かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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粘魔の王

 

 超、巨大な生物

 

 というものに、頻繁に遭遇するハメにあっているのがウル達なのだが、そのたびにいつも思うのは、とっかかりの掴めなさだった。

 まあ、なにしろ自分の数倍から数十倍はデカいのだ。目の前にすると壁のようにしか見えないモノをさあなんとかしろ、と言われて、ぱっと解決案が思いつく者はそうそういないだろう。大抵は途方に暮れるし、ウルもいままで何度も何度も途方にくれてきた。

 

『GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!』

 

 当然、巨大なる偽竜――粘魔王を前にした今も途方に暮れている。

 

「流石にクソみてえな連戦ですげえ疲れてきたんだが」

「偽竜、エイスーラ様、そしてコレですね」

「俺は前世で何の罪犯したんだ」

「ウル様は優しいですから、きっと前世でも悪いことはしてらっしゃいませんとも」

「じゃあコレは純粋に俺の運が死ぬほど悪いって事じゃねえか」

「そうなります」

「クソかな?」

 

 馬鹿な事をシズクと話しながら、ウルは目の前のバケモノを観察する。

 黒く、大きく、そしてデカい。数十メートルはあるであろう巨体。今も蠢いている肉の身体は気色が悪い。解決策どうこう以上に、感情の置き場にすら困る。どんな気持ちで向かい合ったら良いのだコレは、と。

 

「このままスルーして一旦ここから離脱っつーのはアリ――」

『GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

「ナシかあ……!!」

 

 竜が動く。短い手をぐにゃりと歪め、此方に伸ばす。文字どおり、“腕が伸びて”此方に飛んでくる。反射的にウルは抱え続けていたシズクと共に背後へと飛ぶ。

 

「ウル様!」

「…………!!!!」

 

 回避した。少なくとも直撃はしていない、はずだが、いったいどれほどの力が叩き込まれたのか、地面に叩きつけられた衝撃で、割れた土と岩石まで飛んでくる。それを庇うために身体を固めるが、攻撃はそれでは収まらなかった。

 

『GAGAAAAA『『『『『GAGAGA』』』』』

 

 腕に、更に腕が生える。

 地面に叩きつけられた、大木のような黒い竜の腕の表面から、無数の細い腕が伸びてウル達を捕らえんとする。やはり竜の形を模しているだけで、本質的には形の決まっていない粘魔であるらしい。幾多にも伸びた腕は、蛇のようにのたうち、ウルへと向かってくる。

 

「【劣化創造・灼炎剣】」

 

 だが、腕がウルを捕らえるよりも前に、ディズとアカネが生み出した炎の壁が焼き払った。目が焼けるようなまばゆさに安堵を覚えるものの、しかしその安堵はすぐに消えた。炎が消えた後、無数の腕は蠢くように焦げていたが、しかし、焼き払われてはいなかった。それどころか、徐々に再生しつつある。

 

「さて、ウル、念のため質問だ。白王陣は残ってる?」

 

 ディズは、そのままアカネを剣にして構え問うてきた。以前、大罪の竜と接敵したときを思い出したが、前回の特殊な状況と今とでは異なる。

 

「もうない。使ったが、時間経過で霧散した」

「今すぐこの場から撤退して」

「ちょっと待てディズ!アカネ!!」

 

 有無を言う隙も無かった。ディズは片手を此方に向ける。魔術が発動した。先ほど従者達を運んだ者と同じ、風の移動魔術がウルとシズクを包む。抵抗する間も無く、ウルとシズクはその場から吹っ飛ばされるようにして移動を開始した。

 

「ふふ、うふふ、フフフフフ!ねえ勇者様!あの子達を倒せる!?合人と違って、ずっとずーっと完璧に混じり合っているから、うーんと強いわよ?」

「喧しいから黙っていてね。いくよアカネ」

《あいあいさー!!!》

 

 どんどん離れていく中、ディズはヨーグの生首を“外套”へと収納すると、アカネと共に粘魔王へと向かっていった。止める間も、何か声をかけるヒマも無く、二人の影はどんどんと離れていった。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 

 勇者と粘魔王の戦いが始まった。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ああ、もう……くそ」

 

 風の魔術によって強制的に運搬されるただ中で、ウルは強く悪態をついた。悪態をつくぐらいしか、出来なかった。風の移動魔術は恐ろしい速度で、あっという間にディズの姿は見えなくなっていた。

 

「任せるしかないけど……大丈夫なのかアイツ」

 

