その日の授業が全て終わり各自寮に帰宅となる。
「國重くん、今日からデュノアさんと相部屋になるのでお願いしますね」
『分かりました』
今日1日彼女を観察してわかったことだが、彼女は素人に毛が生えた程度と言えるほどスパイ行動をするのか下手だ。
時々一人称を私と言いそうになっているし、立ち振る舞いに所々女性らしさが見て映る。
デュノア社の狙いはもう検討がついている。十中八九ハニートラップだろうな。男性としてこの学園に送り込み寮で一緒に生活させる。
はなから女性であることを隠し通せると思っていない。そのまま既成事実でも作って帰ってこいってことだろう。
またなんとも小賢しいな。
シャルロット・デュノアのことはあらかた調べた。本名はシャルル・デュノア。性別は女。
デュノア社社長の愛人との間にできた子供で、今回のことは全て実権を握っている部下たちが強行したものらしい。
なんでもデュノア社は第三世代機の開発に失敗し、フランス政府から支援を打ち切られそうになっているそうだ。
支援を打ち切られないたに男性搭乗者を確保したかったんだろう。全く呆れるよ。急激に頭が冷めていくのがわかる。本当に憎たらしい。
彼女は利用されただけか、、
社長夫人は子供が作れない身体のためシャルロットのことを本当に可愛く思っていたのだろう。
愛人との関係も良好でよくお茶をしていたらしい。ただ社長の愛人はもう既にこの世を去っている。
孤独はいい。誰を気にかける必要も無いし、誰かに咎められることもない。ただそれ以上に孤独は辛い。周りには誰もいない、頼れる人もいない、この世にただ1人取り残された気分になる。
彼女は底無しの善人だった。道草に生えてる花さえも気にかける優しさがある。
『報われるべきなんだ。善人が損をする世界なんて間違ってる』
そうだ。彼女は家族と暮らして欲しい。また笑いあって欲しい。
俺みたいになって欲しくは無い、やるべき事はもう分かってる。
部屋に入るとシャルロットが先に居た。俺は奥のベッドを使っているので彼女は必然的に手前となる。
『すみませんね。俺が奥を使っていますので手前を使っていただけるとありがたいです』
「わかった。僕はこっちのベットだね。これからよろしく國重くん」
『彰でいいですよ』
「じゃあ彰も敬語じゃなくてタメ口でお願いしてもいい?」
『ああ、これでいいか?』
出来れば余り敬語以外で喋りたくないんだがまあいいか。
「うん!」
『それよりシャワーの時間やそのほかの部屋のルールを決めたいんだがいいか?』
「そうだね。お互いのためのルールってことだね」
『じゃあシャワーはシャルロットが先に使ってくれ。俺は君の後でいい』
「わかったよ」
『それとシャルロット、君に大事な話があるんだ』
少し俺の雰囲気が変わったのを察知して身を強ばらせるシャルロット。
「な、何かな」
『なぜまだ性別を詐称しているんだ?シャルル・デュノアさん』
シャルロットの顔が驚愕に染まる。やはり素人だ、そんな反応をしたら肯定してると同義だろうに。
「ど、どういうことかな?僕の名前はシャルロットだよ」
『君がしらを切ると言うならそれでもいい。俺には関係がないからね。ただひとつ言いたいのは余り自分を殺しすぎない方がいいってことだ』
自分を殺す。これは言葉通りの意味ではなく、本来の自分を殺し偽るということだ。
『自分を偽りすぎるといつか自分を見失うよ』
その言葉は確かに彼女に響いたらしく下を向いてしまった。
『そうだね。君の入学祝いに連れていきたいところがあるんだ』
そうやって俺はそのままゲートを開く。
『ほら、こっち』
彼女の手を引いて一緒にゲートに入る。
「ここは、、綺麗」
ゲートを抜けるとその先にあったのは花の楽園。見渡す限り一面に花が咲き誇り中央に塔が立っている。
「ここはどこなの?」
口調も戻ったな。
『ここはアヴァロン。そうだね、楽園とでも言っておこうか』
そのまま彼女の手を引いて塔を登っていく。
『マーリンいるんだろ?』
