さくさくいこう。
秋も深まり、紅葉も散りだす季節。
今日は毎月恒例の様になっているシンボリ家へのお泊り会の日だ。
元々は日曜日に行く関係上日帰りだったのだが、お泊りを機に次第に何故か土曜日に変更されてしまい、今ではお泊りが当たり前のようになってしまった。美味しい食事や大きなお風呂に入れる他、遊び道具なども充実しているため、健治にとっては楽しみな日だ。
今日もお昼から屋敷に向かう。
「あれ?」
「あれ?」
「ん?」
いつもの様に部屋に通されると、シンボリルドルフと遊ぶミスターシービーが居た。
「驚いた。二人とも友達だったんだね」
「そうだよ。ルナちゃんがアタシの1歳下なの。時々一緒に遊ぶんだ」
「私が遊んであげてるの。勘違いしないでほしいな」
「あははっ。そうだったね」
「二人はどうやって知り合ったの?」
曰く、シンボリルドルフのお父さんとミスターシービーのお父さんが仕事関係で2年程前に知り合って、その時に繋がりが出来たようだ。ミスターシービーとシンボリルドルフの態度からかなり仲は良いように感じられる。
負けず嫌いなシンボリルドルフはひたすら勝負事を好み、ミスターシービーと健治はそれに合わせて遊んであげる。
たった1年、されど1年。見事に体力勝負では健治が勝つことは無くなってしまった。成長期の男の子でも敵わない。ウマ娘の成長速度には驚くばかりだ。仕方が無いので体力勝負はミスターシービーに任せて、健治は頭脳系担当になった。二人は健治の予想よりも早くコツを吸収していき、今ではなんとか勝てている状況だ。家でこっそりと練習しようと心に決める健治であった。
本来であればミスターシービーは日帰りなのだが、健治がお泊りすることを知ると、駄々をコネて動こうとしなくなる。根負けしたお父さんはお泊りをお願いし、当主もこれを快諾。
そうと決まればと夕食の時間になる。部屋に三人分の料理が乗るようにテーブルが運び込まれ、椅子も増やされる。ミスターシービーと健治が座ると健治の膝の上にシンボリルドルフが座る。
「ルナちゃん。いつも言ってるけどご飯の時はキチンと椅子に座らないと駄目だよ」
「いつもはちゃんと座ってるから良いの。…良いよね?」
そう上目遣いに言われると断れない。けれど異を唱えたのはミスターシービーだった。
「ルナちゃんは甘えんぼだね。そんなんじゃ立派なウマ娘になれないよ?」
「む」
「ルナちゃんが立派な所をケンジも見たいんじゃないかな~」
「む~~」
そう唸りながらもシンボリルドルフは渋々と膝から降りる。
おや珍しい。いつもは健治が言っても聞かないのだが、何かしら心境に変化でもあったのか。ウマ娘の成長は内面外面共に早いと聞くが…。不思議に思っているのが顔に出ていたのか、ミスターシービーが教えてくれる。
「ルナちゃんはみんなのお手本になりたいんだって。アタシにはわかんないけど」
確かにどうしてその考えに至ったのかはわからない。けれども、その日その日を楽しんできた健治にとっては、目標のために変わろうとするシンボリルドルフが眩しく見えた。
「ルナちゃん、俺に手伝えることがあったら何でも言ってね。俺も手伝うから」
「本当か!?健治がいれば百人力だな!」
「ルナちゃんだけずるいな~。アタシも何かあったら手伝ってくれる?」
「うん。困ったことがあったら相談してね。力になるよ」
ワイワイと賑やかな夕飯を取り、お風呂に入るのだが、同じくらいの髪の長さが二人に増えるということは髪を洗う苦労は単純に二倍である。しっかりと二人の髪を洗い、湯船につからせると、二人はお湯を飛ばし合って遊んでいる。それを横目に髪と体を洗い、湯船に飛び込むと跳ねたお湯が顔にかかり、全員で笑いあった。
お風呂上りにいつも通り髪を乾かし、梳いていく。慣れた手つきで素早くシンボリルドルフを終わらせると、次はミスターシービーだ。二人が終わるとトランプで遊び、寝る時間になる。
ベッドは一人なら余裕、二人なら良い感じ、三人だと流石に手狭に感じる大きさだ。川というには文字の隙間が狭い状態になりながらも身を寄せ合う。腕を回して二人の背中を軽く叩き、両側から寝息が聞こえた後に健治はようやく目を閉じた。
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ある日屋敷に行くと、見慣れない子が屋敷裏のグラウンドで走っているのが見えた。シンボリルドルフと同じ髪色、だけどもどこか大人びた、より洗練されたような印象だ。
気になって眺めていると、少女はこちらに気付いて息を切らせることなく近づいてきた。
「おい、誰の許可をもらって見ているんだ?」
「え?見るのに許可が要るの?」
「…おもしれぇ。お前…誰に喧嘩売ってるのかわかってんのか?」
