かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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粘魔の王②

 

 ディズはアカネを剣に模して構え、壁のように立ち塞がる粘魔王を前に、いささか攻めあぐねていた。

 

「炎は効かない……か。灼炎剣では意味なさそうだね」

《それいがいだす?》

「今の君が模倣できる武器で、有効になりそうな武器はなさそうだねえ」

《むう》

 

 アカネは自身の力不足に呻いたが、別に彼女が悪いわけではない。

 粘魔王は厄介なのだ。弱点はハッキリしている。核だ。粘魔王には必ず、巨体を維持するための核が存在する。それを破壊すれば全体が死ぬ。

 だが、逆を言えば、核以外への攻撃は全く有効ではない。核以外を攻撃しても、此方が疲弊するだけだ。ただ、粘魔が巨体になっただけの【粘魔王】の脅威が跳ね上がる理由はコレだ。核への攻撃の難易度が跳ね上がる。身体の厚さがただの粘魔の比ではない。

 核までの身体の分厚さだけで数十メートル、純粋な物量が尋常ではないのだ。

 

「しかも、身体が真っ黒で、一見して核の居場所が分からない。ヨーグの嫌がらせかな」

《くるよー!!》

 

 アカネの合図でディズは跳躍する。彼女が居た場所、地面底から真っ黒な粘魔の一部が染みだし、一瞬で食らいつくされた。

 

「【星華・開花】」

 

 星華の外套が閃く。内蔵されていた星華が周囲に散り、彼女を守る盾となり、足場となり、剣へと変わる。

 

「【雷火】」

 

 空中で身構え、剣を振るった瞬間、雷が迸る。外套からでた星華の輝きが強まり、光の強さが跳ね上がる。遅れて鳴り響く轟音と共に【粘魔王】の身体は弾け飛んだ――が、

 

「ま、デタラメじゃあどうにもならないか」

 

 竜の身体を模した粘魔王の腹に巨大な穴が空いた。が、それも暫くすると穴が塞がる。数秒もすれば元通りだ。ディズは剣を構え直す。

 

《つぎ、あたまねらう?》

「無駄だと思うよ。頭を狙えば今度は胴に核が移動する」

《こっちのうごきよまれとるん?》

「生存本能かもね。そうなると1度に全体を破壊するのが一番……なんだ?」

 

 ディズが訝しむ。目の前の【粘魔王】がまた変化を始めた。竜の形を模した頭、肥え太った胴の上に添えられたソレが崩れる。形を変える。そのまま攻撃をしかけてくるのかと思ったが、そうではなかった。

 新たな形を取ったそれをみて、アカネは小さな悲鳴を上げ、ディズは顔を顰めた。 

 

《…………ええ》

「………うーわ、“エイスーラ”」

 

 深い哀れみの籠もった声で、ディズは目の前で粘魔王が形作ったソレを呼称した。先ほど、ウル達の手で“行方知れず”にされた彼が、目の前に顕れた、粘魔王が、竜の頭を、エイスーラの頭に変化させたのだ。

 肥えた不気味な竜の身体の上に乗る、エイスーラの頭。不気味で滑稽極まる光景だった。しかし、ただ滑稽な姿を模して、死者の尊厳を貶めるといった意図は粘魔王には無いだろう。ならば、その目的は何か。

 

「…………まさか」

 

 ディズが気づくと同時に、エイスーラの頭を模した粘魔王が、顔のパーツをデタラメに動かしながら、喉を鳴らし、奇妙な鳴き声を鳴らした。

 最初、意味の無い咆吼のように聞こえたそれらは、しかし、徐々に形となる。そして

 

『UUUUUUUUUううううウウウ【()()()()()()()()()()()()()()()()】』

「――――マジか」

 

 大地の精霊の名を、エイスーラを模した粘魔王が叫ぶ。精霊の信仰者である神殿の住民らが目をひん剥いて泡を吹きそうな光景だが、その結果に“最悪”を想像しないわけにはいかなかった。

 そして、その最悪の通りになった。

 

《ディズ!!!》

「本当に最悪だなヨーグ!!」

 

 大地が、迫ってきた。魔術も介さず、大地が隆起し、槍のような形となってディズを襲う。ディズは悪態を吐きながら再び空中を駆け出した。

 

