 千歌の寝ぼけ顔が笑顔になったかと思えば、驚き戸惑う顔になった。あまりの騒がしさに、梨子はくすくすと笑い始める。

 

「梨子ちゃん!笑いどころじゃないよ!」

「そ、そうね、みんなを探さなきゃね」

「あ、やっぱりはぐれちゃってるんだ。夢あるあるだね」

 

 千歌はそう言ってあーっはっはっは、と朗らかに笑い飛ばす。

 

「……ほっぺたつねってあげるわね千歌ちゃん」

「いひゃい!……え?痛い?」

「そう、痛いのよ夢じゃないのよ!……この森も、この空も、私も、千歌ちゃんも、全部本物」

 

 梨子が冗談を言っているわけではないと察したのか、千歌はごくりと生唾を飲み込んだ。

 

「……私も最初は夢なんじゃないかって思ったよ」

「あはは、だよね」

「導入が前読んだうす……じゃない、小説に似てたからね」

 

 危うく口を滑らせかけたが何とか踏みとどまった梨子は、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「そんなことより、みんなを探さないと」

「梨子ちゃんみんながどこに居るか分かるの?」

「全く。……物で釣れないかな」

 

 魔導書もアメものっぽパンも制服も、残念ながら今すぐには手に入らなさそうだと断念。しかし、あてもなく知らない森を歩くのは、内浦育ちの千歌でさえもやはり物怖じしてしまう。

 ふと、彼女達の間を白い羽が一枚、ひらりと通り過ぎていった。風なんて吹いていないのに。

 まただ。そう思った。

 

 いつの間にか、二人は駆け出していた。

 ひらひらと舞う羽を追って、深い森の知らない小径を、いつものペースで、駆け出していた。

 舗装されていない獣道に足を取られ、呼吸を乱されながらも、ここで羽を見失ったらみんなに会えない、先に進めない、輝けない気がして。走る。

 

「梨子ちゃん梨子ちゃん!気持ちいいね!」

「うんっ!」

 

 ここまでは木漏れ日だけだった光が、少し先からは直接の日光になっている。拓けている証拠だ。さっきと違って優しく温かい光。

 

「おひさまの匂いがする!」

「えっ、わかるの?」

「……言ってみただけ」

「なーんだ」

 

 走り切った後の上気した顔でケラケラと笑い合う。そのまま、緑の草原に二人同時に倒れこんだ。

 額を伝う汗。必死に動く心臓と肺。どれもいつもの反応。夢じゃない事を改めて、実感する。

 一つ大きな風が吹いて、白色の羽が青い空へと舞い上がっていった。寝そべった体では掴めないと、届かないと分かっているが、千歌はその右腕をうんと伸ばした。あの日、梨子と触れ合おうとした時のように、ぐっ、と。

 

「そりゃそうだよね、届かないよね」

「……追いかける?」

「……ううん、いいや」

「……そ」

 

 多くは訊かず、多くは語らず。ここで訊いたら話したら、何か違うような気がして。

 二人は顔を見合わせると、また笑い合った。

 

「……行こっか、千歌ちゃん」

「うん!」

 

 あの羽がここまで導いてくれたのには、ちゃんと訳があるはず。千歌は自分にそう言い聞かせて、走り疲れた体に鞭打って、再び立ち上がった。あまり休んでいると果南かダイヤあたりに怒られてしまいそうで。

 

    ──ラブライブ!サンシャイン!!──

 

 だだっ広い草原をただぶらぶらと歩いていると、千歌が何かに気付いたように足を止めて、目を凝らして遠くを見つめ始めた。二、三歩先を行くことになった梨子も、三歩下がって千歌と同じように遠くを見つめる。

 

「……ねえ千歌ちゃん」

「んー?どしたの梨子ちゃん」

「あの光、なんだろ」

 

 梨子が指差した先には、確かに光が、そしてよく目を凝らすと、光とともに黒い煙が見えた。火事なのか、狼煙なのか。どちらにせよ、千歌の好奇心を掻き立てるには十分だった。

 

