かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜吞ウーガの死闘③ 決意

 

 事前、ウーガの莫大な魔力貯蔵を利用し、発動直前まで温存していた【白王陣】

 効果は実にシンプルだ。塔全体を対象とした消去魔術《レジスト》である。

 

「っぷはぁあ!?」

 

 ジャインは飲み込まれかかった水に慌てた。塔全体を水が包み込んでいる。一瞬それは新たな魔物か竜の攻撃と勘違いしそうになった。

 だが、違う。これは竜の攻撃ではない。消去魔術の視覚効果だ。この水自体も実体が存在しない。呼吸だって出来る。エシェルからの説明で理解していたはずなのに、自分が思った以上に混乱し、朦朧としていた事に気がついた。

 

 だが、今は意識もハッキリとしている。

 長時間持続する強力な消去魔術がジャイン達に回復をもたらした。故に彼は叫ぶ。

 

「てめえら!!目を覚ませ!!急げ!!」

「んん……おはよ……ジャイン」

「さっさと目え冷ませ堕兎!!!死ぬぞてめえ!!!」

 

 声を張り上げると、ラビィンもパチリと目を覚まして身体を起こした。武器を構えて周囲を見渡し、そして状況を理解する。

 

「……良く死んでなかったすね。私」

「感謝しろよボケ、そんでもって、急ぎ構えろ!!!」

 

 ジャインが叫ぶ。超広域に持続する白王陣の消去魔術。これを最初から発動させずに、ギリギリになるまで温存した理由、温存せざるを得なかった理由。

 

「魔物達が墜ちてくる!!」

 

 この強大な消去魔術は、敵味方の区別がない。

 コチラの結界も全部崩壊するからだ。

 

『KYAAAAAAAAAAAAAAA!!!??』

 

 結界に阻まれていた魔物達が落下する。魔物の雨の様になったそれらにジャイン身がまえ、そして襲い来る魔物達を蹴散らした。だが、

 

「なんか、大半は勝手に落下していきますけど!?」

 

 結界に阻まれていた魔物達の内、その大半がそのままジャイン達のいる屋上に落下するのではなく、そのまま塔の外へと落下していく。別の狙いでもあるのかと思いきや、そのまま地面に落ちて、潰れていくのだ。まるで魔物達の投身自殺である。

 

「消去魔術はまだ続いてる。自力じゃなくて魔術に依存して飛んでた奴らはいきなり翼がもぎ取られたようなもんだ!!」

「っひゃー!すげえじゃないっすか!!一網打尽っすよ!最初からこれしとけば――」

「こっちの魔術師に神官部隊!ついでに魔導機の類いの使い手も使い物にならねえがな!」

「前言撤回っすめんどくさ!!!」

 

 ラビィンは飛び出す。其方の方向には機能不全に陥った神官達がいる。自力での飛行が可能な魔物達に襲われている彼らを助けに向かった。

 ジャインは逆方向、エンヴィー騎士団の方向へと向かった。彼らの多くは魔導機械による魔導銃を中心に動いている。やはり機能不全になっている者も多い。

 

「おい騎士団!!死んでねえだろうな!!」

「……やあ、なんとかね」

 

 周辺の魔物を叩き斬っていると、それを手伝うようにエクスタインが剣を振るった。だが、少し顔色が悪い。見れば彼方此方から血が噴き出していた。

 

「グースカ寝てたのか?」

「そうしていた部下達を守った名誉の傷さ」

 

 彼が笑うと、周囲の彼の部下達は申し訳なさそうに顔を伏せる。一人眠気に抗いながら魔物達の襲撃を凌いでいたらしい。

 最もそれはジャインも同じだ。身体の彼方此方が痛む。さっさと回復したいが、この場所では癒やす事もままならない。だが、この消去魔術は切る訳にもいかない。

 

『  Z………………………………………』

 

 何せ、未だ眷属竜は健在だ。その巨大な眼球をジッとコチラに向けている。

 

「……あれを潰すぞ。せめて魔眼だけでも無効化しないと俺らは全滅だ」

「ドラゴンスレイに関わる羽目になるとはなあ……流石ウルだ」

「ウルの所為だってか?」

「彼、身の丈に合わないトラブルに巻き込まれることに関しては天才的でね」

「そりゃ、天”災”的だな……」

 

