かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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冒険者ギルド プラウディア本部にて④

 

「ぎゃぁあ!」

 

 最後の一人が腕を押さえて悲鳴をあげて崩れ落ちる。それを確認して、ウルは左手で振り回していた女を手放し、木剣を放り捨てた。

 

「ひぃ……」

「……あー……疲れた」

 

 ウルは大きく溜息を吐き出した。

 本当に、無駄に無意味に疲れた。ケンカをふっかけてきた冒険者達は銅級らしいが、戦い方から学ぶところは一つも無かった。あまり真面目に仕事をしていなかったのだろう。動き方は悪いし、集団戦の仕方もお粗末だ。しかも倒しても魔石を落とすわけでも、魔力を食える訳でもなく、つまりなんの利益にもならない相手だった。

 まだ今日は他にも用事があるというのに、さっさと引き上げたい。というのがウルの心からの本音だった……しかし、

 

「いいぞお!!【粘魔王殺し】ぃ!!」

「やりやがったな卑怯者めぇ!ガガールの仇とってやるぞガハハ!!」

「仇なんてよく言うわばーか!やってみてえだけだろてめえ!!」

 

「うーわめんどくせえ……」

 

 いつの間にか集まっていた観客達は、それはもう大いに盛り上がっていた。

 ウルの意思を全く無視して何やら好き勝手に叫びんでいる。中には自分の武器を握りしめ、今にも此処に飛び込んできそうな気配すらする。このままウルが「それじゃあさようなら」と言って立ち去ることを許す気配では全くない。

 

 もう適当な相手に負けて逃げるか。いや、それはそれで面倒になりそうだな。などとウルが色々と考えている。と、

 

「ならば、私の相手をして貰おうか」

 

 と、鋭く響く女の声がした。

 同時に、どんと、グラウンドの中心に何かが落下する。黒と金の女。堂々たるまっすぐな立ち姿。チンピラ達が落とした木剣を握り此方に向かう姿は、威圧感たっぷりで、ウルは反射的に身がまえ距離をとった。

 

「初めましてウル。イカザ・グラン・スパークレイだ。手合わせ願おうか」

 

 冒険者ギルドのトップが立ち塞がった。

 何か俺、悪いことでもしたのだろうか。

 と自分の所業を振り返り、嘆いた。思い当たることは結構あったからだ。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「あら、いつの間にかイカザ様がいません」

《とんでったなー?》

 

 シズクは、つい先ほどまで隣でウル達の戦いを見物していたイカザがグラウンドの中心に移動しているのを見て目を丸くさせた。一瞬だった。かなりの大跳躍だったはずだが、音すらなく彼女は消えていた。

 

「イカザ師匠、気遣ったね」

 

 対して、彼女の移動に気づいていたのであろうディズは、目の前のイカザとウルの対峙を見て感想を述べる。

 

《いじめとちゃうのん?》

「他の冒険者とやり合い始めたら、勝っても負けても際限ないでしょ。でも、彼女の後に続いて出られる冒険者はいないよ」

 

 確かに、先ほどまで騒いでいた観客席はどよめき、同時に新たな歓声をあげている。飛び出そうとしていた冒険者達も同様だ。既に観戦モードに入っている。

 

「それに、イカザ師匠に負けても、ウルの格は落ちたりしない」

「あら、ディズ様。ウル様が勝ったらどうしますか?」

 

 少し悪戯っぽくシズクが尋ねる。だが、ディズは確信に満ちた表情で首を横に振った。

 

「それは、無い」

 

 間もなく、二人は戦闘を開始した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 剣を合わせれば、相手の実力が分かる。

 

 などというどこぞの剣豪が宣う言葉をウルは全くもって信じていなかった。剣をぶつけ合っても手が痛いだけである。何を言ってるんだ頭がおかしいのか、と本気で思っていた。

 

「お前にとって不本意だろうが、良い機会だ。全力で来なさい」

 

 それが間違いだと、今気づく。

 ウルは、ぶつかった木剣から伝わる感覚に背筋が粟立つのを感じていた。眼前に迫る《神鳴女帝》の顔は笑みの形になっているが、その奥底からあふれ出す気配は生存本能を激しく刺激した。それは覚えのある感覚だ。格上相手の拒否反応だ。

 

 腰が引けようとする。筋肉が硬直しようとする。足が逃げようとする。

 

