想いを一つの輝きに   作:ミズキさんとこの大家さん

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前回のラブライブ!サンシャイン‼︎

 無事に千歌達と合流できたAqoursは、真っ暗な洞穴をひた進んでいた──。


輝きを恐れぬ少女と、強さを拒む少女と、見守るだけの彼女と。

「し、死ぬかと思った……」

「ぴ……、ぴぎぃ……」

「ずらぁ……」

 

 曜と鞠莉のロケットに乗って洞穴を飛び出した善子達は、その出口から数キロ離れた荒野に不時着していた。後ろの方、洞穴の方から千歌達が走って追いかけてきている。

 

「ま、鞠莉さ……、やり過ぎですわ!」

「だってー。ね、曜もそう思うでしょ?」

「えっ!?あ、うんそうだね!?」

「……曜さんも燃え上がってたんですの?」

「ゆ、誘導尋問でありますっ」

 

 恥ずかしいやらなんやらで、曜は善子の後ろに隠れてしまった。

 

「千歌も罪深いわねホント」

「ち、千歌ちゃんの事とは一言も言ってないよ善子ちゃん!?」

「ヨハネ。バレバレよ、アンタも、私も」

 

 背後から、千歌達が大きく手を振りながら向かってきているのが見えた。善子は曜の脇腹を肘で小突いて、迎えに行ってやるよう促した。

 がその横を紫が通り過ぎた。そしてその後を追うように、地面を紫色の炎が一条駆け抜けた。

 

「カッナーーーン!!!」

「あーはいはい、……ほら」

 

 勢いそのまま飛び込んでくる鞠莉を、果南は体全体で受け止めた。

 

「……行かなくていいの?ダイヤさん」

「あぇ!?わ、私は、別に……」

「……ヘタレばっかりずら」

「善子ちゃん含む」

「うっさい!」

 

 そうしているうちに、千歌達の方がどんどん近づいてきていた。

 しかし、その間をまた阻まれる。

 

「──ッ、千歌っ、そこで止まって!」

 

 右目を光らす善子の叫びを聞いて、千歌とその後ろの四人はその地点で歩みを止めた。

 次の瞬間、東の方角から斬撃が飛んできた。少し遅れて暴風、それに乗って重苦しい覇気がやってくる。

 

「……しつこいなぁ」

 

 コウキが歳不相応な文句を垂れた。しかしそれも無理ない。アレと対峙するのはこれで三度目。どうやら本気で逃す気がないらしい。

 

「でも、四天王の一角は崩せるわよね」

 

 梨子がそう呟く。アレとの戦闘を二度も経験していれば、嫌でも可能性が見えてくる。もちろん、必ず勝てる保証はないが、それでも。

 

「はあっ!」

 

 真っ先に動いたのは黒澤ダイヤ。善子以外の目にも止まらぬ動きで、気合い溜めの次の瞬間には雷の速さで敵を捉えていた。

 だが、敵もそう甘くない。恐らく目では追えていないだろうが、彼女が、ダイヤが来ると分かった瞬間、ほぼ反射的に守りを固めた。

 

「……流石は四天王、ですわねっ!」

 

 刀を弾かれたダイヤは、攻撃に使った導線を今度は逆走して、元いた位置に戻ってきた。どっ、と汗が吹き出る。

 

「も、物凄い威圧感……、気を抜くと持っていかれますわよみなさん」

 

 ごくり、誰からともなく固唾を飲んだ。

 

「ダイヤさんっ、右に避けてっ!」

 

 善子の指示の数秒後、ダイヤが居た位置に向かって敵が空から突っ込んできた。山の監獄で見せた居合一閃、太刀筋はそれと同じだった。

 敵の接近に伴って、Aqoursの緊張感が一気に高まる。ライブ前のそれと違ってあまり心地のいいものではないが、もはや慣れるしかない。

 肌が焼けるように熱い。周囲の空気さえも敵に威圧されて震えているせいだろう。

 三度も対峙しているのに、恐怖感が一向に拭えない。それどころか、今回が一番怖い、そんな気さえしてきた。

 

「千歌ちゃん……」

 

 四天王を倒せるかもしれない、なんて言って威勢の良かった梨子は、レイピアを持つ手を震わせながらそう千歌に話しかけた。

 

(私に振らないでよ梨子ちゃん!私だって……、私だって……!)

