駄目ウマ娘製造機   作:あらあらモンペ

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8回目の初投稿です。
出来次第即投下。私の好きな言葉です。
地の文と会話文の比率って難しいですね。


8話

 

「さ…寒い…」

 

 窓からの冷気に負けじと布団に籠る。寒さのピークは過ぎたとはいえ、まだ2月だ。カーテンの隙間から日が差し込んでいるが、折角の土曜日なのだからもう少し温かくなったら出ようと思う。

そう思い気持ちの良い二度寝に洒落込もうとしていると、聞きなれないトラックの音が複数聞こえた。おそらくは昨年引っ越した隣の家に誰かが入ったのだろう。どんな人が入るのか気になり、寝ぼけ眼を擦りながらカーテンを開けて外を見る。

業者が家具を次々に運び入れるのが見えるが、家主と思しき人物は見えない。おそらく家主は既に家の中で荷解きをしているのかもしれない。流石に業者の運び込み作業を見るだけなんてつまらない為、早々に興味を無くした健治はベッドへ潜り込んだ。

 

 隣に新たな住人が引っ越してきて2週間が過ぎた。いつの間にか挨拶に来ていたようだが、基本的に部屋に籠っている健治が接する機会は無かった。

 

 そんなある日の昼下がり、妹が友達を家に連れて来た。ドタドタと廊下を歩く音と静かな足音が一つ聞こえたので、友達は一人なのだろう。一旦手を止めて大きく伸びをする。丁度良いので少し休憩がてら、妹とその友達にお茶菓子を出そう。

そうと決まればキッチンに立ち、材料を確認する。簡単なチョコレートマフィンなら作れるか。

慣れた手つきでボールに材料を投入し、混ぜ合わせると型へ投入。湯煎したチョコを上から投入し、予熱しておいたオーブンに入れて、膨らんできたら焦げない様にアルミホイルをかぶせて更に加熱。焼きあがったら少し冷ましてシュガーパウダーをかけて完成だ。30分とちょっとで出来る簡単おやつだ。

 

 完成したときに健治はハッと気付いた。そもそも妹の友達はこういうのを喜ぶのだろうか。

 

「フユちゃんは俺の作ったおやつは喜んで食べてくれるハズ…。でも相手の子は…?甘いの嫌いだったらどうしよう…。そもそもこれ卵と牛乳入ってるし、アレルギーあったらどうしよう…」

 

 思い付きで行動してしまったことに後悔しながらも、まぁそれなら妹に全部食べて貰えばいいかと自己完結することにした。 

 

「フユちゃ~ん。お菓子持ってきたけど食べるか~?」

「食べる食べる!。入って良いよ~!」

 

 いつもの様に声をかけると、いつもの様に返事が来た。

部屋に入ると妹ともう一人、グレーに近い栗皮色をボブカットにし、切れ長で涼しげな目元をしたウマ娘が居た。

彼女たちが座っているテーブルを見ると片方には見慣れた教科書が広げられており、片方には見知らぬ教科書が広げてある。健治は何となく事情を察した。

 

「初めまして。俺はフユちゃんの兄の健治です。いつも妹がお世話なってます。」

「あぁ。初めまして。隣に引っ越してきたエアグルーヴです。ここに引っ越して来た時から、冬子ちゃんにはお世話になっています」

 

 挨拶を済ませると妹が会話に割り込んできた。

 

「あれ?そういや健ちゃんとは初めてだっけ。休みの日はずーーーっと引きこもってるもんね」

「…?引きこもりなんですか?」

「いやいや、家に居るときは基本的に自分の部屋で勉強してるだけだよ。フユちゃんもいい加減なこと言っちゃだめだよ」

「ぶー。可愛い妹を放置してウマ娘のことばっかり考えてるからだよ。昔はフユにべったりだったのに。…ハッ!エアグルーヴちゃんも気をつけた方が良いよ。こう見えて健ちゃんは”たらし”なんだから」

「だから変なこと言うなって…」

 

 変な噂がたっても困るが変に言い訳をしても被害が増えそうだ。頭を悩ませている健治と揶揄う冬子を、エアグルーヴは羨ましそうに眺めている。

 

「そうだ。エアグルーヴちゃんはアレルギーとかって無いかな?これ、卵と牛乳入ってるんだけど」

「ん?ああ、アレルギーはありませんよ。にしても…これって手作りなのですか?」

「そうだよ!健ちゃんって凄いんだから!大抵のお菓子は作れちゃうし、最近だとママが作るご飯より健ちゃんが作ったご飯の方が美味しいんだから!」

 