 此処を生き延びられたら絶対に文句言ってやろうとジャインは思った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 司令室

 

「あぶ、あぶな、危なかった……!!!」

 

 エシェルは身震いしながら悲鳴を上げた。ギリギリだった。冗談でも何でもなく、一網打尽の危機だったのだ。

 

「どうよ、すごい、でしょ」

「凄い、リーネ凄い」

「そうよ、凄いのよ――――――危なかった…!」

 

 リーネは何時も通り白王陣の自慢をしながらも、しかし恐怖を顔に滲ませていた。彼女は彼女で現状がギリギリだった事は理解しているらしい。深く溜息をついた。

 

「私以外にも、せめて陣の起動だけでも出来るヒト、増やさないと不味いわね……」

「うん……でもこれから、どうする?」

 

 反省も大事だが、今はそれよりも不味い状況にある。何一つ危機は去っていない。消去魔術を継続して発動しているが為に、魔術が使えなくなった今、司令塔も機能不全の状態だ。ウル達からの連絡も聴けないし、ウーガをここから操ることも出来ない。

 エシェルも今の状態ではウーガとのリンクは感じない。ウーガに正しく指示を出すなら、消去魔術を再び止めるしか無い。が、そうすればあの竜の睡眠攻撃に晒されて、終わる。

 つまり、

 

「竜を止めるしかないでしょう」

「……私達だけで?」

「そうなるわね」

「魔術も使わず?」

「どのタイミングでこの消去魔術を解くかという話になるわ。これだって、何時までも使えるわけじゃないのよ。魔力消費が激しいわ」

 

 現在発動している【罪科ノ洪水】、全体消去魔術も本来であれば一回限り、一度発動さえしてしまえば終わりのものだ。それが今も持続しているのは、ウーガが貯蔵できる莫大な魔力を流用して無理矢理維持しているだけに過ぎない。 

 だが、幾ら膨大でも無限ではない。貯蔵量が多いからと行って蓄積速度が増すわけでもない。使い切ってしまえば、今回の戦いでウル達を援助するための魔力は無くなってしまうだろう。そう考えるとあまり猶予はない。

 

「で、でも、そんなの、出来るのか……?」

 

 エシェルは、思わず情けのない声を出してしまった。

 コチラの手札は大幅に削られている。この状況で竜を討つなどという真似が出来るなんて、エシェルには到底思えなかった。

 勿論、事前に竜に襲われる可能性は指摘されていた。また、消去魔術発動後、どういう状況に陥るかも考え、対策も練ってきた。それでも、実際に想定していた最悪に遭遇すると、その絶望感は覚悟の遙か上を行っていた。

 

 この恐怖は、子供の頃、家族に与えられたものとは違う。

 もっと純粋な、生命の危機から来るものだ。それが恐ろしくてたまらない。

 折角、少し、生きることが楽しくなってきたのに、それを失うなんて事――

 

「エシェル」

 

 がしりと、両肩を掴まれてエシェルは思考の迷路から浮上する。自分よりも背丈の小さな小人のリーネは、それでも何故かとても大きく見えた。

 

「出来るかどうかじゃないわ。やるのよエシェル。私達がやるの」

「私達が……」

「立ち向かって、戦って、勝ち取るのよ。その為に私達は此処まで来たのでしょう!」

 

 確かに、そうだった。

 この戦いは、世界の存亡を賭ける戦いという大義がある。だけど別にエシェル達はこの戦いに参加する必要性はなかった筈だ。此処に来たのは、ウーガという場所の持続を望んだ者達の意思で、望んだことなのだ。

 自分の運命を少しでも良くしようとして来たのだ。戦う前から拳を下ろしてどうする。

 

「……分かった。やる……頑張る……!」

「偉いわエシェル。それじゃあまずは」

 

 そう言い、リーネはチラリと窓の外を見る。未だおぞましき腐り果てた眷属竜は空中に鎮座していた。恐ろしい魔眼を此方に向けて、消去魔術の存在も気にせずにずっと【惰眠】の魔術をかけつづけている。

 

「あの竜、たたき落としましょうか」

 

 リーネは杖を強く握り、白王陣を再び叩いた。

 

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