想いを一つの輝きに   作:ミズキさんとこの大家さん

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前回のラブライブ!サンシャイン‼︎

 異世界で出会ったコウキくんと町を目指す千歌達だが、魔王軍のせいでそこは廃墟となってしまっていた。善子ちゃんルビィちゃんと再会したが、先行きはあまりにも不透明で──。



金剛石、翡翠石。

「お姉ちゃんが、魔王軍に……?」

「千歌ちゃん、あんまりいい記憶じゃないだろうし無理に訊くのはやめておこう?」

「……うん、そうしてくれると嬉しい」

「そっか、ごめんね、変なこと訊いて」

 

 梨子に諭された千歌を一瞥して、コウキはどこか神妙な面持ちで遠くを見つめ始めた。ぼうっとしているのか、それとも何かを見ているのか。花丸は試しにその視線を辿ってみたが、別に目立つような何かあるわけではなかった。しかし、あの方角に何か引っかかるもの、──おそらく彼の姉がいるという事は、あくまで憶測だが理解できた。

 

「お姉ちゃん達も強かったけど、魔王様はそれよりずっと強かった」

 

 花丸は、コウキがぐっ、と右手で握り拳を作ったのを見逃さなかった。決して大きくはない手で。姉達を助けたくても助けられなかった手で。

 場がしん、と静まり返る。

 

「この堕天使ヨハネを差し置いて魔王を名乗るとは、なんたる冒涜っ!」

 

 魔王、魔王とその単語を聞くたびに疼いていた善子が、とうとう心の内を打ち明けた。彼女が冒涜されているかはさておき、魔王に文句を言いたいのは千歌達も同じなようで。

 

「私達は、まだ戦ってないよ」

 

 千歌はコウキの手を取って、彼の青色の瞳を正面に見据えながらそう言った。何を言いたいのか分からない、と言いたげなその目から、依然彼女は目を離さない。

 梨子達残りのメンバーは、お互い顔を見合わせてくすりと笑った。一度決断したリーダーは、もう止まらないと知っているから。

 

「私達みんな、何もせずに指を咥えて待ってるのは苦手なのよ」

 

 梨子が、千歌の手の上に自分の手を重ねた。

 

「今回はゼロじゃないから、なんだって出来る気が、ううん、やれる気がするんだよね!」

 

 さらに曜がその後に続く。手を目一杯に広げて、梨子の手の上にかざした。

 

「私達もちゃんといるんだから忘れないでよね」

「きっと伝わってるずら、善子ちゃん」

「ヨハネよ!」

「ルビィ達ならきっと大丈夫だよね!」

 

 一年生組も、順番に手をかざしてきた。

 

「でも、なんで会った事もないお姉ちゃん達のためにそこまで……」

「コウキくんのお姉ちゃん達も、立場が違ったらきっと同じ事してたんじゃないかな」

 

 コウキは、既に何度か、お姉ちゃんみたいだ、と千歌に向けて呟いたのを思い出した。理屈はわからないけれど、どこか似たような気配を感じる。だからこそ、千歌の発言には、はっと気付かされる所があった。

 

「ね?」

 

 千歌はいひひ、といたずらに微笑んだ。

 やはり似ている。

 

「と、言うわけだからみんな、頑張ろー!」

「……ほんと、千歌ちゃんらしいわねそういうとこ。でも、嫌いじゃないよ」

 

 梨子は優しい目で千歌を見つめてそう言った。そう、あの海岸で初めて会った時から何も変わらない。

 

「そうと決まれば、次の町まで全速前進!よーしこー!」

「何よそれ!ってかヨハネ!」

「「よーしこー!」」

「ずら丸とルビィまでー!んもー!」

 

 コウキによるともうすぐ次の町に到着するらしく、曜はまたも船を手配して、その舵を握った。ぶつくさ文句を言う善子も、危うく置いていかれそうになって慌てて乗り込んだ。

 草原を一艘のボートが駆け抜ける。

 

「凄いなぁ……」

「私達、自由が取り柄だから……」

 