 【粘魔王】のことはウルは知識としては知っている。

 【粘魔】は強さがまばらだ。最大でも6級の強さを持つ特異な個体が出るとも言われているが、そんな個体が顕れることは滅多に無い。大体は最低の13級から強くても9級程度に留まるのが殆どだ。

 だが、対して、その巨大個体である【粘魔王】は“3級”だ。都市崩壊クラスの危険存在である。

 その強烈な強さの跳ね方は、“都市への脅威度の上昇”が大きな理由だ。大部分が水性で出来たその身体は、元よりどんな場所にでも潜む能力を有していると言われているが、巨体となった【粘魔王】であってもその能力は変わらない。

 結果、太陽神の結界すらも透過する危険性が増す。都市全体を覆う太陽神の結界であっても、天空、城壁、地下、あらゆる全てを完璧に守る事は出来ない。結界そのものが神の御業であっても、都市そのものはヒトの技術。必ずほんの僅かな隙間、ほころびが存在する。

 粘魔王は、そのほんの僅かな隙間を見つければ、侵入する。そして結界の内側で溢れかえるのだ。衛星都市の一つが結界の内側で、粘魔王でパンパンになって全滅したというケースも存在する。紛れもない人類に対する恐るべき脅威なのだ。

 

 しかも、今回出現した粘魔王は自然発生のものではない。邪教徒が生み出した特別製。ならばその能力もウルが知ってるものとはまた更に違うのだろう。

 

 ハッキリとしているのは、あの粘魔王に、今の疲弊したウル達では太刀打ちが困難であるということだ。そうなると、ディズに任せるというのは、何も間違った選択肢ではない、のだが、不安だ。

 

「大丈夫ではないかもしれません、ウル様」

「不吉な事を言うなと言いたいが、そりゃまたなんで……」

 

 ウルが問うと、彼女はそのまますっと空を指さす。シズクが示す方角。この状況には似つかわしくない澄み切った青空の中に、ポツポツポツと、複数の黒い点がウルにも見えた。

 最初、鳥か何かかと思ったが、違った。飛竜の群れだった。ウルは頭を抱えた。

 

「おかわりですね」

「……どっからきたんだアレ」

「グラドルからでしょうか。あの緑髪の彼女の発言を信じるに」

「まだデカくなるのかよ。エシェルの弟は」

「ひょっとしたら、他の血縁者もあの中に混じっているかもしれませんね」

「地獄かよ。絶対エシェルに言うなよそれ」

 

 大分距離が空いて尚ハッキリと視界に粘魔王は映る。それくらい巨大だということだ。そしてこれからも大きくなるだろう。恐らく、いままでウルが遭遇した中でも最大規模の大きさだ。

 

「ソレともう一つ」

「まだ不穏材料あるのかよ。もうお腹いっぱいどころか破裂するわ」

「“粘魔の増殖方法を覚えてますか”」

「………………ん?」

「“単為生殖”です」

 

 ウルは背筋が凍り付くのを感じた。いままで聞いた不穏な情報の中でも、トップクラスに嫌な情報だった。

 

「恐らくは【暴食】だけでなく【色欲】の属性をも持ち合わせています。誕生してからすぐさま増殖はしないでしょうが、時間をかければどうなるか、分かりません」

「だが、そうは言ったって、こうなっちまうと俺達に出来る事なんて――――っと」

 

 風の魔術が途切れた。ウル達は着地し周囲を見渡す。

 

『……………』

「……でっか」

 

 ウルが見上げると、誕生したばかりの巨大なる使い魔、ウーガの頭部の影になる所まで運ばれてきたらしい。風の魔術はディズの意思だ。つまり、ウーガに逃げろと、そういう事のようだ。

 ウルの指示を彼女が聞いてくれていたなら、エシェル達も此処に居るはずだ。逃げ隠れるなら此処ほど安全な場所はあるまい。

 だが、しかし、どうやって中に――――

 

「此方に乗り込み口があります、ウル様、シズク様」

「ビ……ックリした、ジェナか」

 

 いつの間にか、ジェナが姿を現していた。彼女はこのような状況下にあっても変わらないメイド服で、ウル達がやってくる場所を予想していたように立っていた。しかも近くにはダールとスールまで居る。

 

「ウーガの尾先が乗り込み用の斜面になっています。急いでください」

「助かる……が、ディズを出来れば助けたいんだ。ジェナは何か手はないか?」

 

 問うと、ジェナは頷き、そのままダールとスールの方へと二人を促した。

 

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