かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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駆けよ牢獄積もれやコイン③

 

 

 【歩ム者・ウル】 地下牢収監33日目

 

「ダヴィネ。魔法薬の質が上がったので値段上げてくれ」

「ああ!?本当だろうなあ?!」

「【魔女釜】から幾つか質の良い触媒を購入できた。コレなら俺でも小マシなのが出来る」

「………………良いだろう。コイン2枚に上げてやる!」

 

 魔法薬販売価格上昇 1枚 → 2枚

 日毎の魔法薬販売額 14枚 → 28枚

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【歩ム者・ウル】 地下牢収監35日目

 

「フライタン。ウチの地下菜園の拡張工事を頼む」

「……また広げるのか。あんまこれ以上無理に広げる無茶は出来ねえぞ」

「大した範囲じゃない。ちょっとした地下倉庫が欲しいだけだ」

「……今度は何する気だ」

「紫水茸が出来たって言ったろ。あれ、放置すると毒性を含むらしいんだが、上手くやると酒に化けるんだと。ちょっと実験」

「酒造りもやると……お前、何時寝てるんだ?」

「企業秘密」

 

 【秘紫酒】製造開始

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【歩ム者・ウル】 地下牢収監37日目

 

「クウ、囚人達の中でいくらかマシな人材教えてくれ。何処にも深く所属していないので」

「難しい事言うわねえ。めぼしい人材は大抵、ダヴィネが真っ先に目を付けて適当な所属に振っちゃうから、貴方みたいに独立したところに居られるヒト珍しいのよ?」

「技能は求めてない。よく動いて、コインが貰えるなら文句を言わない奴だ」

「それが難しいって話なのだけれど……ああでも、丁度居たわね」

「どんなんだ?」

「【黒炎払い】のリタイア組。もう外に出たくないって引きこもってる」

「引きこもり……」

「ダヴィネが罰で食事を抜いてもお構いなしよ。外に出るなら死んだ方がマシだって。地下の肉体労働ってだけで喜んで引き受けるんじゃないかしら」

「いいね」

 

 元【黒炎払い】3名確保。

 

 

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 【歩ム者・ウル】 地下牢収監50日目

 

「……あいつ、ウルが来てからどれくらいだっけぇ?」

「そう、ですね。今日で、確か一ヶ月と半分くらい、です」

 

 アナスタシアの答えに、ペリィは酷く奇妙な顔をした。

 地下牢の一角、小さな部屋から始まったウルの魔法薬製造所は現在、ヒトの出入りが激しくなっていた。ウルがどこからか確保してきた人材達が集まり、ウルの指示の下に魔法薬製造のための下ごしらえや、地下菜園の作業に動いている。そして彼等が生み出す魔法薬や食材をダヴィネ達や給仕班達、時に【魔女釜】や【探鉱隊】まで求めてやってくる。恐らく今、一番地下牢で騒がしい場所が此処だろう。

 なし崩しでウルに従っていたはずのペリィも、いつの間にやらウルと共に指示を出す側の人間になっている。どうやら自分はすでに「ウル一派」の幹部の一人になっていた、らしい。

 魔女釜の連中からも仕事を任されることがなくなり、代わりに魔女釜の窓口として自分が機能し始めていた。

 今の自分の境遇に文句は無い。何時、魔女釜から切られて【黒炎払い】として働かされるかもも分からない状況を考えれば、今は天国と言っても良い。最も、自分の境遇に甘んじ、適当にサボったりすると即座にウルが見抜いてくるから油断できるわけではないが。

 

 しかし、この状況になるまでがあっという間過ぎて目が回るのも事実だった。

 

「生き急ぎすぎじゃねえのアイツ……」

 

 このメンバーの中で最も忙しなく動いているのは間違いなくウルだ。

 彼は誰よりも早く、本当に早く目を覚ます。そして魔法薬の準備を進め、地下菜園や酒造倉庫の状況を確認する。日中は地下牢の彼方此方に顔を出して挨拶して回る。恐らく既にペリィよりもウルの方が地下牢で顔が広くなりつつある。そしてそのコネを活用し様々な需要をインプットし、それを活用して更にコイン集めに精を出すのだ。

 その過程で失敗したことも多く在る。近くでそれに付き合わされて、失敗したところを間近で見ていたペリィにはそれが分かっている。しかし、それでも彼は全くめげることもしなかった。

 そして、そういう試行錯誤を続け、結果この状況だ。

 

 生き急ぎすぎという感想も全く過言ではない。

 