ぎらついた瞳でこちらを睨んでくるが、身長のせいか、可愛いとしか感想が出ない。
「喧嘩をするつもりは無いし、君の事も知らない。ただ走る姿がかっこ良いなって見惚れていただけだよ」
「へぇ…どういうところが良かったんだ?」
「ああ、いや、具体的には分からないんだけど雰囲気というか。シュッとしてて力強くて、かっこ良く見えたんだ」
素直な感想を健治が述べると少女の方が愉快そうに笑いだす。
「あの走り方のかっこ良さを理解するとはな。あれは私の考えた走り方で教官からも褒められるんだ。お前…見込みあるな!よーし、特別に将来私のトレーナーになることを許可してやる!光栄に思えよ!」
「……ごめん。トレーナーって何?」
トレーナーとはウマ娘と切っても切り離せない存在であり、トレーニングを見て、組んで、ウマ娘をより高みへ導く存在…らしい。健治にとっては未知の存在であり、この少女から聞かされる話も抽象的過ぎてよくわからない。ただ少女の様子からウマ娘にとって大切な存在なんだなと健治は理解した。
「…でもやっぱりよくわからないや。今度調べておくよ」
「おう。返事はいつでも良いぜ。っと、もう時間か。私は帰るぜ。じゃあな!」
迎えに来たのであろう使用人を見て彼女は颯爽と去ってしまった。
「そういえばルナちゃん。さっき知らない子に会ったんだけど、誰だかわかる?」
パチリとオセロの白い駒を置き、間に挟まれた黒い駒をクルクルと反転させていく。小さくあっと聞こえたが真剣勝負なので待ったなしだ。
「…ん~?あっ、そうだ。シリウスが来てるんだった。もう会ったのか?」
「会ったんだけど直ぐ帰っちゃったんだよ。トレーナーがどうのって言ってたけど…」
「…ケンジはトレーナーになりたいのか?」
「う~んそうだなぁ…トレーナーってウマ娘をお世話をするのが仕事みたいだし…俺はお世話が好きだから、性に合ってるかもね」
「そうか!なら私に任せろ!」
そう言ってシンボリルドルフは白で埋め尽くされたオセロの盤面を放置して、部屋を飛び出してしまった。
20分ほど待たされただろうか。メイドさんが部屋に入って来る。
「失礼いたします、健治様。ご当主様がお呼びです。こちらへどうぞ」
健治はメイドさんについていく。何か粗相をしただろうかと内心ソワソワしながら扉の前に立つ。ノックをすると落ち着いた女性の声で入室を促される。
「失礼します」
「いらっしゃい。いつもルナと遊んでくれてありがとうね」
歳は20後半だろうか、まだ若々しい見た目のわりに重厚な雰囲気も纏ったウマ娘がそこには居た。やはり大きな家の当主を任されるだけあって、近寄りがたい雰囲気がある。
「こちらこそ、いつもお招きいただきありがとうございます」
「ふふ。先生のお子さんらしく礼儀はしっかりしているわね。楽にして頂戴」
「は、はい」
ふと気が付くとシンボリルドルフの姿が無い。目線が動いているのに気付いたのか、当主は答えを口にした。
「あの子なら今頃走る準備をしているでしょうね。ふふっ。居ても立ってもいられないとはこのことね」
「?」
「率直に聞くわね。健治君。貴方、トレーナーになりたいのかしら」
ドクンと鼓動が高まるのを感じる。将来の事なんて今まで考えていなかった。そもそもトレーナーが何なのかなんて、シリウスという子に聞いた以上の事は知らないのだ。
当主の顔を見ると、じっと探るように健治の顔を見つめている。こちらの反応を観察しているようにも見える。おそらくはシンボリルドルフに健治がトレーナーになりたがっているとでも言われたのだろう。だが、わざわざそれだけで呼びつけるものだろうか。トレーナーという仕事に若干の興味が芽生えた。
「すみません。将来の事は考えたことが無いので、はっきりとは分かりません。ですが、なんというか…トレーナーになりたいかと聞かれたとき、ドキッとしました。多分ですけど、興味はあるのだと思います」
「ふむ…その表情…良いわ。貴方がトレーナーになりたいのなら、我がシンボリ家は貴方をサポートしましょう。そうね、あの子がトレセンに入るまでには、中央で働いてもらおうかしら。かなりきつくなると思うけど、頑張って頂戴ね。期待しているわ」
「えっあっはい」
興味があると宣言したと思ったら、既定路線に入ってしまい、話がどんどん進んでいくことに健治は呆然とした。この押しの強さはまさしくシンボリルドルフの親だ。
それからはなかなかにきつい日常であった。平日に学校の授業+家庭教師による授業で遊びの時間が消滅した。ただ週末の休日だけはしっかりとあり、それが救いだった。
シービー→普通に学校に通う
ルドルフ→教材さえあれば自分で何とかしちゃう
シリウス→バリバリ英才教育中