かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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対策会議

 

 朝食を済ませ、デザートも終わり、楽しい朝食の時間は終わった。

 

「はい。それじゃあ朝礼会議を始めるぞクソが」

『初っぱな悪態ついとるのう。気持ちは分かるが』

 

 そして始まったのは楽しくもない作戦会議だ。

 ウル宅の広い机に、【歩ム者】のメンバーと、ジャインが席に着く。非常に面倒な情報を持ってきたラビィン自身は「面倒くさそうだからいっす」と、そそくさと逃げ出した。

 ジャインが非常に殴りたそうな顔をしていた。ウルも同意見だった。

 

「嘆いてもしょうがねえからまずは近況報告からいくぞ」

 

 気を取り直して、現状までの情報整理から開始した。

 

「先日、ウーガが【血皇薔薇】の撃破に成功した。これでグラドル側から出されていたウーガの性能試験の要請は全てクリアできた」

「報告も完了できたのですね?グラドルはどのような反応でしたか?」

「ちょっと引いてたけど、おおむね好感触」

 

 元々、【血皇薔薇】はラストやプラウディアとの交易路の狭間に陣どっていた。交易のためには【血皇薔薇】の領域を避けるためにわざわざ遠回りする必要があった。今回の討伐により交易路の安全はかなり確保されたと言える。

 そして血皇薔薇に限らず、グラドル周辺に存在していた幾つもの巨星級の魔物を、ウーガは次々と討伐していったのだ。これを認めないわけにはいかないだろう。

 

『ま、ウーガの有用性は示せたということじゃの』

「で、その結果を受けて、シンラが来ると。それが三日後」

「シンラが来るなら天陽騎士もくるよな。面倒くせえ」

 

 ジャインが顔を少し顰め、エシェルへと視線を向ける。 

 

「おい、“元”天陽騎士殿。なんかそこら辺聞いてねえのか」

 

 今回の騒動を機に、天陽騎士を休職したエシェルは、ジャインの問いに顔を向ける。

 

「元々、天陽騎士でも浮いてたから、辞めたときも、あんまり情報も回ってこなかった」

「そ……うか」

 

 あまりに堂々としたぼっち宣言に、エシェルに対して以前は侮蔑の言葉を投げつけていたジャインも流石に黙った。最近、エシェルは不安定なことも多い反面、振り切れたところは本当にすっぱり振り切れていた。

 

「そもそも、ウーガの騒動で、エイスーラの私兵だった天陽騎士の大半が粘魔になったから、向こうも大混乱で、ヒマがなさそうだった」

「ああ、そりゃそうだ……改めてみてとんでもねえ被害だな」

 

 カーラーレイ一族と関わった人物達がそうだっただけなのか、あるいはこれをしでかした邪教徒が的確に狙いを定めたのか、グラドルで粘魔化した被害者達はグラドルの要職に就いている者が多かった。

 2ヶ月が経過して尚、混乱が収まりきらないのも当然だった。

 これを仕掛けた邪教徒の質の悪さに、ジャインは改めて苦い顔になった。

 

「お陰で複数箇所で建設途中だった衛星都市もストップだ。グラドルの空いた人員補充に回されたらしい」

「損害とんでもねえ事になりそうだな……」

「そして、ウーガの価値が反比例して高まっていく。無視はされないでしょうね」

 

 ウーガが潜在的に持つ価値は計り知れない。

 そもそも先の血皇薔薇撃破で得た資金も、魔石分と合わせると金貨250枚だ。個人では決して何年かけても容易くは集まらないであろう金額が、一瞬の内に手に入ったのだ。

 この賞金を懸けたのはグラドル自身であるから、そう単純な話でもないものの、「戦闘力」という一面だけでも、ウーガは恐ろしい力を秘めている。

 そして、そのウーガの管理権限を、現在ウル達は握っている。

 

 正確に言えば、エイスーラからウーガの制御権を簒奪したエシェルに。

 

「一応、元々ウーガの管理はエシェルが行う事になってたんでしょう?」

 

 リーネの問いにエシェルは少し困り顔になりながらも頷く。

 

「衛星都市の時は、そうだった」

「今は違う?」

「同じだとしても、そもそも衛星都市管理の主権はグラドル側にある。私は管理を任されてただけだし、向こうの決定次第では統治権没収はあり得る」

『……じゃあなんでそうしないんじゃろな?』

 

 ロックは不思議そうに、自身の頭蓋骨をこんこんとならした。

 

『何処の骨ともわからん連中と、それに()()()()()先代の王家の一族の生き残り。ワシが次代の支配者なら、絶対にソッコーで統治権没収するがの?』

「コマっ…」

「まあそりゃそうだが言葉を選べ骨」

 

 ロックはカタカタと笑った。

 

