ぼっち・ざ・ろっく!の短編集だよ   作:デニーと森

1 / 5
虹喜多......っていうとちょっと違うかもしれないけど、虹夏と喜多が渋谷デート(?)する話。


あたしとあなたのコーディネート

 

「キャー!伊地知先輩可愛いー!キュート!最高!」

「ちょちょっと喜多ちゃん、私あんまりこういうガーリーなの似合わないって!」

「そんなことないですよ〜!伊地知先輩は顔がいいんだから、なんでも似合います!」

 

・・・どうしてこうなっているかというと。

 

今日は4人揃って何も無い貴重な土曜日だったので、喜多ちゃんの強い要望でみんなで渋谷に遊びにいきましょ〜ッ!ということだったんだけども。

......目を離した隙にリョウとぼっちちゃんは姿を消していた。「結束バンド」とはいったい......?

井の頭線のホームまではあの2人も確かにいたと思うんだけど、渋谷に近づくにつれテンションが上がり続ける喜多ちゃんをなだめてたら、いつの間にかふたりぼっちになっていた。どこで逃げたんだ、あいつら。

 

でも2人になったとて、「今日はやめにしましょうか!」とか言うような喜多ちゃんではない。

でもまあ、元々今日の喜多ちゃんはぼっちちゃんを着せ替え人形にして遊ぶつもり満々だったみたいだし、それで肝心のマネキンがいなくなったのにどうするのかな〜、とかテキトーに考えてたら。

 

「次これ!これ着てください!」

「あーもー!これいつまで付き合わされんの!?」

「あっこのワンピースもその次にお願いしますね!」

「人の話聞いてないよね!喜多ちゃん!」

 

さも当然のようにあたしをお人形に置き換えて楽しんでいた。誰でもええんか、喜多ちゃん。

 

 

 

 

「......てかさー、そんなに服見たかったなら自分で着るやつにすればいいのにー」

 

結局10着ちょっとは着せられたんじゃないか?そのあたりでようやく喜多ちゃんのお人形遊びから解放され、テキトーに近くにあったファストフード店で一息つく。

大量に写真も撮れたようで、カメラロールを眺めて御満悦な喜多ちゃんに軽く恨み節をぶつけた。

 

「いやいや、それとこれとは別ですよ!自分に似合う服を探すのと、他の人に似合う服を見つけるのは全然違いますし!」

「いや分かるんだけどさあ、あたし今月はもうお金あんまりないから今日何も買うつもりなかったし」

「そんなこと言ってても1着買ってくれたじゃないですか!」

 

......そう、結局あたしは今スカイブルーのロングスカートが入った紙袋を手に持っている。喜多ちゃんセレクトのうちのひとつ。

 

「......まあ、これはあたしも気に入っちゃったからね」

「ふふふ、これであの服を着た伊地知先輩がまた見れると思うと、今から楽しみです!」

「どーしよっかなー、喜多ちゃんが忘れたあたりのタイミングで着ていこうかなー」

「えー、焦らさないで明日着てきてくださいよー!」

「はいはい前向きに考えとくよー」

 

ほっぺを膨らます喜多ちゃんを適当にいなす。てかやっぱ可愛いな、この子。むくれてるのが可愛いってよっぽどの素材じゃないとそうはならないよ。

まずファッションセンスからして可愛いもんね。あたしはどちらかと言えばユニセックスやジェンダーレスのスタイルが好みだけど、喜多ちゃんの趣味は完全に女の子女の子してるし、なおかつそれが似合ってる。

 

─────あれ?......ここで今更違和感に気づく。

 

「てか喜多ちゃんこそさ、何か買わなくてよかったの?喜多ちゃんが渋谷来たいって言ったのに」

 

そう、あたしに色んな服を着せて楽しんではいたけど、結局喜多ちゃんはまだ自分の買い物を一切していない。まさか手ぶらで渋谷から帰るような喜多ちゃんでは無いと思うんだけど。

 

......あっ。これそういうことか。言い終わってからちょっとして、何を喜多ちゃんが企んでいるかに気づく。

 

「買いますよ?でもですね、今日は伊地知先輩になにか選んで貰おうかな〜って♡」

「あーやっぱりそういうこと......」

 

