駄目ウマ娘製造機   作:あらあらモンペ

6 / 13
5回目の初投稿です。
ここまでストック。これからアドリブ。


5話

 夏休みの最終日、駅で祖父・祖母とお別れをする。

本来ならば父と合流する予定だったのだが、用事が出来た様で一人で帰ることになった。チケット代は祖父が出してくれたので問題ない。事前に把握していた新幹線に乗り込み、到着まで座って待つだけだ。

 

 だけだったのだが…失敗だった。シンボリルドルフとシリウスシンボリ、ミスターシービー用のお土産を選んでいたら時間が押してしまったのだ。健治は慌てて乗り込んだは良いものの、より西へ行く新幹線に乗ってしまった。初めてのお土産ということもあって、テンションが上がってしまっていたのだ。

幸いにしてすぐに降りられたが、さてここからどうしようか。駅員さんに聞こうにも、夏休み終わりの帰省ラッシュのせいか、対応で忙しそうだ。とりあえず自販機でジュースを買ってしゃがみ込む。やってしまったという気恥ずかしさと、もっと時間に余裕を持っておけばという後悔で頭を抱えて俯いてしまう。その姿を見られたのだろう。女性が話しかけてきた。

 

「ボク。お腹でも痛いのですか?」

 

 綺麗な人…ウマ娘だ。髪は白く、若く見える。…がウマ娘は基本的に皆若々しいので、外見で年齢は分からない。とにかく清楚なご令嬢という雰囲気がある。というか後ろに怖いお兄さんが二人控えているのを見るに、どこぞのご令嬢なのだろう。

 

「えっあっ…心配して頂きありがとうございます。でもお腹が痛い訳ではないので、大丈夫です」

「でしたらどうして俯いていたのか、お伺いしても?」

 

知らない人にこんなこと言って良いものか。悩むが後ろのお兄さんが睨んでいる様にも見えて気後れしてしまう。

 

「えっと…はい、実は…」

 

 健治は自分のやらかしを恥じながらも、現状を女性に説明した。

 

「まぁまぁ。でしたら私たちで何とか致しましょうか?」

「いえ、ご迷惑をお掛けする訳にはいきません。自分で何とかしてみます」

「いえいえ、これも何かの縁です。ぜひ、お手伝い致しますよ」

 

 薄い色のサングラスから覗く瞳はキラキラと輝いている様にも見える。断っても遠慮するなの一点張り。これは見たことがある。友達の家でゲームをしていた際に”はい”を選ばないと抜け出せない会話だ。

 

 根負けして「お願いします」と言ってしまったのがいけなかったのか。健治は今、黒い高級車の後部座席に女性と共に座っている。女性からは親切心しか無いように見えた為、つい付いて行ってしまった。これって誘拐に当てはまるのかな?と疑問に思う健治であったが、付き人の丁寧な対応から誘拐ではないように思える。グルグルと思考がループしている内に、いつの間にか車は止まった。

女性に誘われるまま車を降りると西洋のお城のような大きな屋敷が目の前にある。周りを見渡すと木で囲われており、庭には大規模な花壇もある。季節的に暑いはずなのだが、時折流れる風が心地良い。ここだけ別世界みたいだなと健治は思った。屋敷の方を見ると部屋の窓がたくさんあり、高級ホテルもかくやといった様子だ。ふと一つの窓に目が行った。小さな女の子がこちらを窓から覗き見ている。こちらの視線に気づいたのかサッとカーテンに隠れてしまった。

 

「それでは、応接間でお少々お待ちください」

「何から何まですみません。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 応接室で待たされること十数分。居心地が悪くなり身を揺すっていると、不意に扉が開いて人が入って来た。黒く短い髪に漆黒の瞳に少しやつれたような顔。健治の父その人だった。

 

「え、あ、何で?」

「それはこっちのセリフだ。まさかお前が電車に乗り間違えるとはな。母さんに似て来たんじゃないか?」

「今回は偶々間違えただけじゃん。もう間違えないよ」

「その偶々が危険なんだがな…そろそろスマホでも持たせるか。というか知らない人について行くなよ。常識だろうに」

「それはそうなんだけど…駅員さんはこっち見てたのに何も言わなかったし…後ろの二人のお兄さんが怖かったし…」

「はぁ…ヒリュウさんも何を考えているのやら。事情は大体察した。これからは気を付けるように。良いな?」

「分かってるよ」

 

