かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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飛竜襲来④

 

 

「竜、ねえ?」

 

 【白の蟒蛇】のジャインは仮都市の防壁の上で眼前の光景を黙って眺めていた。

 眼下では名無しの者達が泣き叫びながら防壁の外へと飛び出していく。【暁の大鷲】が来ていたことで人入りが多かったためか、混乱は大きかった。

 

「全員慌てるな!!あの魔物は此方を狙ってきてはいない!!走るんじゃないよ!!」

 

 が、その混乱を【暁の大鷲】の連中は的確に抑えていく。

 彼等としては混乱に乗じて自分たちの商品が破損されたり盗まれたりするのを避けるための打算も込みなのだろうが、それでもこういった事態には頼りになる。寄る辺のない名無しの者達でも、暁の大鷲というギルドそのものを寄る辺として見定める者が多いのも道理と言えた。

 

 ジャインはそれを手伝うことは無い。

 

 別に、彼等の行いを愚行だと見下すわけではない。ただジャインは自分の中で、自分が護るべきものが明確になっているだけだ。身内と定めた相手しか彼は護らない。自分の能力を身内以外に割いて、自分の目的がおろそかになることを彼は嫌っていた。

 

「ジャインさーん!無事っすかー!」

 

 と、ジャインのすぐ側にラビィンが降り立った。ジャインはそちらに視線を向けることなく、鼻を鳴らした。

 

「遅いぞ駄兎」

「ひっでーっす。んで、交渉は上手くいったんすか」

 

 問われ、ジャインは布袋を彼女の方に放る。受け取ったラビィンの手元で硬貨がこすれあう心地よい音が響いた。

 

「貰うもんは貰ったよ。んで、“そっちは?”」

 

 問う。ラビィンは首を横に振った。その表情は普段常に楽観的なヘラヘラとした笑みを浮かべる彼女とは違い、険しかった。

 

「駄目っすね。()()()()マジで辞めるみたいっすよ」

「……まあ良い」

「しゃーないっすよ。気にしない方が良いっす」

「気にしてねえよ駄兎」

 

 ジャインは軽く拳を振ってラビィンを殴ろうとした、彼女は華麗に回避し、ジャインは舌打ちする。

 

「で、どうするっす?」

「迷宮、金稼ぎ続行だ。それとも人助けが良いか?」

「うんにゃ、めんどくさいし嫌っす。他の皆も用意させるっすね」

「ああ」

 

 ラビィンが再び立ち去る。ジャインもまた防壁から飛び降り、竜吞ウーガへと向かって歩み出した。だが最後に1度、後ろを振り返った。

 

「きなくせえが、精々俺たちの代わりに探ってくれよ、新人」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「完成、した…!」

 

 リーネはアカネと共に生み出した白王陣を前に感動に打ち震えていた。彼女の前には白王陣が明滅と共に恐ろしい威圧感を放っていた。まだ起動に至っていないが、それでもこの圧である。これまで彼女が何時間もかけて生み出した白王陣となんら遜色のない完成度である。

 それが、僅か数十分で完成に至った。しかも、5割はアカネが手を貸してからの数分に集約する。凄まじい結果だった。

 

「アカネ様!大・変!素晴らしい出来です!アハハハ!!!」

《てんしょんがやばーい》

「【開門!!!天火ノ煉弾・喰追・白王陣!!!】」

 

 リーネが生み出したこの白王陣は、火の属性を司る終局魔術だった。しかし、シズクが普段から扱う初級の魔術の火玉とは次元が明確に異なる。陣の光に呼応し、そして、同時に、陣の輝きが空に映る。

 天に映った巨大なる魔法陣、その中心から、巨大な、本当に強大な火玉が現れる。宙の果てから呼び出された“星の欠片”は、凄まじい熱を放ちながら、真っ直ぐに、今まさにウルを追いかけ回している飛竜へと狙いを定めるようにして、放たれた。

 

 弓から放たれた矢よりも速く、撃ち放たれた星の欠片は、竜のいる地点で凄まじい衝撃音と共に着弾した。

 

「完・璧!!」

《にーたんしんでね!!?》

 

 リーネは天に拳を握りしめ、アカネはその爆音に引いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「死ぬわァ!!!」

 

 凄まじい爆発音と共にウルは吹っ飛ばされ、地面を長々とすっころび続けた挙げ句、最後には泥まみれになりながらウルは叫んだ。火喰の鎧を身に纏ったおかげで擦り傷まみれにならずには済んだが、代わりに打撲まみれになった。死ぬほど痛い。

 

 衝撃の正体は不明だったが、リーネの白王陣の攻撃であろうというのは分かる。何故なら自分の目の前に居た飛竜の脳天に巨大な火の玉が直撃したのが見えたからだ。その直後にウルも吹っ飛んだが。

