かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜吞ウーガの死闘

 

 

 竜吞ウーガに殺到した魔物の群れは、ウーガに張られた魔術障壁に阻まれ、停止した。丁度、現在【真なるバベル】の中心で展開している騎士団の防壁よりも更に強固な壁だ。

 以前の天空からの魔物の襲撃の反省を踏まえ、リーネが改案した障壁はジャインたちがいる位置よりも遙か高いところで魔物達の侵入を阻み、近寄るものを焼き殺している。

 

「うーわ、障壁に虫がたかってるみたいっす」

「遠くだから小さく見えるだけで、一つ一つが魔物だぞ。油断するな。」

「っつって、全然防壁通り抜けれてないじゃないっすか。リーネ凄いっすね」

 

 ラビィンは感心した様に呟く。

 実際、【白王陣】の使い手であるリーネが大した物であるのはそうだった。あのプラウディアの眷属からの襲撃からそれほど時間が無かったにも関わらず、ウーガの防御術式を更新させている

 

 ――ウーガに常時展開してる膨大な量の術式に干渉せずに、防御結界だけ更新してかつ、他で不具合を起こさないなんて曲芸じみている

 ――術式の書き込みだけに異常な情熱を注いだ者にしか出来ない極地、

 ――構築の現場見させて貰ったけどすごいを通り越して怖い。

 

 と、白の蟒蛇の魔術師達が感心と呆れと信仰をごちゃごちゃにさせながら語っていた。銀級ギルドの魔術師として確かな実力を持つ魔術師達をしてそうまで驚愕される以上、リーネの腕は確かな物だろう。

 実際、このまま防壁に阻まれ続けるなら、それに越したことは無い。ジャインたちが楽を出来るだけだ。だが、

 

「……そうも、いかないみたいだね」

 

 エクスタインが目を閉じて、俯瞰の魔眼で状況を確認しながら不吉な言葉を漏らす。

 

「なにが来る?」

「前のウーガ襲撃時、【勇者】が見せてくれたプラウディアの眷属竜だ。魔物の群れをかき分けて一体が魔術の障壁にへばりついた」

 

 ジャインの目にも、その姿が映った。巨大な、気味の悪い赤子の姿をした竜がウーガの遙か高くの障壁にへばりついて、気色の悪い笑みを浮かべている。その両手をゆっくりと防壁に差し込んだ。

 

『KYAHAHAHAHAHAHAHA!!!!』

 

 バチバチと、凄まじい音を立てて障壁が反発する。眷属の両手は真っ黒に焦げていく。だが、眷属はその手を止めずに、そのままぐしゃりと両腕を広げた。

 

「穴が、空く!?」

 

 あまりにも強引に魔術の障壁が開かれた。同時に、その穴に大群の魔物達が一斉に飛び込んできた。

 

「あれ、ずっこくないっすか!?」

 

 眷属竜を指してラビィンがキレながら叫んだ。ジャインも同意見だった。

 魔術防壁はあんな風に物理的に”掻き分けられる”ようには出来ていない。水面の水を手で掻き分けて、谷を作っているようなものだ。無茶苦茶にもほどがある。

 

「でも、眷属の数はアレ一体だ!数に限りが有るらしい!」

「来るぞ!!」

 

 間もなくして降り注ぐようにして魔物達が司令塔に殺到した。

 

「「「【魔力結界!!】」」」

 

 同時、白の蟒蛇の魔術師部隊、及びエンヴィー騎士団の魔術師部隊が同時に結界を展開した。互い不干渉を約束したが、事、この結界に関しては事前に打ち合わせをしていた。

 司令塔全てを覆うような、高度にして複雑な結界が必要不可欠だと分かっていたからだ。

 

 幾重にも張った結界による障壁。いわばこれはバベルで行われてる戦い方のパクリだった。ただし、再現できないことも当然多い。

 

『『『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』』』

「ぐう…!?」

 

 殺到するあまりに大量の魔物達を前に、魔術師達が悲鳴を上げる。魔物達の数があまりに多い。対してコチラの結界は一流の魔術師達が協力した結界であることを差し引いても、その大量の魔物達を支えるには足りていない。

 バベルのように大量の交代要員がいる訳でもない。バベルの戦い方の完全な再現は不可能だ。故に、アレンジが必要だった。

 

「全てを阻もうとするなよ!!絶対に持たない!!一部に穴を空けて誘導しろ!」

 

 ジャインが指示を出す。

 多数の魔術師達が結界の作成に力を合わせた理由は、強度の強化よりも、その構造を弄るためだ。決して入られてはいけない場所の強度は強く、そして対処できる場所に殺到させる為に穴を空ける。

 

 無論、その穴からは魔物達が溢れ出す。故に、それに対処するのがジャイン達の仕事だ。

 