《うりがんでぃんねぼけとるん!?》

「ヨーグが言っていた。アレは“上手くいった合人”だ。つまり、大地の精霊はアレをヒトとして認識している可能性が高い」

《やっぱねぼけてる!!》

 

 アカネの叫びはごもっともだ。ディズも大地の精霊にはいくらか文句を言ってやりたいところだった。ヒトの善悪に判断がないといったって、もう少し分別というものがあっても良いはずだ。

 

《まえ!!!》

「っと」

 

 天変地異は更に続く。空中を駆け続けていたディズの目の前に突然崖が誕生した。ディズは足を止める。背後からは大地の槍が迫り、そして目の前の崖からは

 

「うわ」

 

 粘魔王の身体が、染み出し始めた。大地に染みこんだ身体が、崖から一斉に噴き出し、津波のようにディズへと降り注ごうとしていた。

 

「【魔断・十閃】」

 

 魔を断つ黒の閃き、それが瞬く間に放たれた。その一撃が放つ余波で粘魔王の身体は弾け、崖は崩れる。それが10回。ディズを包囲するような攻撃はほんの一瞬、その攻撃によって空白を生む。その空白をディズは駆け、脱した。

 

『GGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 エイスーラの頭をした粘魔王は、苛立たしそうに叫んだ。本人の性格を反映しているのか、随分と短気らしい。

 

「どうするかな。流石に完璧に大地の加護が操れてるようじゃないけど……」

《てったいして、ぶき、とってくる?》

「コイツ、ほっといたら確実に都市を幾つも滅ぼすよ」

《いっつもそんなんね》

「本当にね」

 

 ディズは笑いながらも、粘魔王への対処を考え続けていた。 

 大地と、粘魔、実際に相対してみると驚くほどに相性が良い。粘魔の弱点の一つが、動作の重さだ。地面を蹴る足も無い、身体を這いずるしか出来ないために重力に身を任せ落下するような事でも無い限り、遅い。その問題を、大地そのものを動かし、その中に染み入り、運ばれる事で解決としている。

 厄介だ。下手にこれを放置すれば、地面を通じてあらゆる場所を汚染されかねない。いや――

 

「……既に、か」

《うーわ、きっちゃないみずうみみたーい》

 

 ディズが足下を見ると、大地が粘魔王の身体に侵食されていた。ただ、その身体が地面に伸びているというだけではない。大地が、粘魔王と混じり合っている。汚染と言って良いだろう。地面にいた獣や虫が食われているのか、小さな鳴き声のようなものが彼方此方から聞こえてくる。

 そしてこれは拡張している。暴食の小竜の眷属となっていた餓者髑髏よりも遙かに効率的で、悪質だ。放置すれば核まで増殖をし出して、致命的な状況になりかねない。

 

「……急ぎ、大地を丸ごと焼き払うか」

《そのあとぶよぶよたおすのきっついよ?》

「是非も無いさ。無理をするよ」

《りょーかい……んー?》

「アカネ?」

《んー……んー……にーたんから、つうしん。ちょっととおい》

「ウル?」

 

 アカネを通じ、ウルとディズは 冒険者の指輪と同様の通信魔術が可能だ。だから連絡はあり得る。ただし何故この状況で連絡をしてきたのかは疑問ではある。彼とて、此方の切迫した状況は理解できているはずなのだが。

 理解して、尚連絡するのなら重要な事なのだろう。

 

「繋げて。ウル?」

《ディズ……アカ……き……える…………も……》

「大分途切れているけど聞こえてはいるよ。何?」

 

 再び粘魔王の猛攻は始まっていた。ディズは凌ぎ、核を探りながら攻撃を続けていた。だが、やはり想像通り、既に肉体も大地の精霊の加護で覆われ始めていた。先ほどよりも攻撃の通りが悪い。身体を射貫くこともできなくなりつつある。

 流石にその巨体故か、加護が完全ではないのだけが救いだろうか。しかし厄介であることには変わりなかった。

 

「悪いけど殆ど余裕が無い。用件は早めに頼む」

《そこ………はな………》

「はな?」

《はな、……ろ》

 

 離れろ?