これは長い土曜日になるかもしれないね......。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

一応あたしにも、渋谷でよく行くところはある。ただ108に真っ先に向かう喜多ちゃんとは違って、あたしはパレコの方なんだけど。

でも最近はリョウについていって下北か吉祥寺で古着を見てることの方が多かったから、微妙に久しぶりかもな。

 

......だからってことも無いとは思うんだけど、ミョーに緊張するような。

 

「うーん......やっぱり喜多ちゃんならこのあたりかなあ」

 

1人でならなんてことなく入れるいつものアパレルも、喜多ちゃんを連れて入るとなるとなんだかむず痒い。

それを誤魔化すように、とりあえず目に付いたケープフリルのブラウスを手に取る。まあ間違いなく喜多ちゃんには似合うだろう。

 

「わー可愛いです!」

「おー、お気に召す?ならこれと、近い系統でもうちょい探してみて──────」

「うーん、でも......」

「あれ?どうしたのかなー喜多ちゃん」

 

ちょっと言い淀んで口をもごつかせている喜多ちゃん。気に入ってくれてそうに見えたんだけど、ちょっと何か引っかかる感じ?

 

「いや、可愛いのは可愛いんですけど......伊地知先輩って普段あまりこういうのは着ないですよね?」

「えっ?......まあ確かに、こんな感じでフリルついてるようなのは、あんまりあたしの趣味ではないかなあ」

「それならこれじゃなくて、普段伊地知先輩が選ぶような服を私にも着せて欲しいです!!!」

 

めちゃくちゃ目をキラキラ輝かせながら顔を寄せてくる。キターンって効果音もなんか聞こえてくるし。

いやてか眩しいな!眩しい眩しいそんなに光るなよ〜って脳内に流れ込んできた。それ言ってたの目の前で光ってる彼女なんだけどね!

 

「えーそんなんでいいの?私の趣味だとあんまり可愛い感じじゃないと思うよ?」

「それがいいんです!」

「わー即答」

「お願いします!先輩♡」

 

急に声色を変えて上目遣いしてくる喜多ちゃん。

うおーあざとい!あざといよ!それでいてあんまり不快感がないのもすごいね!天性の陽キャパワー恐るべしだよ。

......まあ、それは置いとくにしてもそこまで言われるとこっちだって悪い気はしない。

ということで彼女の希望通り、いつものあたしの好みに従って、オーバーサイズのパーカーやサロペットのパンツを手に取り、喜多ちゃんに見せていく。

 

「じゃあこういうのになるけど......」

「キャー!伊地知先輩セレクト最高!」

「いや評価めっちゃ高いな」

「これ、それぞれに何合わせるんですか!?」

「うーん、あたしならパーカーの方はちょっと裾が見えるくらいのショートパンツかな。サロペットの方は......ひねらず普通に無地のシャツやノースリーブで良いんじゃないかな」

「うーん、シャツはこれですか?」

「その白いやつより、こっちの薄いブルーの方が私は好みかな〜」

「じゃあこれにします!早速試着しますね!」

 

そう言って爆速で試着室に消えていく喜多ちゃん。いやー、アクティブ陽キャはやっぱ違うわ、うん。

あたしもどちらかと言えば社交性ある方だとは思う(リョウやぼっちちゃん見てるから余計にそう思える)けど、ここまで素で全開にできる喜多ちゃん見てると、格の違いを思い知らされるもんね。

 

とかそんなことを考えていると、目の前のカーテンが開く。

 

そこにはあたしがチョイスしたコーデに身を包んだ喜多ちゃんがいて。

 

「似合ってるじゃん」

 

思わず率直な感想が漏れる。というかむしろ──────なんかいつもより喜多ちゃんを綺麗に感じるような。

なんだろう、自分好みにカスタマイズしたかのような彼女を見て、強い色を持つリョウやぼっちちゃんの色にはなることはあっても、自分のカラーが薄いからイマイチ染め上げられないあたしのそれに、喜多ちゃんを初めてできたような気がしたというか。......何考えてんだあたし。発想が変態さんかもしれない。

 

でも、おそらく「どうですか!?」って言いたそうだった喜多ちゃんは、あたしの素直な一言で満面の笑みになってくれた。

 

「嬉しいです!伊地知先輩のセンスさすがです!」

「モデルがいいんだって。何着ても似合うでしょー喜多ちゃん」

「いやいや、そんなことないですよ!ひとりちゃんのジャージとか着こなせる気がしませんし......」

「いや、あれは例外だから大丈夫」

 

ははは、と軽く笑いながら、じゃあそれ買っちゃう?と聞こうとしたんだけど─────いや喜多ちゃん、なんかまた発光してない?キターンって聞こえてこない?