 

 対する千歌は何も答えず、心の中でそう呟いた。怖い、その一言だけを取り除いて。諦めの悪い彼女だからこそ、ここで弱音を吐いたらもう後がないとでも思っているのだろう。

 転機。

 一つ、大きく息を吸った。

 

「Aqoursーーーっっっ!!!」

 

 轟、荒野一帯に千歌の声が響いた。それは、敵の威圧感さえものともしない、むしろそれさえ圧倒するかのような、覇気。

 

「ごめんみんなっ!私のわがままに付き合って!──勝ちたい!」

 

 場の皆に、ぞくりと鳥肌が立つ。それを合図に、体の内側からゾクゾクするような力が湧いてくるのを感じた。

 

「ここで勝てないと、私達、輝けない!」

 

 背骨を伝うように、頭の天辺から足のつま先まで、暖かい力に包まれた。

 待ちきれず敵が動き出す。太刀を後ろに構えて、狙いを千歌に定めている。しかし、狙いを定めているのはソレだけではない。

 

「「千歌ちゃんの邪魔しないで」」

 

 桜色と海色の光線が、容赦なく敵の体を十字に貫いた。周囲への被害を抑えるために、銃弾ほどにまで圧縮した光線だ。たまらず敵はよろめいた。

 敵に狙われていた事にも、梨子と曜に助けられた事にも気づかず、千歌は再び口を開いた。

 

「だから、手を貸して!」

 

 瞬間、敵の体を紫の炎と深緑の木々が覆った。千歌が振り返ると、鞠莉と果南が二人してドヤ顔で決めポーズを取っていた。

 

「水臭いわねェ千歌っち!ダイビング終わりの果南みたい」

「訴えるよ本気で」

「ジョークよジョーク」

 

 一人だけ置いていかれたダイヤがいかにも不機嫌そうに二人の元に歩いていく。

 

「……貴女達、後輩にアドバイスするならちゃんとなさい」

「またまた〜、ダーイヤっ、お堅いですわ〜」

「ですわ〜」

 

 今にもダイヤの雷が落ちそうだがそれはさておき、どうやら力は貸してくれるらしい。

 

「ちょっと!先輩達ばっか盛り上がってんじゃないわよ!」

「そうずら!」

「千歌ちゃん!私達も頑張ルビィするよ!」

「僕もいるよーっ!」

 

 当然、一年生も。コウキは残念ながら少し離れたところで見学する事になったが、応援する気持ちは負けていない。少し離れたところからちゃんと声が届いた。

 

「みんなっありがとうっ!」

 

 二年生に関しては聞くまでもない。既に千歌の左右に我が物顔で陣取っている。それを知っての事だろう。

 邪魔くさい木の枝を払い除けて、敵が再び立ち上がった。恐らく先程よりも威圧感は増しているのだろうが、今の千歌達にとっては恐るるに足らなかった。

 その勢いのまま先陣を切ったのは、誰あろう高海千歌その人。どこから取り出したのかオレンジ色に光る剣を唸らせながら、一気に距離を詰める。迎え撃つ敵の怪しい刃さえ、今の彼女にとって障壁足りえない。むしろそれを利用して、彼女は敵の懐に潜り込んだ。その身のこなしはまるでステージ上の果南のように軽かった。

 

「いけるっ」

 

 ずばっ、という生々しい音と共に、彼女は敵の左腕を切り裂いた。堪らず敵は悶えるが、彼女の攻撃はそれだけでは終わらない。切り口が発光したかと思えば、次の瞬間爆発したのだ。当然、左腕は使い物にならなくなる。

 彼女が敵の反撃を恐れて距離を取るのと同時に、後方からAqoursメンバーの攻撃が続々と飛んできていた。たちまち辺りは砂塵に包まれる。

 

「みんな容赦ないんだねーっ」

 

 後方からの攻撃を視認する事なく避けながら、そう千歌がぼやいた。

 

「ちょっと千歌!未来視は私の!」

「ああこれ?合わせただけだよ」

「合わせた……?」

「空気のっ……、流れにっ!」

 

 ぱかーん、と、紙鉄砲のような乾いた音が響く。善子がその音がした方を見ると、千歌の光剣が敵の太刀をかち割っていた。

 

