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主人公の名前を
にしてもこの主人公いっつも食べ物作ってるな。
「ん~~~!やっと着いた~…」
人に押される様にボーディング・ブリッジを歩き、事前に予習しておいた税関と入国審査をパスしてターミナルまでやって来た。12時間越えのフライトでパキポキと鳴る関節を十分に伸ばしてようやく一安心。周りを見ると免税店やレストランなどがあり、興味を惹かれる。だが今はあまり時間が無い。確かシンボリ家の迎えの人が出入り口で待っているはずだ。
大きなキャリーバッグを引き摺って出入り口に向かうと、その人物と目が合った。
「
高級そうな執事服に身を包んだシリウスシンボリが左手を前にして腹部に当て、右手は後ろに回す。凛とした顔立ちと堂々とした佇まいで違和感は彼方へ吹っ飛び、とても様になっている。お辞儀をした際に周りから黄色い声が上がるがシリウスシンボリは全く動じない。その堂々とした佇まいに見惚れてしまったが、ハッと周りからの視線を感じ顔が次第に熱くなる。シリウスシンボリが平然としているのを見て、少しだけからかいたくなった。
「
そう言って差し出した手を、シリウスシンボリがニヒルな笑みと共にウインクを添えてそっと握り返す。
「
周りの女性から更に黄色い声が上がる。完敗だ。羞恥で耳まで赤くなった顔を見られないように、荷物をシリウスシンボリに任せて車に乗り込む。シリウスシンボリも荷物を車のトランクに載せて健治の隣に座り、ドアを閉めた。
次第に一連のやり取りがおかしくなり、どちらともなく笑いが込み上げてきた。
「「っははははは!」」
「いやぁびっくりしたよ。何でまた執事の真似事なんてしてるの」
未だ笑いをこらえながら聞くと、シリウスシンボリも笑いをこらえながら答えてくれた。
「サプライズだよサプライズ。まさか乗ってくるとは思わなかったけどな」
「正直めっちゃ恥ずかしかった。けど迎えの人がシリウスだったって事も併せてダブルびっくりだね」
「私も暇じゃないからあまり相手は出来ないけどな。今日は偶々暇だったってだけさ。それよりどうだこの服。似合ってるだろ」
「すっごい似合ってる。もう違和感ないもん。パッと見男装の麗人って感じで凄い綺麗で見惚れちゃったよ」
「そ…そうか?…ん゛ん゛!…もっと見惚れても良いんだぜ」
「顔近い顔近い。シリウスは顔も綺麗だし声も良いし中身はカッコいいんだから、あんまりからかっちゃダメだよ。本気にしたらどうするの」
シリウスシンボリが顔を近づけてくるのを手で制すと彼女もそれ以上は近づけてこなかった。
「…チッ。まだダメか。このアプローチの仕方だとやはり…」
「…?さっきも言ったけど、シリウスはカッコいいし綺麗なんだから、あまりそういう事やっちゃ勘違いする人も出てくるよ?」
「はぁ~。……まぁいいか。とりあえずこれからの予定を言っとくぞ。健治はこれからシンボリ家に縁のある家に居候することになるから、今日一日はコミュニケーションに努めとけ。そこの人間は一応日本語もできるから不便はないはずだ。ただ慣れる為にもフランス語で過ごした方が良い。明日はトレーナー養成所の入学式がある。手続きは終わってるし、案内人も居るから安心しとけ。家庭教師の支援もあるから期間は一応5年を予定しているが、成績が良けりゃ早くなる。まぁ頑張りな。何か質問は?」
パラパラと開いたメモ帳を見ながら、つらつらと淀みなく伝えてくれるシンボリシリウスに感心してしまう。
「まぁ大丈夫だと思う。今はスマホで翻訳紛いのことも出来るしね。ありがとう、シリウス」
「別に構わねーよ。それより…」
窓の外で流れていく景色を見ながら、最近あった出来事を互いに話していく。そうこうしている内に一軒家の前に車が止まった。車を降りて家を見る。少し広めの庭に白を基調とした四角い家だ。テラスのような場所もあり、高級そうな雰囲気がある。
家の中から還暦を迎えていそうな男女が出てきた。人当たりの良い夫婦に挨拶をして、シリウスシンボリに向き直る。
「挨拶は済んだな。よし。改めて、ようこそフランスへ。これから大変だろうが、頑張れよ」
「うん!ありがとうシリウス!頑張るよ!」
フランスでの新生活でどのような楽しいことが待ち受けているのか、期待に胸が膨らんだ。