「色々な理由はあるでしょうけど、すぐさまにでもそうしない理由は、恐らくそれね」

 

 リーネが指さすのは、エシェルの右手だ。正確に言えば、彼女の右手の内側に刻まれた、【竜呑ウーガ】の主である印、【制御術式】だ。

 

『じゃが、それって奪えるんじゃろ?時間をかければ、鏡の精霊無しでも』

「可能だけど、元々、本来の主から使い魔を奪うって、かなり強引なやり方よ?その主が死んでるなら兎も角、生きてる状態なら尚のことね」

 

 正規の奪取の魔術を使ったとしても、失敗する可能性は十分在る。もし万が一にでもおかしな失敗をしてしまえば、ウーガという恐るべき使い魔がどうなるかわかったものではない。ウル達がその力を実演してきたからこそ、なおの事、強引な手口をグラドル側がとることはまずないだろう。

 

「双方の同意の上で行う引継ぎならもう少しスムーズだけど、それでもぽんぽん変えられるものじゃないわよ。だから、管理できる【制御術式】を増やす方向にいくとは思うけど……それもね」

「増やしすぎると、管理が困難になります。グラドルも幾つも作ろうとは思わないでしょう」

 

 現在のグラドルに、ウーガを悪用せんとする者がいなくなったかと言えば、そうでもない。カーラーレイ一族に繋がっていた全員が悪党で、そうでなかった者達が善人、などというわかりやすい区別がついてるわけじゃない。もともとグラドルは腐敗が蔓延していた場所だ。

 制御術式は徹底的に管理し、誰にも奪われてはならない秘宝に等しい。守らなければならない対象を不用意に増やすのは愚行だ。

 

「エシェル様は今、グラドル側には忠実です。そして今、エシェル様は物理的にグラドルからも距離がある。結果不要なトラブルが抑えられてる。この状況を動かす事を向こうはあまり望まないでしょう」

「最低限、新しいグラドルのシンラが、自分たちで管理する制御術式を用意する方向で話は進んでるわ。今度の会合では、このことは話し合う事になるとは思うわ」

 

 グラドルの疲弊と混乱、制御術式の特性、現在のエシェルのいる場所そのもの、様々な要因が重なって、今が成り立っている。それを全員が認識した。

 

「グラドルとウーガの現状確認はこれくらいかな。まあ、兎に角、三日後にシンラが来る以上、俺達はそれに備えなきゃいけなかったわけだが……」

 

 と、そこでウルは懐から手紙を取り出す。ラビィンが持ち込んだ二通の厄ネタだ。

 一つはディズ、とは別の【七天】からの手紙。

 もう一通はイスラリア大陸北部に存在する不死の大地、【スロウス】からの手紙。

 

 全く場所も異なる二通の手紙は、しかし書かれていた内容は共通していた。即ち、

 

「グラドルが来訪するその同日に、この二つの勢力も合わせて来訪したい、だとさ」

『ほう……』

 

 ウルの説明に、ロックは相づちを打った。そして言った。

 

『ちょ~~~~~~~~~~~めんどくさくないかの?』

「あーそうだな。じゃあこの二勢力の話し合い始めるぞクソが」

 

 ウルは自分を奮い立たせるように毒づきながら会議の続行を宣言した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「まず【天魔】グレーレの来訪。これは正確に言えば、代行としてエンヴィー騎士団の【遊撃部隊】ってーところが来るらしい」

「? 何故【大罪都市エンヴィー騎士団】が七天の使いとしてくるの」

 

 エシェルが首を傾げる。

 騎士団の役割は基本、都市の治安維持と魔物からの防衛である。都市国ごと、その地域ごとに担う役割は臨機応変で変わってくるが、その基本は変わらない。その騎士団が、他国のグラドルまでやってくること自体、確かにおかしかった。

 

「…………」

「……リーネ?」

 

 と、その隣でリーネがかつてない顔をしていた。口をひん曲げ、眉をつり上げ、顔全体であまりにもハッキリと嫌悪の表情を浮かべていた。

 

「リーネ様、彼らについて何かご存じなのですか?」

「こいつら嫌い」

「ご存じのようですね。では解説をお願いします」

 

 会話として成立しているかは不明だが、シズクに促され、リーネが説明することになった。リーネは言葉にするのも嫌だ、というように不機嫌そうな表情のまま、しかし暫くして観念したように口を開く。

 

「魔術研究に携わってるなら知らないヒトはいないわね。悪名高き【強奪部隊】よ」

「響きが不穏すぎる」

「要は、エンヴィー騎士団の内部にある【天魔】グレーレの私兵部隊よ。イスラリア各国に飛び回って魔術的価値あるものをかっ攫っていく強盗団。【七天】の権威を盾にするから盗賊よりも遙かにタチが悪いわ」

