かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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陽喰らいの儀⑤/プラウディア中層にて

 

 

 【大罪迷宮プラウディア】中層

 

 天空の居城。

 長きにわたって世界の守護者【七天】と戦いを続けてきた恐るべき大罪竜の住処。

 その在り方からして特殊な大罪迷宮プラウディアであるが迷宮の作りもまた特殊だった。上層であればまだそれほどの異常は無い。だが中層を越えると迷宮の主、【虚栄】の大罪竜の特色が色濃くなる。

 

 起こるのは空間の()()()()。探索者達は、天空の迷宮という特殊な空間の中で在っても「あり得ない」ものと遭遇する事になる。

 

 例えば 床一面に鋭利な棘が敷き詰められたトラップ地帯。

 例えば 地面もなく、大地の精霊の力が一切働かない、一面に夜空広がる空間。

 例えば 完全な水中、魔物であるかも確かでない未知の巨大な生物と遭遇する部屋。

 

 全て、プラウディアの中で起こる事象の一部だ。

 まったくの備え無しに向かえば即座に一行が全滅するような、初見殺しの空間が突如として降りかかることも珍しくは無い。プラウディアの中層に挑む冒険者達の一行には一人は必ず斥候役か、もしくは魔術師によるマッピング役を最優先に入れるようにしている。

 だが、どれだけ入念な準備をしていたとしても、破滅的な危険を巻き起こす空間に突如として投げ込まれることはある。

 

 例えば――――

 

「ッカハハ!!!!!見ろ!見ろ!マグマだぞ!頭が悪い!!子供が考えた部屋か!?」

 

 例えば 床も階段も何もかも、全てが灼熱の炎へと変わった灼熱空間。

 警戒もへったくれもない、一歩誤って踏みこんだらそのまま死ぬような部屋に、七天達はいた。足場も無いところで、【勇者】と【天魔】はならんで空中に浮かんでいた。勇者はやれやれと汗を拭いながら言う。

 

「騒いでないで何とかして欲しいんだけどね、グレーレ?」

「だがなあ?折角こんな幼稚な殺意をプラウディアから向けられたんだ。もう少し付き合ってやらなければ可哀想では無いか?」

「早くしないと、後で合流したユーリがキレるよ」

「いつもキレているだろう?おっと」

 

 言っている間に地面一杯に広がったマグマの海がごぼごぼと音を立てる。それ自体が気泡を起こした音ではない。揺らぎ、波立ち、そして灼熱の流体をかき分けて何かが飛び出す。

 

『SSSSSSSSYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 灼熱を泳ぎかき分け、獲物を喰らう【灼浴鮫】が飛び出し、そしてディズとグレーレめがけてその巨大な顎を大きく開き突撃した。

 

「【魔断・二重】」

『SSYA――――』

 

 そしてそのまま、ディズの剣で三等に切り開かれ、溶岩の藻屑と化した。

 

「こんな所で消耗もしていられないんだから、急いでよね」

 

 ディズは二本の剣を鞘に収め、溜息をつく。だがディズの小言をグレーレは全く聞いていなかったようで、彼の視線はじっと、彼女が使用していた二本の剣、とりわけ紅と金の入り交じる剣へと向けられていた。

 

「ふむ、勇者。何時もの【星剣】は兎も角として、その紅の武器は」

「言わない。あげない」

 

 グレーレの探るような言葉に対して、ディズは実に容赦の無い拒否の言葉を浴びせた。

 

「もう少し俺と会話しようという気が無いのか貴様?!」

「私弱いから余裕無いんだ。此処を何とかしてくれたら考えるよ」

「ふむ」

 

 問われ、グレーレは首を傾げる。そしてゆらりと浮遊した身体をマグマへと近づけると、爪先をちょこんと、煮えたぎるマグマに触れるようにした。

 

