かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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赤猫の休日④ 強盗団の場合

 

 その者達は、タチの悪い3人組の強盗団だった。

 

 主に都市国内を中心として、裕福な家が空いている隙に金品を争奪する。しかし例え家主が中にいたとして暴力によって脅しつけて、押し入ってくる。そして家の中のあらゆるものを奪い去って逃げていくのだ。

 ありとあらゆるものを土足で踏みにじって壊していく彼等の犯行現場は凄惨だった。ここ数日続いた被害に、騎士団は激怒し彼等を追跡していた。

 

 しかし当の強盗団達は、そんな騎士団の追跡を嘲笑っていた。

 

「どうせ奴らが護るのは、この国の中だけさ! 俺達は国の外に逃げればいい!」

「精々、誰も居ない場所を探し回ってるといいわ!」

「騎士団なんかがいる国の中より、外の方がよっぽど安全だ!」

 

 本来、魔物達が蔓延り、危険な自然災害が起こる都市国の外の方がよっぽど危険だ。

 にも拘わらず、そんな風に彼等が侮るのは、悪運故だった。

 今日に至るまで本当にたまたま偶然、大きな災難を外で経験したことがなかった。知らないから、経験したことがないから、彼等は慢心する。一切言葉を選ばずにいえば、彼等はあまり頭が良くなかった。未体験の恐怖に対する想像力が欠如していた。

 しかし悪運だけは強い。騎士団の包囲網もするするとくぐり抜けてしまうほどに。

 

 そして、今日も彼等は犯行に及ぶ。

 

 狙う家は、官位を有した裕福な家の一つだ。

 彼等は下調べで、ここが老婆が一人で暮らしていると知っている。

 金持ちで、力の無い老婆が一人。これほど絶好のカモはない。彼等は持ち前の盗人の技術と、悪運でもって、大胆にも日中に家の中へと潜り込んだ。

 

「どうだ……?」

「ババアと猫しかいねえ」

 

 内部には老婆が一人と、その老婆が飼っている猫が数匹、ウロウロとしているだけだった。

 動物(ペット)というのは時に警戒すべき対象ではあったが。猫たちは特にこちらを気にするそぶりはない。そして当の家主はというと、

 

「あらあら、お客様かしら?」

「――ああ、そうだよ。お客様だよ。アンタの息子に呼ばれたんだ」

「そうなのね? じゃあ、クッキーを用意しないとねえ」

 

 強盗団のリーダーはニヤリと笑う。どうやらこの家主の老婆は随分ともうろくしているらしい。明らかに怪しい格好をしているこちらを見ても、ニコニコと微笑みを浮かべるばかりだ。

 

「こりゃ楽でいい。さっさと仕事にかかれ」

「猫はどうすんのよ」

「騒いだらぶっ殺せば良いだろう……おい、何してんだ」

 

 3人組のなか一番すっとろい男が、なにやらジッとしている。リーダーは苛立ちながら尋ねると、男はおずおずと、老婆がよしよしと撫でる猫を指さした。

 

「なんか…………あの猫赤くねえか?」

 

 確かに見てみると窓から差し込む日差しの所為なのか、猫の毛並みは随分と鮮やかに赤く見えた。その猫は大人しく老婆に抱きかかえられて撫でられながら、じっとこちらを見つめてくる。が、

 

「だからなんだよ。バカ」

「いっで! ブツなよお!」

「魔術の国だってんだから変な猫もいるでしょ」

「そこのババア見張っとけ。そんくらいてめえにもできるだろ」

 

 そう言って、リーダーともう一人は去っていった。

 ぶん殴られ男は少しふて腐れた顔で近くのソファに身体を預けた。あまり使われなかったのかかび臭い匂いがしたが、気にしない。

 それよりも、さっき家主の老婆が撫でていた赤い猫がなぜか少し気になって、男は再びそちらに視線を向ける。しかし老婆の手元から猫の姿は消えていた。

 

《にゃあ》

 

 いつの間にか、赤色の猫は足下にやってきていた。男は内心で少しビビりながらも、強がるように手に持っていたナイフを猫へと向けた。

 

「なんだあ、近づいてきやがって。死にてえのか?」

《にゃあ》

 

 対して猫は暢気に可愛らしく返事をして、男は嘲笑った。

 

「へ、分かるわけねえか」

《そうでもないのよ?》

「うそこけ適当言いやがってよ」

 

 男は返事をして、そこら辺に酒でも転がっていないか視線を彷徨わせる。そして、

 

「………………ん?」

 

 なにかおかしいことに気付き、疑問を口にした。直後、彼の意識は闇に包まれた。

 

 

               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「全然、良さそうなの無いじゃない……ハズレね」

 

 キッチンにて、強盗団の一人である女はめぼしい者が見つからない事に舌打ちした。

 金持ちは、自分の資産をこういう何でも無い場所に隠すことがあるだから片っ端から棚を引っ張り出して確認するが、何も残っていない。あるのはクッキーだとか茶葉だとかばかりだ。

 

 なにか高価な魔導具等を期待していた彼女は不満を露わにする。

 

「なにが魔術大国よ。せめて宝石でも用意しなさいよ」

 

 なにが“せめて”なのか不明であったが、そんなことを誰へとなしに愚痴っていると、なにかの気配を感じて、彼女は凶器をそちらへと向けた。

 薄暗い部屋の中で、こちらを睨んでいたのは――

 

《にゃあ》

「なんだ猫か……驚かせないでよ」

 

 彼女は脱力し、ため息を吐く。先ほど仲間の一人が言っていた赤い猫だ。窓からの光を受けて、キラキラと輝いて見える赤い毛の猫。あのバカ程ではないが、確かにどこか目を引いた。

 しかし、今は関係ない。猫を無視して彼女は仕事を続けた。

 

《にゃあ》

「にゃあにゃあうっさいわね……アンタも猫なら光り物の一つくらい運んでこいっての」

《にゃあ》

「ほんっと、良く喋るわね……騒がないだけいいけど」

 

 ドタンバタンガシャンと色んな者を引っ張り出しながら、彼女はチラリと猫を視た。

 

 ――はて、この猫の尻尾はこれほどまでに長かったか?