 出掛けている母に致命の一撃が入ったような気もするが、気にしないようにする。

早速妹とエアグルーヴは一つずつ手に取り口に運ぶ。まじまじと見るのは失礼なのだろうが、初めて料理を振舞う相手の表情を観察したいという欲求が勝るのを許してほしい。

切れ長の目元が驚きで見開かれる。

 

「ん…美味しい…」

 

 ホッと一安心。その後も次々と口に運んでくれていることから、嫌われてはいないようだ。食べ終わったお皿を取り、部屋を出ようとすると妹から待ったの声がかかった。

 

「あ!そうだ!エアグルーヴちゃん!健ちゃんに勉強を教えてもらおうよ!」

「む、私としては嬉しいのだが…」

「待った。多分今やってるのって、エアグルーヴちゃんの元居た学校とこっちの学校で授業スピードに差があるから、それの埋め合わせをやってるんだよね?それなら今授業を受けているフユちゃんが教えてあげた方が良いと思うよ」

「健ちゃんそれ本気?フユの頭の良さを知ってて言ってる?」

「うっ…」

 

 健治は言葉に詰まってしまった。何故か自信満々に無い胸を張っている妹は置いておいて、確かに不安だ。

健治が芸術関係以外が”よくできる”なのに対して妹は運動以外が”もう少し”ばかりだ。

おそらく今回エアグルーヴの相手に選ばれたのは単純に家が近いからと、人当たりが良いからだろう。それで良いのかと頭を抱えたくなるが、選ばれてしまった以上仕方がない。

予定していた休憩時間を過ぎることになるが、復習と思えばまぁ大丈夫か。

健治は教科書をペラペラとめくり、頭の中を整理していく。

 

「そうです。私が元居た学校だとここまでは習っているんですけど、こっちだとこの辺まで進んでいるらしくて…」

「なるほど。まぁこれくらいの範囲なら今日中に終わると思うよ。まず教科書を読んで、例題を解いてみて。その後別の教材の問題集から、1問解いてもらおうかな。駄目だったらもう一回例題を見返して、もう1問解く。これの繰り返しだね。」

「分かりました。やってみます」

「健ちゃん!ここここ!わかんない!」

「どうわかんないの?」

「全部!」

 

 うーんかわいい。凄い良い笑顔で言われるものだから怒る気すら起きない。

エアグルーヴの方は要領が良いのかサクサク進むが、妹の方は如何ともしがたい。今回受けたのはエアグルーヴの進行度合わせだけなので、妹の方は流す感じで良いだろう。ごめんと心の中で謝りながらも妹の方は最低限に留める。

 

 夕日が差し込むころにはしっかりと埋め合わせが完了した。妹は頭から煙を出して突っ伏しており、エアグルーヴの方はまだ余裕があるようで、妹を見ながら苦笑している。

 

「お疲れ様。これで埋め合わせは終わったけど、また分からないことがあったら気軽に聞いてね。お隣さんだし、いつでも力になるよ」

「ええ、ありがとうございます。…冬子ちゃん、大丈夫?」

「ふしゅ~~」

「まぁ少ししたら再起動するから大丈夫だよ。もう夕方だし、どうする?」

「そうですね…それじゃあそろそろ帰ります。お礼はまぁ…学校で言いますね」

 

 そういうと教材をテキパキと片付けてエアグルーヴは立ち上がった。

 

「それでは、お兄さんも今日はありがとうございました。また今度、お礼をさせてください」

「うん。楽しみにしておくよ。またね」

 

 こうして約1年のご近所付き合いが始まった。

 

 

 

 

「はぇ~すっごい雨…」

 

 誰が呟いたか、校舎の昇降口では二の足を踏む生徒が多くなっている。朝の天気予報では夕方以降も晴れの予報だったのだから、傘を持ってきていない生徒が多いのも当たり前と言える。

空を見上げると、どこから来たのか黒い雲が一面に広がっている。これは止むまでかなりかかるなと考え、図書室で時間を潰そうかと踵を返そうとすると、見知った顔が現れた。

 

「あ、冬子ちゃんのお兄さん。お帰りですか?」

「お、エアグルーヴちゃん。本当は帰りたいんだけどね。土砂降りで傘が無いから、止むまで図書室で時間を潰そうかなって思ったところ」

「…でしたら私の折りたたみ傘を使いますか?」

 

 健治にとっては渡りに船だ。提案に乗ることにした。

健治が傘を持ち、エアグルーヴと身を寄せて傘で雨を凌ぎながら通学路を歩く。

 

