ライブ中に頭が痛くなったと思ったら何故か知らない世界に飛ばされてしまったAqours!梨子ちゃんと一緒に走ってたら曜ちゃん花丸ちゃんと再開できたけど、謎の少年と謎の力が待ち受けていて……!?
草原を進む橙髪の少年と、それに続く女子高生四人。なんとも不思議なパーティ編成だが、運良く巡り合っただけの寄せ集めなだけだから仕方ない。
「ねえコウキくん、近くの町までどれくらいかかるの……?」
「ここからだと……、あと三十分くらい」
「ずらぁ……」
早くも疲れてきたのか、花丸が弱音を上げた。九人でAqoursを続けて久しいが、それでもやはり体力には自信がないようだ。森を抜け草原を駆けてきてなお余裕そうな千歌と梨子がおかしいのかもしれないが。
「このペースで行かないと、着く前に日が暮れちゃうからな」
「……わかったずら」
といいつつ誰の肩を借りる事もなく早足で進めるあたり、やはり成長を感じる。以前はあの神社の階段すら登れていなかったのに。
「花丸ちゃん、成長したんだねぇ」
「千歌ちゃんたち、みんなのおかげずら」
にぱー、と太陽のように眩しい笑顔を向けられて、二年生三人は思わず怯んでしまった。
身内で盛り上がっている間にも、コウキはどんどん先に行ってしまう。少し開いた距離を駆け足で詰めて、ひたすらだだっ広い草原を、山脈方面に進み続ける。
「コウキくん、脚は痛くない?」
「え、あ、うん。全く。……凄いんだね」
「いやあ〜、それほどでも〜」
実践したのが初めてにもかかわらず、痛みさえ取り消せるという花丸の回復魔法。それに関しては千歌たちも不思議に思っていた。
「花丸ちゃん、よくあそこで試してみようって思ったね」
「梨子ちゃんも一緒ずら」
「あ、あれはだって、知らなかったから……」
「曜ちゃんも知ってたよね!?」
「うん!多分千歌ちゃんも出来るんじゃないかな」
魔法、と表現するのが最も適切であろう、いわゆる変な力。原因も仕組みも全く不明なので、梨子の言う通り実践にはそれなりの覚悟が必要になりそうだ。
「でも、よく治療の力をすぐ使えたよね」
「あああれは、あそこに着くまでに何回か、偶然だけど使ってて、それで分かっただけずら」
「最初見た時はびっくりしたよー!転んだ花丸ちゃんが白い光に包まれちゃうんだもん」
「それは内緒ずらーっ!」
便宜上、この世界に生まれた時から、と表現しておくが、その時から魔法の力は備わっているのだろうか。もしその説を立てるのならば、転んだ花丸が、無意識ではあるが自分自身に治療魔法をすぐ使えた事が動かぬ証拠。
「偶然、魔法に詳しい知り合いが居たからなんとなく感覚で……こう!って」
「あら、私にもいるよそんな知り合い」
花丸と梨子で、その知り合いがよくしているポーズをぎらん!と決めたあと、互いに顔を見合わせてくすりと笑う。なるほど、と言わんばかりの表情になる千歌と曜も、つられてぎらん!コウキの冷めたような視線が体を貫いていく。
「……なんか、焦げ臭くない?」
そのまま二十分近く歩いていると、千歌が匂いに気づいて顔をあげ、その場に立ち止まった。
「……特に変な匂いはしないわよ、千歌ちゃん」
「ううん、あっちから確かにしたもん」
「あっちには、僕たちが目指してる町がある……」
「急がなきゃ。全速前進!ヨーソロー!」
曜が地面に手をかざすと、とても豪華とは言えないが、六人ほどは乗れそうなボートが現れた。水などどこにもないのに、それは地面にぷかぷかと浮かんでいた。何処に隠していたのか、水兵帽を被った曜が皆を急かして船に乗せた。
「すっごーい!船だーっ!」
「長い距離は進めないけど、速度は出るよ!」
「だから最初からは使わなかったのね」
「曜ちゃんには是非とも成長して最初から使えるようになってほしいずら」
「……人、逃げてるといいな」
コウキの悲痛な思いは、本格的なエンジン音に掻き消されてしまった。ただ花丸だけが、不安そうに少年を見つめる。
どどどど、とロマン溢れる鳴き声と共に、曜のボートは草原を駆け抜ける。髪が、制服が、風を受けてバタバタとはためいている。現実世界で感じる感覚と遜色なかった。
──ラブライブ!サンシャイン‼︎──
コウキが示す町がある場所に近づくにつれ、焦げ臭さが梨子達にもわかるようになってきた。そして、それに伴って、燻ったかのような黒い煙が上がっているのも確認できる。間違いない、と、体から血の気が引くのを感じた。
波止場に停泊させて錨を下ろすのももどかしく、全員町の入り口で船から飛び降りて、そのまま町の様子を確認しに行く。
「これは……」
「酷いわね……」
「……壊されてから、三日くらいは経っているであります!」