「さしずめ廉価版バベルの塔だ!行くぞ!!」

 

 降り注ぐ魔物達に、ジャインは斧を振り下ろし、叩ききった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 エクスタイン率いるエンヴィー騎士団遊撃部隊もまた戦闘を開始した。

 魔物達を切り裂き、叩ききる。結界により数を絞っているが、その数は相当だ。迅速に一体一体を処理していかなければ、あっという間に囲まれてしまう。エクスタインは矢次指示を出していた。

 

「全員!!数の多さに惑わされるな!自分の限界を見極め処理に集中しろ!!」

「承知しました!!」

 

 エクスタインは部下達の返事の元気の良さに内心で少し戸惑った。

 ウーガという存在の見極めの為に、修羅場の最前線で戦う羽目になったというのに、彼らのモチベーションは思ったより高い。遊撃部隊の本来の役割からは大幅に離れているはずなのだが――

 

 ……いや、だからこそか?

 

 騎士団の本来の役割は都市国の治安維持と防衛に在る。

 ”遊撃部隊”と名付けられた自分たちの組織が、その役割から大幅に外れているのは彼らがそもそもエンヴィーから離れた場所にいることからも明らかだ。言わば彼らは【天魔のグレーレ】の私兵部隊に過ぎず、更に言うと彼の権限を私的利用するエンヴィーの支配層の連中を満足させるための尖兵に過ぎない。

 勿論、それが結果としてエンヴィーのためになっている部分があるのは確かだが、詭弁だろう。遊撃部隊に所属する者のモチベーションというものは基本、あまり高くは無い。

 

 ――こんなことをするために騎士団に入ったんじゃ無い

 

 などと叫んで遊撃部隊を抜け、騎士団を辞めたものをエクスタインは知っている。

 そんな彼らにとって、故郷から遠く離れた地であるとはいえ「世界を守護する為の戦い」に参加できるというのは、エクスタインが思ったよりずっと、好意的に受け止める代物であったらしかった。

 

「この後一度、グローリアさんと相談してみるか……」

 

 部下の騎士達のメンタルケアの問題は一先ず置いておこう。

 まずはここを生き残らなければならない。

 

「【雷よ!!】」

 

 短縮魔術を放つ。狙いを定めずとも適当に撃てば当たるような状況だったが、無駄撃ちはしないように心がける。キリが無いし、魔力が絶対に持たない。魔力回復薬(マジックポーション)も今回に備えて大量に用意されているものの、そもそも補充する行為自体が時間の無駄だ。剣も滅茶苦茶に振れば破損はあり得る。

 コレは長期戦。どちらにしても上手く使いこなすことが必須だった。だがふと気づく。

 

「ただ、魔物の質はそれほどでも無い、かな……?」

 

 天空の迷宮から送り出されてきた魔物達だけあって、大抵は翼を持ち飛行している。その点は厄介だが、耐久力はそれほどでもなかった。

 

 出現しているのは鳥類系、だが攻撃方法は近接による脚爪と嘴による突進のみ。焦らなければ脅威ではない。そう思った。

 

「結界で誘導しているとはいえ敵は上空から来る!常に死角を作らないよう――」

 

 だが、そう指揮するエクスタインの背後に一匹の魔物が出現した。”ソレ”は無数の魔物達の影に隠れ、縦横無尽に空中を駆けると、防衛陣を敷く騎士達をまるで嘲笑うようにその隙間を”すり抜けて”、エクスタインへと飛びかかった。

 

『GYAA!?』

「――――っ小さい!!?」

 

 俯瞰の魔眼による視界で、首にとびかかる寸前でその牙を抑え、剣を叩き込んだエクスタインは驚愕する。斬り落とした魔物は小さかった。サイズは拳大ほど。昆虫型の魔物だ。棘のように鋭利な二つの牙がエクスタインの喉を狙っていた。

 

「【首刈リ甲虫】が魔物の群れの中に紛れ込んでいる!!注意しろ!!!」

 

 エクスタインは冷や汗を拭い、脅威の正体を叫んだ。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【首刈リ甲虫】 第七級

 

 森の暗殺者、などと呼ばれる魔物。その性質の悪さはなによりもサイズの小ささだ。

 基本的に拳大、大きくても全長が人の頭を少し下回る。魔力により体格が肥大化する事が多い魔物の中ではかなりの小型のサイズだ。

 だが、その強度は並大抵の魔物を上回る。下手な攻撃は固い装甲で弾き、そもそもかなりの速度で飛び回るものだから攻撃が当たらない。そしてその速度から繰り出される牙の一撃は、無防備な首をきりとばす。首刈リとはよく言ったものだった。

 