「やはりバレていたか、全く私という女がありながら別の女を連れてくるなんて酷いよ」
『それはすまなかったな。また今度埋め合わせはするよ』
「約束だよ。それじゃ、失礼するね」
そう言ってどこかへ消えてしまった。
「彼女は?」
『マーリン、この世界に幽閉されている夢魔と人間の混血さ。見ての通り良い奴だよ』
ついに最上階へ辿り着くと、俺は彼女の方に振り返る。
『シャルル、君は父と母に愛されているな』
「そんな、父さんなんて私の事を疎ましく思ってるよ」
『いいや、そんな事はないさ。君の父親は君のことを愛しているよ。それに君の義理の母親もそうだ。確かに君は愛されている』
「君に何がわかるのさ!この前なんて泥棒猫なんて言われてぶたれたんだよ!?これのどこが愛しているっていうの?適当なこと言わないでよ!」
『愛されているんだ。ほらこれを見るといい』
映像を空間に投影し、シャルに見せる。
それは彼女の父がペンダントを握り締めながら、涙ながらに決心した表情で写真に語りかけている映像だ。
「今まで私はシャルが苦しんでいるところを見て見ぬふりしか出来なかった。でも、ようやく決心が着いたよ。セリーヌ、僕は部下を道ずれにして罪を被ることにしたんだ。
これであの子も自由に空を飛ぶことができるようになる。だからセリーヌ見ていてくれ。私の最初で最後の子供にできるプレゼントだ」
手は震え、今にも崩れそうだ。それでも愛しき娘のために彼は他人の罪を被り、彼女に自由を与えようとしている。
俺は映像を切り替える。次に映ったのは彼女の義母だった。
「申し訳ありませんセリーヌさん。私はシャルを守ることが出来ませんでした。ただ最後くらいは彼女のためになにかしてあげたいのです。
私はあの人と罪を被ります。どうかシャルを見守ってあげてください」
彼女は涙を流しながらそう写真に喋りかけている。
『言っただろう?彼らは君を愛していると』
彼女は涙を流していた。
「うん、僕は確かに愛されていたんだ、、、あぁもっと早くに気づければよかったなぁ。もっと早くから気づければお父さんたちと暮らせていたのに、、」
そうだ。これは俺が目指している幸せじゃない。彼女の真の幸せは両親と仲良く暮らすことができることなんだ。
『それも含めて任せておけ。俺から君に贈る入学プレゼントだ』
「でも、どうやって?」
シャルロットの頭に手を置いて優しくなでる。
『秘密だよ。ここからは俺の本領発揮といこうか』
「わかった、信じるよ。でも僕は君に何を返したらいいの?」
『別に恩を着せようって訳じゃないんだ。言ったろ?入学プレゼントだって』
「でもこんなの何もなしに貰えないよ」
『じゃあそうだな。君が家族と仲良くしているところを見せてくれ。俺はそれだけでいい』
「それだけでいいの?」
『ああ、約束だぞ』
「うん!」
シャルロットは嬉しそうに頷く。すると何かを思い出したように声を上げた。
「あっ、今度から僕のことはシャルって呼んでよ!」
『わかったよシャル』
俺は現世へ帰るゲートを開く。
『じゃあ先に帰っててくれ。俺はまだここにやることがあるんだ』
「うん!じゃあ先にシャワー浴びとくね!」
シャルがゲートをくぐって現世に帰ったことを確認して、俺は振り返る。
『見ていたのは知っているぞマーリン』
「やはりバレていたかー。いやぁ失敬、つい気になっちゃって」
『まあいい。それより、あとどのくらいだ』
「そうだね残りはあと1年って所かな」
『そうか、それだけあれば充分だ』
「でもいいのかい?今の君は全盛期の1割も出せないんだろ?」
『ああ、この世界じゃ事足りる。それにやっと終わりが見えてきたんだ』
「そうかい、それと埋め合わせは何をしてくれるんだい?」
『それはもちろん。ほらおいで』
俺は手を開き彼女を迎える。彼女は嬉しそうに微笑みながらこちらに抱きついてきた。
「今夜は期待していいかい?」
『当たり前だろ?』
俺は彼女を抱き抱えてベットに向かった。
部屋に帰るときには彰には花の甘い香りが染み付いていた。