「……曜ちゃん、何してるずら……」
「名探偵曜ちゃんでありまーす!」
どこから持ってきたのか探偵の衣装に身を包んだ曜がそうやって叫ぶ。瓦礫や炎の具合から判断するに、彼女の憶測はあながち間違いではなさそうだ。
「……コウキくん、これは……」
「……魔王軍の仕業だ」
どこかの堕天使が反応しそうな単語だが、コウキの目、口調は至って真剣。子どもの悪戯で物を言っているわけではなさそうだ。
「この世界は、ずっと魔王様に支配され続けてる。この町は、貢物をしなかったとか、逆らったとか、単純に整地したかったかでこうなっちゃったんだと……」
「なにそれ!すごく理不尽だよ!」
「……分かってる。分かってるよそんな事は!」
正義感の強い千歌が思わずこぼした感情に、コウキも思わず食ってかかった。驚いたのか、千歌は反射的にびくりと体を震わせた。
「……ごめん、驚かせちゃって」
「ううん、大丈夫」
「……理不尽なのは分かってる。でも、逆らったら、この町や、お姉ちゃんみたいに……」
コウキはそう口にして、はっ、とその口を押さえた。少しだけの付き合いだが、目の前の高校生達の好奇心はとうに把握済み。すぐに話をさせられると思ったのだろう。
「辛い事を聞き出すほど、私バカチカじゃないよ」
心を見透かされたようで、コウキは少しだけ悔しくなった。が、それと同時に有り難くも思えた。
「……お姉ちゃんみたいだ」
「私が!?ほんと!?」
「そういうところも」
姉に似た千歌の前で緊張が解れたのか、コウキは少年らしく笑った。千歌以外もつられて笑う。千歌は不服そうに頬をぷくー、と膨らませていた。
「……ようやく笑顔見せてくれた」
「……僕にも感情くらいあるよ」
花丸は嬉しそうにくすりと笑った。人見知りな知り合いがいる彼女だからこそ、コウキの笑顔の価値を理解できるのだろう。
微笑ましく思っていた千歌が、ふと、少し前に体育でやったばかりの、空手の構えをとった。
「……誰かいる」
「ちょっとやめてよ千歌ちゃん」
「……ううん、幽霊とかじゃなくって、誰か、何かがいるの」
「私には分からないけど……?」
梨子がその後ろに控えて同じく臨戦態勢をとるが、千歌と違って腰が引けている。苦手な犬を相手にしている時のようだ。
「人間かどうか分からないんだし、確かめるのはやめとこう?」
「コウキくんもいるし、何より私たち、いざという時戦えないよ千歌ちゃん」
梨子と曜が、好奇心怪獣に必死に呼びかける。彼女達の言う通り、全く知識がない状態で見知らぬ誰かと遭遇してしまうのはあまりに危険。
流石に分かってくれたようで、千歌は歩みかけていた足を踏みとどめた。その代わり、かつて一つの家が建っていたと思われる場所に赴いて、小さな瓦礫に手を伸ばした。その瓦礫を持って俯いたまま、ぼそりと呟いた。
「……ここに住んでた人達、大丈夫かな」
「……分からない。逃げたのかもしれないし、それとも……」
コウキを中心に、重苦しい雰囲気が漂い始める。廃墟となった町も相まって、空気が澱んできた。
「なんで他人の事を心配できるの……?」
「え?」
「千歌……さん達だって、この世界の事何も知らないのに、なんで」
「……そういう人なんだよ、千歌ちゃんは」
他人のため、学校のため、自分以外の何かのためなら、自分の身を犠牲にしても、周りを巻き込んでも、がむしゃらに突き進んでいくのが彼女、千歌だ。普通な自分が、今その瞬間何が出来るか、何をやれるか。勢いだけでやり遂げようとするのが。
だから。
「だから付いて行こうって」
「やってみようって」
「えっへへへ、なんか恥ずかしいなぁ」
やっぱりお姉ちゃんみたいだ、という言葉を、コウキは口に出さないまま、「なるほど」とだけ返事をしておいた。
彼には、目の前の高校生達が何者なのか、名前と掴みの性格しか分からない。しかし、姉とその友達に似たような何かは、確かに感じていた。根拠なんて全くないけれど。
「何はともあれ、私達以外にも誰かいるって事ね」
「いざとなったら梨子ちゃんのビームで……!」
「それはいや」
警戒するに越した事はない。明るいお化け屋敷に入っているかのような緊張感を身につけて、五人はとりあえず町の出口を目指して歩みを進めた。
やはり、誰かいる。それも一人ではなく、二人か、それ以上。常に千歌達と一定の距離をとりつつ、恐らく町の出口を目指して進んでいる。しかし、それに気づいているのは千歌だけのようで、側から見ると他所を向いている風にしか見えない。
そのまま馬車の轍でできた道を進む事五分。二つ並んだ物見櫓の跡のようなものが見える。
「あれが出口だよ」
