かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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陽喰らいの儀㉒ 陽は昇り――

 

「【四克の破翼】」

 

 鈴のような声がした。

 同時に、ウルの目の前で四つの光が激しく輝いた。紅と翠、蒼と黄、四色が瞬きそれらが渦巻いて中心の白に集約する。あれほどまでにウルが破壊を試みても僅かずつしか千切ることも出来なかった竜の肉が一気に引き裂かれていく。

 

「……………!」

 

 その間近に居るウルにはとてもではないがその光景をマトモに見ることは出来なかった、まぶしすぎる。直視すれば目が潰れるだろう。輝きは時間経過と共に収まる。だがそれでも輝きは眩かった。

 薄らと目を開くと、四つの輝きを翼のように纏ったスーアが、ウルを無表情に睨んでいた。

 

「怒ってらっしゃいますね?」

『役立たずとか言ったからのう』

「もう知らん」

 

 ウルは投げやり気味に吐き捨てる。

 この世界で最も偉い天賢王の長子にして第一位(シンラ)、世界最大の戦力である七天に対してものすごい暴言を吐いた気がする。するが、ハッキリ言って本心からの言葉である。これでどうこうと言われても知ったことではない。

 スーアはウルをジッと睨みながらも、そのままぽてんと頭を下げた

 

「助けてくれてありがとうございます」

「それは、どうも」

 

 感謝はしてくれているらしい。

 

「役立たずではありません」

 

 気にはしているらしい。

 ウルは色々と考えて、何かフォローをしようとしたが何も思いつかなかった。無理をしすぎた所為か、体中の痛みの所為か、スーアを助けられた安堵の所為か、頭の中がぼんやりとしてまともに思考が働かない。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 そもそも今、ウルが立っているのは竜の上で、今ウルはずり落ちそうになっている。ロックの骨の鎖で身体をつなぎ止めてるが、それを掴む手の力がもう入らない。手を離したら落下して死ぬ。

 

「役に立つなら、証明してくれ。さし当たって、助けてくれ」

「分かりました」

 

 と、スーアが言う。不意にウルの身体に浮遊感が発生した。ウルの身体に纏わり付いているロックも、背中に縛り付けているシズクも同様だ。3人共暖かな力で宙に浮かび、スーアのすぐ側に運ばれた。

 ウル達を側において、スーアは光翼を更に強める。血と竜の肉の汚れが一気に振り払われ、その身体を光が覆った。まるで鎧のように身体に纏わり付いた。ウルはアカネを身に纏ったディズを思い出した。

 先ほどまで曖昧に明滅を繰り返していた精霊の光が、圧倒的な輝きとなって彼女の右手に集約する。

 

「潰します」

 

 それをふり下ろした瞬間、黒竜の首が真っ二つに切り裂かれた。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【真なるバベル】作戦本部

 

「スーア様回復しました!!!黒竜を破壊しています!!!」

「そ、うか……!!!」

 

 ビクトールは今度は安堵で崩れ落ちそうになる膝を押さえ込みながら、その連絡を受け取った。もし部下達の目が無ければ、机に倒れ込みそうだった。実際部下の何人かはそうしている。まだ作戦は済んでいない事を考えると問題のある態度だが、ビクトールは咎める気にもならなかった。

 スーアが操られたと聞いたときは全員肝が冷えたなんていう次元では無かったのだ。

 

 だが、賭けには勝った。スーアはなんとか取り戻したのだ。

 

『GYAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 灰色竜のものとは別、天空から黒竜のわめき声が響く。空で蠢く黒竜を、ここからでも眩く見える光がなんども穿つのが見えていた。それを見た騎士達が歓声の声を上げるのが聞こえてきた。

 

 青竜はイカザが倒したと連絡が入った。

 灰色竜は今、ブラックが嬲り壊した。

 そして黒竜はスーアが今、引き裂いている。

 

 恐らく今回の最大の脅威、三竜の撃破は成った。後は魔物達を凌ぎさえすれば――――

 

「見ろ!!」

 

 すると騎士の一人が大きな声を上げ、指を指す。その先にあるのは、竜たちの手によって破壊されていた天陽結界だ。大量の魔物達を結界の内部に送り込む忌々しい大穴のある場所だった。

 

「おお……!?」

 

 それが、徐々に、ゆっくりとであるが塞がっていく。あらゆる魔を退ける結界が再び完全な物になろうとしているのだ。それを見て、騎士達は声をあげた。

 

「おおやったぞ!!」

「忌々しい魔物どもざまあみろ!!!」

「王の勝利だ!!」

 

 歓声が沸き上がる。竜の撃退に次ぐ好転の変化に、誰もが喜んだ。明確な勝利の兆しだと誰もが思った。が、

 