「外で、仲間が、待ってると、言ってました」

「そんなのとっくに見捨てられてるに決まってんだろ。バカかよぉ」

「かもしれない、けど、急がない、理由には、ならないと、言ってました」

「………そうかよぉ」

 

 ペリィは額に皺を寄せた。

 胸奥から奇妙な苛立ちが湧き上がっていた。焦燥感と言っても良い。随分と久しく忘れていた気分だった。灼熱のような意思に当てられて、何もしていない自分がどうしようも無い奴に思えてくるのだ。

 そしてそれを自覚した瞬間、ペリィは小さく噴き出した。自分ももういい年だというのに、しかもこんな場所に押し込められたというのに、まだこんな感情が自分の中に眠っていたことに驚いたのだ。

 

「まあいいさぁ。そんで、そんな生き急いだ我らが長はなにしてらっしゃるんで?」

「外、です」

「外ぉ?わざわざ何のために」

 

 地下菜園が上手く回り始めた今、危険な地上に出る理由が分からなかった。

 

「修行、だそうです」

「修行ぉ…」

 

 やっぱアイツバカなのかも知れないとペリィは思った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 地下牢地上部

 

「…………」

 

 ウルは一人、地表で竜牙槍を握り、たたずんでいた。

 周囲には敵はいない。魔物、黒炎鬼の姿も無かった。その状況下で、ウルは両目を【黒睡帯】で覆い隠していた。牢獄の外を出歩くなら必須の装備だった。必要最低限のものだけを身にまとい、ウルは肩を回し、そして前を見据えた。

 

「ふっ……」

 

 竜牙槍を握りしめて、槍を振る。

 踏みこんで、突く。身体を捻り、薙ぐ。跳んで、叩く。踏みこんで、振り上げる。自分の身長よりも大きな巨大なる大槍を、その全身を用いて振り回す。

 魔力痛が減り始めてからは、少しずつ地下で鍛錬も進めていた。が、いかに恐ろしく広い地下牢とはいえ、竜牙槍を振り回せる場所は少なかった。その場で振り回すことくらいはできなくもないが、ウルの()()()()()()()で全力を出すとなると、あまりにも手狭だった。

 

「………」

 

 前へと歩く。走る。地面を蹴りつける。

 間もなく視界は一気に狭まる。前方に迫る廃墟と化した高層建築物を前に更に加速する。一瞬にして距離が狭まった建物を前に、ウルはぐんと地面を蹴って、そのまま跳んだ。

 反り立つ壁を蹴る。蹴って蹴って、そのまま建物の壁を駆け上がる。一瞬で登り切り、ウルはそのまま空中に身を投げた。奇妙な浮遊感を感じながら、ウルはそのまま空中で竜牙槍を握り、そして一点にその穂先を向けた。

 

「【咆吼】」

 

 白皇鉱の竜牙槍は変形する。使い手の意思を即座に汲み取り、その狙いに合わせて変形し、光熱を発射する。その光熱が向かう先には、遠く、はぐれて沸いていた黒炎鬼だ。徘徊していたその黒炎鬼は、突如上空から降り注いだ光熱に焼かれ、黒い炎だけを残し砕け散った。

 

「うん」

 

 それを確認し、姿勢を正し、地上に落下する。

 黒い炎に水分の全てを吸われて、砂漠と化した地面が高くから降りてきたウルを受け止める。大量の土煙が一気に湧き上がり、辺り一帯の視界が一瞬ゼロになった。

 

 間もなく土煙も晴れて、ウルは、

 

「……俺はバカか」

 

 砂まみれになってかなり後悔していた。

 身体の砂を払い、ついでに竜牙槍の稼働も確認する。砂が噛んで動作不良を起こす可能性があった。駆動する魔道機には最悪の環境だ。しかし、動かしてみればまるで何の不具合も見せない。改めてこの新型の竜牙槍を与えてくれたスーアに感謝した。

 

「………まあ、よし」

 

 ウルは手を強く握る。身体に痛みは無い。【陽喰らい】からこっち、ずっと身体に続いていた身体の痛み、魔力の吸収に伴った成長痛が完全に治まっていた。

 

 喰った魔力が馴染んだ。そう感じた。

 

 一ヶ月の間、地下牢内での自分の地盤を固めると同時に、現在の自分の身体を馴染ませることにウルは集中していた。そして、それが成った。

 同時に、地下牢での自分の足場も固まった。必要なものが、必要なときに手に入るだけの基盤を創り出すことに成功した。

 

「んじゃ、やるか」

 

 自分の準備は整った。そして()()()()()()()()()得るべく、ウルは地下牢へと戻っていった。

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