「そういえば、学校にはもう慣れた?」

「はい。おかげさまで授業にも付いていけていますし、友達も出来ました」

「それは良かった。フユちゃんとも仲良くしてくれると嬉しいな」

「それはもちろん。あ、そういえば冬子ちゃんは大丈夫でしょうか。傘、持って行ってたりしますか?」

「ああ、いや持って行ってないよ。間違いなく。ただフユちゃんは風邪引かないから大丈夫。今までだって、せいぜいおたふく風邪くらいしかなったことないし」

「それは…凄いですね」

 

 談笑しながら歩いていると家の前に着いた。肩がかなり濡れた為、すぐにでもシャワーを浴びたい気分だ。家に入り、お湯を沸かす。待ち時間に体を冷やすといけないのでコーヒーを淹れる。

 

 ピンポーン

 

 一息ついた頃にチャイムが鳴らされた。妹は間違いなく未だ体育館で動き回っているだろう。郵便だろうか?玄関カメラを覗くと、そこには非常に申し訳なさそうな顔をしているエアグルーヴが居た。

 

「どうかしたの?」

「その…鍵を忘れてしまって…少しの間お邪魔しても良いでしょうか…?」

「良いよ。上がって上がって」

 

 家に上げるとエアグルーヴは靴を脱ぐことなく立ち止まり、困ったような表情をしている。

 

「…?ああ!ちょっと待ってて!」

 

 そういえば失念していた。外は土砂降りで、地面から跳ねた水が靴をずぶ濡れにしていたのだ。健治が家に上がるときは厚手のハンカチを敷き、足を拭いて上がったが、彼女はそういった物を持っていないのかもしれない。すぐに脱衣所からタオルを持ってきて玄関に敷く。

 

「靴下は脱いだ方が良いよ。はい、ビニール。お風呂もうすぐ沸くから、ちょっと待ってね」

「え…いや、そこまでして頂くわけには…」

「妹の友達なら俺の友達。友達に風邪引かせるわけにはいかないでしょ。とりあえず上がって上がって」

 

 そう言ってリビングに彼女を通すと丁度お風呂が沸いたアナウンスが流れた。

 

「丁度良かった。ほい、ゆっくり温まっておいで。濡れたやつはそのビニールに入れて、必要な物があったら言ってね。フユちゃんのやつ持ってくるから」

 

 尚も遠慮しようとするエアグルーヴの背中を押してお風呂場へと案内する。そういえば自分の肩もずぶ濡れなことを思い出し、自室に戻って部屋着に着替える。

リビングでテレビをつけると緊急速報が流れている。不意に雷が鳴り響き、窓ガラスが細かく震えた。

 

「近いなぁ。フユちゃんにメール送っとくか」

 

『雷なってるけど大丈夫?帰れそう?』

『ダイジョーブ!友達のお父さんが送ってくれるって!ちょっと帰るの遅くなるカモ!』

『りょーかい』

 

 どうやら妹の方は大丈夫そうだ。一安心してコーヒーを飲みながらテレビを見る。コーヒーの苦みは未だ慣れないが、相手に嘗められない為にも飲める方が良いと父が言っていた。相手とは誰なのだろうか。

雷が鳴り響く中、そんなどうでも良いことを考えていると、リビングの扉が開かれた。タオルを首にかけ、しっとりとした髪のエアグルーヴだ。

 

「む」

 

健治は直ぐにドライヤーと櫛を持ち、エアグルーヴをソファーに座らせる。

 

「な…なんだ一体…!お兄さんちょっと目が怖いぞ…!」

 

 口調が変わっている気もするが気にせず髪を梳いていく。慣れた手つきに驚きながらも次第にエアグルーヴも受け入れてくれた。髪を乾かし終えたところでココアを淹れ、差し出す。

 

「あ、ありがとうございます。…ヒッ!」

 

 本日二回目の大きな雷だ。窓がガタガタと揺れている。エアグルーヴを見れば耳をペタンと閉じ、目を瞑って身体を丸めている。

ウマ娘は聴覚が鋭く、こういった音は苦手なのだろう。こういう時、だいぶ前の記憶だが、確かシンボリルドルフとミスターシービーの場合は正面から覆うように抱きしめると安心してくれたハズだ。エアグルーヴの正面に立つと彼女の耳がピクリと動いた。

ゆっくりと抱きしめ、頭を撫でる。お風呂上がりだからだろうか、湯たんぽのような温かさが心地良い。

 

「…な!何を!」

「大丈夫大丈夫。もうすぐ止むはずだから安心して良いよ」

 

 最初こそは抵抗しようともぞもぞと動いていたが、次第に静かになっていく。時折空気を読まない雷が鳴り響き、その度にエアグルーヴの身体がびくりと撥ねるが、その度に頭を撫でて抱きしめる力を少し強くしてあげる。

どのくらい経っただろうか。いつしか部屋にはテレビの音しか響かなくなった。

 