 そう健治が返事をすると、父はよし、と頷いてメイドさんから差し出されたコーヒーを一口飲む。

 

「話は変わるがここのお嬢さんにはもう会ったか?」

「いや?入り口でチラッとしか見てないけど」

「なら丁度良い。今のうちに会っておきなさい。良い経験になるからな」

「いや、そんな勝手な」

「勝手だがこれも経験だ。実際にウマ娘と接することは百聞に勝る。お前が良いトレーナーになりたいなら接する時間を大切にしなさい」

「父さんの言いたいことは分かるけど、相手の意思もあるし」

「別に構いませんよ。ぜひ会ってあげてください。あの子も喜びます」

 

唐突に声がかかり、首を扉の方に向けると女性が入って来るのが見えた。そういえば自己紹介がまだだったと思い、健治は立ち上がって女性に向き直る。

 

「自己紹介が遅れてすみません。羽柴健治と言います。この度はご迷惑をお掛けし、申し訳ございません。」

「まぁまぁ、迷惑だなんてそんな。私はメジロヒリュウ。メジロ家の現当主をやらせていただいております。少し強引に連れて来てしまってごめんなさいね」

「それはそうと、私は貴方のお父様と今後の打ち合わせがありますの。時間は…まぁ夕刻までには終わりますので、よろしければその間に娘とお会いになられてください。歳が近い友達は何人いても良いですからね」

「それは…そうですね。わかりました」

 

 そうして執事の男性の後について屋敷を回る。シンボリ家は重厚というか、落ち着いた装飾なのに対して、ここメジロ家は煌びやかで明るい印象だ。

 

「お嬢様のお部屋はこちらになります」

「すみません。ありがとうございます」

 

 他の部屋とあまり変わらない、けれどもドアノブが可愛く装飾された部屋の前に来た。

執事の男性がノックし中へ入る。それを追うように健治も中へ入る。部屋はかなりきれいに整理整頓されており、シンボリルドルフやミスターシービーの部屋とは全く違う清潔感がある。窓際に目を向けると先ほど見かけた少女がそこに居た。

カーテンから零れる光を受け輝くライトブルーの髪の毛。窓からの風を受けて靡くそれは幻想的で、儚げでもあった。

ラベンダー色の瞳がこちらを捉える。健治は一歩踏み出して挨拶をする。

 

「こんにちは。俺の名前は羽柴健治。皆はケンジって呼んでます。良ければ名前をお聞きしても?」

「わ…私はメジロアルダンと申します。えっと…その…どうしてここへ?」

「あぁ、ごめんなさい。ん~と…友達になりたいと思いまして」

「友達に…ですか?」

「ああいや、何と言えばいいか…率直に言いますと、俺の父さんと君のお母さんが仕事で付き合いがあるみたいなんです。それの打ち合わせが終わるまで、巻き込んで悪いんですけど、一緒に遊んでもらえますか?」

「あぁ、先生の…。ふふっ。男性にエスコートされるのは初めてです。良いですよ。何して遊びましょうか。あぁそれと、敬語は不要ですよ。私の方が歳下ですので」

 

 メジロアルダンに促されて椅子に座る。

若干気まずい沈黙が流れたが、周りを見ると学習机にチェスの盤と駒、入門と書かれた教本が置いてあるのが見えた。最近シンボリルドルフとミスターシービーに勝つために密かに勉強しているゲームだ。話のタネがあるのならば後は早い。

 

「チェス、やってるの?」

「ええ…ただ、お恥ずかしながら初心者とすら呼べないのが現状です」

「だったら一緒に勉強しない?俺も最近やり始めてるんだ」

「良いですね。それでは、お願いします」

 

 コト、コト、と心地よい音が鳴る。実のところ健治はチェスの駒を握ったことが無い。父から貰ったお下がりの古いパソコンに安いソフトを入れて、ポチポチとクリックで勉強していたからだ。初めて駒に触るとスベスベの手触りと、木製特有の重量感に感動した。良し悪しは分からないが、多分良いものを使っているのだろう。最初は謙遜かと思ったがそうでもないらしく、駒の役割から教えることになった。