今までの積み重ねのおかげか、驚くほどスムーズに日々は過ぎていった。危惧していた居候先でのコミュニケーションも人当たりが良く、どこか場慣れした雰囲気のある老夫婦のおかげで関係は良好だ。正直恵まれすぎな環境であると思い、その恩に報いようと勉強にも力が入る。
そして異郷の地を踏んではや2年。今日は実習も兼ねて、隣接しているウマ娘の養成所へとやって来た。
ここでは将来有望なウマ娘を集め、研究、トレーニングを行うトレセン学園の予備校みたいな場所だ。国とフランスURAによって運営され、学費や寮費は完全無料とかなり優遇されている。
何故ここに居るのかと言えば、在籍するウマ娘のトレーニング風景を見て、自分ならどのようなトレーニング方法を組むかのレポートを提出する為だ。二日間の研修で初日に見学・聞き込み、二日目に各自でレポート作成だ。他の生徒は既に動き出しており、実際にウマ娘や教官と話をしてメモを取っているのが見える。
さて出遅れた。今までの知識で適当に書き上げても良いのだが、それは最終手段だ。他の生徒と一緒のことをしても、おそらく良い評価は貰えないだろう。一度グラウンドから校舎に入り、廊下を歩く。確かこの先に自動販売機が並んでいたはずだ。そこで飲み物でも買おうかと歩くと、教室から薄っすらと煙が出ているのが見える。表示を見ると『
警報が鳴らないので火事ではないのだろうが、薄っすらと紫がかった煙は体に悪そうだ。扉をそっと開けると、たくさんの試験管が目に入る。
日本でいう理科準備室を思わせる風景に少し驚いた。煙の発生源を辿ると小さなビーカーに謎の液体が入っており、綺麗な虹色に変色している。
その側に誰か立っているのが見える。
ぶかぶかの白衣を着たその少女は迷うことなくその液体を飲み、自身の体温と脈拍を測りだした。少し経っても少女に変化は無く、しかし少女は満足そうにクリップに何かを記入している。
異様である。あの明らかに身体に悪そうな液体を迷うことなく飲む少女もそうだが、何事もないように次の薬を混ぜようとしている姿勢は物語に出てくるマッドサイエンティストを想起させる。確かにこの学校では研究もされているが、そっち方面の人材だろうか。
よく見ると少女はウマ娘だ。まぁ場所が場所なだけに驚かないが、他の子は外でトレーニングをしているのにこの子にはその様子がない。まず足が細い。驚くほどに細い。ともすればご飯を食べていない時のタマモクロスよりも細い。それに研究に明け暮れているのか目元をよく見るとクマがある。
研究者志向なら話を聞いてみたくはあるが、実験中のようなのでお邪魔するのも悪いだろう。
スッと扉を閉めようとすると少女と目が合った。
「おや?おやおやおやおやおやおや」
そう声を発しながらこちらへやってくる少女に健治は驚いた。日本語だ。
「ふぅン…確かこんな時は…『
「あ、日本語で大丈夫だよ?」
「なんだ、同郷の者だったかね。…それで?どうしてこんな所に迷い込んだのか、理由を尋ねても良いかね?事と次第によっては警備に突き出さなければならないからねぇ」
どこかこちらを試すように、クツクツと笑って尋ねてくる。
「ちゃんと許可は貰ってるよ。ほら、許可証」
首からぶら下げている許可証を見せると少女は納得したように腕を組んだ。
「なるほど…確かにそんな話も聞いた気がする。しかし若いねぇ。今何歳だい?」
「15歳。そっちは?」
「…私は歳というモノに疑問を感じていてねぇ。確かに成長の目安として歳を設定するのは間違いではないのだが、私たちウマ娘は精神も肉体も早熟だ。ヒトと同じ尺度の歳など、目安とするのは些か信用性に欠けると思わないかい?」
…なるほど言いたくないということは分かった。まぁ言ってることはあながち間違いでもないので詮索しないようにする。
「はいはい。俺もそう思うよ。それじゃ、俺は研修があるからお暇するよ」
「まぁまぁ待ちたまえ。ここにヒトが、それも同郷の人間が来るのは珍しいんだ。時間はあるんだろう?お茶くらい出させてくれたまえ」
立ち去ろうとする健治の腕を掴んだかと思うと、ズルズルと教室に引き込む。研究者でも相手はウマ娘だ。力勝負で勝てる訳ないので大人しく引きずられることにした。
少女はビーカーをさっと水で洗い、紅茶を淹れて差し出してくれた。
「さっきも言ったがここはあまり人が寄り付かなくてねぇ。丁度モルモッ……話し相手が欲しかったのだよ」
今モルモットって言おうとしてなかったか??