 花丸に独り言を拾われたコウキは、少し照れ臭そうにはにかんだ。

 あまりにとんとん拍子に話が進むから、巻き込まれる側は堪ったものではない。しかしそこでいちいち喧嘩していたら、何処かの三人のように二年も口を聞かなくなってしまいそうで。

 そうやってしばらく談笑していると、突然体が大きく右に傾いた。何かにぶつかったような衝撃はなく、逆に何かを避けようと左折したようだ。怪我人も外に放り出される人もいなかったのが幸いだが。

 

「曜ちゃん!?」

「ごめんっ、でも、あれは……」

 

 曜と、そして恐らく第一発見者であろう千歌が指し示した先では、明らかに魔法のエフェクトを伴った戦闘が行われていた。

 片方は赤黒い稲光のようで、もう片方は瑞々しくもどこか仄暗い森の緑。比較的広範囲に及ぶそれは、今千歌達が目指している町の手前で繰り広げられていた。航路では直線で結んでいたため、判断を誤れば巻き込まれていたところだった。

 船を降りて迂回しようという話が、当然ながらすぐに出た。反対の声はない。その筈。

 

「……おねいちゃん?」

 

 しかしルビィは、ぼそりとそう呟くなり、引き寄せられるように戦場に向かっていく。引き留めようとするメンバーを振り切って、たった一人でどんどん進んでいく。

 綿菓子状の何かを、恐らく無意識で噴き出しながら進んでいくせいで、後続はそれを掻き分けながらついて行くしかなかった。

 

「この姉妹は、ほんとにもう!」

「善子ちゃん、嫉妬ずら?」

「な、何言い出すのよずら丸!あとヨハネ!」

 

 怒っているのか照れているのか、善子は顔を真っ赤にしてぶーぶー文句を言っている。そんな後輩を横目に、千歌達二年生は笑いながら綿菓子の海を超えていく。草原を走れる曜の船も、流石にこの海は越えられないだろう。

 次第に、戦場に近づいてきた。

 

 

   ──ラブライブ!サンシャイン‼︎──

 

 

 雷と森の音が次第に大きくなってくる。それに伴って、空気が急に重くなった。

 しかし尚もルビィは歩みを止めない。成長したと言えば聞こえはいいが、恐れ知らずと言うか身の程知らずと言うか。

 

「ルビィちゃーん!これ以上は流石に危ないよ!」

「大丈夫だよーっ」

 

 曜が呼び止めるが、やはり止まらない。

 

「ほんとにダイヤさんがいるのーっ!?」

「うんっ、そんな気がする」

 

 風が強くなってきた。髪や服がばたばたと翻る。

 それでも進むルビィに対して、恐らく射程圏内に入ったのだろう、雷と森の息吹、それぞれの一部が飛びかかってきた。背後から彼女の名を叫ぶ七人の声、その気配だけがする。雷鳴と葉音に掻き消されて、音自体は届いていない。

 魔法が飛礫となって次々と飛んでくる。何も身にまとっていない彼女にとっては、一撃だけでも致命傷になり得る。しかし彼女は、先程と同じ綿菓子状の何かで、雷も落ち葉も、その攻撃全てを防いでいる。さしずめコットンガードと言ったところか。

 異邦者の侵入に気づいたのか、嵐が止んだ。その中心にいた、ルビィ曰くダイヤと果南が意識的に止めたのだろう。宙を舞っていた砂塵が、雨となって降り注ぐ。

 

「ルビィ……!?」

「ルビィちゃん!?」

 

 ルビィの予想通り、彼女の姉ダイヤと、その幼馴染の果南がいた。慌てて二人が駆け寄ってくる。幸い二人にもルビィにも外傷はなさそうだ。

 

「二人とも、あれだけ魔法撃ち出して何してたの?また喧嘩?」

「魔法?何のことですの?」

「喧嘩はまあ……してたけど」

 

 ダイヤは、少し怒気を孕んだ妹の言葉に質問で返した。ダイヤと少し距離を空けている果南も、いまいちルビィの言うことが理解できていないようだ。しらばっくれている風には見えない。

 すっかり落ち着いた古戦場に、千歌達も遅れてやってくる。ルビィが言っていた通り、ダイヤと果南がいた事に驚く素振りを見せるが、雰囲気に圧倒されて声はかけられなかった。