静かだが心地の良い時間だ。ワイワイとうるさく遊ぶのも良いが、こういった静かに黙々と遊ぶのも捨てがたい。

すると不意にメジロアルダンが問いかけてきた。

 

「そういえば先生が仰っていたのですが、ケンジ様はトレーナーになりたいのですか?」

 

 先生とはおそらく父の事だろう。世間話の一環で健治の事を話したと考えれば納得がいく。

 

「ん~うん。まぁ色々あって。なれるかはわからないけど勉強はしてる」

「理由をお伺いしても?」

「…理由か~。正直まだはっきりとした理由は無いんだ。なんとなく皆が後押ししてくれるから、やってみるだけやってみようって感じで。ただ、知らない知識を知るのは好き。トレーナーの勉強は新しいことの連続で楽しいから好き。だから続けてる。まぁ惰性じゃないかと言われればそうなんだけどね」

「惰性ではないと思いますよ。私は続けられることこそが大事だと思います」

「そう言ってもらえると助かるよ。父さんは他に何か言ってなかった?」

「いいえ、偶々話題に上がっただけですのでそれ以上の事は何も」

「良かった。ある事ない事言われていたらどうしようかと思ったよ」

「ふふふっ…そんな方ではありませんよ?私の脚の事も真摯に診て頂きましたので」

「…脚?何か怪我でもしたの?」

「怪我…と言えば怪我なのですかね?走っていると違和感がしまして。昔からそうなのです。少し走ると言いようのない違和感が出るのです。それを診て頂いて、結果は骨と筋肉に疲労が溜まり易いのだそうです」

「へぇ。でも良かった。怪我はしないに越したことは無いからね」

「そうですね。違和感という形で出てくれるだけ助かっています」

「やっぱり将来は中央に入るの?」

「その予定です。私の夢はトゥインクルシリーズで走ることですから」

 

 脚部に不安を抱えながらも瞳を輝かせながら語る彼女に、健治は好感が持てた。

そんなやり取りをしていると、扉がノックされ、執事が部屋に入って来た。

 

「失礼いたします。健治様、帰りの準備が整ったとお父上がお呼びです」

「あ、ありがとうございます。すぐ行きます。それじゃあアルダンちゃん、またね」

「ええ、またお会いしましょう」

 

 そうして父と共にメジロ家を後にし、東京へと帰って来た。お泊りの日にシンボリルドルフとミスターシービーにはお土産を渡せたが、シリウスは海外に行っているとのことで渡せなかった。大阪に行き、タマモクロスと友達になったことや、メジロ家にお世話になったことを話すと、二人の機嫌が悪くなり、遊びで集中攻撃を食らうようになった。これからは他のウマ娘の話をしないようにしようと心に決める健治であった。

 

 

 

 残暑が遠のき半そでで居るのが難しくなる季節。健治はメジロ家へと足を運んでいる。もちろん父の付き添いだ。午前中に診察を全て終え、午後は教官らに説明と対策会議があるとのことで健治は一人になる。

今はメジロアルダンとチェスの勉強をしている。健治は元々ある程度チェスの勉強をしていたため、静かにメジロアルダンの勉強を見ている。以前立ち寄ったタマモクロスの家はうるさいくらい賑やかで、それでいて心地よかったが、この静けさもまた良いものだ。メジロアルダンは教本に載っている盤面を再現し、うんうんと唸っている。そこは既に勉強済みなので答えは分かっているが、口出しはしない。得意げにニヤニヤしているとメジロアルダンがこちらの視線に気付いたのか声を発した。

 

「ケンジ様、まさかこの答えをご存じで?」

「うん。知ってる。でも言わない。頑張って解いてみて」

「意地悪ですね…でしたらヒントくらいは頂けませんか?」

「そうだね…それじゃあそれぞれの駒の役割と、そこに至るまでの手を予想してみて、相手がどう動きたがっているか。自分ならどう動くかを考えるといいよ」

「む~。駒の役割は分かるのですが、相手の意図が…それが分からないから困っているんです」

「まぁ完全には読めないよね。でもほら例えば相手がこの駒をこう動かしたら、アルダンちゃんはどう思う?」

「そうですね…こちらが取りやすくなるので助かります」

「それじゃあ…こっちは?」

「こちらの動きが制限されるので大変困ります」

「そういうこと。型はたくさんあるけど、結局は相手がどう動くかを読んで詰みまでを計算するゲームだからね。相手が嫌がることと自分がしたいことを天秤にかけて選んでいくんだよ」