「行ってみようよ!」

「えぇ!?危ないわよ!」

「……あ、梨子ちゃん日和ってるんだ」

「な……!?っあーもう!」

 

 梨子を焚き付けその手を取って、千歌は再び走り出した。彼女の行動力にはいつも驚かされる。

 

「怒ってる?」

「呆れてる」

 

 何が起きるかわからない未開の地で好奇心の赴くままに動く彼女にも、それに煽られてついていってしまう自分にも。しかし、悪い気はしない。貴女とならどこまでも飛んでいけそうで、なんて歌詞みたいなセリフは吐けずじまい。

 そうやって考えているうちに、炎のすぐ近くまでたどり着いていた。川のほとりで焚き火をしているようだ。気づかれないよう都合よく生えていた茂みに隠れて、様子を伺う。

 

「……人?」

「……その横にいるのは」

「曜ちゃんと花丸ちゃん!」

 

 梨子の制止も虚しく、千歌は茂みから飛び出して、三人の元に向かっていく。

 あちらも気づいたのか、曜と花丸が顔を上げた。途端に二人の顔がぱあっと明るくなる。

 

「千歌ちゃん梨子ちゃん!ヨーソロー!」

「ヨーソローずら!」

 

 声量を抑えて、二人揃って敬礼。千歌と梨子もつられて小声でヨーソロー。再開を喜ぶのも束の間、話題は灯火に照らされながら眠る少年の話に移った。その子は、橙色の髪をした少年。中学生程だろうか、すうすう寝息を立てている。

 

「……ねえ二人とも、この子は?」

「落ちてたずら」

「落ちてた、って……どこに?」

「ほら、あそこに一本だけ木があるじゃん、あそこの下の祠の前に」

 

 あまりにも情報量が多く、語っている曜達でさえ混乱している。自分たちがなぜここにいるのかさえ分からずじまいなのだから無理はない。

 

「放っておくわけにはいかなかった、ってわけね」

「そーゆーこと」

「曜ちゃん、あれ、訊いてみるずら」

「ああ、そうだね花丸ちゃん」

 

 きょとん、と首を傾げる千歌と梨子の方に向いて、曜はこんな質問を投げかけた。

 

「二人とも、なんか変な力が湧いたりしてない?」

「……どしたの曜ちゃん」

「あの堕天使に何か吹き込まれたんじゃ……」

「善子ちゃんならやりかねないけど違うずら、なんかこう、ブワーって感じの力」

 

 文学少女らしからぬ表現だが、今はそれを気にしている場合ではない。いきなり宗教勧誘よろしくうさんくさい話をされて、千歌と梨子は戸惑いを隠せない。曜達もその反応は予想通りのようで。

 

「物は試しだよ、梨子ちゃん、空に向かってさ、ビーム撃ってみて」

「え、いきなりそんな、恥ずかしい……」

「いいからいいから!」

「良くないっ!」

 

 曜、千歌、花丸が期待の眼差しで梨子を見つめる。太陽にも負けないようなその澄んだ瞳は、梨子が諦めるのには十分だった。

 仕方なさそうにため息をつくと、真っ青な空に向かって叫ぶ。

 

「くらえっ、梨子ちゃんレーザービーム!」

 

 交差した腕から放たれた桜色の光線が、雲ひとつない真っ青な天を貫いた。

 

「「えっ」」

 

 少し遅れて、えええ、という四人の叫びがその光線の後を追った。

 梨子は腰を抜かして地面にへたり込んでしまった。尤も、自分の腕からビームが出て驚くなという方が無理な話、当然といえば当然の反応だが。

 

「りりりりり梨子ちゃん、な、何今の!?」

「わ、私もワケわかんないわよ!」

「こ、これは予想以上でありますな……」

「未来ずら……!」

 

 花丸の思い描く未来像が物騒な方向に傾いているのはさておき、演劇部顔負けな、期待通りのお約束な反応を見せてくれた。

 

「……これがその、変な力、ってやつなの?」

「ベースは同じだと思うずら」

「りとるでーもん?だからかなあ」

「千歌ちゃん……?お願いだからそれはやめて……?」

 