 

「……ええと、早く盗るもの盗って逃げなきゃ」

 

 彼女はそんな風に自分を言い聞かせながら、しかし気になって、もう一度猫を見た。

 

 ――はて、この猫の尻尾は三つに分裂していただろうか?

 

「…………えっと、えっと…………あれ、なんで……?」

 

 じわじわと、彼女は自分が、“とりかえしのつかない状況”にいることに気がつくが、しかし、それでも彼女は動けなかった。目の前の猫から目が離せなかった。

 

 ――はて、そもそもこの猫はこんな、天井に届くくらい大きいサイズだったか――

 

 次の瞬間、彼女は悲鳴をあげると共に意識を失った。

 

 

               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「おい? どうし……ッ!?」

 

 仲間の悲鳴に気がついたリーダーの男は、一階に戻り驚愕する。

 部下の一人が、地面に倒れているのを目撃したからだ。

 

「なんだ……おい、さっさと起きろよ……!」

「…………」

 

 しかし、目を覚まさない。しかも奇妙な赤い紐で手足を拘束されている。ナイフでそれを解こうとしたが、何か、特別な魔導具の類いをなのか、まったく千切れなかった。

 不味い。これは不味い。それを理解した男は駆けだした。

 

「人質だ……!」

 

 何が起きているのかは分からないが、とにかく自分達が襲撃を受けているのだけは確かだった。果たしてその謎の相手に人質が通じるかは分からなかったが、彼は一縷の望みに駆けて家主を探した。

 

「あらあら、おきゃくさま、いまクッキーをおだししますからね?」

 

 老婆は先ほどと変わらず、窓際に座り込んでこちらに向かって微笑んでいる。リーダーの男はその老婆へと急ぎ近づくと、ナイフを突きつけた。

 

「黙ってろ……! よし、いいか動くな!」

 

 そして彼は、虚空を睨み、どこの誰か分からない、自分達を襲っている襲撃者へと叫んだ。

 

「どこの誰かしらねえがこれ以上近づいたらこのババアをぶっ殺すぞ!!」

《そういうことしたらだめなのよ?》

 

 すると、男が人質にとった“老婆の形をしたナニカ”はそう言った。

 

「……は?」

「あら、私が居るわねえ」

「へ?」

 

 そして、キッチンの向こうから、辺りが荒らされてることにも気付かずにゆったりと、クッキーを取りに戻った老婆が、リーダーの男の側にいる自分の姿をした何かをみて、驚きの声をあげた。

 リーダーの男は恐る恐る、人質だったはずの老婆を見る。

 

《おーしーおーきーよー》

 

 “老婆だったもの”は大きく口を挙げる。顎が裂けても尚広がり、真っ黒な闇が顔を覆い尽くす。リーダーの男は絹の裂くような悲鳴を上げながら、意識を失った。

 

 

               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「お母さん! 大丈夫だったかい!?」

「まあまあ、どうしたの困った顔をして、クッキーを食べるかい?」

「そりゃ困るわよもう……だから一人で暮らすなんてムリっていったのに……」

 

 とある老婆の住まう家にて、巷を騒がしていた強盗団が捕まった。

 一人暮らしの老婆の家に、強盗が押し入る。そう聞くと否応にも最悪のケースを想像するが、激しい物音を不審に思った近所の者達の通報を受けて騎士団が到着したとき、老婆は全く無事だった。家も荒らされていたが、盗まれたものはなく、そして、

 

「一体なにがあったんだ、こりゃ……」

 

 強盗団の三人は揃って拘束され、身動き取れない状態になっていた。

 

 奇妙な事態であったが、悩まされていた強盗団が捕まえられたこと、犠牲者が出なかったことは喜ばしい。老婆の娘も到着し、後は事後処理の流れとなった。

 

「あーもう、ほんっとうに酷いわね。片付けなきゃ」

「そうねえ、ごめんねえ、散らかしてしまって」

「いや、母さんじゃなくって……まあ、いいけど……あら?」

 

 騎士団達の見聞が終わるまで、止むなく待機していた娘は、ふと窓の方に気配を感じて視線をやる。そこにはとても美しい赤い毛並みをした猫がいた。

 

「あれも、母さんが拾った猫?」

「いいえ、今日きたお客様よ。ずっとくっついてて、とってもなつっこかったわ」

「……護ってくれてたのかしら。なんてね」

 

 なんとなく、そう思っていると、赤い猫は器用に窓を開ける。そのまま外へと出て行くつもりらしい。娘は赤い猫へと手を振った。

 

「ありがとうね。赤猫さん」

《いいってことよー》

 

 赤色の猫はそういって、颯爽と窓から立ち去っていった。さて、あとは騎士達が立ち去ったら部屋の片付けだなあ、と、娘はため息を吐き出して、

 

「「「「「……………………………今喋った?」」」」」

 

 娘と、騎士団の全員は、今起きた現象にピタリと動きを止めた。

 

 




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そして、4巻が出まする! また改めて報告しますね!
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次回9/14 20:00 予定
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