「すみません…ご迷惑をお掛けしました」

 

 雨が弱まり、雷が鳴らなくなったタイミングでエアグルーヴは立ち直った。

 

「別に良いよ。ウマ娘は大きな音が苦手なのは知ってるし。それより俺には敬語を使わなくていいよ。硬い感じは苦手なんだよね」

「ですが目上の人に敬語は大切だとお母様が…」

「今回の件、フユちゃんには言わないであげるって言ったら?」

「ぐっ…わかり…わかった。それで手を打とう」

「そうそう。そういうので良いんだよ。そういうので」

「その…このことは本当に内密に…」

「あぁ。誰にも言わないから安心して良いよ。もちろんフユちゃんにも言わない。あの子に知られるとずっとネタにされるからね」

 

 そう健治が言うとエアグルーヴはホッと安心した様子だ。ソファーに隣り合って座り、テレビを眺める。

 

 ガチャリと玄関のドアが開く音がし、ドタドタと廊下を走ってくる音がする。

 

「健ちゃん!お風呂!!」

 

 妹が帰って来た。黒く長い髪は雨でずぶ濡れになり水を滴らせている。ギョッとして廊下を見ればどこを歩いたか丸分かりな程水浸しだ。

 

「はいはい。もう沸いてるからそのままお風呂行って。っていうか車で送ってもらったんじゃないのか?」

「雷止んだから走って帰って来た!気持ち良いんだな~これが!あ!エアグルーヴちゃんだ!」

「ってい!」

「あいたー!」

 

 どこぞのウマ娘みたいなこと言ってる妹にチョップをお見舞いする。流石にずぶ濡れのままリビングに入らせる訳にはいかない。健治も同じ様な事をやった覚えがあるから手加減は忘れずにチョップ連打で妹を止める。

 

「挨拶は後。こんなずぶ濡れだと風邪引くぞ。早くお風呂に入りなさい」

「は~い。また後でね!エアグルーヴちゃん!」

 

 妹はエアグルーヴの返事も待たずにドタドタとお風呂場へ消えていった。健治は直ぐに下駄箱に置いてある雑巾数枚を取り出し、床を拭いていく。

床をササッと拭いたところで立ち上がると、リビングの扉の前で異様な雰囲気を纏ったエアグルーヴが仁王立ちをしていた。

 

「お兄さん…今何をしていましたか…?」

「え…床を拭いただけだが?」

 

 さらに纏う雰囲気が大きくなったように思える。

 

「そんな拭き方で綺麗になるとでも?」

「拭き方なんてそんな。ササッと拭いちゃえば「たわけっ!」」

 

ヒッ!?た…たわけ…??一瞬何を言われたのかわからなかった。頭に?を浮かべる健治を他所に、エアグルーヴは雑巾を奪い取ってしゃがみ込んだ。

 

「フローリングの溝の部分が全然拭けていないではないか!…下駄箱の角にも水が跳ねている!こっちにも!きちんと拭かないとそこからカビが生えるぞ。…まさか自室の掃除も適当なんじゃないだろうな?」

「……毎日掃除機だけはかけてるヨ」

 

 目を泳がす健治の言葉を聞くやエアグルーヴは立ち上がりズカズカと健治の部屋へと入っていく。止めようにも止まらないのだからどうしようもない。見られて困るものは無いが、窓枠や家具の隙間などを細々と見ていくエアグルーヴの様子を見るとつい緊張してしまう。おそらくは落第点だったのだろう。溜息を吐いてそのまま彼女は掃除を始めてしまった。

 

 妹が風呂から上がった後も黙々と掃除を続けていたため、仕方ないので放置して髪を乾かしてあげて待つことにした。

 

 30分ほどして一段落着いたのか、エアグルーヴが部屋から出てきた。何やら俯いているがどうしたのだろうか。とりあえず部屋がどうなっているのか確認してみると、今まであまり掃除していなかった窓枠や机と棚の隙間などが綺麗になっていた。

 

「へぇ…凄いなぁ。うわ、ここも綺麗になってる。すっご。これなら毎日掃除してほしいくらいだわ…」

「まっ…!たっ…たわけ!普通は自分でやるものだろうが。…まぁたまにならやってやらんこともないがな…」

「たまにでも十分だよ!いや~掃除苦手だからすっごい助かる!」

 

 そうまで言うと妹も部屋に入って来た。

 

「おお~こことかピッカピカだ!凄いよエアグルーヴちゃん!フユのお部屋もお願い!!今度で良いから!!」

「まったく…この兄妹は…まぁいい。たまになら掃除してやる」

「「やった!」」

 

 喜び抱き合う二人に呆れながらもどこか楽しそうなエアグルーヴであった。

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