かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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黒炎砂漠第四層 黒炎人形戦

 

 【第四層】 【番兵・黒炎人形】

 

 その特性は通常の人形(ゴーレム)と変化はない。 

 魔導核と呼ばれる心臓部と、頭部の命令術式という二つの急所を持った作り物の魔物。術式は単純に”守護”を命じているのか、黒炎の壁の前を常に行ったり来たりを繰り返すばかりだ。

 

『AAAA……』

 

 黒炎人形は小さく声を漏らす。その様は黒炎鬼達のその動きと変わりない様に見える。が、小さく呻きながらもうろつき回る様は、実のところこの人形が黒炎に吞まれるよりも前から変わりは無かった。

 元はラース領で魔術師の手で生み出された守護人形であり、それが黒炎に吞まれてそのまま呪いの配下となったことを知る者は既にいない。ラースに居た者の大半は黒炎に焼かれて死んでしまったからだ。

 

 主を失った黒炎の人形は、かつての動きをただ模倣しながら、侵入者が来るのを待つ。

 数百年と繰り返した動きは、しかしその日変化があった。

 

『A』

 

 人形の足下に、不意に矢が飛んできたのだ。

 矢は、人形の硬質な黒金の皮膚を貫くこともなかった。人形はその攻撃と表して良いかも分からない攻撃の意図を理解できない。ヒトの形を模しているだけで、彼に複雑な思考能力は無い。彼の目的は守護である。侵入者を排除することにある。

 

 故に矢の意図はつかめない。だが、矢を撃った者がいることには気がついた。

 侵入者が来たのだ。

 

『AAA……』

 

 人形は動き出す。放たれた矢の方角には、自分が守護する広場に侵入したヒトの姿があった。数は一人だけだ。しかしそれでも人形はその方角に向かう。獣なら持ち合わせるような警戒心など人形は持ち合わせていない。

 普段なら、広場に侵入者がいるだけで騒がしくなるはずの【土竜蛇】達の姿が無いことも、彼は気にしない。ただ自分の役目を果たすためだけに彼は動いていた。

 

『AAA』

 

 黒炎が揺らめく拳が握りこまれて、そして ゆっくりとした動作で振りかぶられる。射手からは距離がまだある。だが、長大な大きさの人形の拳はこの距離からでも侵入者を粉砕することは可能だった。

 あるいは届かずとも、柔らかな地面を叩きつければ砂は津波のように周囲に溢れて、侵入者を押しつぶすだろう。この広間で侵入者を効率よく排除する方法を人形は熟知していた。

 第三層が破られてからの十年前、繰り返した攻撃を再び人形は行う。

 

「今だ!!消去魔術起動!!」

 

 が、対する侵入者は十年前と同じでは無かった。

 

『AA』

 

 ぐらりと、人形の身体が揺れた。足下で魔術の輝きが光る。消去の魔術が生み出した力が、人形の足下で巡らされていた重力魔術の力を一瞬奪い去った。

 本来、二足歩行などあり得ないほどの巨体、質量を支えるための重力魔術が半端に拭い去られる。起こるのはバランスの崩壊、そして突如として重量を増した人形を支えきれなくなった広場の砂の陥没だ。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAA……』

 

 黒炎人形のうめき声と共に、人形の身体は砂煙を上げながら広間の中心で埋もれた。

 広間の視界は舞い上がった砂で完全に潰れる。人形の虚ろな眼球は視覚能力を有してはいない。故に視界が見えなくなっても問題は無かった。が、身体が動かない。

 

『AAAA』

 

 足が地面を掻く。だがその側から新たな砂が流れ込み、足元の隙間を埋めてしまう。手で砂を掻くが、とっかかりもない。そもそも腕の力だけでは大質量の身体を引っ張り上げることは出来ない。

 元々、この人形は豊かだった頃のラースの時代に生み出されたモノだ。当時はこの場所も砂地ではない。砂地への対応能力は低い。たまたまこの個体は重力制御を備えていたために生き残り、黒炎鬼になっただけで、彼の仲間達は今もこの大量の砂の下に埋もれていた。

 

 そして今、彼もまたその仲間になろうとしている。

 

『AAAAAA!!』

 

 人形は自己保全の為にそれに抗う。消去魔術で消し去れた重力魔術の術式を再び起動する。大質量の自らを浮き上がらせるために力を込めた。

 

 だが、それをしかけた侵入者達はそれを黙って待っているわけもない。

 

「今だ!!かかれぇ!!!!」

 

 【黒炎払い】のボルドーが叫ぶと共に、広間の周辺から姿を現した戦士達が一斉に大砲を撃ち出した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「制御術式がある頭は狙うな!!!黒炎人形が暴走したら致命的だ!!!腹を狙え!!」

 