 言葉の意味を考えるよりも早く、新たな気配にディズが後ろを振り返った。そしてウルの言葉の意味を理解することが出来た。

 

「うーわ……ウルも無茶するな」

《あれやばない?!》

 

 ディズとアカネの視線の先に、今回の騒動の中心である【竜吞ウーガ】があった。

 エシェルの指示によって沈黙していたはずのウーガはいつの間にか身体を起こし、そしてその巨大な口蓋を開き、“真っ赤な雷”を溜め込んでいた。

 

《撃つぞ!!離れろ!!!》

 

 ディズは一気に跳躍し、離脱した。直後、莫大な紅の熱光が粘魔王を焼いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 時間は少し戻り

 

 【竜吞ウーガ】内部、“総司令塔”。

 

「……なんだこりゃ」

「……うん、気持ちは分かる」

 

 目の前の光景に顔を顰めるウルに対して、それを紹介したエシェルもまた幾らか困惑した様子を隠さずにいた。

 ディズにウーガまで運ばれたエシェルは、カルカラの介抱で意識を取り戻した後、休む間も惜しんで竜呑ウーガの調査を行なっていた。

 そしてこの場所があった。恐らくエイスーラが用意したと思われる、【司令塔】が。

 

「すっごい豪華ですねえ」

 

 ウルの驚嘆に対して、シズクは端的で暢気な感想を述べた。

 その場所は恐ろしく豪奢なつくりになっていた。あらゆる名剣であっても切り傷一つ付けること叶わない“石の宝石”と名高い白真石で造られた真っ白な部屋。色とりどりの宝石で飾り付けられた装飾、天井に輝くシャンデリア。華美極まれりといった印象だ。

 正直、恐るべき使い魔を操るための場所とはとても思えない。

 

「ウーガ建造時、事前に造りを指示されていましたから、この場所は知っていました。随分とこだわられていましたよ。あの男は」

 

 まだ体調が全く万全でないエシェルを備え付けられていた椅子へと座らせると、カルカラはそのまま中央に存在していた巨大な水晶に手で触れる。

 

「遠見の水晶です。起動させれば……」

 

 指で触れた瞬間、水晶が輝く。青暗い色だった水晶が白く輝き、そしてその中に景観を映しだす。それは竜呑ウーガ本体の視界だった。そしてそこには先ほどまでウル達が居た場所、現在ディズ達が粘魔王と交戦している場所も映しだしていた

 

「ディズ、アカネ。まだ無事か」

「やっぱり、更に大きくなっていますね。粘魔王」

「っつーか……こっちきてんな。やっぱなんとか援助できればな……」

 

 肥大化し続ける粘魔王の姿は、遠見の水晶でもハッキリと映っている。気色の悪い竜の形状、頭がヒトの形に見えるのは気のせいだろうか。それは兎も角として、ディズが戦っているのものの、堰き止められている様子は今のところ無い。

 勿論ウル達だけでどうこうできる相手ではない。が、おあつらえ向きに、あの粘魔王よりも同等かそれを上回る巨大な使い魔に、今ウル達は乗り込んでいるのだ。使わない手は無かった。

 

「カルカラ、この使い魔どういう風に戦うんだ。体当たりか?」

 

 確認するが、カルカラは首を横に振る。

 

「使い魔そのものの性能については、邪教とエイスーラの間でのみ決めていました。私は疎か身内の誰にも明かしてはいないはずです」

 

 エイスーラはとことん、権力欲と独占欲の高い男だったらしい。ウルは舌打ちした。だが、恐らくこの使い魔で天賢王に反逆を企てていたくらいだ。なんらかの戦う力を有しているのは間違いない。ならば、

 

「エシェル。使い魔を戦わせることが出来るか」

 

 と、椅子に座っていたエシェルに声をかける。顔を上げた彼女は、やはり顔色は悪い。エイスーラとの精霊の力の根比べで既に消耗しきっていた所に、無理をして此処まで来ているのだ。出来れば休ませておきたいが、今は無理をすべき事態であることは彼女も承知の上だった。

 だからカルカラも憤怒の形相でウルを睨みながらも、止めることはしなかった。

 

「エシェル」

「……出来る。攻撃しろと命じれば、そうするはずだ。そうするだけの機能をウーガは持っているはずだ。でも、そうしたあとどうなるかはわからない」

「……ぶっつけ本番になるか」

 