「今モルモットって言おうとしてなかった?」
「…そういえば君は研修で来たのだろう?せっかくだから私が手伝ってあげようじゃないか。ほら、どんな課題なのかね?」
あぁ、この子はミスターシービーとは違ったタイプのマイペースさんだなと察し、掻い摘んで説明をした。
「ふぅン…私としてはどうでもいい課題だねぇ。…確かこの辺に…これだ。この資料をあげよう。私が自身で研究したデータが載っている。これ自体はコピーだし別に流出しても良いものだから、是非有効活用してくれたまえ」
「へぇ…ちょっと見せてもらうね」
紅茶を飲みながら資料を読む。プランAと書かれたその資料は彼女自身のデータ、ひと月毎の各筋肉の成長率や骨密度、トレーニングメニューまで載っている。はっきり言って下手な論文よりも価値があるモノだ。
BWHには目を通さずに、パラパラと資料を捲る。
「ん…気になるんだけど、これはプランAってあるけどプランBとかCもあるの?」
「目ざといじゃないか。その通り。今はプランBまで考えているんだが、なかなか進捗がよろしくなくてねぇ」
「ふ~ん。あ、この資料って食事に関しては載ってないけど、栄養関係はしっかり把握できてるの?」
「当たり前だろう?ここを見たまえ。きちんと摂った栄養素を書いているだろう?」
確かに書いてある。数値を見ると、取った栄養素の割に数値が伸び悩んでいる様にも感じるが。
「…数値がほぼ横並び…もしかして毎日同じ物を食べてる…?」
「クククッ…。まぁそう思うのも無理は無いか。だがいつも同じというわけではないよ」
「うーん。ウマ娘に必要な栄養素は確かにちゃんと取っている…。でもこの数値は…。これってもしかして全部サプリメントで取ってるとか言わないよね?」
「……驚いた。ご名答だよ。基本はサプリメントで他の栄養素はミキサーに放り込んで取っているよ。料理なんて面倒だからねぇ」
話を聞いて眩暈がした。最近のデータを見ても少女の栄養吸収効率が悪いのは明白だ。料理は食事を楽しくする他にも、食材の栄養を吸収しやすくする側面もある。ただ食材をそのまま食べるだけだとかなりの栄養素が無駄になるのだ。
何とかきちんとした食事を摂るよう仕向けられないだろうか。
「そもそも料理というものが私は理解できないのだよ。栄養を取るだけなのだから、わざわざ時間をかけて料理なんてせずに、サプリメントで全て管理できる様になれば良いのにねぇ。君もそうだと思わないかい?」
「……俺はそうは思わないかな。きちんと料理を食べることは、満足感や安心を得ることだと思う。満足感や安心を得るとどうなるか?心に余裕が出来るよね。んじゃ心に余裕が出来ると?」
「…視点が広がり研究が捗る…とでも言いたいのかね?」
「必ず捗るとは言えないよ。でも心と身体のバランスが良くなるから、必ずプラス作用になると思う」
「ふぅン…。なるほど一理ある。だがしかし残念だ。ここの食堂はお世辞にも美味しいとは言えないらしいし、いつも開いているわけじゃない。それに私は料理なんてしたことが無い」
「う~ん。…明日、試しに弁当を作ってきてあげるよ。口に合うかはわからないけどね」
「君が?私としては損のない提案だから嬉しいが、大丈夫かね?」
「朝は自分で弁当作ってるし、一人分も二人分も変わらないよ」
そう言って資料をバッグに入れて立ち上がる。
「明日、ここで本物の料理をお見せするよ」
さて、啖呵を切ったはいいがメニューをどうするか。コーヒーの類があの場に見えなかったことから、苦いのは苦手と見た。紅茶の傍に角砂糖が多めに置いてあることから甘めが好きなのだろう。あの場の情報を基にメニューを考える。固形物をどの頻度で食べているのか不安ではあるが、そこは切り捨てる。