 冷静に対処すれば、目に全く負えないほどの速度ではなく、突撃する先に盾で構えてやれば自身の速度の衝撃で自壊する。だが、乱戦状態に不意に現れられ、死角から攻撃されると途端に脅威となる。

 

 主にこの魔物が出現する【大罪迷宮ラスト】の【暗夜の森】エリアでは、様々な木々の影に隠れ冒険者達を襲うことから、単体の脅威度以上の厄介者として忌み嫌われていた。

 

 そう、【大罪迷宮ラスト】の魔物である。

 それが今、プラウディア領にて襲いかかってきていた。

 

「ひ、ひいいい!!!」

 

 グルフィンは悲鳴を上げた。

 魔物達が出現してから、グルフィン達は兎に角、区切られた魔物達に対してのみ攻撃するよう指示を受けていた。同士討ちだけはしないように列に並び、自身の力を放つようにと。

 そしてそれはできた。鍛錬の成果と言うべきか、岩の塊や高熱の蒸気、硬質な糸の拘束に風の刃等々、精霊に与えられた加護の力を繰り出し続けた。

 グルフィンも同様だ。巨大化する自分の腕で、兎に角目の前の魔物達を片っ端からはたき落とした。魔物達の感触は気持ち悪かったが、兎に角そこまでは何とか無かった。

 

 だが、間もなくして出現した恐ろしい虫の魔物が、膨張の加護で生み出された巨大な自分の腕を貫ぬいた事にグルフィンはパニックになった。勿論、巨大化した自分の身体であって、本体はノーダメージだ。だが身体が弾け飛ぶ感触は例えようも無く恐ろしかった。

 

「落ち着きなさい。本当の身体まで吹っ飛びますよ」

「カ、カルカラぁ!もう勘弁してくれぇ!つまみ食いなどもうせんから!!」

「私に赦しを乞うてどうするのです?」

 

 すがりつくグルフィンに対して、カルカラの視線は酷く冷たかった。そして冷静でもある。上空では大量の魔物達が押し寄せ、更にその中に紛れる恐ろしい甲虫の飛行音がぶーんぶーんと聞こえてくるのだ。

 歴戦の戦士達であっても混乱するようなただ中において、カルカラは冷静だった。

 

「言っておきますが、私が貴方を許そうがどうしようが、助かりませんよ」

「塔の中に入らせてくれ!!頼む!!」

「脱出口なんてありませんよ?」

 

 カルカラが真顔で答える。は?!と司令塔の中央の階段を見る。だがそこの入り口は巨大な岩で塞がっていた。びっちりと埋まってヒトが入り込む隙間など当然存在しない。

 

「魔物の襲撃が始まった時点で入り口は塞ぎました。万が一に内部に侵入を果たされればその瞬間ウーガは終わりですからね」

「正気かああ!!」

「無論正気ではありませんが?」

「おま、おま、おまあ!!!?」

 

 言葉を失うグルフィンに、カルカラは不意に岩石の剣を生成し横凪ぎに振るう。同時に甲虫が数匹たたき落とされた。だが、その内の一匹の牙が飛び散り、カルカラの額を斬り付ける。

 

「ひっ!!」

 

 血が噴き出すカルカラに、グルフィンは悲鳴を上げる。だがカルカラその血を拭うこともせず、じっと足下に縋り付くグルフィンを見下ろした。

 

「私は頭がおかしい。貴方の生死にも興味が無い。他の騎士団や冒険者もそうでしょう。ハッキリ言って自分達以外を守る余裕なんてありません」

「…………!!」

「だから、ここには貴方しかいないんですよ」

 

 グルフィンの怯え縮こまる目を見抜くようにして、彼女は強く、ハッキリと断言した。

 

「貴方以外、貴方を守る者はいない。逃げ場もないのです」

「ううううううううあああ」

「助かりたいなら、立ちなさい!!!その力があるのでしょう!!!」

 

 背後から音が迫る激しい羽音。虫の暗殺者の飛来音だ。背後から迫り、真っ直ぐにこっちに迫る音をグルフィンは耳にした。

 彼は慌て、立ち上がる。眼前に迫るその魔物に対して、彼は

 

「ぬううううああああ!!?」

『GYA!?』

 

 【膨張の加護】により巨大化した拳をデタラメに突き出し、たたき落とした。

 

「うわわああ!ぬおおお!!ひいい!!!」

 

 その後も悲鳴を上げながら”神官見習い”達の並ぶ前線に復帰する。自分の身を、命を助けるために必死だった。

 

「壊れるか、奮起するかの二択でしたが、思ったより根気ありましたね?」

「……グリードの教官でももう少しマシだったぞ?」

 

 グルフィンの奮闘に満足げなカルカラに対して、背後でその様子を観察していたジャインは呆れたような声をあげるのだった。

 

 

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