駄目ウマ娘製造機   作:あらあらモンペ

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6回目の初投稿です。



6話

 小学4年生になった。

とはいっても生活が一変する訳でもなく、あるとすれば両親に買ってもらったスマホでよくメールをするようになったことだ。

宛先は主にシンボリルドルフ・シリウスシンボリやメジロアルダンで、ミスターシービーとは週末によく遊ぶ為、あまりメールはしていない。

 

 ケンジは今ミスターシービーと出会い、今でもよく遊ぶ公園に来ている。先日メールをして今日一緒に遊ぶ約束をしていたのだが、時間になっても現れない。メールをしても返事が無い。

結構よくあることなので、あまり気にすることはない。ミスターシービーの家に直接訪れたが、こちらも留守であった。八方塞がりなので公園に戻り、どうするかベンチに座って考える。

家に帰っても勉強しかすることが無い。嫌いではないが今はリフレッシュがしたい気分だ。シンボリ家は遠く、車でしか行く気になれない。肝心の父は仕事で出ている為遠出も出来ない。幸い今日は天気も良く、風も少ない。行ったことない地域に行くのも悪くないか。

そう考え自転車に乗り、走り出す。近くのコンビニでパ○コを買い、口に咥えながら少し走ったところで高級住宅街に出た。大きな一軒家が立ち並び、それぞれが塀に囲まれている。周りを見ても人影は自分以外見当たらず、他の地域とは隔絶されているかのような雰囲気だ。こういった場所には馴染みが無い為、健治は周りをまじまじと見ながら自転車を漕ぐ。

曲がり角を曲がると人影が見えた。若干の安堵を憶えながらその人影を追い抜こうとするが、様子がおかしいことに気付く。その人影は塀に手をつき胸を押さえて俯いていた。健治はすぐさまUターンしてその人影に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?」

 

 そう聞くが少女は肩で息をし、汗が噴き出している。ズルズルと膝をつき、顔は真っ青だ。とても正常とは思えなかった。健治は直ぐに救急車を呼び、父親にも状況を知らせた。父の指示に従い、少女の手を握って背中を優しく擦って声をかけ続けた。

 

「救急車を呼んだからもう大丈夫だよ」「気持ち悪いならゲーッして大丈夫だよ」

 

 声をかけ続けるが少女の顔色は次第に悪くなるばかりだ。呼吸はより荒くなり、健治の手を握る力がより強くなる。健治は痛みを感じながらも負けじと握り返す。

 

「大丈夫。一緒に居てあげるから。大丈夫。もうすぐ救急車が来るから、助かるよ」

 

 強く強く手を握り、ひたすら頑張れと声をかける。健治の声が届いたのか、少女の表情が微かに和らいだのを感じた。

 

 

 救急車に乗せられ近く大きな病院までやって来た。すぐに処置室に運び込まれる少女を見送り、椅子に座る。

声をかけている時に少女と目が合ったのを思い出す。あの吸い込まれそうな藤色の瞳からは、『助けて』『死にたくない』という感情がひしひしと伝わって来ていた。健治は何か出来ることはないかとひたすら考えたが、良い考えは浮かばない。ただただ無力感に包まれながら、祈り続けることしか出来なかった。

 

 

どれほど時間が経っただろうか。頭にポンと手が置かれた。それに気付き、視線を上げると父が来ていた。スマホを見ると17時。あれから3時間経っていた。父も処置に参加したらしく、状態は安定したとのこと。健治は背もたれに体重を預けてドッと気が抜けた。

 

「あの場にお前が居て良かったよ。あと10分発見が遅れていたら間に合わなかっただろうな」

「…でも俺、何も出来なかったよ。励ますことしか出来なかった」

 

 父は再び俯く健治の頭に手を載せてわしゃわしゃと撫でる。

 

「それで良いんだ。あの時あの場でお前に出来ることは、あの子を安心させることだけだった。”声をかけるだけ”と思うかもしれないが、それが患者を救うこともある。今回のようにな。お前はしっかりやった。ちゃんと俺にも電話をしたしな」

 

 一通り喋ると父は恰幅の良い医師と話をしだす。確か運び込まれた時にも見た医師だ。

 

「そうだ、健治。もうすぐ日も落ちるし、早く帰りなさい。それに自転車置いたままだろ。ちゃんと回収して帰れよ」

 

 そう言い残して父は医師と共に奥に引っ込んでしまった。少女はまだ目が覚めていないらしいし、当分面会も出来ないだろう。これ以上ここに居てもやることは無いので、健治は自転車を回収して家に帰った。

 

 

翌週の土曜日。今日は父と一緒に少女の入院している病院に来た。少女の両親がぜひ会ってお礼を言いたいとのことだ。談話室で実際に会ってみると、気の良いおじさんとおばさんだった。会った瞬間泣きながら握手を求められ、健治はあたふたするしかなかった。ぜひ少女にも会ってほしいと言われ、病室へと足を運ぶ。

