とあるお家のお話
○○月△△日
シンボリ家は東の名家と言われるほどの歴史ある一族だ。そんな家に生まれ、エリートとして駆け抜けた。母に認められ、良き夫にも恵まれ、娘も授かった。名前はシンボリルドルフ。私と同じ、三日月の様な前髪が特徴の、私の愛しい娘。
その娘が問題なのだが。
赤ん坊のころは本当に可愛かった。もちろん今でも可愛いけど。ただ3つになる頃からか、あの子から威圧感が溢れてきたのは。私ですら目を疑った。夫や使用人に聞くとやはり皆も感じるようだ。特に他のウマ娘の子は明らかに委縮してしまっている。何度か近所で催されるイベントに連れていき、友達を作らせようとしたが、誰一人として近づいてくれなかった。4つになる頃には与えた絵本を全て読み終え、内容を完全に覚えてしまった。間違いなくこの子は天才だ。分家のシリウスは既に教育を始めているようだが、この子はこのままでも伸びると確信している。
○△月○△日
夫と面識のある人物に娘が居るらしい。今度合わせてみるそうだ。年齢がルナの一つ上らしいが、かなり社交的なんだとか。良い友達になればいいが…。
△□月□○日
心配は深まるばかりだ。ミスターシービーちゃんと言ったか。あの子は確かに他とは違う。威圧感を受けても、少し気にしたように見えたが、すぐに気を取り直してルナと接してくれた。しかしルナの方が慣れていないのか、心を開いていない。おそらく時間がかかるだろう。あの子が帰る時にケアをしっかりしないと。
△○月○□日
これで3度目か。ミスターシービーちゃんが遊びに来た。ふと部屋を覗くと一緒に絵本を読んでいる。素直になれないのかムスッとしているが、誰かと一緒に本を読んでいるなんて…。少し涙が出てきた。
△○月□△日
今日は二人でおもちゃで遊んでいる。あの子の性格はきっと私に似たのだろう。負けず嫌いで押しが強い。娘の新たな一面を引き出してくれたあの子には感謝してもしきれない。駄目だな、最近涙もろくなってきた。
○□月○△日
母が病気になった。治療しようにもシンボリ家の医師団では対応が難しいようだ。ウマ娘の身体は未だに謎が多い。仕方が無いので有識者を募ろうという話になった。なんでもウマ娘専門の医師が居るらしい。メジロ家に取られる前に囲いたいところだが、今はそのような時ではない。その医師に任せることにしようと思う。とりあえず、素性と実績だけは調べておかなければ。
○□月○□日
調べてみたが、その医師に怪しいところは無い。それどころか私と近い年齢なのに、ウマ娘分野で様々な論文を出しているエキスパートだ。ますます欲しいが、我慢我慢。調べるうえで息子と娘が居るようだ。娘は引っ込み思案だから会わせられないと言われたが、息子の方は大丈夫だそうだ。これを機にルナの友好関係が広がればいいのだが。
△×月□×日
今日はルナと母、双方で進展があった。招待した医師の息子とその日の内に打ち解けてしまったのだ。これには使用人もびっくりしていた。あの子…ミスターシービーちゃんでさえ時間がかかったのに。使用人から聞く限りだと一切威圧感を感じている素振りを見せなかったとか。神経が図太いのか感情を隠すのが上手いのか。おそらくは前者か。しかし、ルナがいきなり心を開くなんてどんな魔法を使ったのだろうか。
医師の方もなかなかに優秀だ。カルテを見て、母の症状を直接確認し、慎重に触診をするだけで治療法を立案してきた。子が子なら親も親ということか。
×○月××日
ルナの心境に変化でもあったのか。最近はマナーを考えるようになった。食事の時や日常でしっかりと礼儀を弁えだした。私よりも精神面での成長が早いように思える。だがあの子、健治君が来た時だけ膝に乗って食事を摂るようだ。親しくなるのは親としても嬉しいのだが、ちょっと引っ付き過ぎじゃないかな?
○×月△□日
ルナがミスターシービーちゃんに決意表明をしたようだ。”全てのウマ娘のお手本となる”だと。我がシンボリ家としても良い意識だと思う。その思いを曲げないように、折れないように願うばかりだ。健治君がお泊りをしてから、ルナからもっとお泊り出来るようにしてほしいと要望があった。あの子が我儘を言うのは、思えば初めてのような気もする。先生には悪いが今の日曜定期から土曜定期に変えてもらうように提案してみよう。
×□月○△日
正直言うと無理やり過ぎたかと思う。いや、かなり強引過ぎたか。健治君は唖然としていたし。少し反省。
ルナがとても懐いているのは知っている。あの歳でのあの落ち着き様。礼儀作法もしっかりしているのは高ポイントだ。何よりトレーナーになりたいのかと私が聞いた時のあの表情。容姿は似ていないが、昔の夫を思い出して年甲斐もなくドキドキした。
トレーナーを目指すには早いに越したことはない。トレーナーの資格自体は取ろうと思えば誰でも取れる。だが中央と頭に付くだけで難易度は桁違いに跳ね上がる。中央とは数多のウマ娘の中でも一握り中の一握りしか存在を許されない場。そんなエリート中のエリートの競争バ人生を背負うのが中央トレーナーだ。難易度が上がるのもさもありなん。
そんな難関にあの子を挑ませる。何故かは分からないが、不思議と彼には必ずトレーナーになるであろうというイメージがつく。私の中の直感が、彼は大成すると囁いている。その後のトレーナーになりたいかと聞いた時のあの表情だ。無理やり話を進めてしまった。彼は唖然としていたが嫌ってはいなかったので、まぁ良しとしよう。先生にも連絡を入れておこう。
さて、とりあえずはルナが中央に入るタイミングで、中央に就職が決まるようにカリキュラムを組ませましょうか。悪い虫がついても困りますからね。