意識が再び覚醒する。
嗅ぎなれた肉が焼けた匂いに不快感を募らせる。
目の前の四肢がない死体を一瞥し、俺はこの薄暗い地下から抜け出した。
今まで俺が殺した人数は累計4兆6000万人。
破滅まで追い込んだ世界はこれで13になる。
初めて人を殺したあの瞬間から、実に4億年の月日がたった。
剣と魔法の世界から生体兵器が蔓延る近未来の世界まで、たくさんの世界を点々としてきた。
なんでこうなってしまったのだろうか。分かってはいるのに納得ができない。いやしたくないが正しいのだろう。
全てはあそこから始まっているのだから。
篠ノ之束が宇宙進出の為にと開発したマルチフォームスーツ。通称「IS」。
このスーツはいい意味でも悪い意味でも世界を動かすこととなる。
まずこのISは女性しか乗れないとされており、急速に女性の社会進出、そして女尊男卑の世界へと方向転換していった。
まあ当たり前だろう。国防の中枢を担うISに女性しか乗れないとなると、優越感にひたったカス共が他者よりも自分の方が優れていると思い始めるのは容易に想像できる。
電車の半分が女性専用車両となり、女性割や女性限定など明らかに差別した物が世に流通し始めた。
なんともまあ皮肉なことだ。宇宙に自由を求めて翼を作ったのに、それがさらに自由を失わせることになるなんてな。
まあいい、所詮ISとやらもおもちゃに過ぎず一介の高校生ごときがファッションのように纏うだけのスクラップだ。
それにこうなったのも、篠ノ之束がISのアピール方法を間違えたからだろう。
俗に言う白騎士事件。全世界から大量のミサイルがハッキングされ、その全てをIS一騎がたたき落とした事件だ。
これによりISは宇宙に羽ばたく翼から、人を殺す兵器への成り下がった。
各国は早急にISを開発、運営し莫大な資金をつぎ込んでいる。
そんな世界にこの男が降りたってしまった。
その名も、國重彰。世界を飛び回る戦争屋だ。
織斑一夏が世界初ISを起動してから1週間後政府は一斉に男性に対してIS適性検査を開始した。結果適正者は1人も出てこず、織斑一夏1人だけとなる。
が、そのさらに1週間後IS学園に正体不明のISが侵入してきた。
箝口令がしかれたが、その姿を見ている人は相当数いるため意味をなさなかった。
ただそのISは学園に着いた時点で消息を絶っており、今も捜索中ということになっている。
今日で監禁されて1週間目だ。いい加減暇を持て余しすぎて死んでしまう。
正直こんな檻はいつでも破れるが、そんなことをしてもさらに状況を悪化させるだけで何の解決にもならない。
なぜならそれはとある契約があるからだ。
俺がこの学園に降り立ち、1番最初に現れたのは織斑千冬であり、俺は彼女に俺はこの学園に危害を加えない変わりに、俺の身分を保証してくれと提案した。
その提案を彼女は飲み、身分証が発行される間ここで暮らせということだ。
噂をするとこちらに向かって規則正しいコツコツという音が近ずいてくる。
2人、いや3人か。
足音が扉の前で止まると、いくつもの鍵を開けるガチャガチャという音が聞こえる。
『お久しぶりですね、織斑千冬さん』
「ああ、久しぶりだな。言っても昨日ぶりだがな」
『それよりそこのお客さんはどちら様ですか?』
織斑千冬が紹介しようと口を開こうとするが男が手で制した。
「それは私から話しましょう。私の名は西園寺利通。この国の総理大臣をしているものです」
『それで、その総理大臣さんがこんなところに何用でしょうか?』
「実はあなたと条約を結ぼうと考えています。その内容はこちらに」
日本国は以下3つの条件を國重彰殿に約束する。
1つ、日本国は國重殿の身分を保証し、國重殿の個人情報を未来永劫詮索しないことを誓う。
2つ、國重殿が経済的に自立できると確証が持てるまで日本国は國重殿に支援を約束する。
3つ、日本国は國重殿、またその関係者に一切の武力行使を禁ずること誓う。
國重殿は日本国に以下のことを誓うことを所望する。
日本国への侵略行為並びに外患誘致しないこと。
日本国が窮地に陥った際、助力すること。
内閣総理大臣 西園寺利通 第132代目天皇 秀徳
「これが日本国があなたに出せる最大の条件です。受けてくださいますか?」
正直こちらにデメリットが、ほとんど存在しない。
唯一日本に助力することくらいだが、この世界に相手になりそうな奴は誰一人としていなかった。
受けよう。それにこの世界には俺の情報などひとつもありはしないのだから。過去を詮索されることなんてあるはずがない。
『わかりました。ぜひこの条件でお願いします。それにあなたとは仲良く出来そうです』
「こちらこそお願いしますね。では私はこれで失礼します」
そう言って西園寺とそのSPは帰って行った。
残ったのは織斑千冬だけだ。
『なぜここまでしてくれるのか分かりませんね』
「それほどおまえを危険視してるということだ。どこから来たか、どんなやつなのかすら何も分からない。
お前の名前はこの国のどこにもヒットしなかった。
そんな人物が急に現れたんだ。しかも、正体不明のISに乗ってな。
それにしても個人で国と条約を結ぶやつなんて初めて見たぞ」
『そうですか。まあここまでしてもらったわけですし、約束は守りますよ』
「ああ、ぜひそうしてくれ。それはそうとおまえはこの春からIS学園に通うこととなった。
もう1人の男性IS適正者である織斑一夏と同じ学年だ。私の弟でもある」
『そうですか、仲良くできるといいのですがね。
学校とやらに通うのも何年ぶりか分かりません。それに今は女尊男卑社会。俺たちをよく思わない輩なぞ沢山居そうですね』
「ああ、そこでお前たちを一緒にしたんだ」
『そういう事ですか。俺は一夏くんの危機に陥った際に救えばいいと?』
「そういうことだ。一夏を頼むぞ」
『ええ、任せてください。俺は約束は守るタイプなんですよ』
そのまま織斑千冬は自分の職場に帰っていった。
俺はまた牢屋で1人となり、鉄格子の先にある空を見る。
『俺が消した命なんだ。俺が背負っていかないといけないだろ?』
そう問いかけるも、返事は帰ってこなかった。