そのフロアは静寂に包まれており、全ての部屋が個室。一般のフロアとは違う空気に気圧されながらも、扉の前に立つ。周りを見ると先ほどまで一緒だった父と少女の両親が居ない。若干呆れながら扉をノックすると、中から声がした。

 

「―――どうぞ」

 

 静かな声だ。だがこちらだけに聞こえるような鋭さもある。

扉を開けるとふわりと風が吹き、室内を見ると白で統一された内装に桜色のカーテンが風に泳ぐ。心地よい春の風になびく淡青色の髪を押さえて、静かに微笑みながら少女がこちらを見ていた。

 

「こんにちは。話は聞いているよ。あの時おれを助けてくれたんだよね。座ったままで悪いんだけど…お礼を言わせてほしい。ありがとう」

 

 ベッドの上で丁寧に頭を下げる少女にバツを悪くして健治は答える。

 

「いや、俺は何もできなかったよ。せいぜい励ますしかできなかった。助かったのは君が頑張ったからだよ」

「それでも、ずっと手を握ってくれていたよね。救急車に乗っている時も、ずっと。凄く安心した。あれのおかげで今こうして生きている。確かにそう思えるんだ。君はそれだけって思うかもしれないけれど、おれにとって君は命の恩人だよ」

「あんまり褒められると…その…困る」

「はははっごめんごめん。困らせるつもりはないんだ。そうだ名前を聞いても良いかな?」

「俺は羽柴健治。ケンジってみんな呼んでる」

 

 何やら噛みしめる様に呟く彼女は再び静かに笑った。

 

「けんじ…ケンジ…健治…良い名前だね。おれはケイエスミラクル。…よかったら…友達になってくれるかな?」

 

 

 

 自己紹介も終わり、健治はバッグの中からオセロの盤と駒を取り出した。それを見たケイエスミラクルは目を丸くして驚いた。

「えぇ…君はいつもそんなモノを持ち歩いているのかい?」

「まぁね。ケイちゃんの所に行くって父さんが言ってたから、もしかしたら使うかもって用意してたんだ」

「…ケイちゃん??」

「”ケイ”エスミラクルだから、ケイちゃん。呼びやすいし可愛いでしょ?」

 

 健治は慣れた手つきでオセロをセットする。

 

「んじゃ。先攻後攻を決めようか。ジャーンケーンポン!」

 

 出した手は健治がパーでケイエスミラクルがチョキだ。

 

「後攻で」

「え、ケイちゃん後攻で良いの?」

「少し齧ったことあるからね。確か後攻有利でしょ」

「うっ…」

 

 図星だ。シンボリルドルフは勝ち気故先攻を譲ると喜んで先攻を選ぶのだが、それが原因で負けていることに気が付いていない。実力差もあるが、先手後手で勝率は体感上かなり変わるのだ。それを見抜いたケイエスミラクルを強敵と認定して健治は気合を入れ直す。

パチリパチリと駒を置き、ひっくり返す音だけが部屋に響く。

パチリ。

 

「うっ…そこに置いてきたか…いやらしい手を打ってくるね…」

「誉め言葉かな?生憎だけど歳下には負けたくないからね」

「…?何歳か言ってたかな?」

「いや、なんとなくだけど、歳下だと思う。この勘は結構当たるんだ」

「へぇ。健治は何歳なの?」

「俺は10歳。今小学4年生」

「おれは今年で8歳。小学2年生になったところ。へぇじゃあお兄ちゃんなんだ」

 

 ―――健治の脳内に電流走る。

最後に”お兄ちゃん”と言われたのはいつだったか…。最近は妹がお兄ちゃんとは言わなくなり、ケンちゃんと呼ぶようになってしまった。未だに一緒にお風呂に入る程仲が良いのだが、何か物足りないような日々を過ごしていた。そんな中、端正な顔立ちの少女から言われた”お兄ちゃん”である。衝撃に身が震えるのを真顔で何とか抑える。

だがケイエスミラクルはそれを見抜いたのか、ニヤリと笑って続けざまに攻撃してくる。

 

「お兄ちゃんはオセロ強いなぁ。かっこいいなぁ」

「お、ミスするなんてお兄ちゃんらしくないね」

「お兄ちゃんそこに置いて大丈夫?」

「お兄ちゃんには本当に感謝してるんだよね」

「あ、結構ボロボロだねお兄ちゃん。」

「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」……。

 

 ……初めて負けてしまった。シンボリルドルフやミスターシービーにすら負けたことはなかったのだが、明らかにミスが目立ってしまった。キッとケイエスミラクルを睨むが彼女は涙を流しながら大笑いしている。流石に病み上がりでここまで爆笑するのは危険ではないかと思ったが、こちらの心配をよそに止まる気配が無い。ひとしきり笑うと息を整えながらケイエスミラクルが謝ってくる。

 

「ハァハァ…いや、ごめんごめん。あまりにも反応が素直だったから、からかっちゃったよ。ふー。うん、ごめん。こういうのはフェアじゃないよね。もう一回やろうか」

 

 何とか気を取り直して次の局を始める。今回はお兄ちゃん攻撃が無い為、まともに打つことが出来た。33対31で健治の勝利だ。

 