 それらを全て理性で押さえ込むことが出来たのは単純明快に、ウルがそう言った相手との戦いに慣れ親しんでいたからだ。彼の戦いは大体は格上相手だ。身体の機能の全てが及び腰になるのはもう慣れている。

 

「ほう」

 

 ウルの動きを見て、イカザは小さく感嘆の声を上げ、ウルを突き飛ばし距離をとる。そして再び構えをとった。ピンと、一本の線が伸びているような立ち姿だった。頭のてっぺんから爪先に至るまで、一切に淀みが無い。

 綺麗だ

 ただの立ち姿にそんな感想を抱くのは、彼女を除けばディズや、あるいは先のウーガでその彼女とやり合った【天剣】くらいだ。つまるところイカザはそういう相手だ。

 何故そんなのと戦わなければならないのか、と、内心でウルは愚痴る。だが、同時に

 

「まあ……良い機会だわな……ほんと不本意だが」

 

 冒険者のトップと戦わせて貰える機会なんて早々ないのも事実だった。

 ウルは眼帯を取り去る。未来視の魔眼を晒した。

 

「お、魔眼か?」

「自己強化か、相手への束縛系かね?」

「通じるとは思わねえけどがんばれ-!クソガキ-!」

 

 勝手な想像と憶測で観客達が盛り上がる。だが、彼らの中にこれが未来視であると当てる者は一人も居ない。それはそうだろう。これはディズが修羅場の中で強引に仕立て上げた代物だ。魔眼の中でも上位の代物を持っているなどと思う者はいない。

 

 イカザを見る。彼女の先を見て、動く。彼女は疾風の様な速度で再び距離を詰める。ウルは横に飛んだ

 

「ほう?」

 

 ウルが先ほどまで居た場所に剣がふり下ろされる。イカザが驚いたような顔をしていた。

 いかに早かろうが、動きが分かっていれば避けようもある。ここ数ヶ月の訓練で、ウルは徐々に未来視の扱いに慣れつつあった。眼帯自体を外せる日も遠くないと言えるまでに。

 

「フッ!!」

 

 回避直後に姿勢の崩したイカザに突きを繰り出す。基本的な動きだが、鍛錬を幾度となく重ね繰り返した無駄の無い一撃だった。自信はあった。

 

「悪くない」

「っ!?」

 

 その一瞬前に、イカザが地面を蹴りつける。突然、グラウンドの土が舞い上がる。だが、ウルの攻撃が止まる訳ではなく、そのまま土煙の中に突きを繰り出した。

 しかし、手応えは無い。模擬剣は空を切った。目に砂が入り、魔眼が塞がれる。しかも、晴れた土煙の中にイカザはいない。

 

「未来視は強力だが、対処法は幾つもある」

 

 背後から声がする。振り返り様に剣を振るうが、やはり空を切った。ウルは歯噛みする。弄ばれている。

 

「視界に収めなければ意味が無い。魔眼自体が潰されても同様だ。更に情報を処理するのにラグがある」

 

 涙で砂を拭い前を向くと、イカザは再び距離を取っていた。最初の立ち位置と同じだ。どう考えても、自分をいつでもやっつける事は出来ただろうに、それをせずに魔眼の扱い方の指導をするのは、それだけ力量に差がある証だった。

 腹立たしい。そしてありがたい。とても分かりやすく、いかに自分が未熟であるかを教えてくれている。

 

「対処を誤れば逆手にも取られるだろう。格上との近接戦でそれを使うのは勧めない」

「承知した。肝に銘じるよ」

 

 ウルは姿勢を深くして、突きの姿勢で剣を構える。竜牙槍と同じ動きが出来るように。

 

「来なさい」

 

 イカザの言葉と共に、ウルは破裂音のような音と共に地面を蹴り飛び出した。先ほどまでの追いかけっことは明らかに違う、脚力から繰り出される突進だ。

 

「【突貫】」

「【鳴斬り】」

 

 二人は交差する。

 沈黙が訪れる、観客達も全員揃って息を飲み口を噤む。間もなくして、ぐらりとウルの身体は揺れる。木剣を取り落とし、倒れようとした。その身体をイカザは腕を回して支える。

 ウルを支えたまま、彼女は剣を掲げ勝利を宣言する。

 

 冒険者達の熱狂が訓練所を包んだ。

 

 

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