かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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空の来訪者④

 

「一言で言ってしまえば、精霊の加護の暴走ですね」

 

 巨大なるグルフィンから少し距離を取った場所で、魔物達を処理していたカルカラは、やってきたシズク達に状況を説明した。彼女の周囲には神官見習いの従者達がいる。幾人かはグッタリとした顔つきで祈りを捧げ続けている。

 しかしもう半分ほどは、グルフィンほどではないが、()()()()なっている。

 頭が光ったり、周りに花が生えてきていたり、自分の指先から次々と出てくる粉雪におろおろしたり、兎に角いろいろだ。シズクは彼らの姿を見て、納得したように手を打った

 

「精霊の加護を宿せたのですね?」

「ええ。大分強引な方法で、制御の仕方が身になる前の覚醒でしたから、大半がまだ使い物にはなっていませんがね」

 

 そう言いながらカルカラは両手を振るう。ウーガの石畳が隆起して周囲を蠢く土竜蛇を叩き潰していく。

 そう言っている間にもまた一人なにかしらの精霊の加護を授かったのか、祈りの姿勢のまま地面にズブズブと沈んでいって泣いたので、エクスタインとロックが急ぎ引き上げていた。

 

「魔術大道芸の会場のようですね」

「まあ、最初は私も似たようなものでしたがね。ヒトに過ぎた力を卸すのですから、魔術よりも感覚に依存します。混乱するほど滅茶苦茶になる」

「なるほど……ところで」

 

 そういってシズクはふっと、未だ巨大化して空海月と戦闘を続けているグルフィンを見る。いや、戦い、と言って良いのか、関節も無く、蠢く空海月に対してグルフィンがひたすらもがいている光景である。

 

「【【【炎よ】】】、グルフィン様はどうして大きくなってしまわれたのでしょう」

 

 一息に火球の魔術を唄い、土竜蛇を焼き払いながら、シズクは暢気に質問した。

 

「流石はグラン、と言ったところでしょうか。どうも複数の加護を同時に卸したらしいのですが、その内の一つが暴発しています」

「それは?」

「肥満」

 

 背後のエクスとロックはマジで言ってんのかコイツ?というツラになった。ロックに顔は無いが、骨がそんな感じになった。

 

「訂正します。【膨張の精霊・ププア】様の加護の影響ですね」

「ああー……」

 

 その名にエクスが納得したような顔になる。精霊に疎いロックは名前だけを聞いてもピンときてはいない様子だった。

 

『つまりアレか?大きくなるとか、大きくする力って事カの?便利なんじゃ無いか?』

「まあ、そうなんだけど、ププア様の膨張は中身が伴わないんだ。麦一粒を数メートルまで拡大させても、栄養価は麦一つ分。形だけおおきくなるだけ。それも一時的に」

『ほおーん、だから膨張のう』

「金を見た目だけ大きくして売買悪用なんて事件もあって、騎士団騒動になって神殿では【邪霊扱い】なんて話も出たとか……今は善霊で良かったと思うけれど」

 

 加護の強さ、与えられた力の種類にも依るものの、要は物質の伸縮を自在に操る能力だ。使いどころを誤らなければ得られる恩恵は大きいだろう。

 

「尤も、今の彼には囮の役割くらいでしか使えないみたいですが」

『あやつデコイにされとったんカ!?』

「仕向けたわけではないですよ。自分で勝手にデカくなって、混乱して暴れたら目立って、魔物が纏わり付いているだけです」

『怪我とかせんかの?』

「あの膨張した身体、精霊の力で作られただけのハリボテですよ。殴られようと噛まれようと毒針に刺されようと無傷です」

 

 ほんぎゃああああ!というグルフィンの悲鳴がけたたましく響き続けるが、別に本人が怪我をしているわけでは無い。ただ、魔物達が大量に集まってきてビビリ散らしているだけなのだ。

