これ年齢設定どうする気なんですかね…?
現在小学2年生。晩春から初夏にかけての季節。
あれから1年が過ぎた。
シンボリルドルフとの交流は今でも続いているが、月2~3回だったのが今では月1回に頻度が減った。というのも健治の父の要件が落ち着いてきたからだ。
今日は学校が休みで天気も良い。健治は最近になって補助輪を外した自転車に乗り、車通りの少ない道をひたすら走った。
お昼時、自分で朝作ったちょっとしょっぱいおにぎりを食べ、水筒のお茶を飲んで一息入れる。
ふと気が付くと雨の匂いが漂ってきた。さっきまでの青空に灰色の雨雲が波のように押し寄せて来たかと思うと、風呂桶をひっくり返したかのように雨が降り始めた。天気予報では雨の予報は無かったはずだ。ともすればこれは通り雨だろうか。
屋根のあるベンチで良かったと安堵していると、ちゃぷちゃぷとステップを踏むような足音が聞こえてきた。
女の子だ。降り注ぐ雨と跳ね返る泥を気にも留めずに、踊るようにリズムを刻む。健治は若干羨ましさを憶えた。少女が通り過ぎるのを眺めていると、不意に目が合った。健治が小さく手を振ると、少女が駆け寄ってくる。
「一緒に遊ばない?」
屈託のない笑顔で問いかける少女に対して健治は考える。遊ぶ?この雨の中を?
かなり前だが健治も大雨の中外に飛び出し、全身をずぶ濡れにしたことがある。その時は母にこっぴどく叱られたものだが、確かにあの時の楽しさは未だに忘れられない。濡れてもまぁ自転車だし帰りは問題ないかと思い至る。
「良いよ。何して遊ぶ?」
「ん~そうだなぁ…何か遊べる道具持ってる?」
「ふっふっふ…こういう時のために…これだ!」
そう言って健治がリュックサックから取り出したのは、柔らかい素材でできたフリスビーだった。
「おお~!」
「これを投げて取れなかった方の負け。わざと変な所に投げたら投げた人の負け。これで遊ぼう!」
「良いね!やろうやろう!」
そう言って健治と少女はひたすらフリスビーを投げ合った。いくら少女がウマ娘とは言え、投げるのにコツが要るフリスビーは、キャッチボールとは違い速度が出ない。シンボリルドルフと遊ぶ際に、安全を考慮してメイドさんから教えられたとっておきなのだ。
少女の方は明らかに投げ慣れておらず、また雨の影響もあってかフラフラとしか飛ばない。対して健治の方は雨の影響を考慮して綺麗なフォームで投げる。両者の差はどうしても埋まらず、ひたすら健治が勝ちを重ねていくと、少女の方がみるみる不機嫌になっていく。
「キミばかりずるい!アタシも綺麗に投げたい!」
「ははは!これにはコツが要るんだよ。いいか…フリスビーをこう持って…姿勢はこうした方が投げやすい。後は投げるときに手首をこうしてピュッと投げる感じだ」
元々物覚えが良いのだろう。文字通り手取り足取り教えることで、出鱈目だったフォームがみるみる改善されていく。
「こうして…ピュッと投げる!」
少女の投げたフリスビーは明後日の方向に飛んでいくが、円盤は綺麗な姿勢で今まで見せた以上に飛んだ。
「やった!たくさん飛んだ!」
「おめでとう!あとはたくさん投げれば狙ったところに飛ぶようになるよ!」
ずぶずぶに濡れた服もお構いなしに少女を抱き上げて、たかいたかいをする。服が雨を吸っているためか若干重いが、健治にとっては些細な問題だった。
その後も人のいない公園の遊具で一通り遊ぶ。夢中で遊んでいたためか、いつの間にか雨は止み、空には虹がかかっていた。
休憩がてら一度ベンチに戻り、リュックサックからタオルを取り出して少女の髪を拭いてあげる。シンボリルドルフと妹はストレートロングなのに対して、腰まで伸びる少女の髪はあちこちに跳ねており、手入れが大変そうだなと健治は思った。
ベンチに座って足をプラプラさせながら、少女は雨が上がったのが残念そうな表情をして空を見ている。
健治は不意に産毛が逆立つような気がした。
「…ックシュン!」
これから次第に夏になろうとする季節ではあるものの、やはり長時間雨に曝されるのはヒトには堪える。少女の方は持ち前の高めの体温で寒くはなさそうだが、健治は身震いが止まらなくなってきた。
今日の所はここで引き揚げようかと考えたところで、少女の方から提案をされた。
「キミ、寒いの?」
「うん…まぁちょっとだけね。ずぶ濡れだし、今日は帰るよ」
「ん~じゃあウチにおいでよ!ここから近いんだ。あ、お母さん来た!」
