かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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ウーガ簒奪作戦

 竜呑都市ウーガ、体内

 

「右方から土竜蛇が来ます」

「またかクッソ!」

『デカすぎて突いても斬っても命に届かんぞ!!毒だせ毒!!』

「今やってる!!」

 

 内部は非常にどたばたとしていた。

 核の鳴動からウル達の居る最深層は凄まじい振動が続いていた。現在進行形で都市の魔物化などという驚天動地が起こっているのだから当たり前だった。

 そんな中、ウル達一行は四方八方から襲ってくる魔物達の迎撃を続けていた。今すぐにでも脱出すべき状況で踏みとどまる理由は一つ。

 

「――――――――!!」

「岩石の精霊よ」

 

 禍々しい光を放つ中心核の周りで踊るように術式を刻むリーネと、彼女の白王陣を守るためだ。

 凄まじい揺れと、振動により崩壊していく地面を、カルカラの岩石の精霊の加護でもって瞬時に補助していく。

 

「ひ……!ひい……!!」

「おお!おお!!精霊よ!尊き方々よ!!お助けを!!」

 

 そして、カルカラの精霊の加護の力を維持するために、従者達が祈りを捧ぎ続ける。下位の神官、力の弱い彼女の補助は必須だった。地響き、魔物達の襲撃、あらゆる危機的状況は従者達の危機感をあおり、結果として祈りの総量は普段彼らが捧げるものよりも遥かに多くなっていた。

 

「皆様の身は私が守ります。どうか皆様は集中を」

 

 その彼らをシズクが結界にて守護する。従者一人一人に声をかけ、逃げようとする者や、頭を抱えて祈りを放棄しそうになっている者達を立ち上がらせる。

 

「ひい!!ひいいい!!もう無理だ!私は!私はもうここで死んでしまう!!」

「まあ、グルフィン様」

 

 肥満な巨体を震えさせ、グルフィンは地面に倒れこむ。彼がこうするのは既に三度目だ。シズクは優しく微笑みながら彼の下に近づいていく。

 

「グルフィン様。あなた様は第三位(グラン)です。従者の中では最も高位の存在です」

「そ、そうだ!だから私をちゃんと守れ!」

「第三位(グラン)であるグルフィン様が祈りを捧げなければ、私達は全員死にます」

 

 グルフィンが血の気がひいた真っ青な顔をシズクに向ける。シズクは美しい笑み一切崩さず、もう一度言った。

 

「死にます」

「………せ、せ、精霊よ――――!!!」

 

 そんな感じで、上手く尻を叩いていた。

 その場に居る全員が全力で動いた。最早何処が地面かも分からなくなるような、揺れの中で、生まれも所属も目的すらも違う全員が一心にまとまった、奇跡的と言っても良いチームワークだった。

 そして、その成果が結実する。

 

「……!!出来た、わ!」

「撤退!!!」

 

 リーネが完成を叫んだ。それを聞くや否やウルは即座に撤退の指示を出した。

 これ以上は一秒だって留まることはできない。荒れ狂うウーガの体内が危険であるというのもそうだが、従者達の精神状況が限界の際の際まで追い詰められていた。どれだけシズクが励まそうと、迷宮になど、今日まで足を踏み入れたこともないような者達が、この極限状態で踏ん張り続けただけでも奇跡的なのだ。これ以上は無理だ。

 緊張の糸が切れて、パニックが起きる前に此処を出なければ。

 

「ロック!」

『【骨芯変化!】おう乗り込めぇ!』

 

 ロックンロール号の形状が変化し、広い荷車のように変わった。従者達は次々とそこに押し込まれ、更にリーネとカルカラ、ウルにシズクもそこに続く。

 

「行け!」

『カカ!絶対に喋るなよ!舌噛み切るぞ!!』

 

 そう言って、ロックが走り出す。

 忠告の通り、ただでさえ揺れ動く地面に加え、無理矢理荷車に形状を変えた戦車の揺れは、地獄そのものであった。ダールとスールによる夜間の超特急走行の時もこれほど酷くはあるまい。ウル達ですらしがみつくだけで精一杯だった。従者達などは完全にシズクに魔術で荷台部分に括り付けられている形である。

 歪み、崩れつつある。非常用通路を疾走する。そして間もなく、出口の光が見えてきて――

 

「――――ちょっと待てロック!!ストップ!!」

『あ!?』

 

 “少し先を未来視していた”ウルの制止に反応する時間はなく、ロックンロール号は光の中へと飛び出した。

 そしてその結果、ロックンロール号は空中に放り出された。

 