 

「あの大きさの魔法、僕も初めて見た……」

「あら、千歌さん、その子は?」

「えっと、コウキくんの事も含めて町で話そっか。鞠莉ちゃんは?」

 

 花丸の後ろに隠れているコウキに気付いたダイヤが声をかけるが、千歌に遮られた。彼女が、先ほどから探しているのに見当たらない鞠莉の名前を出した瞬間、ダイヤの肩がぴくりと震えた。

 

「……それも含めて町で話しましょう、千歌さん」

 

 妙に勘が冴えている千歌と、妹のルビィ、そして、ダイヤが艶ぼくろを掻く癖の意味を知っている果南には、当然怪しまれてしまった。

 彼女は何とか平静を保ちながら、ひとりでに町に向かって歩み始める。果南がその後に続くが、やはりある一定の距離を取っている。

 

「ルビィちゃん、あの二人、どうしたの?」

「曜ちゃん。……また喧嘩したって」

「……なるほどね」

 

 呆れたため息をつきながら、曜とルビィ、その後ろに千歌達も続く。彼女達には似合わない、何とも不穏な雰囲気が漂い始めた。

 

 

    ──ラブライブ!サンシャイン!!──

 

 

 一つ前に訪れた町と違って、ここの町には城壁がない。それ以前に、町と呼べるほど家屋が建っていない。村、あるいは集落と呼ぶ方が適切だろうか。整備されていない石畳の道を中心に、畑、家、畑畑家と、家屋は点々と存在しているだけだった。が、そのような村の構造は幸いにも、果南達の魔法による被害から逃れられたようで、二人はほっと胸を撫で下ろした。

 ふと、村の奥の方が騒がしくなる。と言っても騒ぎが聞こえたのは千歌のみだが。人が居るのだろうと、騒ぎのする方へと早歩きで進み始めた。引き留める事に失敗した梨子達も、慌ててその背中を追いかける。好奇心旺盛というか命知らずというか。

 そして彼女達が向かっている騒ぎは恐らく、見知らぬ人間の来訪に対するもの。この世界が日本であれば、急な戦いは始まらないだろうが、生憎ここはきっと、慣れ親しんだ母国の地ではない。住人の性格も、異邦者への扱いも全く分からない。急な戦いが始まらない、と断定が出来ない。

 

「私も、無闇矢鱈に突っ込もうとは思ってないよ」

 

 皆の考えを見透かしたかのように、千歌が振り返ってそう呟いた。石畳に引っかかって転げそうになるが何とか耐えて、恥ずかしそうに笑う。

 坂の上に、段々畑の天辺に、五、六人の大人が横一列に並んでいる。中央に盾を持つ男。その傍に、細い杖を持つ男や、剣を携えた男も備えている。明らかに、こちらを警戒しているようにしか見えなかった。対する千歌達は、未成年な女子高生八人と、それよりも若い少年一人。皆丸腰そのもの。魔法こそ使えるが、誰も彼も使いこなせはしないし、ダイヤと果南に於いてはその存在すら知らない。

 

「何者だ、お前達」

「私達!道に迷ってしまって!」

「道とは、先程魔法が照らしていた道の事か?」

 

 曜が果南を、ルビィがダイヤを小突いた。

 

「そうなんです!どう逃げようか考えてた時に偶然この村が目に入って!一晩だけ泊めてくれませんか!」

 

 千歌が苦しい嘘を交えながらしきりに訴えるが、男達が武器を納める気配はない。むしろ、じりじりと距離を縮めながら、どう捕らえてやろうかと策を練っているように感じる。

 緊張が走る。こちらが変に刺激しては相手の闘志を逆撫でるだけだと、今にも食ってかかりそうな善子が花丸に諭されている。

 

「みんな待って!話せば分かるから!」

 

 ふと、両者の間にコウキが割って入った。それを合図に、男達は次々と武器を納めていく。何が何やら分からない千歌達と、少し前とは違う騒ぎ方をする住人達。

 

「お前、コウキか」

「うん!」

 

 彼の知り合いなら話は別だと、盾を持っていた男が近づいてきた。見た目は退役軍人のような初老の男性だが、先程までの敵意は一切感じられない。

 