「…よし決めた」
メニューを決めて材料を買い、家に帰る。普段通りに過ごし、目覚まし時計をいつもより早めにセットして眠りにつくことにする。
「ようこそ。さぁ、本物の料理とやらを見せてもらおうか」
薄煙を纏って座っていた少女が立ち上がる。バサリと翻す白衣姿はやはりどこぞのマッドサイエンティストの様で100点満点なのだが、翻った白衣がビーカーに当たり落ちそうなのをあたふたしながらキャッチする姿はちょっと減点だ。60点くらいだろう。にしても若干テンションが高い様にも見える。
「ふむ、なかなか大仰な弁当箱じゃないか。開けてみても良いかね?」
「どうぞどうぞ」
「…ほぉ。この一面黄色いモノは何て料理だい?」
「オムライスだよ。黄色いのは卵だね。このスプーンで食べてみて」
「では…んむんぐ…」
掬ったオムライスをしげしげと観察して口に運ぶ。するとみるみる目が見開かれ、耳がピンとなる。がっついて食べているわけではないが、しっかりと味わいながら次々と口に運ぶところから不評ではないようだ。
「…ふぅ。恐れ入ったよ。まさか私が研究以外でここまで夢中になるとはねぇ。私の負けだ。確かに料理は重要なファクターのようだ」
「何か勘違いしてない?」
「ん?」
「まだまだ弁当は残っているんだよ?ほら」
育ち盛りのウマ娘がオムライス一人前で満足する訳が無いと、栄養価を考えて後3品作っておいたのだ。それを見た少女は尻尾を立てて驚いている。
「えー!!き、君は私を相撲取りにでもする気なのかい!?」
「確かにちょっと量は多いけど、資料を見た感じだと君は吸収効率が悪いんじゃないかなーって思ったんだよ。んで、どの位が適量かを考えたら、こうなったわけ」
三食をしっかり食べているならここまでは要らないが、昼だけでもと考えるとこうなるのだ。
「ふむ…オムライスといい味の心配は無いが…しかし大変ではないかね?これから毎日これを作ってくるのは」
「………は?」
「………え?」
教室が静寂に包まれる。「この子は何を言っているんだ」の表情の健治と、さも当たり前のように発言し、なぜ疑問に思われたのかが分からないといった表情の少女であったが、先に口を開いたのは少女の方だった。
「…もしかして君は今日だけ弁当を渡してハイお終いなんて言わないだろうね?まさか将来トレーナーになる予定の君が、悩んでいるウマ娘を放置するなんて…まさかねぇ」
「ぐ…いやでも…」
「あ~毎日きちんとした食事が取れれば研究も捗るのにな~。助かるのにな~。私もプランAを見直せるのにな~」
「んんんん~~~」
健治は目を閉じ天を仰ぐ。正直悪い提案ではないのだが、シンボリ家の支援を受けている以上、早く課程を修了したいのだ。頭の中で計算して「まぁ昼用の弁当くらいなら用意してもそんなに負担ではないか。」と考え了承することにした。
「……せめて材料費くらいは払ってもらうからね」
「もちろんだとも。いや~これで三食気にしなくてよくなるのはありがたいねぇ。あ、もちろん実験にも協力してもらうからねぇ」
「………は?」
了承してしまった手前断るに断れず、これから地獄のような日々を送ることが確定したのだった。
とりあえず一区切りです。これ以上キャラを出すと収拾がつかない…つかなくない?
幼少期の掛け合いなどは幕間で出していきたいなぁ。
それと正直ここまで評価して頂けるとは思ってなかったです。本当にありがとうございます。
小説サイトも投稿も書くのも初めてなので全て手探りですが、これからもご意見等頂けると嬉しいです。ガンバルゾ!