「ありえませんわ」

 

 驚いた勢いのまま攻撃を仕掛けるダイヤが、敵の脇腹を掠めた後にそう呟いた。

 

 

   ──ラブライブ!サンシャイン!!──

 

 

「そうだよ、ありえない」

 

 遠くで見守るコウキは、ダイヤの呟きを復唱した。しかしそれは、彼女のそれとは異なる驚き。そしてその声は、Aqoursの誰一人にさえ届かない。好都合だ。

 

「お姉ちゃんにも、あの人にも、あの力は使えなかった。それを千歌さんは──」

 

 無意識のうちに立ち上がっていた。高揚、武者震い。コウキは、少し先で繰り広げられている殺陣を前に、両の手を握り締めていた。

 いける。勝てる。千歌達なら。

 

「あと、あと一押しで……!」

 

 アレを倒せれば、一歩、囚われの姉達に近づける。その期待も責任も、全てを千歌達に委ね、コウキは胸の前で手を合わせた。

 その祈りは、想いは。

 

 

「今っ……、全力で!」

 

 千歌の光剣が、煌々と輝いた。ず、と刀身が敵の体に入っていく。水を掻くくらいの抵抗の後、彼女はそれを文字通り一刀両断に伏せた。誰の影響か、剣を何度か振って腰の鞘に戻す動きを入れて、仲間の元に戻る。輝きを失った剣は、一度光った後に霧散してしまった。

 敵の骸の半身は土屑に、半身は空へと昇っていく。攻撃の予兆、というわけではなさそうだ。つまり、千歌達の勝利。

 しかし、歓声は出なかった。皆千歌の強さに圧倒されて、声を出せずにいる。

 

「……えっへへへ」

 

 空を見上げている千歌の元に、真っ先に駆け寄ったのは曜だった。両手を広げて、がばっ、と抱きついた。

 

「凄い……、ほとんど千歌ちゃんが……」

 

 曜が千歌を抱きしめている間、梨子はまるでそれから目を逸らすように、かつての戦場を眺めていた。と言っても、戦闘の爪痕はほとんど残っていない。数少ない爪痕も、敵と、千歌以外のメンバーの攻撃によるものだけだ。千歌の剣戟は、跡さえ残っていない。

 そんな彼女の元に、曜に肩を借りている千歌がやってきた。梨子は、何かに驚いたかのように、びくりと体を震わせた。

 

「はぁ……、はぁ……、梨子ちゃん、はぁ、こ、こんな感じでどうかな?」

 

 ライブで三曲は通しで、それも多少の無茶をして歌った後のように息が乱れていた。

 

「ど、どう……、って……」

 

 梨子は、何と答えるべきか悩んでいた。なぜ自分に訊かれているかは分かっている。でも、答え方が分からなかった。

 

「……つ、強いね、千歌ちゃんは」

「……あっきれた」

 

 苦し紛れの一言は、あっさり善子に打ち消されてしまった。文句を言ってやろうとさえ思わないほど、筋が通っている。

 

「ありがとうお疲れ様くらいは言いなさいよ、違うかしら?」

「っ……」

 

 正直、気が動転していた。どうかしていた。敵の威圧感にも、千歌の覇気にあてられて。でも、善子に言葉を借りても、いまいち言葉が出てこない。

 そんな梨子に、千歌が歩み寄る。曜の肩は借りていない。疲労困憊の中、彼女の二、三歩手前で止まった。梨子は、もう一歩、後ろに引き下がる。恐らく、無意識、本能で。

 

「……怖い?」

「……えっ?」

「梨子ちゃん、みんな、私の事、怖い?」

 

 にっこり笑って、辺りを見渡した。

 

「な……!?そんな事ないっ!」

 

 梨子は慌てて彼女を抱きしめた。

 

「わぁビックリした」

「あっ、ごめん……。でも……!」

「うん、分かった梨子ちゃん。……ありがと」

 

 彼女は、その体を梨子に委ねて、そのまま目を閉じてしまった。よほど疲れてしまったのだろう、すぐに寝息が聞こえてきた。このまま支えてあげたいところだが、今の梨子は心身共にやられてしまっている。体力が有り余っている果南に代わりに背負ってもらって、梨子は地面にへたり込んだ。その目からは、ぽつりぽつりと涙が溢れだす。その背中を、曜が優しく抱きしめてやった。