 

「じゃあ次!次いきましょう伊地知先輩!さっきのパーカーの方に合うパンツ探しましょう!」

「あ、あー......ショートパンツならここで買うよりいいとこが」

「ならそれは後にして、またここで揃えられる伊地知先輩推しのコーデ教えてください!」

「......えっこれもしかして、さっきの喜多ちゃんと同じくらいの量あたしが探さないとダメな感じ!?」

「何言ってるんですか先輩、さっきは私かなりセーブしたんでもっといっぱい選んでもらいます♡」

「あっリョウがぼっちちゃんからお金タカってる気がしてきたから帰ろうかな」

「先輩、こういうサマートレーナーとか好きですよね?これに先輩なら何合わせますか?」

「人の話聞いてないよね!喜多ちゃん!」

 

 

 

 

結局喜多ちゃんが本当の本当に満足したのは、陽も落ちかけるような時間帯だった。

もうあたしはクタクタになっていたので、今日は適当に近くにあったチェーンのパスタ屋で早めの夕飯をとることにする。なんも作り置きしてないけど、お姉ちゃんはまあ勝手になんとかするでしょ。

 

「いやー今日はしんどかったよ喜多ちゃん......」

「そうですか?私はまだまだ遊べますよ!」

 

いざ注文したはいいけど、目の前のボンゴレビアンコを口に運ぶスピードが明らかに遅いあたしを後目に、喜多ちゃんはボロネーゼをあっさり完食していた。しかもめちゃくちゃ写真撮影タイムあったのに......。

 

結局喜多ちゃんは爆買い外国人か!ってくらい大量の服が入った紙袋を床に置いている。これ全部あたしセレクトって考えると、なんかちょっとハズしてないか怖くなってくるな。まあ喜多ちゃんどれも似合ってたし、問題ないとは思うけど。

 

「それにしてもよくそんなに買ったよねー。それ、あたしの好みであって喜多ちゃんとはセンス違うでしょ?」

「まあ確かに私だけのセンスじゃなかなか巡り会えなさそうなものもありましたけど、伊地知先輩に選んでもらえてる!って考えると楽しくなっちゃって」

「素直な可愛い後輩を持てて、あたし幸せだよ〜」

「それに......私が先輩の色に染められてるって思ったら、めちゃくちゃ嬉しくなっちゃったし」

「......!?うっ、ぶほっ!」

「ちょちょっと、伊地知先輩大丈夫ですか!?むせたんですか!?」

「げほげほ......うん、誰かのせいで気管にちょっと......げほっ」

 

......喜多ちゃん、それどういう意味ですか。

さっきあたしが一瞬抱いたのとほぼ同じ言葉が喜多ちゃんから飛び出してきたわけで、さすがに動転しちゃう。

とりあえずピッチャーから注いだ水を飲み干し、微妙に火照ったような気がする身体を冷やしながら口の中も整える。

 

「......はー、ビックリしたよもー」

「というか先輩、誰かのせいで、って言ってましたけど......私ですか?」

「そうだよー、だってなんか急に恥ずかしいこと言うんだもん喜多ちゃん」

「私直前に何言ってましたっけ......」

「......なんか喜多ちゃんがさ、あ、あたしの色になれて嬉しいとかなんとか」

 

自分の口で言うの小っ恥ずかしいな!羞恥プレイか!