「なるほど…」

「ちなみにこれはウマ娘のレースにも当てはまるらしいよ」

「レースに…ですか?」

「まだ詳しく勉強してないんだけど、トレーナー教本の後ろの方をパラパラ見てたら載ってたんだ。自分がして喜ぶこと、相手がされて嫌なことを考えてやるのが勝負ごとの常なんだって。確か六平さん…だったかな?トップトレーナーらしいんだけど、その人がそう言ってるんだって」

「まぁ。そうなのですね。勝負の世界…奥が深いのですね。…私はやっていけるでしょうか…

 

 ふと漏らした心の奥底にある不安。健治は聞いてしまった。心の大部分では覚悟が決まっているのだろうが、不安は誰にでもある。ここでただ”やっていける”と言ってもきっと意味は無い。夢を諦めてほしくない。自分の一言で不安を取り除けるのならばと、健治は思いつく言葉を慎重に選ぶ。

 

「アルダンちゃんは優し過ぎるから、向いてないかもね」

「優しいと向いてないのですか?」

「アルダンちゃんは相手が嫌がる手ってのが思い浮かばないんだよね?それってつまり”こうすれば勝てる”場面で相手のことを思って実行できないってことだと思うんだ。そうなると負けるしかない。向いてないってこと」

「……」

「ああいや、諦めろって訳じゃないよ。俺としてはもっとワガママになった方が良いんじゃないかなって思うな。今までワガママ言ったことないでしょ?多分」

「ワガママ…ですか。確かにお母様はお忙しいですし、言ったことは無いかもしれませんね。ですが良いのでしょうか?」

 

 首を傾げる彼女は本当にワガママを言ったことが無いんだなと健治は確信する。おそらくは遠慮を真っ先に覚えたのだろう。それは凄いことだが、勝負の世界に身を置く予定の彼女にとっては致命的ともいえる。

 

「良いに決まってるよ。俺だっていっぱいワガママ言ってるし、他の子だってみんな言ってる。言い辛かったりするなら、簡単なことから言ってみたらどうかな?ほら、俺に何かしてほしい事とかない?」

「…そうですね…ではここの答えを」

「それは駄目」

 

 食い気味に健治が言うとメジロアルダンはがっくりと項垂れる。直ぐに気を取り直したのか顔を上げ、

 

「でしたらこれからも私と仲良くして頂けますか?」

「…そんなことで良いの?」

「え?」

「てっきり紅茶を入れろとかお菓子を持って来いとか言われるかと思ってた」

「そんなこと言いません。私を何だと思っているのですか」

 

 ぷりぷりと怒り出したので慌てて謝るが問題の答えは教えない。健治も当たった壁なのだ。表向きは成長のためだが、本心は同じ苦しみを味わってほしいという黒い感情だ。

結局はもう一つヒントを与えることでクリアした。クリアしたご褒美に頭を撫でると彼女は俯いてしまった。

 

「あっと…ごめん。撫でられるのは嫌だった?」

「…いいえ、そうですね。これもワガママなのかもしれません。もっと撫でて頂いてもよろしいですか?」

「いいよ」

 

 サラサラできめ細やかな頭を撫でる。耳は敏感らしいので触らないように、髪型が崩れないようにゆっくり丁寧に撫でる。何秒か、何分かはわからないが撫で続けると、彼女は顔を上げた。

 

「ありがとうございます。今まで頭を撫でて頂いたことが無くて…その…ありがとうございます」

「これくらいいくらでもするよ。まだやる?」

 

 流石に顔を赤くしたメジロアルダンは顔の前で掌をこちらに向けてブンブンと振る。

 

「いえいえいえ。もう大丈夫です。これ以上は特別感が無くなってしまいますので…」

 

 健治としては撫でる程度特別でも何でもないのだが、彼女がそう言うのであればそうなのだろう。そんなやり取りをしていると時間は瞬く間に過ぎていく。帰る際に窓から見送るメジロアルダンに大きく手を振り、健治は東京への電車の中で眠りに落ちた。




投稿者はチェスが何たるかを知りません(爆
六平さんはそんなこと言わない(爆
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。