かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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陽喰らいの儀⑫

 

 飛翔する魔眼持ちの黒竜

 スーアを腹に抱えた竜。バベルの面々にとって目下の課題だった。これだけはなんとか処理しなければ、後が無いのだ。天祈無しの戦い方も勿論彼等は想定しているが、それがあくまで凌ぐためのものでしか無いのだ。

 

「まずは天陽結界付近の穴でもがいてる竜を引きずり下ろす必要があります」

 

 結界の寸前で漂う竜が、結界の外に出てしまったら、その時点で救出の難度は跳ね上がる。根本的に【陽喰らい】は結界の内部で戦う事を前提とし、天陽結界を起点に多重の補助結界をかけている。結界の外に出るだけで、用意の大半が使えなくなる。その中で竜を対処するのは困難だ。

 まずは逃げられなくする。それが重要だった。

 

「天賢王にこれ以上の負担はかけられない。まずは落とし、神の手の使用を控えて貰う」

「黒竜の討伐は手伝って貰えないと」

「落下するプラウディアを抑えるという大任は、我々の想像以上の負担だ。既に霊薬も10本消費しておられる。これ以上は命に差し障る」

 

 陽喰らいを乗り越えたとして、天賢王に死なれれば負けたようなものである。その方針に全員同意した。

 

「竜殺しを複数使用し、更に消去魔術で飛行魔術を損なわせ、落とす。あの巨体に対して翼は小さい。どう考えても自前の筋力で飛翔しているとは思えん。その後、翼を落とす」

「首尾良く落として、その後は?あの大量の魔眼はどうするのです」

 

 問うのはベグードだ。魔眼にたたき落とされた彼はその警戒の度合いが強い。通常であれば一種程度しかない魔眼が多種大量に身体にあり、しかもそれを連射するのは滅茶苦茶だった。

 

「あるいは魔眼も消去魔術で抑えますか?範囲内ではコチラも大半の魔術防護を失いますが……」

「いや、消去魔術ではなく、魔術による砂塵を起こし”魔眼の視界を潰す”。相手が竜であろうとなんだろうと、魔眼という特性そのものまでは変わらない、筈だ。確定ではないがな」

 

 視界に収めた対象に魔術をかける。

 それが魔眼の根本的な特性だ。そしてそれは相手が竜であっても変化はない。”目”という形をとった以上、その筈だ。

 

「でも、魔術で砂塵を起こすなら、消去の魔眼で消されたりするのでは?」

 

 術者の一人が問う。ビクトールは頷いた。

 

「あれだけの魔眼の数だ。消去の魔眼も無いとは言えまい。だが、砂塵の一部が消され始めたら、魔眼の位置特定は容易だ」

「戦闘部隊がそれを潰すと」

「砂塵……此方の視界はどう確保するのだろう?」

 

 【歩ム者】のウルが問うた。するとこの場における唯一の神官が胸を張った。

 

「作戦参加者には私が信仰の対象、【灯火の精霊】の加護を授けよう。案ずるな」

「灯火」

「太陽神ゼウラディアが休まれる闇夜を裂き、視界を確保する強き力よ。崇めよ」

「とても凄い」

 

 ウルは賞賛した。神官は満足げである。

 

「消去の魔眼を優先的に潰し、その後全ての魔眼を破壊していくと。しかし、当然竜も抵抗するのでは?」

 

 同じく【歩ム者】のシズクが問うた。主にレーダーとして活躍してくれていた彼女だが、今回は彼女も戦闘に参加する。魔本に関しては情報班にそれを預けている。

 

「確かに、大きな抵抗が考えられる。そもそもこの魔眼の破壊の手順も何処で崩れるかは不明だ」

 

 ビクトールは正直に言う。作戦を指示する者としてはあまりにも情けのない話だが、竜を相手に「ここをこうしたらこうなる」といった道理は通じない。道理を前提に作戦を組めば、その道理は破壊され、立て直せなくなる。

 だから基本、竜と戦う場合「失敗した場合の次善策」を幾重にも敷く。しかし今回の場合、それができない。

 

「竜三体の同時対処、その全てに手を回している以上、次善の策を組むのが困難だ」

「ではこの作戦は、ある程度は強引にでも通さなければなりませんね」

「そうなる。無論前提がひっくり返るような代物が出てきたら話は変わるが……その時は改めて指示を出す」

「わかりました」

 

 あまりに心許ない作戦である。という前提の説明だったが、シズクは頷いて下がる。正直ここいらで辞退者がでる事も覚悟していた。だが、彼等は今だ動かず、各々の武器防具を確認している。

 流石に、ここまで来て逃げだすような覚悟の者はこの場にはいないらしい。ありがたいことだった。

 

「魔眼を潰したら、後は竜自体をかっさばいてスーア様を助け出すだけ、と。ちなみに対竜兵器はどれくらい融通出来んだい?」

 

 また別の冒険者が問う。

 

「【竜殺し】は20発ほど、竜落下時点で打ち込む予定だ。戦闘特化の精霊の加護を幾重にも与える。霊薬も一人一つ持って良い」

「大盤振る舞いだな」

「失敗は出来ない」

「だな……」

 