公園入口から女性が歩いて来るのが見える。この少女のお母さんだろうか。少女はベンチからぴょんと飛び降りると女性に飛びついた。女性は困ったような顔をするものの、それを拒絶しようとはしない。慣れた手つきで少女を下ろしこちらに来た。
少女と健治の話を聞いて女性はお礼がしたいと一も二もなく健治を家に招いた。
道中で話をして、女性の名前はクインさん。少女の名前がミスターシービーちゃんというのを聞いた。
大きなマンションだがエレベーターを使わずにひたすら上の階へ上る。
部屋にお邪魔した途端に脱衣所へと少女と共に叩き込まれた。お風呂場を覗くと既に湯船にお湯が張られている。おそらくはこうなることを予見していたのだろう。
ポンポンと素早く服を脱ぎ捨て、湯船に少女が飛び込む。健治も服を洗濯籠に入れ、身体を洗って湯船に入る。冷え切った四肢の末端がジンジンと痛むがこの痛みすら今は心地良い。両手を重ねてお湯を飛ばすと、ミスターシービーの顔にお湯がかかる。
「あはは!何それ何それ!?すごい!アタシにも教えてよ!」
「ミスターシービーちゃんは手が小さいから難しいと思うけど、やってみようか。手を重ねて…この出口以外…しっかり水が漏れないようにして…掌の所にお湯を溜めて…思いっきり絞る!」
何度か試している内にピュルルと弱々しくもお湯が飛ぶ。
「…こう!おお!できた!」
「おお!やるじゃないか。…よし、ご褒美に髪の毛を洗ってあげるから椅子に座って」
「ん。わかった!」
そう言ってミスターシービーを風呂椅子に座らせるとシャンプーを泡立てて髪へ載せていく。シンボリルドルフのシャンプーは少し甘めの香りだったが、こちらは少しさわやかな柑橘系の香りがする。妹やシンボリルドルフの髪を洗っている経験を活かして優しく丁寧に洗っていく。シャワーを使い、しっかりと泡を洗い流すと、不意にミスターシービーが目を輝かせて振り向いた。
「今度はアタシの番!ケンジは大人しく座ること!」
「じゃあお願いしようかな」
そう言うやスッと立ち上がり後ろに回り込んでくる。健治も大人しく風呂椅子に座り、頭を下げる。すると湯船から洗面器でお湯をすくうと勢いよくばしゃりとかけてくる。そして無駄に大量のシャンプーを使い、豪快に泡立ててくる。若干痛いくらいの力でごしごしと洗われるが、加減しようと努力しているのが窺える。
「もう少し力を抜いても大丈夫だよ」
「そ、そう?このくらい?」
「そうそう。良い感じ」
わっしゃわっしゃと一通り洗い終えると、また洗面器でばしゃりと勢いよく流される。不慣れながらも相手をもてなそうという気持ちが感じられて健治も嬉しかった。
きちんと湯船につかって100数えた後、お風呂上りにミスターシービーの髪を乾かし、梳いてあげる。髪を梳いている間に彼女の身体がゆらゆらと左右に揺れ、頭がカクンカクンとなる。
「ごめんだけどそのまま一緒にお昼寝してくれる?」
「良いんですか?」
「本当はもうお昼寝は卒業したんだけど、今日は特別ね」
そうクインさんに言われ、一緒にお昼寝をして現在の時刻は既に夕方だ。お暇をしようとするとミスターシービーに服を掴まれ動けなくなる。
「せっかくなんだしご飯食べていこうよ!お母さんも良いよね!?」
「この子ったらもう…。健治君はお家の電話番号は分かる?」
「あっはい。この番号です」
親に持たされた手帳の電話番号を見せると、クインさんは健治の両親へ電話をかけた。
「……。はい。健司君、お父様が変わってほしいそうよ」
「ありがとうございます」
そう言うと受話器を受け取り、電話に出る。
父曰くクインさんの旦那さんとは既知の仲らしく、厚意に甘えなさいとのことだ。電話を切り、クインさんに向き直る。
「今日一日ご迷惑をおかけします」
「いいのよ。この子の友達が家に来るなんて初めてだもの。私も嬉しくなっちゃうわ。さ、夕飯の準備をするからまだ遊んでていいわよ」
夕飯まではトランプをして遊び、カレーを食べ、寝転がって絵本を一緒に読むと、またしてもミスターシービーの首がカクンカクンとなる。
「もう寝よっか」
「ん…ケンジ…一緒に寝よ…」
「うん。良いよ」
そう言うとクインさんがやって来た。
「あらあら、健治君。この子と一緒の布団で大丈夫?別のお布団を用意する?」
「あっはい。大丈夫です。ありがとうございます。…よっと」
腕にしがみついているミスターシービーをお姫様抱っこして部屋へと運ぶ。ゆっくりとベッドに降ろすがまだ放そうとしない。仕方が無いのでそのまま一緒にベッドに入り、腕を回して軽く背中を叩くとすぐに手の力が緩み、スースーと寝息が聞こえ始めた。健治も優しく抱きながら温かさに身を任せて目を閉じた。