「……退いた、だと?」

 

 ビクトールだけは険しい表情をしていた。

 彼の目から見ても確かに状況は好転している。大群とも思える魔物達の圧は竜程ではないにしても間違いなく驚異的だった。それが無くなり、三竜も消えた。そして魔物達の軍勢も増援が無いと来れば、ほぼ勝利とみて間違いなく思える。しかしそれならば何故――

 

「違う」

 

 そこに、魔術でも無いのに場の歓声をかき消すほどに響き渡る声がした。歓喜の声は一瞬で消え去った。誰の言葉かはすぐに理解し、神官達は速やかに跪いた。

 

「戦士達よ。油断するな」

 

 誰であろう天賢王の声だ。遮る者は誰も居ない。

 空中庭園の中央に座していた王は立ち上がっていた。未だ彼は両腕を前に突き出し力を込め続けている。それはプラウディアの落下がまだ止まっていないことを意味している。

 

「七天達から、竜の沈静化を成したという報告はまだ降りてきていない」

 

 そう、あくまでこの空中庭園は”防衛”側だ。真にプラウディアを討つために動いているのは七天達であり、彼等がプラウディアを封じない限りこの戦いは終わらない。つまり

 

「戦いはまだ終わっていない」

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 真なるバベル上空

 

 スーアはその全能でもって黒竜を破壊し尽くした。

 事前に二人の黄金級が繰り出した攻撃のダメージがあったとは言え、凶悪な黒竜を一瞬で破壊し尽くす七天の力はやはり偉大で、素晴らしかった。

 しかしその場を生き残った全員の表情は冴えない。彼等もまた、天賢王の忠言を耳にしたからだ。

 

「だけど、だったらなんで結界の穴を?」

 

 ウルはスーアの力に身を委ねながらも疑問を口にする。

 結界の穴は魔物達の重要な通行路だ。アレが無ければ魔物達は結界の中に僅かでも入ることは出来ない。戦力の追加はこれ以上出来なくなったと断言できる。冷静に考えれば、これ以上プラウディアがどうこうできるとは思えない。

 

「――――穴を空けていた眷属達はどうなりました?」

 

 そこに、シズクが問うた。

 全員、顔を上げる。言うとおり、あの薄気味の悪い巨大な赤子の姿が無い。天陽結界に強引に穴を広げ、魔物達や竜を招いたのはあの眷属竜達だ。

 その肝心要の竜達の姿が見えない。どこに――

 

「…………あ」

 

 そんな中、冒険者の一人が気の抜けたような声を出した。場の緊張を崩すような抜けた声だ。咎めるように視線を向けるが、彼はゆっくりと指を指す。その先にあるのは、地平線から覗く輝き、

 

「太陽神だ」

 

 陽が昇り始めていた。眩い陽光が世界を照らし始めていた。

 体中の傷に染み入る光と温もり、そして安堵に涙をこぼす者がいた。先ほどまで彼等の間にあった不気味な沈黙と悪寒の全てが拭われるような感覚があった。どのような事があろうとも、太陽神、唯一神の下であればきっと大丈夫だという安心感が彼等を包み込んでいた。

 ウルもまた、目が焼かれぬよう細めながらも太陽の光の恩恵を受け、安堵していた。まだ戦いが終わっていないとはいえ、太陽が姿を顕せば、天賢王の力は更に強まるという。それならどのような問題が起ころうと安心――――

 

「…………待て」

 

 そこまで考えて、ウルは不意に得体の知れない悪寒を感じた。

 

 ――竜は悪辣だ

 

 ディズが竜の危険性を語るとき、この警告を繰り返し告げていた。耳にタコが出来る程に。ウルはその彼女の警告を律儀に心の奥底に刻みつけていた。

 だからこそだろうか。警鐘が頭の中で響き渡る。今のこの安堵、油断、拠り所、竜が悪辣というのなら、此処を狙わない道理は存在しない。

 

「……!!」

 

 ウルは目が焼かれないように光を少し遮りながらも太陽神を見る。長い夜を越えて姿を顕し始めた唯一神の象徴、世界中に結界を生み出すゼウラディアの御姿そのもの。

 

 その、降り注ぐ太陽の光の手前に、()()()()()()()――――

 

「――――――()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!」

 

 ウルが叫んだ。その場に居る全員、言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。それを叫んだウル自身も、自分の最悪の閃きの意味を理解するのに時間を必要としていた。

 

『KYAHAHAHAHAHAHAHA!!!』

 

 しかし、聞こえてくる眷属竜達の笑い声が、それが真実と告げていた。

 

「…………と、めろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 太陽神の光、それそのものを【書き換えようとする】眷属竜達との最後の死闘が始まる。

 

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