 冒険者は溜息をつく。全くもって、祈りの力が浅い冒険者達に対する対処としては破格の境遇と言える。だが、それでもやりすぎという事は無い。この作戦の成否によって今後の戦況は大きく変わるのだから。

 

 故に、なんであろうとも使える余剰戦力は全て使う。ビクトールはウルを見た。

 

「ウーガへの連絡は」

 

 ウルは首を申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「すまない。魔物の襲撃が来たと連絡が来たあたりからあまり連絡が通じなくなった」

「……いや、使えないならそれはそれでいい。そちらに魔物が分散しているだけでも、大きな助けになっているのは間違いない」

 

 惜しい、とは思う。だが今ビクトールが言った言葉は別に嘘偽りのつもりは無い。プラウディアが戦力を割かなければならないほどの脅威とウーガが認識して貰えたこと自体、大きなアドバンテージに違いなかった。

 無論、それはウーガが無事に襲撃から生き残ることが叶えば、という前提もつくが、そこは今考えても仕方が無い。

 

「では、作戦を開始する。各自の健闘を祈る。」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『んで、ワシらは先回りして竜落下地点の魔物達を潰しておく、カ。まあ安全な場所に回して貰ったの』

 

 天空庭園の輝く足場を疾走しながら、ロックはしみじみと答える。ロックの言うとおり、ウル達の今の役割は先行しての魔物達の撃破、及び竜落下後はその周囲の魔物が邪魔をしないように努めることとなった。安全、と言われれば確かにその通りだ。

 

「ですが重要な役回りです」

 

 シズクは真面目な顔で言う。ウルも頷いた。この役回りにふて腐れるつもりも無い。僅かでも助力をしなければならないギリギリの状況であるとも理解している。

 

「それに、本当に竜と俺たちがやり合わなくて済む保証、全くないからな」

『それもそじゃの……しかし、ウーガとの連絡はまだつかんのかの?』

「つかない。ずっと定期的に通信魔術は使っているんだがな……」

 

 観測部隊にもシズクにも、遠方のウーガの状況はつかめないらしい。何らかの魔術の阻害か、もしくは大規模な魔力が充満している影響か。それだけでもなんらかの異常に直面しているのはハッキリと分かる。

 正直言えばかなり心配だ。ウーガにいる面々の無事も不安であるし、そもそもウル達がこうして戦っているのはウーガを手に入れるためという打算故だ。そのウーガを損なってしまったら全くもって本末転倒だ。

 そう考えるとやはりこんな戦いに引きずり出したブラック巫山戯んなという話になるわけだが、彼の姿も未だに見えない。一体彼は彼で何処で何をしているのやら――

 

「ウル様。そろそろです」

 

 シズクの言葉でウルは視線を上空に向ける。黒い竜が上空やや前で蠢いている。竜の周りには巨大な手が竜の動きを捕らえんとしている。天賢王の力の顕現であるが、

 あれもまた、相当な無茶だと騎士団長ビクトールは言っていた。何しろ現在彼は大罪迷宮プラウディアの落下を押さえ込んでいるのだ。その上で竜を捕らえるというのは、両手で大重量の物体を背負いながら、片足で逃げようとする蛇を捕らえようとしているようなものであるのだとか。

 ウルにはそんな経験が無いので勿論どれだけ大変かは分からないが、長続きしないのだけは分かる。

 

「……うっし、魔物焼くか」

「竜牙槍とロック様のライン、繋げました」

『カッカカ!!では派手にいくかのう!!』

 

 途端、ロックンロール号がぐるりと回転する。ロックの【骨芯変化】を使い、戦車そのものの形を変貌させることで行う離れ業だ。巨大な車体がグルグルと回転しながら、その砲塔である竜牙槍を突き出し、そして解放した。

 

「【旋回咆吼】」

 

 巨大なる光線が全方位に向かって吐き出され、魔物達を次々焼き払っていった。

 

「カカカカ!!爽快じゃの!!火力も全開じゃ!!」

「魔石は喰いたい放題だからな。魔物達の数は馬鹿みたいにいる」

 

 そしてそのロックの蓄積した魔力を、竜牙槍に接続し【咆吼】を消費を度外視で撃ちまくる。中々に狂った戦術だ。ロックから竜牙槍に魔力を注ぐ効率が恐ろしく悪い上、竜牙槍自体の耐久性も問題のため制限はあるものの、ロックの言うとおり魔物が次々に薙ぎ払われる様はある種爽快である。それはつまり、適当に【咆吼】を撃ち放てば魔物に当たる状況であることも示されているのだが、そこは考えないようにした。

 今は兎に角全力で魔物を倒して後続に――

 

「ウル様」

「どしたシズク」

「大変です」

 

 ウルは顔を顰めて振り返った。

 

「……どうした?」

「降りてきます」

「なにが」

「竜が」

『あ、ほんとじゃの』

 

 ウルはロックンロール号の入り口を開け、空を見上げた。黒い竜が真っ直ぐに落ちてきた。ウルの顔が引きつり半笑いみたいになりながら叫んだ。

 

『GYAAHAHAHAHAHAHHAHAHAHAHAHAHAHA!!!』

「回避ぃ!!!!」

 

 間もなく竜が落下し、衝撃音が走った。

 

 

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