 恥ずかしいやら恐ろしいやらで、梨子は涙目になりながら千歌に泣きついた。満更でもなさそうな千歌は、彼女の頭をよしよしと撫でてやった。

 後で怒られそうな善子が心配だ。

 

「う、んーーー……」

「あ、起きたみたいずら」

 

 騒ぎに気づいたからなのか、ずっと眠っていた少年が目を覚ました。驚かせないよう、少しだけ距離を取ってから見守る。小学生並みに好奇心旺盛な千歌なら、引き止めない限り必ず話しかけに行くと分かっていたからだ。

 

「……誰?」

「こんにちは、お……、じゃない、私は花丸。怪しい人じゃないよ」

「……高校生?」

「そうそう!」

 

 寝ぼけている頭をなんとかフル回転させている少年に、花丸が優しく語りかけてあげる。初対面ながら敵意は感じられないのか、体は強張っているものの、話を拒んではいないようだ。

 

「ちょっ、千歌ちゃん、押さないでっ!」

「だーってー!気になるんだもん!」

「うんまあ……、予想はついてたよね」

「増えた……」

「千歌ちゃん……、我慢するずら」

 

 少年も流石にびっくりしたのか、高校生四人からじりじりと距離を取って、川沿いに立った。

 

「誰だか知らないけど、僕は先に行かなきゃならないんだ、放っておいて」

「……その怪我で?」

「こ、このくらい、お姉ちゃんの痛みに比べれば……!」

 

 花丸の言う通り、少年の体には、重症とまではいかないが、所々に擦り傷切り傷かすり傷があった。足の腫れ具合からすると、中に菌が入って化膿している可能性もある。確かにあてもなく先に行くのは危険だった。

 

「……お姉さんに何かあったの?」

「アンタには関係ない」

 

 少年は、若犬のようにぐるると吠えて、花丸たちを威嚇している。全く怖くはないが、少し物寂しい気になってしまう。

 

「……じゃあせめて、その傷を治療させて」

「いらない、……っ!」

「ほら、あんまり無理しちゃだめずら」

「……じゃあ、それだけ」

 

 花丸が少年の体に優しく手をかざすと、温かく優しい、白色の光が生まれた。少年も、ついでに二年生組も、思わず感嘆の声を上げる。

 即完治とまではいかないが、少年の傷はみるみるうちに癒えていき、やがて外傷はほとんどかさぶたになってしまった。

 

「……初めてにしては意外と上手くできたずら」

「……ありがと」

「どういたしまして!」

 

 梨子が実際にビームを撃てたように、曜のいういわゆる「変な力」が花丸にも働いているようだ。現に少年の傷を癒した事が何よりの証拠。

 

「そうだ、あ、名前聞いてなかった」

「コウキ」

「コウキくん、近くの町まで案内してくれない?」

 

 お節介からの、しかも初めての治療だったが、どうもお礼を言われて調子がいいようだ。普段なら遠慮してしまって自分から進んではお願いしない花丸が、素直に頼み込んでいる。

 治療してもらった手前、断るわけにもいかないのだろうか、少年、もといコウキは、年柄にもなく一丁前に引き受けてくれた。

 

「まだ残っていれば」

 

 と、コウキがそう意味深長な言葉を呟いた気がしたが、二年生は聞こえていなかったようで、花丸も気のせいだろうと風に流してしまった。

 

「それじゃあ近くの町を目指してー!全速前進!」

「「ヨーソロー!」」

「よ、よーそろー……?」

 

 ずっと放置されていた二年生が我慢の限界に達したのか、曜を筆頭にお約束の流れを始めた。大事なところを持っていかれた花丸は少し不機嫌そうに「敬礼!」とだけ返した。

 

「それじゃ、コウキくん道案内よろしくね?」

「……わかった」

 

 偶然出会った人間が土地勘のある地元の人であった事への幸運を最近お参りしたばかりの神田明神にお礼しつつ、Aqoursの四人と少年一人は改めて歩みを進め始めた。

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