 

「?......それ恥ずかしいことですかね?」

 

あっ、そもそもそういう自覚なかったんかい。

 

「ちょーっとあたしには刺激強かったかな〜、そういうのリョウ相手ならともかく、ぼっちちゃんとかクラスの男の子とかにも言わない方がいいよ」

「えっ......あっ」

 

ここまで言ってようやく自分がまあまあ恥ずかしいこと言ってたのに気づいたのか、喜多ちゃんの顔が赤くなっていってる。結構天然というか、鈍感なとこあるよね......。

 

「あっいやいや、そういうことじゃなくてですね!」

「ふーん?じゃあどういうことなのかなー?」

「もう、からかわないでくださいよ!......ですから、伊地知先輩の色ってことは、つまり『結束バンド』の色ってことじゃないですか。だから外面だけでもそうなれた気がして、嬉しいなーって」

「......え」

 

今度はあたしが赤くなる番。それをお構い無しに、喜多ちゃんはぽつぽつと語り続ける。

 

「私はみなさんに比べて......なんというか、何もないと思うんです。覚悟も執念も負けないつもりではいますけど、やっぱり他のみんなはそんな私の遥か上にいる、というか」

「いや、喜多ちゃん......」

 

そんなことないのに。

 

「だから、私もこのバンドのひとつの色になりたいってずっと思ってたんです。伊地知先輩がリョウ先輩とひとりちゃんに声をかけて、そこからまた輪が広がって、私を導いてくれたこのバンドの。......それで今日、正直言って伊地知先輩のことは振り回しちゃいましたけど、それも先輩がこのバンドを染め上げたように、私も同じ伊地知先輩カラーになれたことが嬉しかったからなんです!」

 

外見だけでそんなこと言っちゃうなんて不純なんですけどね、とつけ足して小さく笑う喜多ちゃん。

 

なんだなんだ、全くの不意打ちだったからちょっと涙腺に来そうになったじゃん。先輩泣かせようとするなんて悪い後輩だよ?

いやでもね、違うんだよ、喜多ちゃん。

 

「喜多ちゃん......」

「はい......って、痛っ」

 

だから、あたしは喜多ちゃんにデコピンで答える。

 

「結束バンドからあたしの色を感じてくれるのはありがたいし、正直泣きそうになるくらい嬉しかったんだけどさー、......もうそんな段階じゃないよ、あたし達」

 

おでこを抑えて怪訝そうな顔をしている喜多ちゃんを横目に、あたしも語り続ける。

 

「もううちのバンドには立派に全員の色が混ざり合ってるよ。それがドス黒い闇なのか、直視できないくらい眩しい光なのかはまだ分からないけど......そこには間違いなく喜多ちゃんの色も、あたしの色だって入ってるんだからね」

「......そうなんですかね......なら、嬉しいです」

「でもまあ、さっき喜多ちゃんに言われるまであたしも自分のカラーって薄いよな〜とか思ってたからお互い様だよね。だから喜多ちゃん、あたしにもデコピンしていいよ」

「いや、しませんよ!」

 

2人で顔を見合わせてケラケラと笑う。

なんだか今日1日の疲れもどこかに飛んでいった気がした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

翌日、STARRY。

今日は昨日と打って変わって、全員がうちでバイトの日。

 

「虹夏、そんなスカート持ってた?」

「あーこれ?昨日どこかの誰かさんたちが蒸発してる間に渋谷で買ってきたんだよ」

 

一切悪びれず話しかけてくるリョウに見せつけるように、その場でくるりと回ってみせる。ひらひら靡くロングスカートの裾が、あたしをなんだか得意気にさせる。

 

「なんかあんまり虹夏のセンスっぽくなくて意外って思った」

「えー、似合ってない?」

「そうは言ってない」

 

こいつ鋭いな......。

 

「おはようございまーす!」

「あっおはようございます......」

「あーおはよー!今日もよろしくね〜」

 

そんなこんなしているうちに、後輩ズも2人仲良くやってきた。

おそらくリョウに振り回された被害者であろうぼっちちゃんは、いつにも増してビクビクしてる。もう大丈夫だよ〜、怒ってないからね〜。

そして、喜多ちゃんは昨日あたしが選んだダボダボパーカーにハーフパンツの出で立ち。

 

お互いに目が合う。あたしが口に人差し指を当てると、喜多ちゃんもウインクで返してくれた。

 

─────うん、ひとまずこれはあたし達2人の秘密でいいよね。

 

「郁代、それ虹夏のチョイスでしょ。あー、だから虹夏は郁代セレクト着てるってことか」

「「・・・・・・」」

 

なんでリョウは無駄なところでめちゃくちゃ鋭いのかな!!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。