 こんな訳の分からん巨大生物を使うことに、正直躊躇いがある。だが、そうしている間も、遠見の水晶に映る粘魔王の闇は更に膨張を続け、進行している。このまま、此方にまで到達してしまうのか。あるいは、ディズがそれを堰き止め粘魔王を滅ぼすのか、どちらに傾くかはわからない。

 しかし、自分の命運をかけた戦いをただ眺めているのはゴメンだった。

 

「……よし、エシェル。仮都市から十分に離れてから、攻撃命令を頼む」

「――わかったわ。【ウーガ】!!」

『――――――AAAAAAAAAAAAAAA……』

 

 エシェルは制御印の刻印された手の平を握る。魔力の輝きが放たれ、同時にウーガが動き出した。遠見の水晶でそれが分かる。驚くべき事に、ウーガが起き上がり、歩き出したにもかかわらず、司令塔では揺れを殆ど感じることは無かった。どういった魔術が施されてるのかは不明だが、使い魔の背中は随分と安全に設計されているらしい。

 代わりに、別の変化が起こった。

 

「ウル様」

 

 シズクが部屋の周囲を見上げ、声を上げる。ウルも同じようにすると、部屋の周囲に飾られた宝石が、光を放ち始めていた。紅色の強い光。それが宝石でなく、加工された魔石の類いであるとその時気がついた。

 部屋全体が紅色に明滅する。警戒音のような鳴動が繰り返される。攻撃の指示だけしか送っていない筈なのだが、明らかに状況がおかしい。

 

『AAAAAAAAAAAAAA』

「エシェル?ウーガ何しようとしてんだ?」

「………………多分」

 

 命じたエシェルも、少し躊躇い気味に、ウルへと向き直った。そして、少し、言いづらそうにしながら、

 

「ビームを」

「ビーム」

「ばあーって」

「ばあー」

 

 非常に端的だが分かりやすい説明だった。ウルは少し黙って、その言葉をなんとか飲み干した。そして、意識をアカネへと集中し、彼女たちに呼びかけた。

 

「アカネ!ディズ!聞こえるか!!二人とも!!そこを離れろ!!」

「全員すぐに椅子に座って下さい!身体を屈めて!!」

 

 言っている間にも、室内の鳴動と光の輝きは強くなる。シズクはカルカラに呼びかけ、同時に自身も近くに備えられた椅子に座り込む。ウルも同じようにしながら、繰り返しディズ達に呼びかけ続けた。

 

《悪い……殆ど余裕…無…。用件は早め………》

「そこから離れろ!!!!撃つぞ!!離れろ!!」

 

 呼びかける最中にもどんどんと光は強くなる。遠見の水晶も、既に映っているのはディズ達でも粘魔王でもない。強烈な紅の光だけだ。

 

「来るぞ!!」

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!』

 

 直後、司令塔にかつてない轟音と、衝撃が走った。

 恐らくそのために用意されていた固定された椅子に座り込み、身体を屈めていたため、転げ落ちる事は無かったが、その衝撃でウルは暫く立ち上がることもままならなかった。

 衝撃は長く続いた。その間一切輝きも、衝撃も弱まることは無かった。圧倒的な力の放出であり、恐らくウルがこれまで体感した中で最も強い力だった。

 轟音に耳を塞ぎながら、ウルはヤケクソ気味に叫んだ。

 

「お前の弟アホだろエシェル!!!!!!!」

「私もそう思う!!!!」

 

 二人の絶叫は、あっという間に轟音にかき消されるのだった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 1分以上続いた、長い破壊の騒音は、ようやく収束へと向かっていった。

 

『AAAAA……』

 

 ウーガの小さくなる鳴き声と共に、光も、音も収まっていく。それを確認してウルはゆるゆると身体を起こし、立ち上がった。

 

「……全員、無事か。アカネとディズは……?」

「私達は無事です」

「死ぬかと……思った」

「此方も……水晶、回復します」

 

 あまりの閃光に見えなくなっていた遠見の水晶が正常化し始める。

 

「…………これは」

「地形、変わっていますね」

 

 大地が、抉れていた。

 恐らく、先ほどウーガが吐き出した“びーむ”なのだろう。何処までも続く平原だったはずの大地に、深く、長く、大きな溝が出来ている。その周辺は全て焼き焦げ、焦土と化していた。