 

 名前の響きより遙かにやばい連中だった。

 

「魔術大国ラストでもお暴れになられたのですか?その方々は」

「白の魔女様の秘奥の術を根こそぎ奪おうとしたのよアイツら。しかも白王陣は『古くさくて使いようがないが資料にはなろう』とか抜かしやがったのよ絶対に殺すわ」

「リーネ様。お茶をもう一杯いれましょうね」

 

 説明していく最中みるみる顔面が真っ赤になっていくリーネにシズクは素早くお茶を注いで落ち着かせた。リーネは茶を一気飲みした。

 

「手紙にはざっくりと、世界保全を目的とした【七天】の名代として、【竜呑ウーガ】の性能調査及び、管理者の保全能力の調査確認のため来訪する予定である。と書かれていた。

「まあ、まず間違いなく、目的はウーガの調査、ないし接収ね」

「だが、ごちゃごちゃと付加価値がついたが、此処は一応グラドルの衛星都市国だろ。そんなもんどうやって取る気なんだ」

「さあ。でもやるときはなんでもやるわよ。アイツら。前どこぞの衛星都市で精霊の化身として信仰されていた霊鳥を『危険な魔物だ』ってパクっていったからね」

「やべー過ぎる」

 

 場合によってはウーガの奪取もやりかねない連中であるということはわかった。

 

「とはいえ、流石に問答無用の接収なんてことは出来ないし、取引すべき対象は私達よりもグラドルでしょう。ある程度は任せるしか無いと思うわ」

「グラドル側は彼らの来訪を了承してるのですか?」

「らしいぞ。三日後の会合も同意したらしい。拒否権がないんだろうな」

 

 グラドルの大幅な弱体化、その救助に【七天】のディズに頼ったことで影響力は非常に強まった。同じ【七天】の要請を断ることは出来なかったのだろう。

 それなら、とエシェルが唸る。

 

「じゃあ、私達がやれることはない、でいいのか?」

「グラドルを無視して、直接貴方を狙うかも知れないから注意して」

「……そんな、強引なことするのか?」

 

 エシェルの少し怯えた声に、リーネは容赦なく頷いた。

 

「現状、貴方を手に入れさえすれば、ウーガの全権を手に入れられる状況だもの。なら、貴方を誘拐して、ウーガをグラドルの支配地域から移動させた後、適当に七天の権限で理由を後付、なんてやりかねない集団よ。油断してるとかっ攫われるわよ」

「怖い」

「三日後の会合に割り込んできたのも制御印が増やされる前に可能なら独占する意図もあるかも知れないわよ」

「本当に怖い」

 

 エシェルは身震いして、ウルの腕を引っ掴んだ。

 リーネの言い方は脅すようだったが、しかし咎める気にはならなかった。無茶苦茶なやり方に聞こえるが、それぐらいに強引にやってきたとしてもなんら不思議ではない。それくらいの価値は、【ウーガ】には存在する。

 そして、そういうことを平気でするような連中であるのは間違いないらしい。

 ディズと同じ【七天】に属する者達であるからと言って、全く油断できるような連中ではないらしいということはウルも頭に入れた。

 

「交渉はグラドルに任せるとして、こっちでも警戒は怠らないようにする。エシェルは特に、一人でうろうろしたりはしない。いいな」

「ずっとウルについていく」

「……うんまあ、それでいいや」

 

 へばりつかれるとそれはそれで新たな問題を呼び込みそうなので、その点は注意することにした。厄介な集団ではあるが、ウル達側から出来ることはそう多くはない。油断だけはしないように、という方針で決まった。

 

「では、次の話ですね。もう一方の新たな来訪者、【穿孔王国スロウス】という方々なのですが……この中でご存じのかたはいらっしゃいますか?」

 

 シズクが問う。この中で最も知識があるリーネは、しかし不思議そうに首を傾げていた。

 

「【大罪都市スロウス】って確か100年前に滅んだ筈よ?ちょっと聞き覚えが…」

「私もあまり、ない。スロウスの地域の、【不死者の荒野】とかは聞いたことがあるけど」

 

 リーネに続いて、エシェルも首を横に振った。ロックにも視線を視線を向けるが当然、カタカタと両手を挙げて降参のポーズだ。シズクも残念ながら、と首を横に振った。

 唯一、この手紙が届けられた瞬間、最もリアクションが大きかったジャインだけが、とても渋い顔をしている。

 

「ジャイン」

「死ぬほどめんどうくせえ。名無しならてめえも知ってるだろウル」

「俺も噂程度だ。頑張ってくれ。今度レアな植物の種仕入れてくるから」

 

 彼を宥めるのに暫く時間が掛かった。

 今度彼の家庭農園の作業を丸一日手伝うことで落ち着いた。

 

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