かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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馬鹿には馬鹿をぶつけよう

 

 

 天陽騎士達との激突が起こる前。従者達の混乱を何とか制御し、全員の治療を無理矢理終わらせたその翌日。今後の対策を練るため、ウル達一同は集まっていた。

 

「んじゃ、作戦会議始めるぞーあんまり時間も無いし、手早くな」

 

 仮神殿の会議室の一角を使い、ウル達は集まった。少数ギルドの【歩ム者】にこの会議室はあまりにも広かった。適当な机をくっつけて、その周囲に椅子を並べて各々が席に着く。すると、早速ロックが手をあげた。

 

『おう、ウル。いいか?』

「なんだロック」

『その“右腕”のはええんか』

 

 ウルは自分の右腕を見る。エシェルと目が合った。

 

「…………」

 

 無言である。

 彼女はウルの腕をほぼ抱え込むようにして掴んで、ぴったりとくっついて離れない。もはや密着状態である。そのまま席に着くのはあまりにも窮屈で間抜けな格好だが、彼女は離れなかった。

 彼女がひとまず落ち着いてからはこれが常時である。水浴びにまでついていきそうになったのはヤバかった。

 

「……コレが一番落ち着くらしいのでコレで行く」

『まあ、ワシは面白いし、お前が良いんなら構わんがのう』

「面白がんな」

 

 ウルの抗議に、ロックはカカカと笑った。

 暢気な光景である。天陽騎士がさし迫り、自分たちを皆殺しにしようとしているとは思えない程に。

 

「話すべきこと、あるのかな?私としては避難準備を進めたいんだけど」

 

 と、そう言うのは、ウル達と一緒に席に着いたディズだ。カランへの尋問と情報収集で忙しく動いていた彼女に無理を言って同席してもらっている。現状、仮都市に集まる従者達、そして名無しの住民達の存命は彼女に掛かっていると言って良い。

 人民を守る【勇者】として彼女が極めて多忙な状況なのは理解できる。が、シズクは頭を下げた。

 

「リーネ様の判断の、その裏付けが欲しいのです。勇者としての経験をお貸し下さい」

「ふむ……」

「時間はかからない。リーネ、良いか」

「私は構わないけど、何を聞くの?あの使い魔の儀式は私の知識も及ばない所多いわよ」

 

 リーネの忠告にウルは頷く。幾ら彼女が魔術学園の秀才であったとて、あんな異常な規模の魔術、理解できないことが多いのは分かる。だが、今回の場合であれば問題ない。そんな複雑な話ではないからだ。

 

「使い魔の構築術、あれはもう止めることは出来ないんだな?」

「そうね。既に“羽化”の段階に入ってる。間もなく完成に至る術を。止めることは出来ない。正確には止めようとすると、破綻して魔力が溢れ崩壊する。あの規模の崩壊なら、この一帯が消し飛んで私達死ぬわ」

「術の書き換え、変更も不可能?」

「阻害と同義よそんなの。やっぱり破綻して爆発。私達は木っ端微塵よ」

 

 止めることはおろか、僅かに弄ることすら出来ない巨大な時限爆弾がある。そういうイメージをすればいい。と、リーネは言う。魔術への理解の浅いウルでも言ってることは理解できた。

 

「俺達では、今完成しようとしている術に介入することは出来ないと」

「発射寸前の【火玉】の魔術に指を突っ込んで、魔術を止められる訳がないでしょう?貴方が言っているのはそういうことよ」

「なら、確認だ」

 

 ウルは更に問う。それこそが今回の集まりの根幹だった。

 

()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そんなの――――」

 

 出来ない。と彼女は言葉を続けるつもりだったのだろう。しかしその言葉は最後まで続かなかった。少し呆けて、その後俯いて、何事か小さく呟きを繰り返し続けた。

 ウルは彼女の答えを待った。どのみち、此処でウルに答えを出せるのは、現場を僅かでも直接確認し、最も魔術の知識が深いリーネ以外いないのだから。

 代わりに、ウルに声をかけたのはディズだ。

 

「ねえ、ウル、君、まさかとは思うんだけど……」

「発想の元はロックだ」

 

 ワシ?と。ロックは自分を指さす。ウルは続けた。

 

「元々は死霊術師の使い魔だったロックを、シズクが契約を結び直して自分の使い魔にした。勿論、あの時とは状況は違うが、不可能じゃないはずだ」

 

 つまり

 

「完成した【竜呑都市ウーガ】を奪って俺達のものにする」

 

 その答えにディズは黙り込んだ。ウルはきこえなかったのか?とでも言うように、もう一度その答えを口にした。

 

「【ウーガ】を俺達のものにする」

 

 シズク以外の何言ってんだコイツ、という視線がウルに集中した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 少し時間が経ち、仮神殿執務室。【白の蟒蛇】ジャインとの会談

 

「……その頭の悪い計画を立てたのは誰だ」

「俺だが」

「頭、おかしいのか、お前」

「ストレートな罵倒だ」

 

 秘匿の魔術契約を結び、ウル達の計画を全て聞いたジャインはウルを正面から罵倒した。そうしたい気持ちにもなる。ジャインはこの死地から逃げ出す計画を尋ねたつもりだったのだ。

 間違っても、敵が生み出す前代未聞の【災厄】を手中に収める計画などではない。

 

「俺はまともなつもりだが」

「まともな奴の思考じゃねえんだよ…」

 

 ジャインは溜息を深々と吐き出しながら、情報を整理する。目論見通り、得られた情報は多かった。多すぎた。とんでもない爆弾が投げつけられた。

 