 ボルドーの咆吼と共に、一斉に人形の腹部が爆発する。

 表皮が黒金製の人形故に魔術の通りが悪い。その人形の対策に用意した大砲は古い兵器だった。何ら魔術の施しもない火薬を使った破壊の筒。しかし効果はあった。

 

「撃て撃て撃てぇ!!!動かれたら死ぬぞお!!!」

 

 ボルドーの指示に応じてガザも叫ぶ。それに応じて”黒炎払い”の下っ端達も次々に弾を込めては打ち込む。【黒炎払い】の4層の番兵前までの同行に同意した者は少なかった。ボルドーを信奉する仲間達以外は本当に少数だ。いくらかモノになった10人ほど。累計30人ほどが【衝突】が起こらぬよう距離を取りながら、人形を囲み、ひたすらに攻撃を繰り返す。

 

 一方的だった。人形は全く動けないままに爆発と共に身体を激しく揺らす。爆発の合間に、身体の破片のようなものが飛び散る。

 

 このまま倒せるのではないか?

 

 という予感が戦場を包みつつあった。

 だが、ボルドーの表情は一切変わらない。弛緩もせず、それどころか人形を睨む表情は険しさを増していく。彼だけで無く、彼と共に10年を過ごした戦士達は全員そうだった。 

 彼等は知っていた。この程度で済むのであれば、自分たちは10年前失敗していなかった。

 

《周囲から【黒炎鬼】が来たぞ!!》

「来たか。地下からは?」

《来て、ない!恐らくだが…!》

 

 通信越しの術者は不安げだ。砂の大地を自在に泳ぐ土竜蛇の姿を補足するのは困難だ。広範囲を探るため、未熟な術者も駆り出して大地を探っている。正確性は期待は出来ないだろう。

 だが、そのリスクは無視した。元々、地下牢の環境を考慮すれば、これほどの資材と人員を用意できただけでも奇跡的だった。これ以上の万全を望むのは無理がある。

 そして此処で勝てなければ二度はないだろう。士気も資材も尽きて、補充できなくなる。

 

「巻物で結界を発動させろ!」

 

 広間の更に広範囲に結界が発動する。これまた強い結界術ではない。しかも広間を囲う【黒炎払い】達を更に囲う結界とも成れば広大だ。黒炎鬼達の足止めには殆どならない。

 【魔女釜】が寄越した巻物を使ってギリギリ維持できるかだろう。だが、それでもタイムリミットは少ない。その間に決着を付けなければ――

 

「黒炎人形の腹部が割れました!!」

 

 その最中、爆発音の狭間にバキリと、何かが砕けるような音がした。ボルドーは覗き見ると、報告の通り、黒炎鬼の腹は僅かであるが罅割れていた。内部から核が僅かに姿を現しているのをボルドーは見る。

 黒炎を纏おうと人形は人形、あの核さえ破壊すれば機能は停止する。

 

「破壊された部分を狙って――」

 

 ボルドーは即座に部下達にそれを命じる。だが、しかし、

 

『A――――』

 

 人形が動いた

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

「か、活性化するぞ!!!!」

「他の黒炎鬼が死んでいないのにか!」

 

 途端、人形の身体が纏う黒い炎が一気に膨れ上がった。爆発でも起きたかのように肩や腕で揺らめく炎は火力を増し、頭部の角が伸びていく。同時に、身体の半分を埋めていた砂が、一気に吹っ飛んだ。言葉のどおり、人形を拘束していた全ての砂塵が周囲へと弾き飛ばされたのだ。

 

「重力魔術の出力も上がったか……!」

 

 広間の外周まで飛んできた砂塵に咳き込みながら、ボルドーは苦々しく呟く。拘束していた砂が吹っ飛んだ。それはつまり、人形が自由になると言うことだ。

 

『AAA  AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 黒炎人形は叫ぶ。自由になった両足で地面を踏みしめて、まるで【暴走】状態にでもなったかのようなケダモノのような咆吼を轟かせた。

 

「ひ、ひい、ひい!!!」

 

 同時に、【黒炎払い】らの士気が露骨に下がったのをボルドーは感じ取った。当然、といえば当然のことだ。彼等を此処に無理矢理引っ張り出せたのは、安全な【番兵】の狩り方が用意できたという一点に尽きる。それと長年のボルドーの信頼を使ってようやく、ここまで引っ張ってきたのだ。

 その安全という幻想が崩壊した。隊員達の士気は下がるのも当然だ。新人達は元より10年前の仲間らも、過去のトラウマが刺激されれば腕も鈍る。

 

 だが、ボルドーは落ち着いていた。何故なら此処までも想定の範囲内だったからだ。

 手元に通信魔具を寄せ、そしてしわがれた声でささやく

 

「まあ、こうなるだろうよ。ではやってみろ。ウル」

《りょーかい》

 

 通信魔具の先、ウルが応えた。

 

 

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