「いきなり武器を向けてしまって申し訳ない。言い訳がましいかもしれんが、近くの町が魔王軍の襲撃に遭ってから警戒していたのだ」

「こちらこそ、そんな時期に急に押しかけてしまって申し訳ないですわ」

 

 一番大人の対応に慣れていそうなダイヤが毅然とした態度で接する。道を照らしていた魔法を使っていた張本人だと言うことはどうやらバレてはいないらしい。

 

「この地域は日が暮れるのが早い。女子供を夜出歩かせるのは趣味ではないからな、遠慮なく泊まっていきなさい」

 

 そう言うと、盾の男、もとい村長は村で一番大きい建物まで案内してくれた。恐らく彼の家だろう。座敷のような大広間に通され、ここでくつろぐように促される。イグサの匂いがする、畳張りの和室をまさか異世界で見る事になるとは思っていなかった。

 各々が部屋のいろんなところでくつろいで、旅の疲れを癒していると、なにやら美味しそうな匂いが鼻をついた。どこか懐かしい匂い。

 

「驚かせてしまったお詫びと言っては何だが、夕食も食べていってくれ」

「「いいんですか!」」

「勿論だ。毒など盛らないから安心してくれ」

 

 村長が気前よく食事を振る舞ってくれた。どうやら久しぶりの来客に合わせて彼の妻が腕を奮って作った料理のようで、それを語る彼の目はどこか生き生きとしていた。

 ある程度食事が済んだところで、村長には部屋を後にしてもらって、ダイヤと果南のために説明会を開いた。別に村長に聞かれて困る話をするわけではないが、かと言って変に口を出されるのを千歌が嫌がったためだ。

 コウキが、ふぁ、と小さくあくびをした。木の根元で寝ていたとはいえ、一日中歩き続けていては眠くなるのも無理はないだろう。

 

「コウキくん、眠たいでしょ、先に寝てていいよ」

「……うん、おやすみ……」

 

 コウキの為に部屋を暗くして、部屋の隅でろうそく数本に火を灯しながら、千歌や花丸を中心に、この世界に来た時の事、コウキの事、魔王軍の事、そして謎の力、魔法の事。彼女達が経験した全てを打ち明けた。しかし、魔法に関しては、未だに千歌達も自分達がなぜ使えるのか理解できていない。善子のように、転生時に与えられた才能と捉えてしまえば楽なのだろうが、梨子や花丸、ダイヤを中心に、やはりそこは懐疑的になってしまう。そもそも転生したかどうかすら分からないのに。

 

「結局、私達は魔法を使えるんですの?」

「さっき使ってた、って言われても私達喧嘩に夢中で周り見えてなかったしー」

 

 ご飯を食べている時にすっかり仲直りしたらしいダイヤと果南は二人仲良く肩を組みながら、素っ頓狂な声色で尋ねてきた。あの嵐に巻き込まれかけた千歌達はぐっと拳を抑えながら、適当に首を縦に振っておく。

 

「あれだけ魔法の規模が大きかったら、梨子ちゃんと互角に戦えそうだよね!」

「千歌ちゃん?……やめて」

「……はい」

 

 千歌に悪気はなさそうだが、梨子はまだ自分の力に納得がいっていないようで、どうしても嫌がっている。からかおうとした善子も彼女の剣幕に思わず怯んでしまって、結局何も出来ずじまいに終わった。

 

「それでおねいちゃん達はなんで喧嘩してたの?」

 

誰が最初に言うか悩んでいた質問を、ルビィは容赦なく二人に投げかけた。どこかあどけなさは残るが、しかしいつにも増して真剣な表情に変わる。恐らく怒っている。

 

「それには、鞠莉が関わっているのですわ」

「「鞠莉ちゃんが?」」

 

 今、何故かこの場に居ない鞠莉の名前が出てきた。後で話すと言って結局聞けずじまいだった彼女の名前が。

 

「鞠莉は、あの時、私達二人を庇って囮になってくれたのよ」

 

 遠くで、狼にも似た遠吠えがする。

 夜はまだ、始まったばかり。

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