かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜吞ウーガ 平穏の2か月②

 

 ウーガ、司令室。

 建造時、エイスーラが自ら乗り込むことを予定し建造されたためか、その建築様式は豪華絢爛。贅の限りの最先端の技術を用いて生み出された美しい一室、だった。

 残念ながら、誰であろう粘魔王に変貌してしまったそのエイスーラ自身の手によって多くの部分が破壊された。遠見の水晶や様々な魔導具の類いは兎も角、機能に不要であった装飾類は多くが破壊されてしまった。また、壊れたソレらを元に戻す理由もなかったため、清掃だけ行われ放置されている。

 幾らか不格好になった部屋の中、司令席にウルは座り込み――そのウルにエシェルが座っていた。

 

「せめて前向いて座れエシェル」

「いや」

 

 ウルと向かい合うように。むずがる子供をあやす親の姿勢である。エシェルは両腕をがっつりウルの背に回しているのでほぼ密着している。ウルは困った。

 

「どうしてこうなったかな」

「ウルが悪い」

「出会った頃が懐かしい。二月前だが」

「うるさい」

 

 有無を言う余地もないらしい。

 

「一応男としてこの状態で我慢するのはきついんだが」

「しなければいいだろ」

「グラドルのお偉方も出入りする場所でやらかす勇気は俺にはねえよ」

「小心者め」

「あーそうだなー」

 

 ウルはエシェルの背中を叩きながら、遠見の水晶を眺め続ける。血皇薔薇から発生した超巨大な魔石の塊を、ウーガが直接かじりつき、飲み込んでいく。ウーガが喰らった魔石はそのまま吸収されるのではなく、乗組員が出入り可能な貯蔵庫に流れる。そこで非常にゆっくりと魔石の魔力を吸収するので、その間に魔石はコチラでも回収が可能だ。

 尚、魔石の貯蔵がなくとも、大地と大気中の魔力からウーガは回復が可能だ。ただし、咆吼後は数日ほど身動きが取れなくなる。

 

「しばらく移動する予定もないし魔石は回収しとかねえとな……まあソレは明日で良いか」

「終わった?」

「自分で見ろ自分で。帰るぞー」

 

 ウルは起き上がり、エシェルを立たせる。

 日は既に暮れている。人類生存圏外で日が沈めば火をたき、寝ずの番をするか、結界を張るか、手間が掛かる所だ。勿論ウーガにその心配は全くない。太陽神の結界を除けば、世界で一番安全な場所と言っても過言ではない。

 魔物の襲来の心配も無い夜は静かだった。

 

「家に帰るなら私も行く」

「ちゃんと自分の家に帰れ」

「カルカラ今いないから嫌だ」

「わあったよ」

 

 ウルは諦めて、彼女の手を引き司令塔を降りていく。ウーガ騒動終結直後はウル達一行以外の者達、グラドルの神官達や冒険者ギルド、騎士団なども出入りと調査確認を繰り返していたが、今は誰もいない。

 二人の足音がやけに響いた。

 

「ウル」

「なんだ」

 

 その静寂を破るように、エシェルが口を開いた。

 

「エイスーラ。死んだんだな」

「そうだな。俺が殺した」

「お父様も死んで、他の兄弟姉妹も大体死んだって」

「そうらしいな」

 

 ウルが肯定すると、エシェルがウルの手を強く握った。痛いぐらいだった。ウルは振り返ると、エシェルはいつものように、泣きそうな顔になっていた。

 

「私、どうなるんだろう」

 

 彼女の精神状態は、未だ不安定だ。多忙さに身体を動かしていた間はまだマシだったが、時間に余裕が出来た今、どうしようもない現実の不安が押し寄せてきている。

 幾ら、元の家族との関係が最悪であっても、その一切がいきなり失われたとあれば、不安になるのは当然だろう。忙しさに誤魔化してきた不安や恐怖が、彼女の心の中に噴き出してきていた。

 

「悪いが、こればっかりは俺にも分からん。安心はさせたいが、何せ俺の身の上もどうなるか不明だ」

 

 そして、残念ながらウルもそれは同じだった。不安だしこれからどうなるかわかったものではない。非常に大きな流れに巻き込まれ、飲み込まれようとしている。流されないように必死に踏ん張るだけで精一杯だ。

 既に【歩ム者】に加入したエシェルを手放すことはしないが、そのままウルも流されてしまう危険性があるのが現状だ。

 

「ちゃんと慰めて」

「すまん」

「頭撫でて」

「ほれ」

「抱きしめて」

「ほーらどっこいしょ」

「コレおんぶじゃない」

「いいから帰るぞ」

 

 エシェルを背負って、ウルは司令塔を下っていった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして、司令塔の前にて、

 

『おう、二人とも、乗っていくかの?カカ』

 

 3輪型の小型車両に変形し、ウーガ内部でドライビングを楽しんでいたロックが、ウルの前でサムズアップしていた。

 

「おめーはセカンドライフくっそ満喫してんなロック」

『カッカカ、たのしいぞう。魔物の心配も無い、人気も無い街を全力で疾走するのは!』

 

 シズクが死霊術を更に学んだのか、より複雑な形態変化が可能になったらしい。ベースとなるロックンロール号無しでも、小型であれば単独で動ける馬車に成ることもできたらしく、ロックはそれで遊んでいる。

 元ヒトであるはずなのだが、もう自分の形など全く気にしていないらしい。最初出会った頃、自分の今の境遇に半ばやけっぱちになっていた頃が遠い過去のようだった。

 

「そりゃ確かに楽しそうだが……今日はもう疲れたし」

『今後の動向次第でウーガも人口増えるじゃろし、殆どおらん今しかできんぞ?』

「……そりゃそうだが、エシェルいるし」

『二人乗りも出来るぞ?今のワシ』

「………………ま、いいか」

 

 ウルは折れた。

 

「アッサリ乗せられてる!?」

『カカ!実は乗りたかったんじゃろ!!』

「そりゃそうだ。絶対楽しいだろうさこんなもん」

「私はやだぞ!」

「グズグズ泣くより大声で叫んだ方がスッキリするだろ、かっ飛ばせロック」

『カカカカ!!!』

 

 有無言わさずエシェルを抱えて乗り込んだウルはロックに指示し、彼は大声で笑いながら骨の車輪を回し地面を蹴りつけ飛び出す。

 人気の無い夜道を魔光で照らし、笑い声と悲鳴が混じり合いながら駆け抜ける骨の馬車は、伝承の怪異の類いのようであった。

 

 

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