 そしてその悲鳴で更に魔物が集まってくる。有能な囮だった。

 

『じゃが、力尽きたら死ぬんでは?』

「第三位の神官ですから。そうそう力尽きませんよ」

『んなーるほどのう、こいつは確かに力は使いどころじゃの』

 

 ロックは感心した。

 見た目はシュールな状況だが、周囲の魔物を引き寄せているなら被害は大分抑えることが出来るだろう。本当に、見た目は愉快なだけで結果的に仕事はしている。

 

「今のところ、即興で使えるほど強い加護を宿したのは彼と、後は【風の精霊】を宿した少女くらいでしょうか。」

「【風の精霊フィーネリアン】様!?四元の精霊を宿す者が従者達の中に!?」

 

 エクスタインが驚愕に目を見開く。精霊の中でも四元とされる風火水土の精霊は強大であるというのはこの世界の常識だ。それぞれ独立した信仰と教えが生まれるほどに強い。

 それ故に、四元を下ろせる血族というのは重宝され、往々にして神殿では高い地位に付く事が殆どだ。エイスーラ率いるカーラーレイ一族など特に分かりやすい。

 こんな場末、と言っては酷い話だが、ウーガで働かされていた従者達の中にそんな人材がいると聞けば、多くの神殿の神官達は目をひん剥かせるだろう。

 

「エンヴィー騎士団、【飛行艇ガルーダ】に乗ってきたなら風の精霊とは近しいですか」

「ガルーダ稼働時は、祈りを捧げるのは最早規則ですからね……その子は?」

「グルフィン様を落ち着かせるために彼の周りを飛び回ってますよ。加護の強さは不明ですが、生まれて初めて加護を宿して、恐れもせず飛べるなら、弱くは無いでしょう」

 

 見れば、赤子のように暴れるグルフィンの周りに蝶のように飛び回る小さな影が見える。何事か語りかけているのか、徐々にグルフィンが落ち着きを取り戻していくのが見える。

 その様子を見て、エクスタインは嘆息した。

 

「思っていたよりずっと、【ウーガ】は魔境となりそうですね……」

「手を引くなら、今のうちですよ」

「……それができればいいんですけどね」

 

 エクスタインは困った顔を浮かべた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「もう2度とやらん!やらんからな!!」

「やかましいです」

 

 身体が元に戻り、少女に支えられ泣きながら喚くグルフィンの開口一番の悲鳴をカルカラは無視して、周囲を見渡す。シズク達の協力もあって、空海月の討伐も成功した。周囲の魔物も大半は静まり、落ち着きを取り戻しつつある。

 しかし、どうにも万事解決と言う空気とは違った。

 絶え間なく周囲を探っているシズクの様子からもそれは分かる。彼女はジッと周辺ではなく、魔物達がやってきた方角、つまり空を見上げていた。

 

「……何かがいます」

「また、魔物が落下してくると?」

「いえ……落下する魔物とは別に――――」

 

 だが、彼女の調査は中断される。

 

『…………?なんじゃ……?』

 

 ぽつんと、再び、空に黒い影が浮く。また魔物かと、身構えるが、すこしそれまでの魔物の落下とは違う。

 

 具体的に言うならば、極めて単純に、デカい。

 

『来よるぞ!!!』

 

 先ほどまでの、少し抜けた空気から一変したロックの激しい指摘と共に、空からそれは降ってきた。人型に獣の頭。牛頭と呼ばれる、住宅街でウル達が討伐していた魔物の一種。

 だが、そのサイズが通常の牛頭のソレを大幅に上回った場合、その呼び方は変わる。

 恐るべき力と、それに伴う圧倒的な凶暴性、迷宮の宝を狙う盗人達を、無残な肉塊に変え、その屍肉を食い千切って雄叫びを上げる、迷宮の魔物の中でも最も有名な怪物(モンスター)

 

『BUGOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 牛頭王(ミノタウロス)が出現した

 

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