「コウキくん待って、誰かいる」
彼を庇うように四角の陣形を取り、その誰かとの邂逅に備える。ライブのフォーメーションを作るより、ずっと楽な配置だった。
「誰だーっ!」
「武器を捨てて出てこないと、梨子ちゃんビームが火を吹くぞーっ!」
「やめて曜ちゃん」
四角の上辺を司る千歌と曜が、後ろの梨子を砲台に、子どもの演技のような脅しをかける。
「くっくっくっくっ……!」
なにやら聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。粗方予想はついているが、面白そうなので少しだけ様子を見てみるようだ。
「異界の地にまで付いてくるとは、私の信者もよほど敬虔のようだな!リトルデーモン達よっ!」
白い目で見られて、少しだけたじろいだ。
「……何してるずら、善子ちゃん」
「軽々しく私の真名を呼ばないでくれる!?」
「私達に会えて嬉しいのは分かるけど、照れる事ないじゃない、善子ちゃん?」
「だからヨハネよっ!」
「「っ……!!?」」
善子はそう言って右足を力強く地面に叩きつけた。瞬間。千歌達は全員宙に舞っていた。
突き上げられるような感覚を認識した時には、既に地面に足は付いていなかった。そのまま上昇する事五メートル。
「おお……、おお!おおおおお!!!」
善子は実験に成功した科学者のように、万歳三唱で喜んでいる。が、落下の事は頭にないようだ。
「善子ちゃん?危ないからやめよう?」
高笑いする彼女の側を、小さな影が通り過ぎた。
「ふんば、ルビィ!」
落下してくる五人を、ルビィが生み出したふわふわの綿菓子が受け止めた。誰にも怪我一つない。
「善子ちゃーん?ずいぶん元気そうねぇ」
「……あ、えっと、これはその」
鬼気迫る形相で梨子が善子を叱っている間に、千歌達はルビィとの再開を喜んでいた。一方、放ったらかされていたコウキは何が何やら分からず、とりあえず花丸の横に付いている。
「……また増えた」
「ぴぎゃあっ!?」
「あー、移動している間に話すね、二人とも」
状況が飲み込めないコウキと、極度の人見知りなルビィが、花丸を挟んで身を隠そうとする。何故か壁の役を演じる事になった花丸は、仕方なさそうに二人を引き離して、そう伝えた。
少し離れたところから、落ち込んだ顔の善子と、どこか清々しい表情の梨子が戻ってきた。
「やっ……てしまった……」
「次似たような事やったら灼くからね」
「……今のリリーが言うと冗談に聞こえないわ」
しっかり反省した善子もパーティーに参加したところで、千歌が次の目標について話をしたいと言い出した。
「善子ちゃん達には会えたけど」
「ヨハネっ」
「町がこんなになってちゃ休憩もできないよね」
千歌は、何も語らずコウキの方を見た。視線に気づいたコウキは、一つため息をついてから。
「……次の町まで案内しろって?」
「そうそう!約束はここまでだったけど、君一人こんなとこに置いていくわけにはいかないし、私達は土地勘ないし?」
お互いWIN-WINの関係というわけ、と付け加えて、太陽にも負けない明るい笑みを浮かべた。
彼女の表情に姉を重ねたコウキは、どうにも悪い気がしないようで、二つ返事で案内を引き受けた。
──ラブライブ!サンシャイン‼︎──
「……それにしても、花丸ちゃん達一年生は変な力使いこなせてるみたいだよね」
「千歌ちゃんと梨子ちゃんが出し惜しんでるだけずら」
「……あれは惜しんでもいいや」
道中、ふとそんな話になった。千歌が不思議そうに一年生組を見やると、善子を筆頭に満更でもなさそうな顔が帰ってきた。あははー、と適当に手を振ってやり過ごした。
どこか遠くを見るような目で梨子がため息をついた。門外不出の本同様、あまり触れられたくはない話なのは間違いない。
「でもさ千歌ちゃん、これもスクールアイドルとか水泳とかの練習と一緒だと思うよ」
「……使わなきゃ慣れないし、上手くならない」
「……私達、何目指してるの?」
「当然!この世界を……いやなんでもないですごめんなさい」
サーフボードを適当に乗りこなしている曜にそう諭されるが、梨子の言う通り今の彼女達には目標がない。あるとしても、この世界から抜け出せたらいいな、なんていう漠然とした目標くらい。そう思えば、世界を見据える善子もあながち間違ってはいないかもしれない。
「コウキくんは、何が目標?」
花丸は、小学生に将来の夢を聞くような、その程度の単純な質問を投げかけた。
「……お姉ちゃんを助けたい」
しかしその返事は、やけに具体的な目標だった。千歌に似ているという彼の姉は今。
「お姉さんを?」
「僕のお姉ちゃんは、魔王軍に捕まってる」