『ぬ』

「まあ」

「ええ」

「――――死ぬ!!」

 

 ウルは状況を総括し、叫んだ。地下空間から何故にいきなり空に放り出されるのかという疑問に頭を巡らせる余裕も全くない。このままだと本当に死ぬ。

 

『骨芯変化!』

「【風よ大地よ、我とともに唄い奏でよ】」

 

 ロックの言葉とともに戦車の外骨格が膜のように広がり、同時にシズクの詠唱が放り出されたウル達全員を包む。と、同時に、ウル達一同は地面へと墜落した。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 竜呑都市ウーガ、“脚部”周辺。

 大木よりも尚太い、近くでは巨大な壁としか思えぬその足は地面を踏み抜き、大地は沈下していた。存在するだけで地形をも変える恐るべき存在の、その少し離れた場所。

 ウーガの重量に引っ張られ、少し斜に傾いた木々の間に引っかかるようにして、白く、丸い塊が転がっていた。加工された石材のようにも見えるソレは、暫くすると仄かに光り、形を変える。

 その中から、ウル達と従者達、そして戦車が姿を現した――ひっくり返った状態で。

 

「……生きてるか」

「……なんとか」

 

 ひっくり返ったままの、よろよろとしたウルの声に最初に反応したのはリーネだった。恐らく今回の一番の功労者であろう彼女は、立ち上がる気力も無いのか地面に転がっていた。

 

「……従者の皆様も、カルカラ様も、無事のようですね」

『カカ、びーっくらこいたの…』

 

 魔術によって自分たちを救ったシズクも、自分の身を使って守ったロックも疲労の色は隠せていない。全員ゆっくりと身体を起こすが、ヘトヘトだった。従者達などは、放心していたり、泣き伏せってたり、気絶したりしている。

 怒って文句を言わないだけマシだった。正直彼らはかなり頑張ったとウルは思う。

 

「なんで、落ちたんだ?俺ら。地下にいたよな……」

「恐らく、ウーガが完成し、起き上がった結果、地下空間が地上に露出したのだと思われます。結果、都市外に続いていた通路が寸断され、外に放り出されたと」

 

 ウルはウーガの方へと振り返ると、足と同様にほぼ壁にしか見えない巨大すぎるウーガの“胴体”が見える。よく見ればそれは石材とおぼしき表面をしており、幾つかの人工物が模様のようになっている。あそこがウル達がいたウーガの地下層、最深層だろう。

 地下にあった筈のものが丸ごと外に飛び出しているのだ。恐ろしい話である。

 

「――――まだ、術が完成していない」

 

 そんな中カルカラは焦ったような声をあげた。

 

「命令権の変更が出来ていないのか。術の不発か?」

「術は、完成した、わ。それは、私が保証する」

 

 リーネが断言する。彼女がそう言うのであれば、そうなのだろう。つまり別の原因。

 

「エシェル様が【制御術式】をまだ奪えていません」

「事故ったか、作戦の時差があったか」

 

 ウーガの完成が“ウーガ奪還作戦”の合図だった。が、流石に全く別の地点で殆ど情報の連絡もなく行う同時作戦だ。時間のズレは起こるのは当然だ。それ以外の不測の事態の可能性も勿論あるだろう。つまり確認しなければならない。

 カルカラは焦るように、ひっくり返ってるロックをガンガンと叩いた。

 

「骨、彼女のもとへ私を連れていって下さい」

『まあ、骨じゃが、ええんカの?ウル』

 

 ウルはゆっくりと立ち上がり、頷いた。この状況では是非もない。

 

「……行かんわけにはいかんだろうさ。ただその前に、従者達を安全な所まで降ろしてな」

 

 そういうとカルカラが不満げに眉をひそめた。

 

「祈りのタンクとしてまだ使えます」

「限界だ」

 

 ウルが顎でしゃくる先、従者達が固まって座り込んでいた。

 

「………」

「……ひい……ひい」

「……………も、もう、むり」

 

 彼らは完全にのびていた。

 こんな有様でまともな“祈り”など捧げられまい。

 

「……引っぱたいたら起き上がりませんか」

「その元気を別の事に使え。ロック、行けるか」

『流石に車体ががたついてるが、ワシの身体を少し回せば行けそうじゃ』

「なら出発。急げよ」

 

 かくして、休む間もなくウル達は再び走り出した。

 竜吞都市ウーガを巡る物語は終盤へと向かっていった。 

 

 

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