 

「……お前の弟、やっぱバカだろ」

「本当にそう思う……」

 

 大地が変貌するような破壊を起こす使い魔で、本来は何をしようとしていたのか、あまり考える気にもならなかった。ふと、司令席の机の前に、魔力で出来た文字で【対都市殲滅用魔光砲】などという不吉極まる文章が書かれていたが、忘れることにした。

 

《…ル…………るかい?!ウル!》

「ディズか。巻き込まれて無くてマジで良かった」

《しぬかとおもったー!!あほー!!》

 

 頭の中に響く二人の声に、ウルは心底ほっとした。本当に、あの爆光にディズが巻き込まれていたら洒落にならなかった。敵に塩を送るどころか、味方に引導を渡しかねなかったのだから。

 2度と迂闊に今の攻撃はすまいと心に誓った。

 

《無茶苦茶やるね、身動き取れなかったよ》

「邪魔になってないかかなり心配したが、安心したよ。粘魔王は?」

《げんきー!》

「なんでだよ」

 

 思わず素で聞き返してしまった。

 

《粘魔王の身体の大部分は今ので消し飛ばせた。恐らくかなり弱体化出来たはずだ。でも粘魔王本体の核がまだ破壊できていない。多分地面の中だ》

「土竜かよ」

《厄介なことに、大地の精霊の加護が使えるからね。更にもう一つ厄介なことがある》

「聞きたくないが、どうぞ」

《粘魔王がそっちに行った。大地の加護を併用してウーガに超高速で移動している。あの破壊の嵐の最中も動いていたならもうそっちに来てるかもしれない》

「クソが」

 

 しかし攻撃指示を出したのは自分である。自業自得極まる。

 

《私達もそっちに向かってるけど、スタートも移動速度も向こうの方が速い。逃げるか、あるいはウーガにもう一度攻撃を指示できる?地面に向かって広域で》

「エシェル。さっきのやつもっかい出来るか?今度は地面を掘り返す感じで。」

「わかっ……いや、ちょっと待って」

「どうした」

 

 エシェルは暫く沈黙しながら、自身の制御印を握っている。ウーガの主にしか分からない情報を探っているのか、暫く目をつむってそうした後に、頷いて、ウルの方へと顔を上げた。

 

「ウーガ、疲れたって」

「疲れたかあ……」

 

 そうだろうね。という感想と、ふざけんなボケという感想の二つがウルの中で同時に湧き上がり、対消滅した。今は考えてる場合ではない。

 

「ディズ、ウーガは動けない。疲れたらしい」

《そっかーふざけんなー仕方ないねー》

 

 ディズも同じ事を思ったらしい。

 

《【粘魔王】という魔物はあまり頭が良くない。ウーガを脅威に感じたなら、そのままウーガに攻撃をしようと動くのは道理だ――が》

「が?」

《“素材”のことを考えると、余計な知恵が回ってる可能性がある。凌いで》

 

 ディズの通信が切れると同時に、司令塔が激しく揺れた。

 

「うお!?」

 

 先ほどの、ウーガの攻撃の時ですらも最小限に抑えられていたにもかかわらず、揺れは激しい。その違いの理由はハッキリとしていた。遠見の水晶を覗くまでも無く、部屋の大窓から“原因が顔を覗かせてたからだ”。

 

「【粘魔王】ですね」

「はええご到着だこと……」

 

 真っ黒で、半透明の胴に、青紫の核。最初に見たときと比べ明らかに体積は縮んでいるものの、それでもまだ巨大な【粘魔王】が、司令塔にへばりついていた。先の揺れは、この衝撃だ。

 

「――――っ!!!!」

 

 エシェルが声にもならない悲鳴を上げる。

 無理もない。何せその粘魔王の頭部――本来なら頭部などというものも存在するはずはないのだが、その頭部に、誰であろう、エイスーラの頭がくっついているのだから。窓を覗いていたエイスーラの頭部は、そのまま顔を大窓に近づけ、そして、舌も歯もなにもない虚ろな口を大きく開き、叫んだ。

 

『エエエエシェェェェェェエエエエエエエエエエルゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』

 

「……いや、おっそろし」

 

 ウルは端的に感想を述べ、疲労困憊の身体をたたき起こすように、竜牙槍を構えた。

 

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