「……“超巨星級”の使い魔の作成って時点で意識遠のいたのに、それを、奪う?自分のものにする?バカにバカを乗算するのヤメロ」

「使い魔のコントロールを奪う、それ自体はある話だ。そういう魔術もある」

「規模が違いすぎるわ」

 

 そう、規模が違う。違う故に、誰しもの頭から抜けていた。恐らく、【竜呑都市ウーガ】を生み出した黒幕の連中も、実際にやる奴がいるなどと思ってもみないだろう。

 だからこそ、抜け道、と言われれば確かにそうかもしれない……が

 

「出来るわけ無いだろうそんなこと…………出来ないんだよな?」

 

 酒の席で、冗談を笑うタイミングを見計らうような珍妙な表情でジャインは問いかけた。が、ウルはとくに笑うでも冗談だと肩を竦める様子も無く、真顔だ。

 そのままウルは指を三つ立てる。

 

「条件は三つ。一つ、使い魔の核を掌握する事」

「……場所は押さえてるんだったな」

「二つ。使い魔構築術式を“崩さず被せる”ように構築する制御権変更の命令術式」

「巨星級使い魔の構築術式を更に上乗せする術式陣なんて出来る奴――」

「いる」

「……なんでいるんだよ……三つ目は?」

「使い魔を制御してる当人から、【制御術式】を奪いとる」

 

 そこにきてようやくジャインは嫌な汗を拭うようにして笑った。

 

「そいつは無理だろ。話聞く限り、その【制御術式】を持ってるのは()()()()()()()だろ?グラドルの王だ。そいつから奪う?どうやってやんだよ。お前のご主人の【勇者】なら出来るってか?」

 

 【七天】の権威と力は勿論ジャインは知っている。世界を飛び回る天賢王の保有する最強の天陽騎士達。天賢王の守護者としている【天剣】が、【大罪都市プラウディア】から降り墜ちる【虚飾の竜】を一刀に切り裂く姿はジャインも直接見ている。侮る筈がない。

 

 だが、グラドルの王、エイスーラの力も知っている。

 

 エイスーラ。【金剛のエイスーラ】、【大地の精霊ウリガンディン】の加護を得たグラドルの最強の神官。カーラーレイ家の次期当主。グラドルに攻め入った【一ツ目巨人】に襲われた際、彼たった一人で撃退したのは今も語り草だ。 

 

 つまり、七天もバケモノだが、エイスーラもバケモノなのだ。いくら七天が味方であったとしても、それはなにかの保証にはなり得ない。

 

 ウルもそれを認識していたのか、同調するように頷いた。

 

「勇者は多芸だが、全知全能ってわけじゃあない。魔術による制御印の移植には時間が掛かる。抵抗されたり、逃げられたりしたら終わる」

「なら無理だな。大地の精霊の加護で守られた男を、拘束なんて出来るもんかよ」

「なので魔術は使わない」

 

 ん?とジャインは首を傾げた。ウルは言葉を続ける。

 

「精霊の力を使う」

 

 魔術による工程、様々な制約の一切を無視した超常の力。

 真っ当な魔術で出来ないなら、真っ当でない力を使えば良い。彼の理屈は一応筋が通っていると言えば通っている。問題は、それができる奴がいるかという話だが。

 神官は確かにいる。裏切り者だったらしいカルカラがいる。彼女を此方の陣営に引き込むことが出来れば、確かに精霊の力は扱えるだろう。

 だが、神官ならあらゆる精霊の力を操れる訳ではない。

 

「カルカラは確か官位は一番下(ヌウ)だろう?扱える精霊の力も多くない筈だ」

「そうだな。彼女が使えるのは【岩石の精霊】による【岩の加護】と【硬化の加護】だ。それも基本的なものに限られる」

「話にならねえ」

 

 精霊は万能ではない。確かにヒトを超越した力を振るい、そしてそれをヒトに与えもするが、しかし矮小なヒトを越えた程度では万能からはほど遠い。精霊の力にも序列はあり、種別があり、可不可がある。

 

「まして、やる事は”簒奪”だ。ヒトの法に触れる、悪徳に類する精霊は【邪霊】として忌避され、神殿で管理される。その力を有した神官なんて居るわけが――」

「いる」

「――――は?」

 

 今日はコレで何回目になるかもわからない。再び話の腰を折られたジャインは、しかし今度こそ自分の耳を疑った。簒奪の力を持つ【邪霊】の加護を授かった神官がたまたまここに居て、自分たちを助けてくれると?

 

 んな馬鹿な、と笑おうとしたが、ウルは冗談だと笑いかける事は無かった。

 

 彼は、自分の腕にすがりつくエシェルの頬に触れる。ヒステリーばかり起こす元自分の雇い主、短い間に豹変してしまった彼女を宥めるようにしながら、ウルは告げる。

 

「【鏡の愛し子】【簒奪の精霊の寵愛者】が此処に居る」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 風がはためき、勇者に護られ、倒れ伏していた従者達の纏っていた外套が剥がれる。もしもエイスーラが油断なく意識を勇者だけではなく周囲にも向けていたなら、ソレに気付いただろう。

 風で外套が飛ばされる。そしてその中から現れたのは、赤毛の、小柄な獣人。

 

「【ミラルフィーネ】」

 

 鏡の愛し子は静かに、小さく、鋭く、鏡の精霊の名を告げる。

 手の平を、まるで此方に気づかず、【勇者】を睨み付ける弟、エイスーラへと向ける。腹底から煮えた感情が渦巻く。暴れ狂う憎悪を言葉に込めて、告げた。

 

「【()()()()】」

 

 簒奪が始まった。

 

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