「よっし!勝った!」

「うーんここに置いたら良かったかー。いや、参りました」

「ふっふっふ…まだやるかい?」

「もちろん。勝つまでやるよ。お兄ちゃん」

 

 思わぬ好敵手と出会ったことで健治は舞い上がり、ゲームにのめり込んでしまう。こうして健治とケイエスミラクルは、時間を忘れてオセロに夢中になった。

 

 

 

 

 どうやらケイエスミラクルは生まれつき身体が弱いようだ。よく高熱を出すなどで入退院を繰り返しているが、ここまで大きな発作は健治が立ち会ったものが初めてらしい。健治と出会った日は特に身体の調子が良く、近くのコンビニにお菓子を買いに出かけた後に発作が起きたようだ。

何とも大変な体質である。健治の父が言うには、幼少期にこうなる子もごく稀にだがいるらしい。成長するにしたがって身体が出来てくると、自然と収まるらしい。

今日は学校終わりに病室にお見舞いに来ている。ちなみに家庭教師は休みにしてもらった。

すでに一度退院していたのだが、熱が出て収まらないとのことで再び入院となったようだ。

健治が病室に来た時にはケイエスミラクルは寝息を立てていた。お見舞いに来たはいいが、肝心の患者が寝ているのではやることが無い。面会出来るということは、そこまでひどくないのだろうが、安心はできない。

若干唸り、身を揺すったケイエスミラクルの手が布団から出てしまった。そのままにするのもどうかと思い、健治は彼女の手を取る。すると、手を軽く開いたり閉じたりしているのに気が付いた。どうするべきかと悩み、恐る恐る手を入れてみたところ、ギュッと強い力で握られてしまった。

ケイエスミラクルの顔を見るが、起きている気配はない。仕方ないので握り返しながらチェスの教本を読んで時間を潰すことにした。

 

 

 

――――夢を見ていた。

寒い…寒い…。凍てつくような水の中で、ただただ沈んでいく身体。身を抱こうにも身体は言う事を聞かず、息苦しさと寒さだけが身体を蝕む…。ひたすらに寒く、動けない。あぁ、また熱を出したのか。熱を出すといつもこの夢を見る。いつもの様に耐えるしかない。もう嫌だ。何でおれだけ。誰か何とかして。誰か…助けて…。

……左手がひとりでに動いた。視線だけで左手を見ると、ほんのり掌の上に光が見える。必死に左手を握り、開き、繰り返す。動いてはいないが、この光に触れたい…離したくない。衝動に突き動かされるまま、ひたすら動かない左手を握り、開く。…不意に光が手に触れた。あの時感じた温かさと同じだ…。

……温かい。離さぬように握り込むと、光の輝きが次第に増えた。掌の温かさが腕を伝わり、心臓を伝わり、全身に流れていく。すでに寒さも息苦しさも無く、心地良さだけが身体を支配する。

…あぁ…温かい。気持ちよく眠れそうだ…。

 

 

 

 ふと気が付くとベッドテーブルに突っ伏していた。教本を読む内に眠ってしまったのだろう。空いた手で霞む目を擦って意識を覚醒させていくと、ケイエスミラクルと目が合った。

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

「ん、あぁ、ごめん。寝ちゃってた。ん?あれ?」

 

 右手を見ると握った時とは違って指と指を絡ませる形になっている。はて?と健治は思ったが、ケイエスミラクルに声を掛けられそちらに意識を持って行かれる。

 

「はい、ティッシュ。よだれ、出てるよ」

「え!うわ!ごめん!」

 

 慌てて右手を離そうとするが握り込まれていて離れない。仕方ないので空いた手でティッシュを取り、口元を拭く。幸いテーブルにしかよだれは落ちておらず、教本は無事だった。

ティッシュをゴミ箱に捨てようと立ち上がるが、右手を引っ張られてバランスを崩し、ベッドに倒れ込んでしまう。何とか空いた手を使って身体がぶつかるのを阻止したことに、健治は安堵した。

 

「うわっととっ…ふー。えっと…ごめん。手を離してくれると助かるんだけど…」

「ごめん。もう少しこのままでいいかな?」

「うーん…まぁ別にいいけど…」

 

 安心しきっているような笑みを浮かべる彼女に離れろなんて言えるわけもない。結構無茶な体勢の健治であったが、おそらく怖い夢でも見て心細いのだろうと考え、受け入れることにした。両手で祈るように健治の手を包み込んでから、どのくらいたっただろうか。誰かに見られているわけではないが、気恥ずかしさが出て来てしまう。

ありがとうと言われ手を離すと、外はもう日が沈みつつある。

 

「さて、今日はもう帰るよ。早く良くなるといいね」

「そうだね。早く良くなるように頑張るよ」

「うん。それじゃあまたね!お大事に!」

「またね」

 

 帰り際にケイエスミラクルのご両親に会ったので、挨拶だけして病院を出る。今日は寝てしまって何も遊べなかったため、次は何をして一緒に遊ぼうかと巡らせる健治であった。

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