 途端、マグマがその爪先から一気に真っ黒な石の塊に変貌する。その熱が一気に奪われ硬化する。それは彼の爪先から爆発的に周囲に広がり、そして瞬く間に灼熱の空間は何もかも凍り付き、無害化された。

 その空間の中心で、グレーレはわざとらしく肩を竦めて笑ってみせる。

 

「コレで良いか?」

「ワア凄い。じゃあ先に行こっか」

「おいこらまたんか貴様!!」

 

 グレーレの意見を無視してディズは視線を彷徨わせる。先ほど一行を分断させられた空間転移の位置を考えるに、恐らくはこの方角に――

 

「【天剣】」

「あ」

 

 響き渡るその声に、ディズは頭を伏せる。背後のグレーレもこの時ばかりはそれに倣った。そして次の瞬間、身体を低くした二人の頭上で、巨大な破壊の閃きが空間そのものを薙ぎ払った。

 迷宮を迷宮たらしめている壁が根こそぎに破壊される。その破壊はこの階層の大半に届いていたようだった。そしてその奥から、残る七天のメンバーが姿を現した。

 先頭に立つ【天剣のユーリ】は不機嫌そうな面構えでディズ達を睨んでいた。

 

「何を遊んでいるのです。こうしている間も、天賢王はこのプラウディアを支えているというのに」

「うん、同意見だ。見つけてくれてありがとうユーリ」

「ついでに死にかかったがな!カハハ!!」

「この程度で死ぬ【七天】なぞなんの役にも立ちません。死ねばいいのです」

 

 そう言って彼女は背を向ける。グレーレはニヤニヤとそんな彼女を嘲笑っている。実に、仲の良い一行な事だ。ディズは溜息を堪えた。

 

《くうき、さいあくね?》

「君とグロンゾンがいなかったら私、泣いてたよ」

 

 剣の形を模したアカネと小さく言葉を交わしながら、ディズは微笑む。

 アカネのことを、他の七天には話していない。天魔に余計な茶々を入れられてもこまるからというディズの判断だ。

 しかし通常であれば一行の間で、特に戦術が変わるような武器防具の話に秘密があるというのは下策も下策だ。危機的状況であればあるほど一行の間での連係、その為の理解は必須になるからだ。秘密など、決して安易に抱えるものでは無い。

 だが、それはディズだけのことではない。

 この七天のメンバー【天剣】【天魔】【天拳】【天衣】そして【勇者】、この5人の間で黙されてる力をそれぞれ有している(隠し立て自体を嫌いシンプルな戦闘スタイルを好むグロンゾンすら)

 【天魔】がどれほどの魔術や知識に精通しているかなど知る者はいないし、【天衣】に至ってはその正体すら知る者は殆どいない。

 

 一行としては落第としか言い様がない。

 まして現状が世界の危機であるというのに、それを良しとした理由、それは――

 

「来るぞ」

 

 グロンゾンが黄金の籠手を構え、破壊された迷宮の壁の奥を睨む。

 

『SIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII』

 

 現れたるは、長大なる蛇の魔物。真っ白赤目、全長数十メートルはあろう巨大蛇。世界を飲み干す程に大きいと恐れられ、【世界蛇】などとかつてのヒトは呼んでいた。

 そんな伝説にでも出てくるような魔物を前に、【七天】の一行はただ構えた。

 

「【魔断】」

「【剣よ】」

「【砕けよ】」

「【自動刺殺術式稼働】」

「【――】」

 

 落第の関係性を放置する理由

 相互理解などという小手先が無くとも、高度な連係程度、彼らには容易いのだ。

 

 

『S――――――――――――』

 

 

 長大なる世界蛇は、ほんの一瞬の反撃すら許されず、消滅した。

 

「さて、先に行くか!下りの階段の位置は分かるか!グレーレ!」

「ここから南に歩いて89メートル先、カハハ!どこぞの剣鬼が迷宮を薙ぎ払ってくれたから散歩しやすいな!この先もこうしてくれよ!」

「疲労するのでご免です。貴方がやりなさい魔術狂い」

「……」

 