 荒地にしては、珍しく、雨が降り始めた。

 

 

   ──ラブライブ!サンシャイン!!──

 

 

「千歌っち……」

 

 果南の能力で創り出した大きな木のうろで雨宿りしながら、鞠莉がそう呟いた。自分の膝を枕にして眠る千歌の頭を優しく撫でてやるその姿は、側から見たら聖母そのもの。偵察帰りのメンバーの反応も全員同じなくらいだ。

 

「梨子、ちょっとは落ち着いた?」

「果南さん……」

「ほら、果物採ってきたからさ、食べな?」

「姐さん……」

「うん、姐さんはやめてね」

 

 うろの奥の方で膝を抱えて塞ぎ込んでいた梨子に、果南が優しく声をかけている。梨子は、おそらく搾りたてのりんごジュースを飲み干してようやく落ち着いたようだ。ほぅ、と小さく息を吐いた。そんな彼女の視界の隅に、ぐっすり眠る千歌が映った。しかし、恐怖心からか罪悪感からか、未だに千歌の顔を見れない。それを気に病んでか、彼女はまたも震えだした。

 

「ごめん……、千歌ちゃ……、うくっ……、ふ、ごめっ、ごめんなさいっ……」

 

 そんな彼女を、果南は優しく抱きしめた。何を話すでもなく、その背中をさすってやりながら、静かに。今回ばかりは鞠莉も嫉妬しないでくれるだろうと、一抹の不安だけ胸に抱いて。

 

「えっ……、と、よ、曜さんも私に甘えてくれてもいいんですのよ?」

「えっ?あ、うん、そうするよ」

「……え?あ、一瞬断られたのかと……」

 

 一方手持ち無沙汰なダイヤは、恥ずかしそうに曜にハグをけしかけた。曜はというと、半分押し倒すようにそれに応えてやった。

 

「……まーた二、三年生だ」

「善子ちゃん、嫉妬してるの?」

「出番と梨子ちゃん両方取られて悔しがってるずら」

「ああ、なるほど」

「うっさい!ってかコウキもそれで納得してんじゃないわよ!」

 

 出口付近に追いやられた年少組は、別にハグする事なくいつも通り戯れていた。が、善子がふと何かを思い出したかのように、やけに神妙な面持ちでコウキの方を向いた。

 

「……納得といえば、千歌のアレ、アンタ詳しく知らないの?」

「……知ってる」

「……そうよね」

「まるで尋問ずら」

「年下相手に大人げないよ善子ちゃん」

 

 自分でも認めているのか、花丸とルビィに反論もせず、彼女は黙ってコウキを見つめている。油断したら吸い込まれそうな瞳に魅入られて、彼は仕方なさそうに口を開いた。

 

「あれは、世界を書き換えるに等しい力」

「何それカッコいい!ってかずるい!」

「……コウキくん、この堕天使はほっといて続けて良いずらよ」

 

 彼は首を縦に振って話を続ける。

 

「千歌さんの思い描く通りの事が起きるんだよ、……もちろん、あの力をうまく使いこなせれば、の話だけど」

 

 いつの間にか、曜とダイヤ、梨子と果南まで話の輪に加わっていた。鞠莉も「ちゃんと聞いてるわー」と奥で手をひらひらさせている。

 

「千歌さんって作詞担当だよね」

「うん」

「……作曲は、梨子さん」

「……えっ何、また私強くなっちゃうの?」

「めちゃくちゃ嫌そうねリリー」

 

 彼がそれを確認したのも、ちゃんと意味があるのだろう。千歌も梨子も、Aqoursとしての歌に携わる人、というか、何かを生み出せる人。

 

「じゃあほら、そういう事ならリリーって曲だけじゃなく毎年夏と冬に……」

「よっちゃん?灼くわよ」

 

 善子が茶化してやろうと冗談混じりで提案しかけたが、これ以上話してしまうと無事では済まないだろうと、あえなく中断。

 

「……私はもうちょっと普通に生きたいのよ」

「「無理でしょ」」

「そんなぁ……」

 