 

「外に出といて良かった…」

 

 仮都市の中であの爆発を起こしてたら死人が出ていた。いや、これくらいの火力でなければ、あの飛竜に傷を負わすのも難しいのだが。

 

「ウル様。ご無事ですか」

「なんだあの威力?!外周の簡易結界がぶっ飛んだぞ!?」

 

 背後からシズクとエシェルがやってきた。シズクは手早くウルに治癒魔術を施し、怪我を癒やした。ウルは彼女に小さく感謝を告げ、しかし視線はずっと目の前で立ち上る土煙へと向けていた。

 あれで死んでくれるなら勿論最高だが、そんな甘い期待をする相手ではない。

 

《――――GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!》

 

 途端、巨大な咆吼が響いた。先ほどまでの、ただ怒りと敵意に満ち満ちたものとはまた違う、なにか、苦しみ藻掻くような咆吼だ。そして直後、巨大な黒い塊が土煙を割って空へと飛び出した。

 

「……!」

 

 ウルは咄嗟に槍を構えるが、しかし竜はコチラに向かってはこなかった。そのまま凄まじい速度で反転し、そして飛び去っていく。向かう先は間違いなく、【ウーガ】だ。

 あの黒い結界の中に、逃げるようにして飛び込み、消えていった。

 

「……逃げたって事で良いのですかね」

「……これで、“竜を倒した”っつー黄金級昇格の条件達成になんねえかな」

「であれば、倒しきらねばなりませんね」

 

 ウルは深々と溜息をついた。まあ、生きているだけめっけもん、ではあるのだが。

 

「竜、どうしてこんな……仮都市は……皆は……」

 

 背後ではエシェルがぶつぶつと呟いている。戦ってる最中はウルの支援に必死で、それ故に深く考えずに済んでいたが、全てが終わった後、一気に混乱が訪れたらしい。

 

「い、いてえ!いてえよ…!」

「おかーさん!おかーさんどこー!?」

 

 その気持ちも分かる。状況は死屍累々だ。“都市らしきもの”として最低限、維持できるだけの名無し達が集まっていたからそれらしい形となっていた。だが、今はそのかろうじての体裁すらボロボロだ。時間が経てば、竜を恐れ離れていく者もでるだろう。そうなれば、この都市予定地は本当にお終いだ。

 

「エシェル様。落ち着け」

「わ、わかってる。だ、だが、あんな……これから、どうしたら、いいの?」

 

 ウルの呼びかけに対しても明らかにしどろもどろだ。そしてウルを縋り付くように見つめてくる。

 助けてくれと彼女は訴えていた。だが、それを直接口にすることは出来ずに苦しんでもいた。

 ウルは少し息を吸って、吐いた。ウルとて、誰かに縋って答えをもたらしてくれるならそうする。だが、不本意ながらそうしてくれる者はいないらしい。自分で決めるしか無いのだ。ウルは腹をくくった。

 

「痕跡を見ろ。血の痕がある。多分ダメージを負ったんだ。攻撃を中断して逃げるほどのダメージが。それが癒えるまで、こっちに来ることはないだろ」

 

 おそらくは、とは口にしなかった。言っても仕方ないからだ。

 しかし確かに巨大なクレーターとなっている【白王陣】の破壊痕に、真っ黒な液体、血がこぼれ落ちている。それも僅かではなく結構な量だ。あの謎の飛竜の生態は未だ不明だが、決して軽い怪我ではないだろう。恐らくその見込みが当たっている可能性は高い。

 

「そして【竜呑都市ウーガ】に逃げたって言うなら、アレがあの都市の迷宮化の原因の一端か、原因そのものである可能性は高い」

 

 つまり、“都市の迷宮化を解除する”よりも、状況は明確になったと言える。“主”と思しき“飛竜”を討つ。実にシンプルだ。

 

「た、倒せるのか?」

「やるしかないだろう。可能か不可能かを論じて、意味があるか?」

 

 エシェルは黙った。

 彼女も悟っているのだろう。可不可を論じるのは、余裕が在るものの特権だ。後退する場所がある者の権利だ。ウル達にはない。そしてエシェルにもそんなものはないのだろう。だから、考えても仕方ないのだ。

 結論は出た。

 

「シズク、魔力量は」

「一日は休めば回復します」

「なら、今日、明日はロックの復元を完了した後は回復に専念だ。ジャインから得た情報を元に俺はありったけの食料とその他消耗品、装備を【暁の大鷲】から買いあさる。エシェル様。資金は援助してもらうぞ」

「わ、わかった」

「準備完了次第。本格的に迷宮探索を開始する。いいな」

 

 ウルの一言に、シズクとエシェルは頷いた。

 

 依頼:【竜呑都市・ウーガ】を解放せよ

   new【謎の翼竜】を討伐せよ

 

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