 七天の一行は再び進む。プラウディアの奥、深層、この迷宮を活性化させ、迷宮そのものを下へと落とそうとする元凶を押さえ込むために迷い無く突き進む。ただそんな中、【勇者】ディズだけが一瞬だけ足を止め、不意に、視線を足下へと向ける。

 正確にはその先にいるであろう、友人へと向ける。

 

「死なないようにね、ウル」

《だいじょうぶよ。にーたんしぶといわ》

「ん、だよね」

 

 ディズとアカネはそうやって短く言葉を交わすと、再び進み始めた。

 今度こそ迷いは無かった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【バベル空中庭園】 外周部

 

「リーネが、いなくても、なんとか……なるもんだ……」

 

 ウルは肩で息をしながら、なんとか撃破を完了した【百牙獅子】の身体が砕けていくのを確認した。崩れていく百牙獅子の身体は幾つもの裂傷と陥没痕が残されている。これだけの傷を負わせてようやく死んだのだ。

 

「ただ、やっぱり、決定力に、欠くな」

『カカ!だとしたら、トドメはお主の役割になるの?』

「ウル様」

 

 シズクの声にウルは槍を構え振り返る。ロックも同様だ。

 

「まだ来たのか」

 

 魔物達はバベルの中心に殺到しており大半はウル達を素通りだ。とはいえ、突撃の邪魔になる位置にいれば障害物の排除に動く。今し方倒した【百牙獅子】のように。此処は全く安全な場所では無い。気を抜いているヒマなど無かった。

 だが、彼女が指したのは魔物では無かった。茶色髪の小人の冒険者だ。腰に下げた剣から、戦士職、体格上珍しい。だが、此処に立つ以上一流の戦士なのは間違いなかった。

 

「この状況下で気を抜いているとは余裕だな、【粘魔王殺し】」

 

 彼は鋭い目つきでコチラを睨んでいる。敵意、というよりも嫌悪に近い視線だ。

 

「ええと……【白海の細波】の、確かベグードさん」

 

 銀級冒険者の一人、小人でありながら先陣切って魔物を打ち倒す英傑、【緋光のベグード】。イカザから確認した【陽喰らいの儀】を戦う上で選出された冒険者の一人だ。

 ウルの問いに、彼は肯定も否定もしなかった。ウルを無視して彼は言葉を続ける。

 

「他の面子は2体目を狩っている。お前達もすぐに移動しろ。無理なら補給を受けろというのがイカザ”先生”からの伝言だ」

「早い……了解――」

「忠告するが」

 

 ウルの解答を待たず、ベグードは未だ魔物達の血が跳ね返った剣を握り、思わず仰け反るような眼力でもってコチラを睨み付ける。

 

「鉄火場に自分から首突っ込んだ挙げ句、他の者の脚を引っ張ったらその首たたき落とす」

 

 それだけ言って、音も無く彼は消える。彼も自身のターゲットの場所へと移ったらしい。

 ウル達は一瞬沈黙し、そして顔を見合わせる。ロックがはて、前方から迫る魔物を切り開きながら問うた。

 

『なんじゃめっちゃ喧嘩腰じゃったの?誰か恨みでもかったんカ?』

 

 すると、シズクは「そうですね……」と、魔術を連続で放ちつつ、答える。

 

「不相応に出世して無駄に知名度が高いだけで実力が伴わない新人が、世界の命運を賭けるような重大な局面に首突っ込んできたらどう思いますか?しかも実績稼ぎのために」

『ワシなら最悪のタイミングで邪魔になる前に始末するの』

「じゃ、ベグードさんは良心的ってこったな……行くか」

 

 ウルは竜牙槍で魔物をまとめて切り裂きながら、2体目の大型魔物への前進を開始した。不相応であろうとも、煙たがられようとも、地獄への行進は続く。足を止めたところで死ぬだけなのだから。

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