 眠りこける千歌以外の全員から否定されてしまって、彼女は膝から崩れ落ちた。

 

「でも、良かったんじゃない?」

「……え?」

「千歌ちゃんと同じ力だよ」

 

 偽りの笑顔と共に、曜がそう呟いた。自分の力に納得がいっていない梨子を励ましたいのだろうが、今の彼女にとっては逆効果。

 

「……そうだ、同じ力だから……」

「あっ待って梨子ちゃんごめんそういうつもりじゃなかったの!」

「……無駄よ曜、一歩、遅かった」

 

 曜の声にもはや耳も貸してくれない。

 

「私が、私自身を怖がってるから……」

 

 同じ力を持つ千歌をも拒んでしまった。本能だなんて言い訳までして。

 梨子はその勢いのまま、木のうろを飛び出した。むしろ激しさを増す雨の中へ。

 その後を追おうとする曜だが、しかしその行手を紫に光る妖しい炎が阻んだ。

 

「……曜、ストップ」

「なんっ……で、止めるの鞠莉ちゃん!私のせいで、梨子ちゃんが……!千歌ちゃんが……」

「一回頭冷やした方が良いわよ、あの子も、曜、あなたも」

 

 喧嘩を売られた犬のように依然暴れようとしている曜の前に、今度はダイヤと果南が立ち塞がった。

 

「曜、私からもお願い。……止まって」

「っ……、果南ちゃんまで……!」

「二の舞を踏むのはライブだけで十分ですわ」

「二の舞……、あ、いや、そういうこと……」

 

 三年生が揃いも揃って申し訳なさそうに笑った。曜は力が抜けたようにへたり込んだ。またも巻き込まれる一年生とコウキは、仕方ないな、と言いたげな表情をしている。

 

「そういえばコウキくん、さっき、『あの力を上手く使えれば』って言ってたよね」

「うん」

 

 花丸の問いを受けて、善子と曜の顔からさーっと血の気が引いた。もちろん梨子の心配をしている。今の彼女は、あまり精神的に良くない状態にある。つまり、あの力を上手く使えない可能性がある。

 

「……上手く使えなかったらどうなるずら?」

「……ごめん、分からない」

「分からない、って、アンタいかにも知った風な事言って──、いや、ごめん、忘れて」

「……そう、言ったよ。世界を書き換えるに等しい力だって。思い描いた通りの事が起こせる力だって。だから、分からないんだよ、僕にも、みんなにも」

 

 コウキの言葉を聞き終わった瞬間、善子はうろを飛び出した。何かが起こる前に、手遅れになる前に梨子を止めるつもりだろう。

 

「ずら丸!ルビィ!手ェ貸しなさいっ」

「しょーがないずら」

「そうだね花丸ちゃん、しょーがない堕天使だよホント」

 

 三年生も、曜も、コウキも、誰も止めなかった。と言うより止める必要がなかった。

 

「曜っ」

「なーに鞠莉ちゃん」

「千歌っち、任せていいかしら?」

「えっ!?あ、うん、分かった……」

 

 今までずっと座っていた鞠莉が立ち上がった。千歌の膝枕役を曜に押し付けて、自分は果南とダイヤを引き連れてうろの出口へ。

 

「理事長として、生徒だけの行動は見逃せないからねェ」

「そうです生徒会長としても見逃せませんわ」

「……ダイヤはルビィちゃんが心配なんでしょ」

「なんでバレてますの!?」

「「分かりやすいから」」

 

 今にも怒りそうなダイヤを連れて、先輩達も雨の中へと消えていった。

 お世辞にも広いとは言えないうろの中で、曜と千歌は二人きりになってしまった。しん、と静まり返る内側と違って、外からは葉に打ち付ける雨の音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

「みんな行っちゃったよ、千歌ちゃん」

 

 他人の気も知らないでぐっすりと眠りこける千歌の髪を優しく撫でてやると、彼女はくすぐったそうに笑みを浮かべた。何も考えられなくなるその愛しさに押し潰されそうになる。

 

「……私、どうするのが正解だったんだろ」

 

 曜は目の前の可愛さから目を背けるように外へと目線を移し、ぼんやり、雨の降る荒野を見つめている。もちろん返事なんてない。

 無情にも雨は、その勢いを落とす事なく降り続いている──。

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